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第七章 公家の政
第百六十三話 名乗り
しおりを挟む翌日、能登屋さんの協力を得て、さっそく店先?に高札を立てた。
その後、すぐに高札の前に全員を集め、朝礼を行った。
こうすることで、付近には目立つので、人が集まる。
朝礼の最後に、雑賀衆のまとめ役をしている与六さんに、名乗りを上げてもらった。
今から我々がこの辺りの治安を守ることを付近の住民に知らしめるためだ。
「この場にお集まりの皆々様に申す。
わが主孫伊勢守は、主上より承りし詔によって、今よりこの辺りの安寧をお守り申す。
これより、我々のいるうちは、盗み火付けなど乱暴狼藉は一切許すまじ。
心しておくように。
全てを勅命によるものと心得よ。
これより我ら町に巡回に出る。
御用があれば、その場にて申せよ」
与六さんがこの辺りに集まった京の町民に対して大声で宣言をした後、は組の6人集まった状態で町に繰り出していった。
きちんとした格好をさせているので、夜盗などには間違われないだろうが、屈強の男が6人も集まって町を練り歩けば、いらない誤解を受ける。
先の与六さんの大声での宣言はそれらを少しでも和らげればと思ってのことだが、果たしてどこまで効果があるかは疑問が残る。
俺が心配そうに、町に出ていくは組を見送っていると、葵が俺に近づいてきて話しかけてきた。
「空さん。
皆きちんとした格好をしているので、夜盗や浪人には間違われないでしょうね。
でも、あいつらと一緒に思われるのもしゃくですね」 と言いながら、遠くで俺らのことを睨んでいた一団を指さしていた。
こらこら葵さん。
人のことを指さすものじゃありません。
と心の中で注意しながら、葵の指さす方向を見た。
確かに怪しげだが身なりはきちんとした連中がたむろしていた。
葵が言うには、俺らがこの店に入ったころからちょくちょく俺らを見張っている様なのだ。
「あ、あいつらね。
多分幕府の役人か、そいつらにやとわれた連中だろう。
新たなカモが来たと、銭をせびりに来たくとも、雑賀の人たちが気になり来れないのだろう。
そこで、俺らを監視しているんじゃないかな」
「空さん。
そうなの。
あいつら、私たちに何かしてこないよね」
「分からない。
でも、さっきの名乗りで、お偉いさん辺りが出て来るんじゃないかな。
俺らを追い出しに。
もしくは銭をせびりに。
どちらにしても味方じゃないのは確かだな」
俺の説明を聞いた張さんが、俺に聞いてきた。
「私たちに直接何かできなければ、いやがらせでもしてきませんか。
最悪、私たちに罪などを擦り付けてきませんかね」
「それは面白くないな。
何か考えないといけないかもしれないな」 と言いながら、周りを見渡した。
まだ、周りには多くの人がたむろっている。
大人たちは、俺らが怖いのか、距離を取って俺らを見ているが、子供たちは素直に近くで俺らを見ている。
しかし、この場に集まった多くの子供たちの格好が酷い。
ほとんど半裸かと思われるくらいに傷んだ服を着ており、しかもかなり痩せている。
いや、痩せているという表現をとうに過ぎてしまって、もはや病的、餓死しないでいる方が不思議なくらいだ。
そういえば、葵たちと合流した時も似たような感じだったが、改めて食糧事情の悪さを実感した。
何とかしてあげたいが乞食じゃない。
乞食かもしれないが、ここで食料を恵んでも問題は解決しないし、どうしたものかな。
「張さん。
ここに今どれくらい食料がありますか?」
「あの子たちに恵むのですか?」
「いや、炊き出しをしないといけないかとも思ったけど、ちょっと違うかなとも思ったんだよ。
でも、一つだけ考えが浮かんだんだ」
「考え?」
「あいつらに食事を出すけど、それに見合った仕事もしてもらう。
幸い、直ぐに対処しないといけない仕事があるしね」
張さんはすぐに分かったらしい。
「あ、草むしりですね。
それは良いお考えです。
早速あの子たちに聞いてみます」
「聞くのは良いけど、食料は大丈夫?」
「そうですね、数日の炊き出しはできますが、それ以上はね。
仕入れますか。
銭だけは持ってきましたので、どうにかなるかと」
京で、食料を仕入れてもいいけど、割高なこともあるけど、只でさえあまり良くない食糧事情の京都で、大量に俺らが買い取ると、かえって恨みを買うな。
となると他からもってくるしかないか……あ、あるじゃん。
ちょうど手紙も送ったことだし、観音寺の城下にある伊勢屋を使おう。
観音寺からここまでは2日もあれば持ってこれそうだし、検討しよう。
「張さん。
食料は買いますが、京で仕入れは避けたいと思います」
「そうですね。
その方がいいかと。
で、どこから考えておりますか」
「直ぐに準備できるとしたら、観音寺城下の伊勢屋から運ばせるしかないかと」
俺たちの会話を聞いていた能登屋さんの番頭さんが俺に教えてくれた。
「観音寺からですか。
決して安い物にはならないかと。
お急ぎでないなら、堺から運ばせますが」
「それも考えなくはありませんが、ここから堺までとは距離がありませんか。
それより、近い場所なのに何か不都合があるのですか。
差し障り無ければ教えてください」
「いえ、大したことじゃないのですが、ここから近江に行く途中にある叡山が問題なのです。
あいつら坂本や山科近くで関を設け、通行料を取っております。
しかも荷までも取り上げるという噂も聞きます。
うちも毎回通りますが、緊張しますしね。
どうしますか」
「とりあえず、堺からも買いたいと思います。
そちらの商売に差し障りのない範囲でお願いできますか。
きちんと相場の銭は支払います」
「空さん。
伊勢屋からのは諦めますか?」
「いや、しかし現状を見ないといけないので、一度伊勢屋に行こうかと思います。
張さんは、申し訳ありませんが、子供たちを集めて炊き出しをお願いできますか。
あ、草むしりの仕事はさせてくださいね。
只の施しは、後々悪い結果を持ってきますので」
「空さん。
分かっておりますよ。
いつ発たれますか」
「準備ができ次第、あ、俺の方は大した準備がないけど、一応護衛を一組お願いしたいかな。
それと忍び達もね。
その準備ができ次第すぐにでも。
今から行けば明日中には着けそうですしね。
伝八さん。
準備できますか」
「我々は直ぐにでも大丈夫ですが……」
すると雑賀衆の頭の与六さんも「こちらも直ぐにでも大丈夫です。
ろ組を付けますが、もう一組付けますか」
「ありがとう。
でも、あの人たちなら一組でも十分だよ。
それに目立つしね。
ろ組だけ連れて行きますが、もう出発できるということなの」
「はい、そこにいるので、直ぐにでも行けます」
「それじゃ、行きますか。
張さん、後よろしくね。
明日つくとして、四日後までには帰ってきます。
毎日報告だけは、忍びの皆さんにお願いしますから連絡しますね」
「あ~~、空さん。
またどこかに行くのですか」
「また私たちを置いて、どこに行くのですか」
葵と幸が俺の出発を嗅ぎつけたらしい。
姦しいこと甚だしい。
「どこにも行かないよ。
茂助さんのところに、食料をお願いに行くだけだ。
すぐに戻る」
「茂助さん?」
「ほら、近江にあるお店の主人だよ。
この間結婚したんだっけか。
忘れたけど、しばらく会っていないからしょうがないね」
「葵も幸も、これからは度々会うと思うよ。
尤も道中の安全が確認できたらだけどもね」
「それなら空さんだって」
「だから今回はろ組の皆さんと、伝八さん達の忍び組全員に護衛をお願いしてあるから大丈夫だよ。
尤もこんなに一杯の護衛を毎回は付けられないから、考えないといけないね。
それも、道中の安全の確認をしないと始まらないから、それもしてくるね」
今の状態で、あまりここを離れたくはないけど、こればかりはね。
まあ、今日の名乗りで、直ぐに幕府も三好も動かないだろうが、その対応もあるからできるだけ早く帰らないといけないな。
距離からして50kmくらいか。
1日で行けなくはないけど、それは令和の時代での話だ。
道中の道の状態如何では、二日は掛かる。
途中叡山付近の峠越えもあるしね。
最大の厄介は叡山の僧兵が籠る関所かな。
今回は言われるまま税を出すのもやむを得ないが、毎回は出したくないからその対応策も探さないといけないしね。
本当にやること一杯だ。
大丈夫かな俺は。
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