名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第百六十五話 近江からの帰還

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 茂助さんとの話し合いはすぐに決着を見た。
 茂助さんの方があきらめていた感じだ。
 俺の顔を見た瞬間『こりゃ何を言ってもダメな奴だ』と感じたそうだ。

 その段階ですでに俺の訪問の目的を終えたようなものだった。
 今朝着いた定期便のロバによる馬借の一隊を……え?
 一隊って何。
 すでに馬借も活況を示しており、一隊では足りなくなっているそうだ。
 八風峠にある茶屋を中心にした拠点までの往復に2隊稼働中だそうだ。
 また、六輔さんの頑張りで、峠から村までの道の舗装は終わっているので、今では牛に荷車を引かせての移動できるので大量に物資を運ぶことに成功しているとか。

 六輔さん???
 忘れていないよ。
 う、うん、六輔さんだよね、そ、そうだよ。
 俺がかなり前に峠道があんまり酷かったんで、舗装をお願いしていた人じゃないか。
 アハハ、今まですっかり忘れていたよ。
 村の人口も増え、六輔さん配下の土木組も今ではかなりの人を擁して、村周辺の道の整備をしているのだとか。

 もうじき、村を経由するが峠から桑名までは舗装道路ができるので、牛の荷馬車隊も桑名まで伸びる計画だと、俺はここで聞かされた。
 そういえば村関係の運営に関しては、すでに俺から離れて、そういった運営状況などは俺のこところまで上がってこない。

 え、来ている、俺のところにたまる書類で報告書は全て来ているの?
 俺の承認も終わっているって何?
 ち、張さんが代理で全て済ませてくれるので、村が滞りなく運営されている。
 上京に帰った時に、葵がそっと俺に教えてくれた。

 今は良いか、話が逸れてきているので戻すが、とにかく若干の余裕が最近になってできているのだかとか。
 そうでないと、いくら俺からの強い要望でも、急な話では馬借の用意はできないとまで言い切られた。
 それも運が良いとまで付け加えてだ。

 相変わらず、物流量は減ることなく、一貫して増え続けてきているので、今ある余裕もいつまであるかどうかわからないとまで、茂助さんの愚痴と共に聞かされた。

 でも、結果オーライだ。
 馬借が無理なら船でも試そうかとも考えていたのだが、これはあっさり断念しなければならなかった。
 大津からここまで運んでくれた船頭さんからきっぱり断られていたし、茂助さんの話でも、無理そうだ。

「それにしても、良く馬借の数を増やせましたね。
  賢島の牧場でも、まだ出荷できるはずがないのだが。
  流石に生まれたばかりの子供に働かせてはいないよね」

「空さん。
 何を馬鹿な事を言っておられるのですか。
 仔馬じゃなくて子ロバでしたっけ、そんなのを使っても荷物など運べるはずがないじゃないですか」

「それじゃあ、どこから持ってきたのですか?」

「いや何、ここのところ急に運ぶ荷物が増え困っていたところに、張さんからお声がかかったのです。
 『何かお困りなことはないですか?』とね。
 そこで相談しましたら、割とすぐにロバと牛を持ってきてくださって、また、色々と運用についても馬借の頭と共に相談に乗ってもらいました」

 え?
 そうなの。
 張さん、うちに余裕のある家畜なんかいませんでしたよね。
 あいつらをどこから持ってきたの。
 帰ったら聞いてみよう。

 ここでの話も簡単にまとまり、明日の朝には発つことにした。
 兵糧については、以前のお願いを今でもしっかり守ってもらっており、簡単に調達ができる。
 すでに倉庫に来るべき日のために眠っているのを運び出すだけだ。
 問題はどうやって運ぶかだけだったが、本当に偶々馬借に余裕があったので助かった。
 張さんじゃないが、俺は決して茂作さんを脅してはいない。
 茂作さんが優秀なだけだ。
 快く?俺の求めに応じてくれただけだ。
 俺は張さんの様にはできないからね。

 明朝、俺らは港によって能登屋の手代さんを拾って馬借と一緒に歩いて京に向かった。
 帰りの道程も特筆することはなかったのだが、それにしても叡山の僧兵の奴が気に食わないわ。
 かかる費用も馬鹿にできないし、何とかしないといけない。
 もやもやした気持ちを残しながらも、無事4日で上京にある拠点に着いた。

「おかえりなさい」

 能登屋の番頭さんが笑顔で出迎えてくれた。

「道程にお困りなことは起こりませんでしたか」

「いえ、手代さんに良くしてもらい、それほど困ったことにはなりませんでした。
 本当に今回はありがとうございました。
 しかし、どうにかならないものですかね、あの叡山は」

「叡山ですか、あの関所ですよね。
 ほとほと困っておりますが、叡山位ならまだましですよ。
 ここの役人連中に比べれば。
 しかし、商売するには堺以外ではどこも同じようなものじゃないですかね、難しいですね」

 今回ばかりは実感した。
 信長が関所を廃止して座も廃止したのは本当に英断だったと思う。
 それだけでどれほど商いが盛んになるか、今回の観音寺行でよく理解できた。

 俺らは能登屋の番頭さんの出迎えを受けた後に馬借一行を鷹司別邸跡に連れて行った。
 荷はここで降ろす。
 倉庫はないが、広い屋敷はある。
 住むにはもう少し手を加える必要があるが、広さだけは無駄に広いので、比較的ましな部屋に兵糧を運び込んだ。
 また、作業中の張さんを呼んで留守中の様子を聞いてみた。

「張さん。
 俺の留守中に何かありましたか」

「これと言って報告するようなことは……。
 あ、そういえば以前からうちの様子を遠くから窺っている人たちが露骨に店の前をうろつきだしたくらいかしら。
 あ、店じゃなかったですよね」

「店でも構いませんよ。
 ここが使えるようになったら、ここに拠点を移して、あそこは伊勢屋にでも任せようかと考えていたところですから。
 そうですか、直接何かされた訳じゃ無いのですね。
 それなら、間に合ったというわけですかね」

「間に合った?
 空さん、どういうことですね」

「いえ、能登屋さんから聞かされている幕府の連中のやり口ですが、へたな山賊よりたちが悪いそうですよ。
 そんな連中が我々のことを黙ってみているはずはないかと思っていたのですよ。
 どうせすぐに、お役人が銭をよこせと言ってきますから。
 俺の留守中に来たらどうしようかと思っていただけです」

「そうでしたか、それでしたら大丈夫でした。
 直接的なことは何もありませんでしたから」

「あ、そうそう、張さん。
 張さんにお聞きしたいことがあったのですが」

「何ですの」

「連れてきた馬借の件ですが、ロバが増え、馬借の組が増えたと聞いたのですよ。
 どこからロバなどを調達したのですか」

「それでしたら、前に報告したはずですが、うちに無いのですからか他から買ってまいりましたのよ。
 賢島にいた時に伯さん相談しましたら、すぐに仕入れてきてもらえましたので助かりました」

 え?
 伯さん?? 
 伯さんってそんなにすぐに中国に仕入れに行けるほど暇でしたっけ。
 張さんが何かやったのでは。
 すると俺の考えを察したのか張さんがニコニコしながら言い訳をしてきた。
 でも張さんの目は笑っていない。

「あらいやだわ。
 空さん。
 私、何もしていませんのよ。
 賢島で伯さんに『困っています』とだけ言っただけですわ。
 それにしても、話の分かる商人って素敵ですわね」

 いいですか、これ以上詮索しないでください。 
 と言外に言っております。
 私は一も二もなく頷くだけでした。
 俺は慌てて話をそらして話題を変えた。

「たった4日で、ここも綺麗になりましたね」

「ええ、皆さんが一生懸命にここを手入れしてくれましたから」

「そういえば人増えていませんか。
 名乗りを上げた時に集まっていた連中だけじゃないですよね」

 確かに増えている。
 子供ばかりか貧弱な男や、女性も多数作業をしている。

「最初、子供たちに炊き出しだけで手伝わせていたら、話を聞いた大人たちも集まりだしたので、今では少しばかりの銭を渡して雇っております。
 雑用しか使えませんが、今はその雑用が多すぎましたので助かっております。
 あ、炊き出しですが、前の要領で大人たちにも出しております」

「構いません。
 そのあたりは張さんにお任せします」

 張さんは、すごかった。
 俺がここを発つ前の荒れ果てていた別邸が、今ではどうにか見えるようにまでなってきている。
 これなら、京にいる下手な公家の屋敷より立派にも見える。
 俺の方が一段落したらここに拠点を移そう。

 すぐにでも拠点は移せそうにまで屋敷周辺はきれいになってきているが、幕府とのやり取りが済むまでは移さない方がいいだろう。
 とにかく拠点周辺だけでも幕府の介入できないだけの圧力をかけておきたい。

 それもあと少し待てば済む話だ。
 向こうから来ないなら、こちらから少々煽ればすぐにでもやって来るだろう。
 張さんの話では、最近露骨に様子を窺っているとも聞いているし、とにかく俺は俺の仕事をするだけだ。

 あの糞おやじにでも一応の話だけは付けておくか。

 俺は鷹司別邸跡を離れ、能登屋の隣の仮拠点に帰っていった。

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