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第七章 公家の政
第百六十六話 幕府の忖度君
しおりを挟む鷹司別邸跡から戻る途中で、俺でも分かるように、見るからにという連中が仮の拠点を置いている店舗の前に屯していた。
別に商売するわけじゃないので構わないが、少しばかりうっとうしい。
そろそろ奴らも限界か、何らかのアクションがあるのだろうとは思っていた。
そういったことを考えながら、もう一度屯している連中を観察してみると、どうも同じ勢力だけからの連中じゃなさそうだ。
少なく見ても3つの別の集まりのようだ。
俺が考えうるに一つは幕府からのものだろうが、残り二つが分らない。
三好か、弾正からのはありえない。
あのおやじのことだ、俺に用があれば遠慮なく本多様辺りを寄こすだろう。
いや、大和の多門山城に呼びつけることくらい平気でやらかす。
こっちの都合など何ら忖度せずにだ。
となると、細川辺りか藤原以外の公家という線も有りうる。
どちらにしても、こちらには用意はある。
そのために、苦労して勅命を頂いておいたのだ。
それでもダメなら、京から去るだけだから気楽なものだ。
俺は平和に商売だけでもしていれば良いだけなのだから、ややこしい政治に巻き込まないでほしいというのが正直な感想だ。
俺が店舗に入ろうかとした時に、屯しているグループの一つが俺に接触してきた。
身なりは武家だ。
しっかりとした浪人には見えない装束をまとっているからどこかの使いだろう。
「突然失礼します」
「はい、何か御用でしょうか」
「私は幕府の評定衆に連なる内談衆が一人、大舘の家宰を務めております伊藤と申します」
「その伊藤様が何用で」
「あなた様の行っている件で、少々困って事になってきており、主人がお話ししたいと申しております。
つきましては、私と一緒に同道下さりませんか」
言葉は丁寧な言い回しだが、明らかに上から目線で、『俺に付いてこい。これは命令だ。』と言わんばかりだ。
流石に、これには少々頭に来た。
幕府に直接呼び出されるのならいざ知らず、一役人にいちいち呼び出されていてはたまらない。
しかし、このような小役人からの嫌がらせに準ずる行為については、ある程度織り込み済みだ。
「伊藤様と申したかな。
いかなる権限で、私をお呼びになさるので。
それも、役所でなく役人の私邸にとは、少々合点がいきません。
それに、あいにく私も忙しい身なので、急な申し出にはお応えできかねます。
もし、そのあなたのご主人、確か大舘何某とか申しましたか、御用があればこちらに来るように伝言願えますかな。
多少なれば時間をお取りしましょう」
「な、な、何を申す。
幕府の役人であるそれがしの主人をここに呼びつけるだと。
失礼千万。
何なら、今ここで貴様をひっ捕らえて連行しても良いのだぞ」
「ですから、何故私があなたの言に従わなくてはいけないかを聞いております」
「それがしが下手に出ていれば付け上がって、お、おい、こ奴をひっ捕らえろ」
オイオイ、こいつは本当に考え無しだな。
こんな奴が家宰を務めている大舘とかいう奴も大したことないな。
それにしてもわさわさ出てきたな。
店から見えていた連中以外にもたくさん出てきた。
いったいどこに隠れていたのやら。
まるでゴキさんだな。
一匹見たらってやつかな。
見えている者の数十倍以上入るかな。
流石にGじゃないし、そこまでは居なさそうだ。
早速治安回復のための仕事をしないといけないな。
俺の周りを知らない連中が囲む前に店舗奥から、見回りのために作った組が3つも出てきた。
当然各組は雑賀衆がいるので火縄銃もいつでも発射できるように火縄に火を入れての登場だ。
「我らの主である伊勢守様に向かって、何たる狼藉。
主が頂きし勅命により、付近の治安を乱す輩を捕縛いたす。
神妙に控えろ」
と言って、火縄銃で威嚇しながら、刀などを抜いていた連中を別の人が持つさすまたで簡単に無力化していく。
当然、無力化した人たちは忍衆により、どんどん縛られていく。
ここまでは予測通りだったのだが、ここではたと困った。
そういえば俺には裁判権なんかあったっけか。
捕まえたはいいが、その後のことを考えていなかった。
江戸時代風に棒切れで叩くか、それとも…
どうしよう、対策が思いつかない。
この手の連中を取り締まるお役所など合っても機能していないし、どうしたものかな。
一般人ならやりようもあるが、夜盗の類などはそれこそ縛り首にでもできるのだが、暴れただけの連中の扱いには困る。
しかも、幕府の役人に連なるとなると少々めんどくさい。
そういえば、捕まえた連中を置いておく場所もない。
無い無い尽くしだな。
まあ、侍が起こした狼藉だし、報告だけは入れておくか。
「誰か、幕府に行ってこ奴らの狼藉を伝えてきてくれ。
また、大舘だったっけか、ご主人様にも管理責任を問わないといけないし、この件をついでに伝えてくれ。
しっかり『勅命によって市中において狼藉したものを捕縛した』伝えてくれ」
「この後どうしますか」
「相手の出方を見てからだな。
最初は幕府にでも連れて行って、代理処罰を要求するかな」
「今の幕府には、何ら力はありませんよ。
処罰なんかされないでしょうね」
「分かっていますよ。
それでも最初はそれしか手はないでしょうね。
しかし、こちらにも利がありますから大丈夫だ」
「利ですか。
なんです、利というのは」
「代理処罰を要求するときに、しっかりと抗議文を相手に渡します。
こちら側に何ら瑕疵は無いのですから、言いたい放題に抗議できます。
相手は当然怒るでしょうが、次からは好き勝手にこちら側で処罰できるようになりますよ。
今回しっかりと抗議しておけば良いだけですからね。
『次は無い』とね」
「処罰について何かお考えでもあるのですか」
「そうですね。
人数にもよりますが、当面は賢島にでも送って肉体労働でもさせますか。
あそこなら逃げ出せないでしょうからね。
九鬼さん辺りに侍を監視にでもお借りすれば、問題ないでしょうね。
それよりも、こいつらの処理を急ぎましょう。
すぐに文書を作りますから、すみませんが幕府と、え~~と誰でしたっけ。
あ~~、そうでした、大舘とか言っていましたね。
その大舘さんにも手紙を出しておきましょう。
『次は、あなたも捕縛しますよ。』とでも書いておけばいいでしょう。
すぐ作りますね」
いよいよ本格的に幕府相手に喧嘩になるかな。
今の幕府の戦力では、問題ないだろうが、三好が絡むと少々面倒になるな。
三好相手についても手は打っておくか。
弾正に頼むしかないが、これは弾正も時間の問題だった件だ。
それが少々早まっても問題なかろう。
嫌味の一つも言われるが、はじめから四国の三好とは喧嘩するつもりだったから俺らとの同盟も考えていたんだし、あ、そうなると九鬼さんにも連絡しないとまずいか。
三好との一戦では同盟している関係上、援軍を出す必要があるな。
まあ、なるようになれか。
色々と考えながら奥に入って手紙でもと思った矢先、またまた俺に来客が来た。
今度は直接俺のところに来て,話を始めた。
別に良いけど、どういった人なのだろう。
少々焦っているようにも見える。
「失礼します。
孫伊勢守殿とお見受けします」
え?
この人、正確に俺の正体を知っているぞ。
いったい誰だ??
「失礼しました。
それがし大和の弾正が家臣松井庄之助と申します。
以後お見知りおき下され」
「その松井様が私に何用で」
「はい、急ぎ弾正様からのお手紙を預かっております。
これです。
内容を至急お改めください」 と言って、手紙を渡してきた。
至急と言われたので、その場で手紙を改めてきた。
あのミミズの這いまわった字は読めないので、どうなるかと心配したが、俺でもどうにか読めた。
あの酷い内容の手紙をだ。
『孫 伊勢守殿
この手紙を持った者の意見に従ってほしい。
決して、そなたにとって悪いようにはしない。
くれぐれもよろしく。
永禄十年 春 吉日
大和
松永 弾正少弼 久秀
花押 』
なんなんだよ。
この手紙は。
流石にこれなら俺でも読めるが、内容が酷すぎないか。
これって、絶対に、今書かれた奴じゃないよな。
俺のことを見張っている松井殿に、何かあった時に渡せと言われて持たされたやつだよ。
「あの、松井様。
この手紙って……」
「はい、伊勢守様のお察しの通りです。
ですが、ことは急を要しましたので、こんな形になりました。
大変申し訳なく思っておりますが、ここはどうか私のご意見をお聞きください」
「して、松井様のご意見とは、彼らのことですよね」
「正しくその通りです。
ここはどうか私たちにお任せくださいませんか」
「して、どのようにお考えで」
「明日には本多様がいらっしゃいます。
全ては本多様にお任せと言うことで」
「分かりました。
今回はお任せします。
彼らはどうしますか。
松井様がお連れになりますか」
「いえ、申し訳ありませんが明日までこちらで預かってほしいのですが。
縛り上げたままで構いません。
どうかそのまま本多様にお渡し願えればと思っております」
「分かりました、お預かりいたしましょう。
しかし、このままと言う訳にも行きますまい。
幸い鷹司別邸の屋敷も使えそうになってきておりますので、そこで一晩預かりましょう。
あそこなら人目も避けられそうですしね。
見張りを付けるので、大丈夫でしょう」
直ぐに高札を用意させ、先頭を歩く奴に高札を結わいつけ、先の鷹司別邸まで引き回しのように歩いて連れて行った。
その様子を松井さんは困ったような目をしながら見ていたが、何も言わなかった。
言えなかったのだろう。
どう見ても今回の件はあいつらが悪い。
自分たちから喧嘩を吹っかけておいて返り討ちにあっただけだ。
伊勢守という正式な役職の者を襲ったのだから、あの場で殺されていても何ら不思議が無い。
いや、この物騒な時代だ。
殺されなかった方が奇跡と言ってもいいかもしれない。
尤も彼らはそうは思ってはいないだろう。
生意気なガキを懲らしめようとして返り討ちにあっただけだとしか思っていないだろう。
いずれ自分たちの主人が幕府を動かして成敗してくれると思っているのかもしれない。
どちらにしても、自分たちの仕出かしたことの大きさを全く理解せずに只々空達のことを恨んでいた。
この後、どうなることやら。
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