名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第百六十八話 突然の訪問客

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 本多さんを送り出した後の空を取り巻く状況はさほどの変わりが無かった。
 幕府の方では、今、上を下にと大騒ぎの状態だと忍びからの報告は受けているが、相変わらず、屋敷前には怪しげな連中が屯している。

 人の数は減ったようだが、それでもまだ複数の勢力から監視されているようだ。
 まあ一つは大和の弾正の配下だというのははっきりしている。
 尤も、弾正の配下は俺達に悪意を抱いていないので無視をしても大丈夫だ。

 気になるのが三好の息のかかった連中だ。
 流石に細川から京を乗っ取った三好だけあって、直接の配下からの攻撃は無いだろうが、逆に、奴らが雇った連中が危険だ。
 どんな連中を雇って、何をするかわからないので、我々としても気が抜けない。

 それでも、俺としては今までよりも気持ち的には余裕をもって京での拠点整備にかかれる。
 最大の懸念であった補給についても、緊急補給を観音寺城下の伊勢屋から受けたので当面は大丈夫だし、能登屋さんと組んで、堺からの補給の目途は立った。

 将来的には堺からは船での補給を考えている。
 そう思ったら、居てもいられなくなり、急ぎ鷹司別邸の整備をしたくなった。
 俺は護衛と張さんを連れて別邸に行った。
 二日ぶりだろうか、前に来た時にも十分に手が入っていたと感じていたのだが、今ではすっかり屋敷の雑草は刈り取られていた。

「ここもずいぶん綺麗になりましたね」

「はい、空さんが言われたように、子供たちを集めて炊き出しをしたのが良かったようです。
 あれから付近の子供たちは、ほとんどこちらの手伝いをしてくれるようになりましたし、今では仕事を持たない大人たちも加わっておりますから、人手だけはかなりのものがあります。
 これだけ人手を掛けられれば、草刈りなんかすぐに終わりましたよ。
 今では、あちこちの塀の修理に掛かってもらっております」

 前に仮拠点で張さんから報告を聞いていたのだが、もう一度現場で聞くと、現状が良く理解できる。
 その上で、付近を見渡せば、あちこちに人が散らばり、崩れかけた塀の修理をしているようだ。

「ここの整備もかなり進んできましたね。
 そろそろきちんと庭つくりでもしましょうか」

「まだまだですよ。
 それより、空さんは他にやりたいことがあったのではないでしょうか」

 そう言えばそうだ。
 すっかり忘れていたよ。
 ここの拠点としての整備には、庭よりも他に重要なことがあった。
 治安維持に絶対に必要な留置所を作らないといけない。
 それに、補給のための港も作りたいと思っていたのだ。
 せっかくここが鴨川に隣接しているのだ。
 鴨川から敷地内に引き込んで港を作りたい。
 俺は、張さんを連れて、屋敷の敷地奥の河原に向かった。

「空さん、ここには何がありますの」

 張さんが俺に聞いてきた。

「いや、目の前に川があるじゃん。
 あの川の下流に、と言っても海に出てしまうんだが、堺があるんだよ。
 要は、ここから堺までは船で行き来できそうなんだ。
 なので、ここに港を作って、補給を船でしたいかなと考えているけど、人手を借りることはできそうかな」

「人を回すのは、別に構わないというか、そろそろ他の仕事を探さないといけないと思っていたところでしたから、それこそ渡りに船なんですけど、多分、ここには港を作れる人なんかいませんよ」

「何、大丈夫だよ。
 そこは俺が指示を出すからね」

「え?
 空さんって、職人なんですか。
 港を作ったことがあるとか。
 その年で……」

「張さん、落ち着いてください。
 港を作った事なんか有る訳ありませんが。
 でも、できると思っています。
 とにかく、やってみようかと思っています。
 誰だって初めてはありますよ。
 別に失敗しても、いいじゃないですか。
 他に迷惑をかける訳じゃないしね」

「それでもすごいです。
 空さんは何でもできますね。
 すご~い」

 張さんに散々褒められて、かなり有頂天になっているのを自覚しているが、それでもうれしかった。
 それから数日は、張さんが集めてくれた子供たちと河原に降りて、石を運び、地ならしをしていた。
 整地ができ次第、大工を呼んで近くに留置所を作ってもらうかたわら、俺らの方は、本格的に入江を作りこんでいくつもりだ。

 それからは、地味に毎日石を運んでは整地の作業をしていると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
 この屋敷の家裁を任せている助清さんがしきりに俺を呼んでいる。

 何事かと、この敷地で唯一機能している屋敷に向かった。
 そこにはなんと竹中さん家ちの半兵衛さんの方と藤林さんが俺を待っていた。
 二人して急に訪ねてくるなんて何事かと心配になり、挨拶もそこそこに本題を切り出した。

「お忙しいお二人がそろっておいでになるとは、いかがしたのですか」

「はい、火急の要件が発生したので、いきなりの訪問をお許しください」

「して、火急の要件とは。」

「先日、大和の弾正殿から出兵の依頼が舞い込みました。
 今度は海戦の応援要求です。」

「応援とは言え、海戦となると、主力は我々が勤めることになります。
 しかし、急な話故、状況を調べている最中ですが、我々が主力として戦うとなると、国守である空殿のご許可を頂かないといけないと考えた次第です」

「許可って言っても、あちらは全て任せていたはずだよね」

「は、ですので、少々今回の話では、困っております」

「困りごと?」

「九鬼様が、かなり乗り気で、すぐに賢島に走り準備を始めております。
 それに私たちに、一応、空殿の許可を取ってくるようにも命じられました」

「そうなの。
 まあ今回の海戦は避けられないとは思うけど、俺の許可って要らなくないかな」

「正直、私は、空殿に止めて欲しかったのですよ。
 まだ、大湊の町造りが終わっていなのに、殿が抜けては作業に滞りが出てしまいます。
 しかし、殿はこの話が舞い込むや否や、我らの制止を振り切って賢島に向かわれてしまいました。
 最近町つくりばかりで九鬼様の不満が溜まっていたのでしょうね。
 今回の話を一番に喜んでおりましたから。
 しかも、今回の戦は我らが主体。
 存分に戦えると、かなり張り切って、豊田殿に命じて新造船までも準備させております」

「なんだか、様子が目に浮かぶよ」

「ですので、少々政にも滞りが出始めております」

「ですが、この話は止められないのでしょうね。
 今回は空殿が仕掛けたとも聞いておりますしね」

「ひょっとして、半兵衛さん達って、それを確認しにしたとか言わないよね」

「それは違いますが、淡い期待はありました。
 空殿なら戦を止められるかもとは思っておりましたが、ここにきてそれは諦めました。
 ですので、九鬼殿の命だけでもとお伺いしております」

「九鬼さんの命って」

「新造船のことです。
 すでに豊田殿が準備に入っているかとは思いますが、今新造している船は空殿のお命じになったもの。
 まだ、我らには引き渡されてはおりません。
 その新造船の出陣許可と、我らへの引き渡しをお願いに参りました」

「ああ、そうだね。
 あれってまだだったよね。
 分かった、今書面を認めるから。
 戦の方は任せるとお伝えください」

「ありがとうございます。
 これで九鬼の殿様からの命は終わりですが、今度は私からの要件があるのですが、ここで相談してもよろしいでしょうか」

「相談って、何かな」

「熊野水軍の件についてです」

「熊野水軍?
 あれって、ほとんど傘下に入ったと言っていなかったっけ」

「はい、ほとんど我らの傘下に入りました。
 ですので、今回の出陣にも同行させます」 と言って半兵衛さんが相談したい内容について説明を始めた。

 早い話が、熊野水軍を完全に取り込みたいので、ここいらで功績を立てさせ、伊勢に領地を与えたいというのだ。
 色々と相談の結果、熊野水軍に今回の海戦の先鋒を任せ、戦に勝った後には九鬼水軍のかつての本拠地であった田城城あたりの領地を与えて完全に取り込むことになった。

 すでに熊野水軍とは領地を与えることで話がついている。
 遺恨なく取り込むにはそれなりの甲斐性をこちら側が見せないといけないそうで、九鬼水軍の以前の本拠地などは格好の場所だそうだ。
 領地が絡むことなので、俺に相談に来たというのが半兵衛さんの真の目的の様だった。

 すでに政は任せているので、俺になんか相談する必要など感じないのだが、俺は書面こそ残さなかったが、快諾しておいた。
 後は俺の知らないところで戦が起こり、事態が動く。
 我らが勝てば、このまま京で治安を守っていくし、負けたら負けたで、俺らは逃げ出すだけだ。
 正直、今回の件は、どう転んでも俺にはやりようがあり、気にはしていない。

 まあ、今回ばかりは負ける気がしない。
 だいたい、攻め込む方が守るよりも難しいのに、攻め側の方が兵力的にも少なければ勝ち筋が見えてこない。
 まさか三好側は、相手が大和の弾正だから、海戦になるとは思っていないので、ほとんど奇襲になるようだし、そもそも、堺界隈の制海権はこちらが持っている。

 それを三好の連中は全く理解していないとか。
 今回ばかりは堺も三好には協力できないだろう、せいぜい日和見だろうな。
 俺としては、この件についてはやることが無い。
 なので、俺としては勅命に従って治安を守るために、拠点の整備に勤しむだけだ。


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