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第七章 公家の政
第百七十二話 堺での話し合い
しおりを挟むまだ日も高いうちに堺に着いた。
ここから外洋に船を出しても行けて串本辺りまでが限界なので、堺で一泊することになる。
信長さんと山科卿は信長さんが贔屓にしている堺の豪商『熱田屋』で宿を取るらしい。
俺はそのまま能登屋さんに向かう。
この川船の運航で世話になっているので、挨拶だけでもと思い店に向かった。
「張さん。
川船も本格的に運航となると、ここ堺にも拠点が欲しいね」
「そうですね。
既に能登屋さんの荷を運んでいる関係で、能登屋さんに世話になっておりますが、本来は別ですから、いつまでもとは行きませんね。
しかし、全く無視する訳にも行きませんし、一度能登屋さんにご相談したほうがよろしいかと。
ちょうど良い機会ですし、このまま相談しませんか」
俺は張さんと京までの川船の運航について相談しながら能登屋さんに向かった。
向かうといっても、堺の町でかなりの大店でもある能登屋さんは、自身の船溜まりを持っている。
その船溜まりに川船を着けているので、船を降りてから能登屋さんまではほんの目と鼻の先だ。
話している先に、能登屋さんの店から店主が出てきた。
「お久しぶりです、伊勢守様」
ここでもか、やめてくれ。
「能登屋さん。
その、その呼びかけはどうも。
私自身が偉い訳じゃないので、今まで通りと言う訳には行きませんか。
公の席では、そうも行か無いのは分かっております。
その、私的の場だけは、お願いですから今までのように振舞ってください」
「能登屋様。
空さんは、あまりその呼びかけを好んではおりません。
私からも今までと同じようにふるまってくださるようお願いしたします」
「伊勢守、いや、空さんだけでなく張様からも頼まれればお断りする訳にはまいりませんな。
分かりました、今までと同様にということで」
「能登屋さん、ありがとうございます」
俺と能登屋さんとが話しているところに、店から紀伊之屋さんまでもが出てきた。
「伊勢守様。
聞きましたで、能登屋さんだけにではずるいのでは」
「は?」
「ちょうど良かった。
空さん、聞いてください。
紀伊之屋さんから文句を言われて困っておりましたのです」
そう能登屋さんが言って、簡単な経緯を説明してくれた。
要は、京までの川船の運航で、紀伊之屋さんも一枚かませろという話だ。
今まで幕府の横暴や無策によって京での商売がたちいかなくなって店をたたんでいた紀伊之屋さんではあったが、ここに来て能登屋さんからの立ち話などから、京での商売に目途が見え始めているところに、俺が始めた川船の運航という話も聞いた。
『奇貨居くべし』の喩えじゃないが、いっぱしの商人ならこんな儲け話を見逃すはずはない。
すかさず、一枚かませろと能登屋さんに直談判に来ていたという話だった。
俺は引きずられるように紀伊之屋さんに引っ張られて紀伊之屋さんの店まで連れて行かれた。
儲け話には人が群がる。
これは洋の東西、時代の如何も問わず、人の性なのだろう。
紀伊之屋さんには堺での商いを済ませた尾張屋さんもいた。
信長さんと一緒にここまで来たそうだ。
その尾張屋さんも交えて、直ぐに話し合いの場が持たれた。
尤も、尾張屋さんはいずれ京への商いに出たいとは考えていたようだが、直ぐの話じゃない。
紀伊之屋さんほど川船の件については熱くはなかった。
しかし、この件以外では話が違う。
賢島の商館について、俺と直談判したかったそうで、いきなりその話まで持ち出された。
この件については、すでに前例があるので、その前例通りで良く、俺は尾張屋さんに博多の梅屋さんと同じ条件で了承した。
尤も、行政を司っている豊田さんがまだ京にいるので、先の戦の処理が落ち着いてから俺から豊田さんに話を通しておくことで尾張屋さんの件は片付いた。
しかし、ここから京までの川船の件については、そうも行かない。
なにせ、まだ本格運用まで出来ていない。
もうじき、上京にある屋敷の船溜まりができるので、少しはまともな運用ができそうだが、倉庫関連の整備がまだだ。
ついでに、出発地点であるここ堺で、我らの拠点が無い事もネックとなっている。
俺からその件についても話を出して、一挙にこの件を片付けるようにした。
喧々諤々、それぞれの利害が交錯して色々とあったが、ここ堺については能登屋さんと紀伊之屋さんの協力のもと船溜まりと倉庫の整備をすることとなった。
なんと費用については俺ら三蔵の衆と能登屋さんはもとより紀伊之屋さんに尾張屋さんまでもが出資するという話だ。
尾張屋さんは俺へのお礼と、何より近い将来京への進出を考えての判断だということだ。
本当に抜け目がない。
後で聞いた話だが、尾張屋さんは古くから信長さんについているので、信長さんが美濃を制したことでかなり儲けているそうだ。
羨ましい話だ。
とにかく、京の治安が良くならない限りうまい商売にはならない。
今のところ近々には上京くらいしか商売の旨味は無いが、将来的に下京も商いに出たいという話だ。
その辺りも話に出たが、どうしよう。
俺としては、もっと優先したい案件があるので、その話もしておいた。
川船で近江までつなげたいあの件だ。
俺の話を聞いて、商人たちは大賛成のようだが、問題点をまだ理解していない。
途中、巨椋池から近江(今の琵琶湖)までの間に流れの急なところがあり、帆だけでの移動はできない。
近江から堺に戻るときは流れに乗ればよいが、逆は人や馬、牛などで引っ張らないと登れない。
しかし、引っ張るにも川の周辺の状況が整備されていないので、その整備もしないといけない話もしておいた。
しかし、抜け目のない商人たちは、投資と言わんばかりに資金面での協力を約束してくれた。
尤も、上京の整備が先だとくぎを刺されたのは言うまでもない。
話がどんどん進んでいく。
上京の件については当面は俺の屋敷内にある船溜まりとそれに隣接する倉庫で運用を始めるが、状況によって、俺の屋敷に隣接する場所に倉庫や船溜まりを作るそうだ。
早速場所の確保に走るといっていた。
俺の方は将来を見越して、いっそのこと途中淀付近にハブを作ることにした。
巨椋池には大小さまざまな島がある。
淀に近い島に拠点を築いて、そこから上京や下京、はたまた観音寺や大津向けといった船を出せる様にしたい。
すぐには取り掛かれないだろうが、場所だけは確保したい。
しかし、あの辺りは、今誰が治めているのか。
確か少し前までは三好長慶があの辺りの大名だったはず。
この前の戦で、あの辺りの支配権も変わったかもしれない。
一度弾正にでも相談しよう。
とにかく堺と尾張の豪商から資金の提供を受けられる身分になった。
資金面だけは心配しなくともよくなっている。
とにかく順番に片付けるだけだ。
結局、堺で2泊して俺らは解放された。
当然、信長さんたちは、昨日尾張に帰っていったので、俺は尾張屋さんを連れて賢島に向かった。
尾張屋さんは信長さんと一緒に帰る筈だったのだが、先の商談もあり、結局俺と一緒になった。
どこまでも儲け話を逃がさないつもりのようだ。
なにせ今の賢島には、南蛮からのお客様も来ている。
それに博多の商家も店を開いているし、リトル堺になったような気がする。
ここ堺から賢島までは、それこそ毎日のように船が出ている。
昨日信長さん達が乗った船に乗り遅れてもそんなに困る事は無い。
それもあって、潰せる問題はすべて潰すつもりで、移動を翌日にずらした。
無事に、その日のそれもまだ日のあるうちに賢島に着いた。
賢島には、南蛮の船長たちが乗ってきた船が停泊していた。
その船が、とにかく大きい。
流石に時代が違うので、戦列艦とは言わないが、少なくとも40門は大砲を積んでいる船だ。
ちょっと怖い。
流石にあれで攻撃は無いだろうが、いわゆるあれが砲艦外交という奴か。
黒くはないが黒船来航だ。
違うか。
港に作っていた商館も建屋は外から見る限りほとんど完成していた。
あそこが使えるのなら、南蛮船長たちとの会合はあそこで済ませたい。
とにかく、俺の出した無理筋の条件の返答がある筈だ。
南蛮船長との話し合いは、その回答次第だな。
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