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第七章 公家の政
第百七十四話 俺の護衛
しおりを挟む無事に迷惑なお客様も追い出して、戦に出ていた豊田さんも戻ってきたので、ここでの俺のお仕事は終わった。
豊田さんにお客様相手に協力してくれた熊野水軍の皆さんにお礼を兼ねてお酒を渡すように手配してもらった。
さあ、これでしばらくは自由だ。
最近俺の遊び場である研究施設に足を向けていない。
俺が、ちょっとばかりあそこに引き籠っても罰は当たらない。
さっそく向かおうとしたら、笑顔の素敵な張さんが、その笑顔にマシマシで力のこもった笑顔を向けてくる。
笑顔のはずだが、なぜか体の奥から来る震えが止まらない。
張さん、目が、目が笑っていませんよ。
「空さん。
そちらじゃないでしょ。
次に行きますわよ。
今回はそれほど長く京を留守にはできませんし、次の船で向かいます」
「次?
どこに行く予定があるの?」
「一度村に戻って様子を見ませんといけませんね。
暫くは京が拠点になりますし、連絡網を整備しておきたくて。
それに、拠点を京に置くには人手が足りません。
そろそろ子どもたちも育ってきた頃だし、彼らを連れて行こうかとも思っております。
葵や幸だけでは、そろそろ仕事が回らなくなってきたと言う切実な問題もありますしね」
「そ、そうだね。
人手が足らないのは分かっているよ。
戦仕事などの荒事に対することはどうにかなるけど、事務仕事はどうしようもないしね。
あいつらも十分に育ったら使いたいよね。
葵たちがすでに戦力だし、遅かったくらいだよ。
九鬼さん達に取られる前に連れて行こう」
俺が引きこもりを諦めて、三蔵村に向かう準備をしていたら、向こうから豊田さんが知らない人を連れてやって来た。
「空さん。
もう帰られますか」
「ええ、一度三蔵村に行ってから京に戻ります」
「それでしたら、こいつらをお連れ下さい」
「え?
誰?」
「うちらに合流した熊野水軍の連中ですわ」
「熊野の方ですか」
「ええ、当主の次男で重次とその配下です。
熊野の当主に頼まれましてね、空さんに色々と鍛えてほしいそうです」
「え??
それって逆じゃないですか」
どう見ても重次さんって、いい年のおっさんだ。
子供の俺が鍛えるものじゃ無いよね。
え?
まだ若いの、ごめん。
おっさんに見えたわ。
「熊野じゃあ、期待のって奴ですわ。
文武両道と言っていましたが、熊野しか知らない井の中のって奴で、空さんについて色々と世の中を見せたいというのです」
「え~~、そういうの要らないよ。
めんどくさくないですかね」
「そろそろご自身の護衛配下をお持ちください。
先日も家老の竹中様がこぼしておられたようですよ」
「なんだか非常にめんどくさくなっていませんか」
「めんどくさいかどうかは分かりませんが、護衛は必須ですね。
戦から戻るときに九鬼の殿様も松永弾正殿に言われたそうですよ。
『いつまで孫伊勢守に護衛もつけずにいるのだ』と。
それを聞いて、殿さまも直ぐに準備していたようですから、ちょうど良かったかもしれませんね。
どちらにしても彼らをよろしくお願いしますね。
取り入れた熊野水軍との今後の関係もありますから」
「孫伊勢守様。
一身をとして御身をお守りいたします」
重次さんのあいさつの後、三人が一斉に頭を下げられれば、いやともいえずに、この瞬間から連れが増えた。
その後は、結局よくわからないまま船に乗せられ、気が付くと三蔵村の港に着いていた。
その港だけれど、笑顔が怖い半兵衛さんと藤林さんがなぜかしら出迎えてくれた。
どこから情報が行くんだよと文句の一つも出ようものだが、俺は我慢して二人に挨拶を返した。
わざわざ忙しい筈の二人が出迎えての要件も、俺の護衛のことで、その場で有無を言わさずに雑賀の傭兵さんを3人と藤林さんの処から凄腕級の忍者を二人付けてきた。
俺の処では忍者は既に百地少年が居るので結局、海賊さんに傭兵さん、それに忍者さんがそれぞれ三人づつ俺の護衛として付くことになった。
俺は半兵衛さん意見具申を申し出た。
「半兵衛さん。
これはちょっと大げさではありませんか。
一商人に対してここまで付けなくとも……」
「商人?
認識の違いですね。
空さんは商人なんかじゃありませんよ。
だいたいが、少年であるということで、我々も見逃していましたが、空さんは既に大領の国守ですよ。
ご自身のお立場を忘れてなんかいませんよね」
今日の半兵衛さん迫力がある。
相当あちこちから言われたんだろうな。
結局俺に断れるはずもなく、9名の専属護衛が付くことになった。
その護衛を連れて三蔵寺に行き、玄奘様と本当に久しぶりに面会した。
俺が玄奘様に護衛について愚痴を言ったら、頭を叩かれ怒られた。
なぜ??
「空よ、いい加減現状を見極めよ」
「だって、玄奘様だって連れを連れずに旅していたじゃありませんか。
それに比べれば俺なんて只の商人……」
「わしと一緒にするな。
お前が只の商人のはずがあるか。
お前は伊勢の国守だぞ。
この辺りに久しぶりに訪れた平和を壊す気か。
今のこの平和は、全てお前に掛かっていることを自覚しろ」
玄奘様の言い様に俺は何故か納得ができない。
確かに今の俺は玄奘様から見たら只の餓鬼だ。
それなのに、高貴なるものの責任をどうとか言うなら、玄奘様の言い様はおかしい。
俺のことを高貴だというのならもう少し言い様があるだろう。
今の俺に対する扱いは、始めて会った時と何ら変わらずだ。
それなら、俺の愚痴の一つくらい聞いたって罰が当たらないだろう。
今の高みに上ったのだから責任を持てと叱るような態度、絶対におかしい。
俺がいじけながら玄奘様の説教を聞いていると、張さんが10人ばかりの子供を連れて来た。
「来たか。
この者を連れて行くといい。
彼らはもう大丈夫だ。
前に空が言っていたように十分に読み書きができ、少しばかりの行儀も嗜む。
礼儀作法についてはまだまだ勉強しないといけないが、それくらいなら京でもできるだろう」
玄奘様の云うには、読み書きそろばんができるものも既に20名は越えたそうだ。
そのレベルにまで教育が済んでいる連中は、この辺りの村の仕事を手伝っているところまで来たのだとか。
でも、京に連れて行くにはそれ以外に多少の礼儀もわきまえた方がいいというので、寺で最後まで勉強していた男女10人を推薦してくれた。
それを張さん自ら確認してここに連れて来たのだ。
「ありがとうございます。
これからもまだまだ人は必要になりますので、教育の方をよろしくお願いします」
「しかし、空に全部取られるわけには行かないぞ。
藤林様からも人材の補強を頼まれているしな」
「え?
武士じゃないのに大丈夫なのですか」
「わしもそう聞いたのだが、藤林様は笑っておられた」
人材獲得に新たなライバル出現か。
あ、はじめからそのつもりで教育していたんだ。
俺が京に行くことの方がイレギュラーだった。
それにしても、俺がここを離れてからもどんどん子供が集まっている。
玄奘様から、領内各所から孤児を集めてここで教育を始めたと聞いたのだが、ここ以外では、教育なんかできそうにないし、人材も育つ。
一石二鳥という奴か。
いや、領内の孤児対策も兼ねるので三鳥というやつだな。
俺って先見の明がある……って訳ないか。
でも、良い方に回っているのだから良しとしよう。
彼らを連れて京に戻るか。
「空よ、藤林様から、機会があれば峠の茶屋も見てほしいと聞いたぞ。
あそこも空の領分だろう」
「え、あそこは藤林様の扱いだよ。
でもいいか。
せっかく新たな護衛もいるし、観音寺を経由して京に戻ります」
「それがいい。
今度上人様に会ったら空が元気だったと伝えておくが、一度時間を取って訪ねてみるが良い。
上人様とも会っておらんだろう」
「はい、今度は葵や幸を連れて挨拶にお伺いしますとお伝えください」
俺らは翌日、この村から毎日出ているという馬借に付いて八風峠に向かった。
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