名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第百七十五話 八風峠

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 ぞろぞろ、ぞろぞろ。

 「なんかさ~、のどかだね」

 俺は、ここ三蔵村から毎日出ているという定期便を運ぶ馬借のすぐ後ろを、ごくごく最近になってから付けられた護衛9名を引き連れて歩いている。

「そうですね。
 お天気も良かったですし、何よりこの道はとても歩きやすくて助かります」

 張さんが俺の独り言に付き合ってくれた。
 そうなのだ。
 ここから八風峠に向かう一本道は舗装されている。

 今でいう簡易舗装のようなものだがなんちゃってコンクリートの三和土で舗装してあるのだ。
 以前峠に茶屋を作った時に、輸送に困難な峠道でももう少しどうにかならないかと三蔵衆のうちから六輔さんを頭として土木方のようなチームを作って峠道の舗装を頼んでいたのだ。
 この道を通る商人たちにも協力を呼びかけ資金面で寄付をしてもらい、その資金を使っての事業だったので、うちとしては無理なく進めることのできた事業だった。

 俺の知らないうちに当初の目的である峠のキツイ所の舗装を終え、今では領内の主だった道にまで舗装が伸びている。
 今は六輔さんにも協力を頼んで京の整備をしてもらっている都合上、舗装事業は滞っているが、ここまで出来ているので、俺としては十分に満足であった。

「そうだね、これくらい歩き易ければ、女性や子供でも簡単に移動できるね」

「そうですね。
 村を出るのが初めてではないでしょうが、後ろを歩いている子供たちも、そんなに負担にならないのがいいですね」

 俺らの後ろを、三蔵寺から預かった子供たち10名も京を目指して歩いている。
 子供と言っても、全員がしっかり教育を済ませた13~15歳の子供たちだ。
 この時代ならそろそろ大人として扱われていても良い位の年頃で、全員が俺と同年代か年上ときているのだから、子ども扱いは失礼になるかもしれない。

 これからの彼らを俺が直接見ることは少ないだろうが、葵たちが面倒を見ることになるのが少々心配だ。
 既に葵はもちろん幸ですら、そこらの大人顔負け位の仕事をしてもらっているので、仕事そのものに不安は無いが、彼らの差配となると、年下の女性の言うことを彼らが素直に聞くかどうかまでは俺には分からない。

 まあ、問題が表面化する前に張さん辺りがしっかり絞めてくれるのだろうから、俺が心配するだけ無駄だろう。
 そんなたわいもないことを考えながら張さんと雑談を楽しみ歩いて、峠に着いた。
 峠に着くと、俺はあたりの変わりように驚いた。

「ここって、茶屋以外は俺らのための屋敷があったくらいだよね。
 まあ、馬借の拠点にもなっているので、それらの施設があるのは分かるが、それでも増えていないかな。
 絶対に屋敷が増えているよね。
 茶屋ももう一軒出来ているし、何より、商人が沢山いるのには驚いた」

 この独り言には、張さんも同様だったようで答えてくれた。

「ええ、ここまで変わっているとは驚きました。
 そう言えば、私はこの道をあまり通りませんでしたし、それに何より私は空さんが以前ここを見た時よりも前しか知りませんから、本当に驚きましたね。
 すごいです、空さん」

 え?
 おれの成果じゃないけどなぜか張さんは俺を讃えてくれる。
 流石に人の成果を横取りにはできないので、否定をしようかという段階で、この辺りの長である権蔵さんが俺を見つけたのか、急いでここにやって来る。
 権蔵さんの格好も偉く変わっていたのには驚いた。

 俺がここを権蔵さんに任せた時には藤林さんの部下から選んでもらって決めたわけだが、まるで山賊の頭って感じだったのだが、俺のところに向かってくる権蔵さんは能登屋さんや紀伊之屋さんと同じような大店の店主のような貫禄がある格好だ。
 とにかく着ている服が立派なもので、はじめこの人は誰って感じだったのだ。

 いきなりあいさつされたので、やっとこさ思い出した。

「お久しぶりです、空さん。
 話は配下から聞きましたので、お待ちしておりました。
 直ぐに皆様をお休みできる場所にご案内いたします」

 俺らがここを通ることは既に先触れが出ていたらしい。
 権蔵さんの部下らしい人が子供たちを連れて行く。
 俺は張さんと一緒に権蔵さんに連れられ、この中で一番大きい建物の中に入っていった。
 屋敷の一番奥にある部屋に入ると、直ぐに茶でもてなされ、権蔵さんとの会談が始まった。

「お久しぶりです、権蔵さん。
 しかし、ここもあなたも偉く変わりましたね。
 はじめ誰だかわかりませんでしたよ」

「空さん。
 確かにえらくご無沙汰しておりますが、それは酷いんじゃありませんか。
 ここは空さんの命で作った拠点ですよ。
 お公家さんになられた後も、忘れないでくださいな」

 権蔵さんは今までのように俺を扱ってくれる。
 流石情報の専門家だ。
 俺が官位を頂いて偉くなることは織り込み済だろうが、出世に伴い扱いが変わることを嫌っているのを知っての処置だろう。
 こういう細かな気配りはうれしいが、ここの変わりようが少々心配になり、思わず権蔵さんに聞いてしまった。

「しかし、この町の変わりよう、大丈夫ですかね」

「大丈夫とは、何をご心配で?」

「ここは俺らの勢力圏じゃないでしょ。
 ここがこれくらい賑やかになると、六角あたりが何か言ってきませんか」

「そうですね、ここは近江と伊賀の中間と言ったあたりでしょうか。
 両国とも六角の縄張りですからご心配なのはわかります。
 しかし、そこは大丈夫なのです。
 この村についてはご心配には及びませんが、別の件で六角について心配事は出てきました。
 その件でご紹介したい人がおりますので、よろしいでしょうか」

「今、ここにですか。
 私は大丈夫ですが、その人を今からお呼びしてここに来るまで時間がかかりそうですね」

「大丈夫です。
 そこで待ってもらっておりますから。
 おい、お呼びしてくれ」

 権蔵さんが外にいる配下に声をかけた。
 ほとんど待たずに、部屋に人が入って来た。
 あ、この人は知っている。
 かなり前だったが会ったことがある。

「お久しぶりです、孫伊勢守様。
 それともはじめましての方がよろしいでしょうか。
 覚えておりませんか、望月です」

 ああそうだよ、俺が伊勢から出た時に一度お世話になった人だ。
 藤林さんをかくまっていた人でもあったな。

「そうなんです。
 さきほど、この辺りは大丈夫と言ったのは、望月様もお向かいに茶屋を開いてもらいましたから、一応この辺りは望月様が治めていることになっております。
 望月様は六角氏より自治のお許しを頂いております。
 流石に六角氏もここまでとは思いもよらなかったでしょうが、とにかく六角氏には望月様の自治している村となっておりますので、いきなり何か無理難題を言われる事は無いでしょう」

「そうですか、お世話になっております、望月様。
 以前お世話になったことを今思い出しました。
 その節は大変世話になりながら不義理をしておりますことお詫び申し上げます」

「そこまで畏まらずに。
 とりあえず公の席でないので、私もご無礼致します。
 先ほど権蔵さんから説明がありましたが、この辺りは私が治めていることにしております。
 なになに、私の方が新参者ですので、税を取ったりなどは考えておりません。
 今まで通りでお願いします」

「それは助かります。
 ありがとうございます」

「礼は私の方からですよ。
 空さん達が開発してくれましたから、私も儲けの一端に加わることができました。
 ありがとうございます。
 しかし、ここが賑わうことで少々問題も出てきております」

「六角ですか」

「はい、伊賀の地は六角氏の領地ではありません。
 我々伊賀者が庇護を受けておりますが、別な国の扱いですので、私がこの辺りを治めていることで、直接六角からの話は無いでしょう」

「では、問題とは何ですか」

「この峠道の終着点です。
 この道は直ぐに六角領を通ります。
 最近の商人の出入りの多さから、六角氏は峠口に関を設けようとしております。
 当然商人たちから通行のための税を取ろうとしているようです」

 本当に久しぶりに会った望月さんから聞かされた話は、ありがたいものじゃなかった。
 しかし解せない。
 何故今頃関を設けるのか。
 六角と言えばいち早く楽市を開いた開明の大名だったはず。
 俺らもその城下町である観音寺での商売でかなり楽ができた。
 いや、飛躍するきっかけをつかむことができた場所だ。
 なので、俺らの店も最初に作った場所でもある。
 それが時代に逆行する関を今更と言う気持ちがあるのは正直な感想だ。

 まあ、関があるのはこの時代の標準で、歴史を知っているから逆行するといえるのだが、それでも解せない。
 開明の大名が今更のように関を設けるんかということがだ。
 俺は思わず聞いてしまった。

「望月様、一つ教えてほしいのですが、何故今更関を設けるのですか。
 六角氏と言えば楽市を開くくらいの開明派だと思っておりましたが、その政策とは相反することのように思われるのですが」

「空さんが疑問に思うのももっともだと思います。
 正直私もそう思いましたから。
 今現在分かっているのは、現在の当主様が先代様とは違うということだけです。
 ご城下の楽市もいつまでお続けになるか、正直分かりません。
 浅井との小競り合いでの戦費の調達でもお考えではと思っております」

「しかし、それは困りましたね。
 関が無いから賑わっているのに。
 みすみす金の卵を産む鳥を殺すようなものだな」

「何です、それは」

「そこで、空さんにお願いがあります。
 六角氏に関の建設を中止するように頼んでもらえますか。
 我々ではどうしようもありません。
 伊勢守様のお力をお借りしたいのです」

「分かりました。
 どこまで出来ることかはお約束できませんが、最大限の努力をすることをお約束します。
 正直我々だって困りますからね。
 伊勢の本拠地と京との間に邪魔が入るのは困りものです。
 京の朝廷や大和の弾正とも相談してどうにかしましょう」

 望月さんの話は六角の関をどうにかしてくれだけだった。
 それとここに進出したことの挨拶もあったのだろうが、この話だけのためにここに来たようだ。

 俺との話が終わると、伊賀の自宅に帰っていった。
 望月さんってここに住んでいる訳じゃなかった。
 当たり前か。
 伊賀衆も面倒見ないといけないお立場なのだから。
 それにしても、六角とも色々とやり合う必要があるな。
 どうしよう……

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