206 / 319
第七章 公家の政
第百七十五話 八風峠
しおりを挟むぞろぞろ、ぞろぞろ。
「なんかさ~、のどかだね」
俺は、ここ三蔵村から毎日出ているという定期便を運ぶ馬借のすぐ後ろを、ごくごく最近になってから付けられた護衛9名を引き連れて歩いている。
「そうですね。
お天気も良かったですし、何よりこの道はとても歩きやすくて助かります」
張さんが俺の独り言に付き合ってくれた。
そうなのだ。
ここから八風峠に向かう一本道は舗装されている。
今でいう簡易舗装のようなものだがなんちゃってコンクリートの三和土で舗装してあるのだ。
以前峠に茶屋を作った時に、輸送に困難な峠道でももう少しどうにかならないかと三蔵衆のうちから六輔さんを頭として土木方のようなチームを作って峠道の舗装を頼んでいたのだ。
この道を通る商人たちにも協力を呼びかけ資金面で寄付をしてもらい、その資金を使っての事業だったので、うちとしては無理なく進めることのできた事業だった。
俺の知らないうちに当初の目的である峠のキツイ所の舗装を終え、今では領内の主だった道にまで舗装が伸びている。
今は六輔さんにも協力を頼んで京の整備をしてもらっている都合上、舗装事業は滞っているが、ここまで出来ているので、俺としては十分に満足であった。
「そうだね、これくらい歩き易ければ、女性や子供でも簡単に移動できるね」
「そうですね。
村を出るのが初めてではないでしょうが、後ろを歩いている子供たちも、そんなに負担にならないのがいいですね」
俺らの後ろを、三蔵寺から預かった子供たち10名も京を目指して歩いている。
子供と言っても、全員がしっかり教育を済ませた13~15歳の子供たちだ。
この時代ならそろそろ大人として扱われていても良い位の年頃で、全員が俺と同年代か年上ときているのだから、子ども扱いは失礼になるかもしれない。
これからの彼らを俺が直接見ることは少ないだろうが、葵たちが面倒を見ることになるのが少々心配だ。
既に葵はもちろん幸ですら、そこらの大人顔負け位の仕事をしてもらっているので、仕事そのものに不安は無いが、彼らの差配となると、年下の女性の言うことを彼らが素直に聞くかどうかまでは俺には分からない。
まあ、問題が表面化する前に張さん辺りがしっかり絞めてくれるのだろうから、俺が心配するだけ無駄だろう。
そんなたわいもないことを考えながら張さんと雑談を楽しみ歩いて、峠に着いた。
峠に着くと、俺はあたりの変わりように驚いた。
「ここって、茶屋以外は俺らのための屋敷があったくらいだよね。
まあ、馬借の拠点にもなっているので、それらの施設があるのは分かるが、それでも増えていないかな。
絶対に屋敷が増えているよね。
茶屋ももう一軒出来ているし、何より、商人が沢山いるのには驚いた」
この独り言には、張さんも同様だったようで答えてくれた。
「ええ、ここまで変わっているとは驚きました。
そう言えば、私はこの道をあまり通りませんでしたし、それに何より私は空さんが以前ここを見た時よりも前しか知りませんから、本当に驚きましたね。
すごいです、空さん」
え?
おれの成果じゃないけどなぜか張さんは俺を讃えてくれる。
流石に人の成果を横取りにはできないので、否定をしようかという段階で、この辺りの長である権蔵さんが俺を見つけたのか、急いでここにやって来る。
権蔵さんの格好も偉く変わっていたのには驚いた。
俺がここを権蔵さんに任せた時には藤林さんの部下から選んでもらって決めたわけだが、まるで山賊の頭って感じだったのだが、俺のところに向かってくる権蔵さんは能登屋さんや紀伊之屋さんと同じような大店の店主のような貫禄がある格好だ。
とにかく着ている服が立派なもので、はじめこの人は誰って感じだったのだ。
いきなりあいさつされたので、やっとこさ思い出した。
「お久しぶりです、空さん。
話は配下から聞きましたので、お待ちしておりました。
直ぐに皆様をお休みできる場所にご案内いたします」
俺らがここを通ることは既に先触れが出ていたらしい。
権蔵さんの部下らしい人が子供たちを連れて行く。
俺は張さんと一緒に権蔵さんに連れられ、この中で一番大きい建物の中に入っていった。
屋敷の一番奥にある部屋に入ると、直ぐに茶でもてなされ、権蔵さんとの会談が始まった。
「お久しぶりです、権蔵さん。
しかし、ここもあなたも偉く変わりましたね。
はじめ誰だかわかりませんでしたよ」
「空さん。
確かにえらくご無沙汰しておりますが、それは酷いんじゃありませんか。
ここは空さんの命で作った拠点ですよ。
お公家さんになられた後も、忘れないでくださいな」
権蔵さんは今までのように俺を扱ってくれる。
流石情報の専門家だ。
俺が官位を頂いて偉くなることは織り込み済だろうが、出世に伴い扱いが変わることを嫌っているのを知っての処置だろう。
こういう細かな気配りはうれしいが、ここの変わりようが少々心配になり、思わず権蔵さんに聞いてしまった。
「しかし、この町の変わりよう、大丈夫ですかね」
「大丈夫とは、何をご心配で?」
「ここは俺らの勢力圏じゃないでしょ。
ここがこれくらい賑やかになると、六角あたりが何か言ってきませんか」
「そうですね、ここは近江と伊賀の中間と言ったあたりでしょうか。
両国とも六角の縄張りですからご心配なのはわかります。
しかし、そこは大丈夫なのです。
この村についてはご心配には及びませんが、別の件で六角について心配事は出てきました。
その件でご紹介したい人がおりますので、よろしいでしょうか」
「今、ここにですか。
私は大丈夫ですが、その人を今からお呼びしてここに来るまで時間がかかりそうですね」
「大丈夫です。
そこで待ってもらっておりますから。
おい、お呼びしてくれ」
権蔵さんが外にいる配下に声をかけた。
ほとんど待たずに、部屋に人が入って来た。
あ、この人は知っている。
かなり前だったが会ったことがある。
「お久しぶりです、孫伊勢守様。
それともはじめましての方がよろしいでしょうか。
覚えておりませんか、望月です」
ああそうだよ、俺が伊勢から出た時に一度お世話になった人だ。
藤林さんをかくまっていた人でもあったな。
「そうなんです。
さきほど、この辺りは大丈夫と言ったのは、望月様もお向かいに茶屋を開いてもらいましたから、一応この辺りは望月様が治めていることになっております。
望月様は六角氏より自治のお許しを頂いております。
流石に六角氏もここまでとは思いもよらなかったでしょうが、とにかく六角氏には望月様の自治している村となっておりますので、いきなり何か無理難題を言われる事は無いでしょう」
「そうですか、お世話になっております、望月様。
以前お世話になったことを今思い出しました。
その節は大変世話になりながら不義理をしておりますことお詫び申し上げます」
「そこまで畏まらずに。
とりあえず公の席でないので、私もご無礼致します。
先ほど権蔵さんから説明がありましたが、この辺りは私が治めていることにしております。
なになに、私の方が新参者ですので、税を取ったりなどは考えておりません。
今まで通りでお願いします」
「それは助かります。
ありがとうございます」
「礼は私の方からですよ。
空さん達が開発してくれましたから、私も儲けの一端に加わることができました。
ありがとうございます。
しかし、ここが賑わうことで少々問題も出てきております」
「六角ですか」
「はい、伊賀の地は六角氏の領地ではありません。
我々伊賀者が庇護を受けておりますが、別な国の扱いですので、私がこの辺りを治めていることで、直接六角からの話は無いでしょう」
「では、問題とは何ですか」
「この峠道の終着点です。
この道は直ぐに六角領を通ります。
最近の商人の出入りの多さから、六角氏は峠口に関を設けようとしております。
当然商人たちから通行のための税を取ろうとしているようです」
本当に久しぶりに会った望月さんから聞かされた話は、ありがたいものじゃなかった。
しかし解せない。
何故今頃関を設けるのか。
六角と言えばいち早く楽市を開いた開明の大名だったはず。
俺らもその城下町である観音寺での商売でかなり楽ができた。
いや、飛躍するきっかけをつかむことができた場所だ。
なので、俺らの店も最初に作った場所でもある。
それが時代に逆行する関を今更と言う気持ちがあるのは正直な感想だ。
まあ、関があるのはこの時代の標準で、歴史を知っているから逆行するといえるのだが、それでも解せない。
開明の大名が今更のように関を設けるんかということがだ。
俺は思わず聞いてしまった。
「望月様、一つ教えてほしいのですが、何故今更関を設けるのですか。
六角氏と言えば楽市を開くくらいの開明派だと思っておりましたが、その政策とは相反することのように思われるのですが」
「空さんが疑問に思うのももっともだと思います。
正直私もそう思いましたから。
今現在分かっているのは、現在の当主様が先代様とは違うということだけです。
ご城下の楽市もいつまでお続けになるか、正直分かりません。
浅井との小競り合いでの戦費の調達でもお考えではと思っております」
「しかし、それは困りましたね。
関が無いから賑わっているのに。
みすみす金の卵を産む鳥を殺すようなものだな」
「何です、それは」
「そこで、空さんにお願いがあります。
六角氏に関の建設を中止するように頼んでもらえますか。
我々ではどうしようもありません。
伊勢守様のお力をお借りしたいのです」
「分かりました。
どこまで出来ることかはお約束できませんが、最大限の努力をすることをお約束します。
正直我々だって困りますからね。
伊勢の本拠地と京との間に邪魔が入るのは困りものです。
京の朝廷や大和の弾正とも相談してどうにかしましょう」
望月さんの話は六角の関をどうにかしてくれだけだった。
それとここに進出したことの挨拶もあったのだろうが、この話だけのためにここに来たようだ。
俺との話が終わると、伊賀の自宅に帰っていった。
望月さんってここに住んでいる訳じゃなかった。
当たり前か。
伊賀衆も面倒見ないといけないお立場なのだから。
それにしても、六角とも色々とやり合う必要があるな。
どうしよう……
20
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる