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第七章 公家の政
第百七十九話 お呼び出し
しおりを挟む「空さん。
ただいま戻りました」
「おかえり、向こうは変わりなかったって言っても分からないか。
何か言っていた?」
「はい、先方の家宰様より空さん宛てに伝言を預かってまいりました」
「伝言?
あまり良い予感はしないけど聞かないといけないよね。
なんて言ってきたの?」
「はい、家宰様より、『当方はいつでも構わないので、空さんが都合付き次第ご訪問頂けたら幸いです。』とだけ託を預かりました」
「直ぐに来いという話か。
いよいよ良い予感がしないな。
でもしらを切る訳にもいかないよね。
今から行きますか」
「空さん、直ぐに立ちますか」
「はい、向こうが急いでいるようなので、話だけでも聞いてきます。
多分婚儀の話も出るかもしれないので……」
「そうですね。
なら私は行かない方が良いですね」
「ありがとう張さん。
蒲生の若様をほって置く訳にもいかないので、張さんは鶴千代様たちをもてなしてくれるかな。
鶴千代様に酒を出す訳にはいかないけれど、案内人の方にはお勧めしておいてね。
自家の若様が飲めないので遠慮するかもしれないので、こちらからおすすめをしてほしい。
あ、でも飲めないような感じがしたら無理には勧めないで良いからね」
「はい、分かっております。
鶴千代様の供応に葵を同席させます。
ここ都で生活をしていくうえで、これからいろいろとありそうなので、そろそろ経験を積ませます」
「その辺りは全て張さんに任せます。
家宰の助清さんと相談してとりなしてください」
「はい、私はこの国の特に高貴な方への礼儀について無知なもので、なかなか空さんの力にはなりえません。
ですので、その辺りも助清さんに教わります」
「戻り次第、そちらに参加しますので、俺のことは伝えてもいいから、先方が気まずくならないようにお願いします」
俺はそれだけ言ってここ詰め所を出た。
詰所から本当に歩いて5分、不動産屋の怪しい広告じゃないので、本当に直ぐに着く。
入口には既に殿下の家宰が外に出て待っていた。
なんですぐに俺が来ると分かっていたのか不思議ではあるが、まあ、あのような伝言だ。
俺のようなちり芥のような人間には選択肢は無いので、直ぐに来ることが分かっていたのだろう。
「家宰様、お久しぶりです。
お待たせしてしまいましたか」
「いえいえ、私はたまたまです。
それより、お早いご訪問感謝します。
殿下も奥でお待ちですので、直ぐにご案内いたします」
「あ……」
「ああ、そうですね。
お連れの方は初めての方ばかりですね。
こちらにご案内いたします」
「悪いけど、案内に従って別室で待っていてほしい」
「はい、分かりました。
お帰りをお待ちしております」
俺は入り口で護衛と別れ、家宰に従って奥に入っていった。
何度も来ているためか、今日は客間ではなく、殿下の私室に通された。
「おお、帰ってきたか」
「ハイ、色々とありまして帰京が遅れましたことお詫び申し上げます」
「いやなに、婿殿の居ぬ間も婿殿のお仲間がきちんと町を守って居ったので、問題は無い。
今日来てもらったのは、近々宮中から婿殿に対して叙爵の沙汰が下りる。
近衛少将に内定しておる。
上国の守だった婿殿には申し訳なかったがわずかにしか爵位を上げられなかった。
しかし、婿殿の希望通り此度の叙爵と同時に検非違使の長も命じられることになる。
これでよかったんだな」
「はい、殿下にはお手数をお掛けして申し訳ありません。
検非違使庁を再開させられれば、晴れて我らが内外に京の治安を守ることを示すことができます」
「良かった良かった、これで晴れて娘を娶らせられる。
そちらの方も準備してくれ」
やはりそう来たか。
まあ時間の問題だったのだが、俺も相手も大人になり切っていないこの時期の結婚か。
まあ、大名などの跡取りなどは当たり前なのだろうが、俺にはなかなかなじめない、
精神年齢だけは高いので、俺の方は問題ないが相手がな~、俺はロリコンじゃない。
しかし、葵や幸もいるし、変なのに目覚めないといいな。
「分かりました。
しかしこれからの準備となりますので、少々お時間を頂きたいと思ってはおります」
「分かっておる。分かっておるよ。
それより、明日にでも勅使が屋敷に向かうことになっておる。
それを伴って参内してくれ」
とんでもないことになってきた。
結婚もいよいよ現実味を帯びてきた、が、それ以上に叙爵が厄介だ。
伊勢守という役職は武家が持っても今の世なら何ら違和感などないが、近衛少将という役職はもはや武家だとは言いにくい。
まあ、北畠などのように武家か公家かも分からない者もいないではないようだが、俺のように身元のあいまいな者ではかえって怪しく見えるだろう。
多分、今各地にいる多くの大名からすると公家に見られる。
まあ、太閤殿下と縁続きになる以上、そう見られるのは覚悟もしていたが、今はまだ時期尚早だと思っている。
少なくとも俺らと話ができる勢力だけでここ畿内全てを抑えられれば良いと思っていた。
近江及び伊賀の2国は全くと言ってこちらの意が通らない。
武力で押さえることもできなくはないが大義が無いので後々を考えると取ってよい手ではない。
まあ、近衛という役職は武に近い役職なのが救いだ。
ここからは俺は蝙蝠に徹することにする。
今までもそうだと言われそうだが、これからは公でも蝙蝠に徹しよう。
公家でもない、されど武家でもない状態から、あるときはお公家さん、またある時にはお武家さんとなろう。
その実態は只の商人というのが理想なのだが、まあ、無理をねだっても詮無き事。
帰ったらあいつらに婚儀の件を報告しておこう。
まさか客人の前で焼きもちを焼かないだろうとは思うが、明日蒲生様一行を送り出したのちに勅使を迎える。
じっくりと今後についても話し合っておきたかったが、どうもそれも時間がなさそうだ。
かといって蒲生様たちをほって置いて話し合いなどできないし、とにかく、婚儀については近々話すことだけでも帰ったらすぐに伝えることにした。
太閤のお屋敷から直接自宅に帰った。
流石に客人をいつまでもほって置く訳にはいかない。
屋敷に入ると、助清さん配下の女性が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ただいま」
奥の方から賑やかで楽しそうな声が聞こえてきた。
良かった、場がしらけていない。
「おもてなしはうまくいっているようだね。
俺も顔を出すか」
「はい、そうしてください。
張様からもご主人様がおかえりになったら、そのままお連れ下さいと命じられておりますから」
「奥の部屋かな」
「ご案内いたします」
俺は彼女に続いて部屋に入っていった。
「蒲生様、遅れましたことお詫びします」
「あ、空さん。
お仕事はお済みで」
「ええ、都のやんごとなき方からの呼び出しだったもので、この場を離れておりました。
お話を済ませてきましたので、本日はもうありません」
「本日は……」
「はい、鶴千代様。
私は商人衆である三蔵の衆の頭を務めてはおりますが、ここ京では公に伊勢守という役職を頂いております。
また、その際に、ここ京の治安を守れとも命じられており、京にいる次第です。
前に少しばかり野暮用があり、伊勢に戻っておりましたが、ここに戻ればまた治安を守る仕事があります」
「そうでしたか。
ここの処京の治安が良くなって商いが増えたと城下で聞いておりましたが、皆空さんのおかげでしたか」
「いえ、私だけの成果ではありません。
この場にいる全員と、他に詰めております部下たちの精勤があればこそなのです」
「お忙しいのですね。
ゆっくりと空さんとお話をできる機会をうかがっておりましたが、今回は難しそうですね」
「すみません。
いずれ機会を待ちましてお会いできたらと思っております」
その後しばらくは宴会が続き、その日は終わった。
翌朝は朝早くに蒲生様たちを送り出した。
鶴千代様はもっとゆっくり京の町を見て歩きたかったようだが、案内に付いてくれた方に余裕が無い。
まあ、自分の主君より言いつかった以外にはそうそうできない。
今回は俺らと同行して京に入るとだけ言いつかっただけなので、主君の嫡男をかってにつれて京の町を歩き回るほど彼の腹は据わっていない。
勝手をしたら後で主君よりお叱りを受けるかもしれないという恐れがあるのだろう。
俺の方から案内を買って出ればよかったのだろうが、先の太閤との話もあるので、こちらにも余裕が無い。
今回ばかりは諦めてもらうしかない。
それでも、この出会いを大切にしたいので、ここでリップサービスを一つ。
「鶴千代様。
今回は京の町を案内できませんでしたが、こちらに余裕ができましたらもう一度ご招待いたします。
その際にはおいで下さいますか」
「空殿。
ありがとうございます。
その時には、何を置いてもお邪魔させていただきます。
今回は名残惜しいですが、いずれまた良き出会いを祈願しております」
今回も偶然なのか俺の知る戦国有名チート武将にまた出会うことができた。
近い将来、六角がどうなっているかは分からないが、彼だけは、いや、彼の父親もだが、蒲生様とだけは敵対したくはない。
できれば協力者か九鬼様辺りの配下にでもなってくれればいいのだがな。
俺としての希望は半兵衛さんのような位置づけだが、どうなりますことやら。
あ、そろそろ次のイベントの準備をしないといけない。
直ぐ傍にある御所から勅使が来るんだった。
出迎えの準備をしておかないといけない。
「助清さん。
昨日殿下から聞いたのだけれども、もうじき勅使が来るそうなのです。
出迎えを頼めますか」
「勅使ですか。
今の時代ですから、それほど大げさに準備することはありませんが、できるだけのことはしておいた方が良いでしょうね。
分かりました。
任せて下さい」
正直、俺の配下として仕来りや礼儀に詳しい助清さんが居てよかった。
張さんも才女で、事交渉ごとになれば無類の強さを見せるが、仕来りや礼儀ついては詳しくはない。
いや、貴族社会を知らないばかりか庶民の日常も詳しくはなかった。
彼女はこの国出身じゃないので当たり前と言えば当たり前なのだが、過去の歴史を知り、かつ、一応の教育を受けていた俺もこの時代に合った作法ができないので何も言えない。その辺りも考えてあの太閤殿下が俺に助清さんを付けたのかもしれない。
殿下は案外大和の糞おやじと同じ穴の狢かも、そういえばあの二人は仲も良かったしね。
これは考えても詮無き事だ。
殿下の養女と結婚もすれば、彼女の実父も学者だと聞くし、そういった仕来りや儀式について色々と相談にも乗ってもらおう。
後は成り行きだ。
色々考えればきりがない。
俺は俺の手で救える範囲だけしっかり救う方針だけを守ればいい。
それ以外考えるときっと俺はノイローゼになるだろう。
そう言った部分は、この時代の人たちに任せればいいだけだ。
なにせ幸いなことに俺の周りにはチートが多数集まってきている。
あとは彼らの責任だ。
俺は出迎えを助清さんに任せ、奥に入っていった。
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