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第七章 公家の政
第百八十一話 俺の利権
しおりを挟む近衛関白に対して明らかに対決姿勢を見せた俺に、周りは止めるそぶりを見せるような事は無かった。
いや、それよりも、かえってあおるようなヤジまでかけてくる。
いったい、ここにいる人たちは何をしたいのか。
正直、俺には分からない。
これが、ここでの政治というのもなのか。
最初こそ切っ掛けを作ったのは俺だが、その後はこの異様な状況を観察することに徹した。
何が言いたいのかさっぱりわからない。
くそ~、だれか俺に解説してくれ~
俺は先ほどから心の中で悲鳴を上げている。
俺の義父になる太閤殿下に連なる人たちが、近衛関白の金魚の糞のような連中に対して反論しているようだ。
それにしても両陣営が異様なまでの真剣さで盛り上がっている。
俺にはさっぱり訳が分からない。
そんなに俺が嫌いなら、そもそもここに呼ばなければいいのに。
それに先ほど近衛関白に対してはっきりと、いやなら首にしろとまで言い切ったのだ。
ここで要らない議論などせずにさっさと首にでもすればいいのにと思いながら議論の趨勢を見ている。
しばらくじっと聞いていると、どうにも彼らは俺が得た検非違使の長の地位に対してよりも、俺が得ている利権に異様なまでに興味があるようだ。
早い話が、ここ京都で、ずば抜けて羽振りの良い?俺に対して、『お前の持っている利権をよこせ』と言っているようだ。
それに対して太閤殿下側も、義息の利権は太閤殿下のものだと言い返しているようだ。
しかし……ちょっと待て、俺の利権ってなんだ?
そもそも俺には、ここ京都に来てから朝廷や幕府から何も貰っていないぞ。
それに許認可絡みの権限もないし、そもそも賄賂なんかも貰っていない。
て云うか、全て俺のたくわえからの持ち出しで行っている、いわばボランティア活動なのに、そんなにボランティアをしたければさっさとすればいい。
今の俺から何を取り上げたいというのだ。
絶対あいつら誤解している。
幕府が居なくなったことで、京では自分らのやりたい放題だと。
しかも、俺の羽振りを見て、俺を追い出せばかつてのような栄華を取り戻せると思っているようだ。
自惚れでなく、今の状態で俺らが居なくなれば京の町は元通り酷い無政府状態になることは誰が見ても分かる道理だ。
それがあいつらには誰一人として分からない。
しかし、俺はここ京に来てから贅沢などしていないのに、どこからそんなに羽振りが良いとまで勘違いしたのだろう。
そう思っていたら、その答えもくだらない議論から聞こえてきた。
俺があまりに酷い宮中の有様を見て、御殿の修理用にと献金した数万貫銭をどうも関白連中が横領したようだ。
それで味をしめたのか、俺を追い出せば簡単に銭が入ると勘違いしているようだ。
あの銭だって、伊勢の皆が一生懸命に働いて稼いだ銭なのに、帝の生活費になるのならまだ我慢もできようが、多分あいつらは帝に一銭も渡さずに横領したのだろう。
やれ銭の配分がどうとか言い出している。
流石にここまで分かれば、腹立たしいこと以外何もない。
ここにいても良いことなど一つもないし、そもそも俺にはここで何もやる事が無い。
一応太閤殿下に断ってから、この場から退出した。
絶対にあいつらに政を任せてはだめだと、この時ばかりは強く心に誓った。
あいつら全員を追い出してやる。
太閤は既に政治の舞台から離れていることになっているが、どうかな。
そろそろ真剣に考える必要がありそうだ。
明治の偉人のセリフ『今一度、洗濯したく……』って心境になってきた。
真剣に相談できる人材を集めて、今後どのように持っていくかを考える時期に来ているのかもしれない。
少なくとも令和の日本の形態をそのまま持っては来れないことだけは俺にでもわかる。
民主主義などもってのほかだ。
そもそも、民主主義が成立するには、国民の知性や知識、それに民度それら全てを含む道徳心が必要だ。
それなくして只選挙で選んだ連中に政を任せても独裁政治や衆愚政治になることは俺が居た令和の時代でもそれこそあちこちにあった。
それこそ独裁政治でもしっかり政治を司っていれば良いが、民主主義を取り入れた瞬間に政治が乱れるなんて話がそれこそ多く聞かされた。
どんな時代でも、最終的に政治の乱れの一番の被害者は力を持たない民衆なのだ。
俺ら三蔵の衆もその被害者が集まってできたグループなのだ。
俺が直接政をするつもりはないが、とにかくこの時代の英知を集め少なくとも、一生懸命に働く庶民が飢えで死ぬことのない国にしていきたい。
今日、帝より検非違使を開く許可を頂いたのだ。
すぐにでも検非違使庁をつくり、治安を回復させてからの話になるが、人を集めて、将来についての研究も始めて行こう。
俺は歩きながら考えていた。
「おかえりなさい、空さん」
俺が屋敷に入ると張さんが出迎えてくれた。
「宮中はどうでした」
「あ。空さん。
おかえりなさい。
空さんの言っていた検非違使でしたっけ、許可が下りましたか」
「ああ、帝からご許可を頂いた。
すぐにでも準備を始めよう。
助清さん、悪いがまた人を集めてほしい」
「人ですか?
誰をですか」
「京や近隣から宮大工を集められないかな」
「分かりました。
すぐにでも手配します」
「張さん達はちょっと相談したいので奥に一緒に来てほしい」
俺は先の宮中であったことを張さんに説明した。
葵や幸にはまだ早いとは思ったのだが、ここには相談できる人がいない。
いわゆる猫の手でもというやつだが、こう言ったケースで思わぬ幸運というのも得ることがある。
全く考えていなかったことを幸に指摘されたのだ。
「空さん。
先の話ですと、これからのあり方ってやつですか、私にはまだ難しくてよく分からないのですが、宮中での仕来りや作法など私達だけでは知らないことが多すぎます。
それに詳しい方に来てもらった方がよろしいのでは」
「その詳しい人に知り合いがいないことが問題なのだよ。
少なくとも、あの近衛関白たちには聞けない話だしね」
「え、空さん。
前に聞いたのですが、奥さんのお父さんはそういった方では。
なんでも学者様とかいう偉い人だと空さんから聞きましたが、その方ではまずいのですか」
「あ!」
そうなのだ。
既に時間の問題となった俺の結婚、その相手である結さんのお父さんに当たる人がいた。
確か彼は大学寮で学者をやっていることになっている、そうだ思い出した明経博士とか言ったよな。
彼なら仕来りには詳しかろう。
しかも古典に通じているはずだし、昔の中国、特に唐時代の政治の仕組みのも通じていたはずだ。
なにせこの国は、その法律を基にした律令体制で運営されていることになっているのだから。
「幸、ありがとう。
そうだなよな。
一度相談に伺ってみよう。
できればこちらに取り込みたいしね。
彼も娘の傍にいれるし、良いことずくめのはずだよな」
公家を取り込み、公家側からの視点を確保して、武家側の視点も欲しいところだ。
これも何かを考えよう。
あ、明智光秀ってこの時代にいたよな。
どうしても裏切り者のイメージがあるので考えないようにしていたが、彼って非常に優秀な人材だったはずだ。
まだ間に合うかな……少なくとも信長陣営にはいなかったようで。
どこにいるのだろうか。
………
濃姫の血筋??
確かそういう説もあったよな。
一度信長さんにも相談してみるか。
信長さんって破天荒な行動力を持っているが、話をきちんと聞いてくれる人だったし、困ったことがあれば相談に来いとまで言ってくれていたしね。
まあ、今は検非違使を作ることから始めないとね。
「ご主人様。
今本能寺に使いを出しました。
明日にはご返事を頂けるかと思います」
「助清さん、ありがとう。
あ、でもなんで本能寺なの」
「はい、この近くで知り合いの宮大工となりますと、本能寺お抱えになりますから」
「そうなの、でもありがとう。
あ、ついでで悪いけど、結殿のご尊父にお会いできるかな」
「太閤殿下ならいつでも」
「いや、実父の方。
確か大学寮のお役人だとか」
「ああ、五宮様ですか。
大丈夫かとは思いますが、使いを出しておきます。
あ、それと太閤殿下にもお知らせした方がよろしいかと」
「あ、そうだね。
俺が勝手に何か仕出かすと心配するしね。
先に殿下の方に会って話だけでもしてこよう。
そっちにも使いを出しておいてね。
色々便利使いして申し訳ないがよろしくね」
「お気になさいませんよう。
それが私の仕事ですから。
すぐにでも殿下に使いを走らせます」
殿下ね~、あのくだらない議論から戻ってきていればいいけど、いつまであんなことをやるつもりなのかな。
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