名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第百八十九話 先触れ

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 堺から大和への道中は、何度も通った場所なので、何ら問題なく目的の多聞山城に着くことが……できなかった。
 いつもは数人で移動していたので、問題なく城下に入れたのだが、今回はいかつい護衛を10人ばかり連れての移動だったもので、城下にはいる寸前に弾正の配下の者に見つかり、城下にある番屋まで連れて行かれた。

 そこで、俺は弾正と話がしたいので、本多様を呼んでほしいと言ったら、ふざけるなと怒られた。
 そう言えばこの人、今まで見たことのない人だ。
 当たり前と云えば当たり前なのだが、俺は一回も城下で問題を起こした事が無い。
 当然城下の番屋に詰める武士などには知り合いもできようもない。

 多聞山城の門番ならたいがいは顔スルーなので、この時代の常識を完全に忘れていた。
 暫くここで足止めをされ、ここに城から人が何人も訪ねてきた。
 初めの数人は本当に下っ端なのだろうか、知らない人だったので、はっきり言って役に立たなかった。

 3人目でやっと顔を見たことがある人が来たので、本多様に取り次いでほしいと頼んだら、一緒に城まで案内してくれた。
 城の門付近まで来たら本多様が急ぎこちらに向かってきているのが見えた。

「あ、本多様。
 お久しぶりです」

「空~。
 お前は何をやっているんだ」

 うん、本多さんはいつもの調子だ。
 前にお願いをして、最初にあった時と変わらない扱いをしてほしいと言ってあるのだ。
 流石に公的な場では俺の方が上の官位となるので、偉く仰々しくなるのだが、こういった時には頭を叩はたかんとばかりの対応となる。
 大抵の場合、俺の方に原因があるので、素直に叩かれているが、今もそんな感じだ。

「だいたい、近衛少将となっても変わらないとはどういう了見だ」

「え?
 変わっているから城下で止められたんでしょ」

「何を言うか。
 お前が物騒な連中を引き連れて城下に現れたと報告があった時に、殿は笑っていたが他は皆大騒ぎになったのだぞ。
 先触れくらい寄こさんか」

「私が先触れです」

「は??」

「なんでもこれが今の公家の中では流行りの様で、私の処にもご本人がそう言って無理やり訪ねて来るのですよ。
 だからこれが公家の礼儀かと」

「そんな訳あるか」

「ですよね~。
 私もそう思ったのですが、最近この手の人があまりに多くて正直分からなくなっていたのです」

「もういい。
 殿もお待ちだ。
 こっちに来い」

 本多さんに連れられて城の奥、いつも通される弾正の私室に入っていった。

「やっと着いたようだな」

 開口一番に弾正は笑いながら俺に言ってきた。

「ええ、いつものように訪ねたのですが、久しぶりだったのか要領を掴めなくて。
 城下の番屋で捕まりました」

「だいたい、先触れをよこさんからそうなるんだ。
 少しは常識をわきまえよ」

「そう言いますが、最近の都では少納言のような高貴な方も『私が先ぶれだ』なんておっしゃって無理やり訪ねてきますよ。
 私はまだましです。
 あちらは初対面でこれをやりますが、私は何度もここに通されておりますし、いつものように来ただけだったのに」

「はあ~?」

「まあいい、話を持ってきたのだろう」

「ええ、そういえば私の動向なんか把握していますよね。
 なら先触れなんか要らないでしょ。
 私が淀で遊んでいたことも知っているはずなのに」

「アハハハ、でもお前も偉くなったんだ。
 一応の礼儀を示せ。
 でないとうつけと評判が立つぞ」

「面倒なんですよね。
 少なくとも、こことはそういったのは省けませんか」

「今までは省いていただろう。
 そう言った偉そうな口は、きちんとできてから言え。
 まあ、前置きは良い。
 さっさと話を聞こうか。
 お前とて暇じゃないのだろう」

「ありがとうございます。
 では早速……」 と、やっと本来の目的の話ができるようになった。

 俺は、淀にある中州に町を作る計画を話した。
 その上で弾正に協力を持ち掛けた。
 と言っても城下で贔屓にしている商家もこの計画に加わるかどうかの希望を聞いた。

 先の八風峠では、あれだけでもかなりの経済効果は出ていたのだ。
 水運がまだそれほど発達していないこの時代で、尾張から堺、京、近江を繋ぐ一大水運網が完成すればどれほど儲かるか俺には想像もできないが、戦国チートならその辺りにも抜かりはあるまい。

 それに何より、俺のすることはほとんど筒抜けなのだ。
 こんな儲け話に誘いもしなければ後でどんな嫌味を言われるか分かったものじゃない。
 ここは一応話をもっていった。
 それも計画を始める前にというのが大事だ。

「ということを始めようかと考えております」

「またどえらいことを考えていたものだな。 
 淀の件は城でも作るのかと思ったのだぞ。
 公家連中が騒いだ時に逃げる場所の確保としてな」

「ええ、それも考えましたよ。
 でもそれよりも先に考えたのが、河内の治安ですよ。
 まだあの辺りには三好と誼を繋ぐ地侍も多いでしょう。
 いつ何時淡路から攻めあがってこないか、そっちの方がちょっと心配。
 そんな意味も持たせてはあります。
 まあ、前に一緒に水軍を叩いておいたからそう簡単には来ないでしょうけどね」

「確かに、でも当分は問題無いかな。
 まあ、その辺りは良いか。
 で、空のその計画だが、わしの処は城を上げて協力させてもらうぞ。
 本多を付けよう。
 良いように使ってくれ」

「え?
 良いんですか。
 まだ成功するどうかも分からないのに」

「そんな見極めならとっくについておる。
 最初に言っただろう。
 お前があの辺りに城を造るかもと。
 最初から城造りに協力するつもりだった。
 それより商人の件だが、条件はあるか」

「いや別に」

「数に限りを設けるとか」

「今のところは考えていません。
 でも、最初の計画には入れないつもりです。
 船頭多くしたら計画そのものが動きませんから。
 準備ができたらお声掛けしますから、それでと云う事で良いでしょうか」

「良かろう。
 うちからは本多が出て居るし、うちの希望は本多を通して伝えるとしよう。
 銭はどうする」

「そこは商人に出させるつもりです。
 今のところ、賢島に居る商人も最初から参加させるつもりなのです」

「まあそうだな。
 既に堺と京を結ぶ水運に参加しておるしな。
 その延長なのだろう」

「ええ、こんな感じで考えております」

 俺は、そう言って、もう一度計画をより分かりやすく、この計画の持つ意味を伝えた。
 川で繋がる一帯にハブを設けて、より便利に水運を発展させるという構想をできる限り分かりやすく話した。

「それにしてもすごい話だ。
 そこまで考えておるとはな。
 まあ、俺は空に期待しているから。
 そうそう、もうじき結婚できそうだな。
 あの太閤殿下と縁続きとなるな。
 いよいよ天下も見えてこよう」

「弾正殿、いい加減にしてください。
 私は天下など要りませんよ。
 みんなと普通に暮らせればそれだけで十分です」

「何を言うか、すでに空のどこが普通だというのだ。
 まあ良い、これ以上引き留めてもな。
 空も忙しそうだから、本多に護衛も付けさせるからそれを連れて行け。
 これ以上城下で面倒を起こされてもかなわんからな」

 俺は弾正にそう言われて城を追い出された。
 まあ、確かに色々と忙しいので助かったが。
 俺は本多様の一行と一緒に来た道を引き返して堺に戻った。

 堺ではこんな一行大して珍しくもないので、すんなり町に入れた。
 紀伊之屋で一休みを入れ、直ぐに能登屋さんに使いを出してもらった。
 そんな様子を見て本多さんが一言。

「なんで商人には普通にできるのに、殿にはあんな対応を取るのだ」

「だって、俺が知らせなくとも弾正殿は分かっているでしょ。
 無駄を省いただけですよ。
 尤もそれ以上の無駄が出てしまいましたが」

「は~~~」

 なんだか本多様にあきれられてしまった。
 それほど間を開けずに紀伊之屋に能登屋の主人がやってきた。
 相変わらずフットワークの軽い事。
 面倒が省けて俺は助かるが。

「空様。
 何やらお呼びだそうで」

「え?
 呼んでいませんよ。
 能登屋さんの都合を聞いて伺おうと思っていたんです」

「まさか、空様にわざわざ来ていただかなくとも、日ごろお世話になっておりますし、何なりと私どもにお申し付けください」

「こちらとしてもそう言ってもらえますと助かります。
 前に手紙でお知らせしたように、賢島で関係者を集めて相談したいことがあります。
 あの水運の件ですが、能登屋さんは、向こうの番頭さんに相談すればいいでしょうか」

「いえいえ、そのような重大事。
 私が出向きます。
 で、いつご出発で」

「明日にでも賢島に帰ろうかと」

「ではご一緒させてください。
 どうせ紀伊之屋も主人が来るのでしょう」

「良くお分かりで。
 先ほど話したら、能登屋さんと同じように二つ返事で了承頂きました。
 では明日、うちの定期便でお待ちしております」

 これでほとんど役者がそろう。
 あとは尾張から誰が来るのだろうか。
 丹羽様には連絡してあるから、木下様辺りが来るかな。
 尾張の使いが揃ったらすぐに会議を始められる。

 正直少し楽しみだ。

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