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第七章 公家の政
第二百話 開戦
しおりを挟む京の屋敷に帰り、まず一番大切な要件を済ます。
これが一番避けたい仕事だが、避けられるはずのない仕事でもある。
俺は正妻である結さんを始め側室の張さん、それに来年側室になる予定の葵と幸を呼んだ。
「空さん、集まりましたが何か重要なことでも起こりましたか」
「ああ、まず最初にみんなに謝っておこう」
「謝る?」
「なんで、空さん」
「ああ、今度信長さんのところから、ああ、織田家から側室を娶ることになった」
「新たな側室ですね。
で、輿入れはいつになりますか」
あれ、なんでみんな落ち着いているんだ。
ここは浮気者~って怒る場面じゃないのか。
「何か?」
「いや、まだ葵や幸を娶っていないうちから別の側室を迎えることになって、その……怒られるかなっと……」
「なんで?」
「その方って、私たちより年上なんでしょ。
前に空さんが言っていましたよね
子供は娶らないって」
「あ、そんなこと言っていたな。
織田家の姫の年は分からない。
名が確か市と言う姫だった筈なんだが、会ったこと無いんだよ」
「その方って私と同じ境遇なんですね」
「お家の事情という意味ではそうなるか」
「なら私は怒れませんね。
私も家の事情で張さんたちより後から無理やり加わったようなものですし、それにお武家様が沢山の側室を抱えるのは習わしなのでは」
どうもここに集まった全員は、俺の新たな側室に含むところは無さそうだ。
ひとまず安心したが、正直拍子抜けだ。
ここに来る前にあんなに半兵衛さんに怒られた俺としては、ここでも相当怒られることを覚悟していたもんだから、ありがたいが気が抜けた。
「それで、空さん。
織田家の姫の輿入れはいつになりますか」
「それが未定なんだ。
その前に俺の置かれている状況を説明したい」
俺はそう切り出してから、戦が迫っていることを集まったみんなに説明した。
しかも、その戦を俺の方から起こそうというのだ。
あれだけ嫌がっていた戦を俺が自ら始めることについてみんな驚いていたが、それも必要なことと理解したようだ。
「六角との戦で、この辺りから戦は無くなることを祈るよ。
少なくとも京より南では戦う相手がいなくなるから戦は無くなるね。」
「ええ、既に船で回る半島内では戦の話は聞かなくなりましたね」
「ああ、まだまだこの日の本には戦の種はそこら中にあるが、少なくとも六角がいなくなれば、いや、南近江がこちら側になれば、その戦の無い範囲が京から尾張まで広がるな。
これは約束する。
そうなれば、もう二度と葵や幸のような子供は生まれ無くなるぞ。
戦災で親や親類縁者が殺されて路頭に迷うような子供が、少なくとも尾張から京までの範囲ではこれ以上生まれ無くなる」
「そのために必要な戦なのですね」
必要悪という言葉は使いたくは無かった。
しかし……
これからの戦は俺のエゴだ。
善か悪かを問われたら絶対に悪になる。
これは断言する。
敢えて俺のエゴを通すことで、俺が悪に徹することで戦を起こすのだ。
言い訳はしない。
「必要かと問われれば必要だと答えるが、これが善だとは思わない。
はっきりしているのは、これから起こる戦で少なからず民が死に、葵や幸のような子供が生まれる。
明らかに悪といえるだろう。
でも俺はあえてその悪に徹する」
「空さん。
無理をなさらないでください」
「そうですよ、嫁の立場として、空さんがどんなことになろうとも全力で支えますから安心して、ご自分のなされなければならないことをしてください」
「私は難しい事は分からないけど、今までだって戦をしていたよね。
大丈夫、私たちは空さんを信じていますから」
なんだか、嫁たちに慰められたな。
これ以上ここ居ては泣いてしまいそうなので、話すこと話したし、とりあえずお開きにして、俺は五宮を探した。
探すまでも無く、五宮さんはいつものところで仕事をしている。
俺の知らない公家たちも仕事をしているから、五宮さんが雇ったのだろうか。
俺は五宮さんを呼び出して今後について相談を始めた。
「帝から命じられた形で戦をしたいということなんですね。
割と最近の話では南朝があった時代になりますが、綸旨を多数使ったようですね」
この辺りの感覚が分からないが南北朝の時代も最近になっているようだ。
確か今から優に数十年は経っていたような。
いや100年は越えていたはず。
恐れ入る京の人たちの時間感覚。
「では、その綸旨を貰えれば六角を朝敵にできるということですか」
「理屈ではそうなりますが、あまりに南朝が綸旨を多数出したので、今の公家たちは綸旨を信じなくなっております。
偽物も多数出たようですし」
「そうなると他は……勅命しかないか」
「いきなり勅命は難しいかと。
なにせ今の関白殿下は、空殿とその……」
「敵対まではしていないが、言うなら仮想敵国って感じかな」
「何です、その仮想敵国って」
「あ、気にしないでください。
となると綸旨しかないか」
「そうですね。
あまり信ぴょう性がないですが、そのはっきりとした理由を示せればそれなりに説得力も出てきましょう」
「朝貢品を奪われたでは弱いと」
「ハイ、いささか理由としては。もう一段階の手段が必要かとは思います」
そこで俺は五宮さんとあれこれと相談して、一つの方策を決めた。
まず、事実関係の問いただしの使いを出すということで。
これは何も勅使である必要がない。
朝貢品が奪われた事実を知る組織、それもある程度その朝貢品に関して責任があればよいというので、検非違使からはと問いただしたら、問題ないと教えてくれた。
なら、検非違使の長で近衛少将の名をもって釈明に来させる使いを出した。
当然向こうは無視をすることになるだろう。
俺はそれを待っている。
その間に俺は望月さんを呼んで、伊賀国についても話し合った。
「伊賀と甲賀の両方を望月さんに治めてもらいたいんだけど、決心はつきましたか」
「正直、甲賀は私でもよいでしょうが、伊賀については藤林殿に任せませんか」
どうも望月さんは藤林さんに遠慮しているようだ。
そこで俺は一旦藤林さんもここに呼んで一緒に話すことにした。
ついでに半兵衛さんも呼んだ。
望月さんにはもうしばらく京で待ってもらい、その間に俺の考えを説明しておいた。
「望月さん。
私は、あの山がちの辺りも豊かな場所に変えたいのです。
甲賀は南近江の国に属すようですが、その国の境を超えて山間部として一緒に変えて行きたいのです。
ですから分けられると面倒ごとが増えますから、この際伊賀を抑える時に一緒にしてしまおうと考えております。」
そこから俺は具体的に林業から始め陶磁器造りや炭造りなどを上げ、まだ研究中だがと断ってからシイタケ栽培にも言及した。
流石にシイタケ栽培は信じてもらえなかったが、炭や焼き物は既に山村部から始まってあっちこっちで作られているので、説得力があった。
後は物流についてだ。
この時代はどこも地産地消が原則なので、たとえどんなに貧しい山地でも自分の食べる食料を作らないといけない。
そこを俺は経済という繋がりを持って作れる場所で作ったものを交換することを丁寧に説明したのだ。
それに俺たちには芋の存在もある。
芋なら山でも作れるし、自活もできる。
その辺りについても説明したら、かなり前向きに考えてくれるようになってくれた。
そんなところに藤林さんや半兵衛さんが京に着いたので、一緒になって今後の企てを相談した。
とにかく伊賀国は戦をしないで占領したい。
何も全部占領する必要はない。
伊勢から南近江に繋がる街道筋さえ確保できれば後はどうとでもなる。
街道筋がというよりも俺たちに合流した村々がどんどん豊かになっていけば他は黙っていてもこちらに流れる。
当然、最初に合流してくれた村とは別の扱いになるが、その辺りについても望月さんや藤林さんに任せて、とにかく調略という形で伊賀を抑える。
もう俺らが北伊勢を完全に抑えていることから伊賀もかなりぐらついているとも情報を貰ってもいた。
こちらから声を掛けるだけで簡単にこちらに落ちる村も多数あるという。
ならどんどん落としていきたい。
また、落ちた村々には調査は必要だが、とにかく目に見える形で豊かにしていく。
三雲の邪魔は当然入るだろうが、その辺りについても半兵衛さんの全面協力の言質を貰ったので大丈夫だろう。
伊賀の目途が付くころまでに俺は三度の使者を六角に送った。
全てを一切無視されたので、俺は次に移る。
俺自身が観音寺に乗り込む。
当然俺の護衛には万全を期すが、それでも半兵衛さんあたりからはかなり反対された作戦だ。
しかし、貰う綸旨に説得力を付けるために、大々的に京の町中にお触れを出した。
帝に対してあまりに無礼を働く六角に再三にわたり釈明を求めたが無視されたので、近衛少将直々に赴いて釈明を聞くというスタンスを取った。
これには太閤殿下を通して帝から叡山にも協力を求め俺ら一行が無事に南近江まで行けるように手配したのだ。
賽は投げられた。
戦の始まりだ。
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