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第七章 公家の政
第二百一話 訪問の使者
しおりを挟むまず、太閤殿下のお屋敷を訪ねた。
ここで、詰問の使者について相談をした。
絶えて久しい朝貢について太閤殿下は何も感じていない様子。
というよりも完全に諦めている。
正直今の朝廷は幕府の庇護はもちろん、諸大名からの朝貢などない。
俺ら三蔵の衆や織田家が援助の手を差し伸べるまでは、町の篤志家の援助によって辛うじて生きながらえていたと表現しても決して誇張とは言えない状態だった。
「婿殿。
何を今更そのような……」
俺はここで正直この先の展望について話し合った。
「さようなことをお考えか。
しかしそれでは……」
「殿下のお気持ちも分かります。
しかし、私は別としても私の仲間たちは皆武士ですし、何より、今の世を出鱈目にしているのも武士たちの勝手な行いが原因です。
主上のお気持ちに合うような民の平安など、このままでは無理といえます」
「婿殿の言い様、理解はできるが。
して私に何を望む」
「はい、こまごまとしたことを色々と」
と俺は切りだしてから、六角氏に詰問に向かう使節の許可とその際に使用する帝のしるしについてだ。
ここで錦の御旗の言い伝えになぞらえて、大河ドラマで見たような御旗の使用と、俺らの印しるしとして桜田紋のあのサクラの意匠を使ったものを今回から使用する許可を貰うようにお願いした。
最悪、黙認だけでもいい。
帝から使用を止められなければそれで問題ない。
俺らの行動については、一応殿下を通して帝の耳には入れておく。
近衛関白の行動が気にはなるが、俺らの今回の行動については今のところ瑕疵はないと考えている。
強いてあげるのなら、俺が直接詰問に向かうことくらいか。
でも、今回は俺が出ないとまずい。
なにせ俺自身が証人なのだから。
俺の目の前で三雲の配下が俺に言いがかりを付け朝貢品を強奪したのだ。
どんな言い訳も、俺が会談の場に居れば通らない。
準備に1か月を要したが、朝廷から叡山にも連絡は入れておいた。
俺は配下たちを整然と並ばせて、列の先頭に用意した錦の御旗と検非違使の意匠となる桜田紋の付いたのぼりを立てながら行進していった。
京の街中はもちろんだが、道々かなりの注目を浴びながら南近江の観音寺に向かっていく。
心配していた叡山の関も、僧兵が出迎える中足止めを受けずに通り過ぎることができた。
途中途中で、今回の行進の目的を大声で唱えながら進んでいく。
もうこうなると南近江だけではなく東は美濃や尾張の一部に西は摂津を超えその先にまでうわさは広がったようだ。
喩え六角がどのような手を使おうが隠しきれることではなくなる。
これで俺らをどのように出迎えるか見ものだ。
観音寺に着くと、俺らはかねてからの計画通り伊勢屋の用意した寺に入る。
その寺から観音寺城に使者を出して面会を求めた。
ここまで大事にしてきたので、六角側も無視できずに明後日会談の運びとなった。
当然、俺らはそのできた時間を無駄にはしない。
観音寺城下はもちろんの事、付近の六角領にまで俺らの言い分を伝え、ご城主の無軌道さを知らしめていく。
いわば俺らによるプロパガンダ攻撃だ。
会談当日には、観音寺城下の雰囲気は落ち着きがなくなってきたように感じられる。
なにせ俺らは『先代様は名君で領内も平安だったが、今代様は自ら望んで戦乱を呼び込んでいる』と触れ回ったのだから、そこに住む領民は不安でたまったものじゃない。
滞在先から観音寺城に向かう途中に聞いた噂では、『無能な今代様が先代様のご意向を無視して無軌道に振舞っている』とまで聞こえて来た。
この噂を聞いて、さぞ城内では気が気ではないだろう。
俺に対してどんな言い訳をするか楽しみだ。
大広間に通されて、俺は上座に座らされるかと思ったが、只の使者の扱いで下座に座らさせられ、しかもしばらく待たされた。
これは明らかに俺らを格下とみなしている扱いだ。
一応朝廷からの使者と言って面会を求めたのだが、流石にここまで馬鹿の集まりだとは思わなかった。
どうせ、やらかしたことの言い訳をごり押すために上座を譲りたくなかったのだろう。
心情的に下座からの言い訳では、ごり押しなんかできようもない。
さんざん待たされた挙句あげくに、上座には三雲と一緒に今代の六角義賢が現れた。
かなりぞんざいな態度で俺を睨みつけ、用件を聞いてきた。
さてさて、どうしようか。
まずは俺の扱いについて正当に抗議を行い、その後に詰問をすることにした。
「左京大夫。
私は朝廷からの使者として参ったのだ。
今の扱いに抗議する。
左京大夫は朝廷からの使者を如何様にお考えか」
「何を言う、小僧。
話を聞いてやるだけありがたいと思え」
横にいた三雲が俺にマウントを取ってきた。
まあ当然と言えば当然だな。
ここで妥協などしようものなら三雲の首はその証としても軽すぎる。
一族に及ぶ罰を受けねば収まらないだろう。
なにせ三雲の部下が朝貢品を強奪したことは分かっているはずなのだからだ。
「無礼者!
私は無官の者に話す口は無いわ。
直ぐにそこを去れ」
すると三雲とその下の部下たちは刀の柄に手を添えた。
流石に刀を抜くことまではいかないが、それを義賢は止めた。
「三雲、とりあえず落ち着け」
もう会談を中止しても良いよね。
本当は彼らの家老たち同席の下でやりたかったのだが、まあ、下級の武士たちもいるし、何より俺たちの声は聞こえているはずだから、俺は次のステップに移って会談を中止することにした。
「今の態度がお答えか、義賢殿。
左京大夫という官職にありながらの数々の無礼。
朝廷に権威すら認めぬその傲慢さ。
あい分かった。
そちらの事をそのまま主上に伝えよう」
そういうと俺は席を立った。
その際、義賢は『しまった』という表情を浮かべていたが、三雲は今の朝廷に何ができるとたかをくくっている。
義賢が俺らを慌てて止めようとするのを三雲が止めた。
「殿、今あ奴らあやつらを引き留めますと我らが非を認めたことになります」
俺はこれ以上ここに居ても身の安全が脅かされるだけで、益することが無いのですぐに城から下がって、宿泊先の寺に戻った。
その後、予定通り望月さん達の協力も得て、付近一帯に、義賢と三雲の無礼な様を大げさに伝えて、直ぐに整然と観音寺城下を下がっていった。
当然、往路と同様に帰りにも道々に今回の成果?を伝えながら、明らかに朝敵のような態度だったと言いながら京に戻っていった。
京に戻ると、直ぐに俺は太閤殿下のお屋敷を訪ねて成果を報告する。
「やはり左京大夫は、朝廷に逆らう態度を取ったか」
「ハイ、朝貢品の強奪の上で、あのような態度を取った以上、そのままとはいかないかと」
「ああ、当然だな。
分かった、直ぐに役職のはく奪と朝敵としよう」
「ありがとうございます、殿下。
ついでと申しては失礼にあたるかとは思いますが、殿下にお願いの儀がございます」
「この際だ。
それに婿殿には考えもあるのだろう。
私のできる協力はするぞ」
「綸旨を承りたく」
「綸旨とな」
「ハイ、朝敵六角懲罰の綸旨を頂きたく」
「勅命でなくてよいのか。
確か婿殿は以前勅命を以て伊勢の地を平定したと聞いていたが」
「ハイ、あの時にはそうでした。
あの時は、朝廷から、偽の勅命を以て我らが窮地に陥りましたので、主上が出して下さったのでしょう。
しかし今回はそうではありません。
今回のことでは朝廷には何ら非はございません。
そう易々と勅命を出していては鼎かなえの軽重を問われかねません。
ここまで来れば綸旨だけでも十分です」
「そういうことか。
確かあの時は、ここも酷く混乱していたな。
誰が奏上したかすら分からないうちに勅命が出されていた。
………
分かった、全て準備しよう。
その際に……」
「ハイ、分かっております。
奏上品から銭まで必要な分だけご用意いたします」
「それほど時間はかからないと思うが、関白の動き次第だ」
「それも理解しております。
関白様宛の分もしっかりとご用意します」
全てが順調に推移している。
本当はここまで来れば六角の官職の罷免だけでも十分に戦端は開けるとは思うが、まだまだプロパガンダの手も緩めずに、忍び達には頑張ってもらう。
俺は屋敷に戻り、大和の弾正や信長さん、それに九鬼さんに計画の実施を伝えた。
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