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第七章 公家の政
第二百二話 根回し
しおりを挟む俺は太閤屋敷から帰るとすぐに各方面に使いを出した。
大和の弾正へは俺が直接に説明するために、途中淀で作業中の本多様を捕まえて一緒に多聞山城へ向かった。
淀からは陸路で大和に入る。
ここだけは水路で便の良いルートを開拓していない。
俺らが知らないだけで、ない訳では無い。
それこそ斑鳩に都があった時代では大和川を使った水路がメインであったとも聞いていたが、早い話が俺にそれほどメリットを感じていなかったので、考えていない話だ。
本当なら弾正自身が整備すればいいだけの話だが、そろそろその辺りについても考えないといけないか。
今回の出兵のお礼に、この話でもしよう。
この水路と俺らの水路が繋がれば大和の商圏も俺らに繋がる。
このメリットは大和に居る商人には多大なものになる筈だ。
まあ放っておいても本多様は気が付くだろう。
今整備している淀と自領とが陸路だけということにいずれ不便を感じる筈だ。
街道は整備するだろうが、それでも物の移動ではこの時代は船には敵わない。
よし、この話をもって弾正を説得しよう。
多門山城に入り直ぐに弾正との面会がかなう。
この辺り、弾正も信長さんと一緒で実利を重んじるためなのだろう。
話が早くて俺は助かるからいいが、配下の人たちには不満にもなっているとか。
本多様もあまり気にはしていないが、そんなことを教えてくれた。
本多様もただ親切に俺に教えてくれたわけではない。
『お前は特別だから俺らに感謝しろ』という意味を持たせているのはある意味やむを得ない。
「お~~、空か。
待たせたかな」
「いえ、ほとんど待たされませんでした」
「何やら、お前の謀はかりごとは順調のようだな」
「弾正も人が悪い。
私は何もそのような……」
「はぐらかさなくてもよい。
それで、うちらはどこにどれほどの規模で兵を出せばいいんだ」
早速核心をついてくる弾正。
「正直そこまでお分かりなら助かります。
そうですね。大和からですとそのまま京に上っていただけたら。
あ、京だと叡山を刺激するか」
「相手は六角だろう。
なら山科に兵を出そう。
何なら観音寺を囲うのにも参加しようか」
「いえ、それには及びません。
それでしたら山科から南近江にまで出張ってください。
それだけで相手は落ちます、多分ですが」
「大丈夫か、六角が籠城でもしたら骨だぞ」
「弾正も人が悪い。
分かっていてそんな話をしてくるのだから。
六角はあの城で籠城は考えてはおりませんよ。
今までだって、不利となれば城を捨てて伊賀まで逃げ落ちているのですから。
西と東から責められれば今度も伊賀に逃げますよ」
「そこで待ち構えていたお前らがという訳か」
「ハイ、でもご心配は無用です。
今度の出兵のお礼はきちんと考えております」
「何、南近江はお前が治めるのか」
「いえ、私でなく信長さんに頼みました。
それとも弾正様は欲しかったですか、飛び地になりますが」
「いや、あそこは豊かではあるがそれ以上に面倒だ。
特に浅井との関係もあるし、京極も未だに権威だけは持っているしな。
ならなんだ、空が俺によこすのは」
「商売の権利といえばいいでしょうか」
「淀の件か。
それでもいいか」
「淀を治めてくれるのなら任せますが、それよりもここと淀との繋がりの強化です」
「具体的には」
「本多様にさらに頑張ってもらいますが、ここと今話に出た淀との間の水運の話です」
「は?
………
大和川か」
「はい、うちらの持つ知恵で大和川の水運を開きたいと思っております。
また、ここと堺までの水運は弾正様にその権利をお譲りしましょう」
「何、それが俺らの参戦に対する報酬か。
それなら俺がすれば良いだけの話では無いかな」
「ええ、そうですが、今まで何もしていませんでしたね。
それなら、私が何かを言わないとこれからも何もしなかったのでは」
「……」
「それに、一日でも早く水運が繋がればそれだけで、莫大な富を得られませんかね」
「よし分かった。
元々お前に協力するつもりだったしな。
今更官位など貰ってもさして益があるとは思わないしな」
「官位を欲しかったりしますか。
それならどうにかなりそうなのですが」
「欲しくないと言えば嘘になるが、それで面倒になるのなら別に欲しくも無いな。
それよりも、空の考えではどこと堺を結ぶ気か」
「当然大和川から離れる訳にはいきませんが、今更斑鳩に湊を作っても弾正様には益を感じられないでしょう。
途中で佐保川を上がって郡山までは繋げるつもりです。
あそこはかなり商いが盛んですから、堺と直接船で繋がればさらに商いが盛んになるでしょう。
あと調べてみないと分かりませんが、できればここ多門山城のご城下まで繋がればとは思っております」
「そうだな、ここから船で京に入れるのは楽でいいな」
「こちらは、うちの方で準備できますが、この北に木津川が流れております。
木津まではさほど距離はありませんので、あそこにも湊を作りましょうか」
「木津?
ああ、あそこか。
そうだな、あそこはそれほど栄えていないか」
「ええ、でも木津川を下ればすぐに淀に着けますから大和川を回るよりもはるかに京への便は良いですよ。
木津とここの間に道を整備すればここも木津もより一層栄えるのでは」
「そうかもな。
まあ、まずは六角の征伐だな。
朝廷から何かしらのものは出るのだろう」
「ハイ、近々六角を朝敵として綸旨が出されます。
その綸旨を受けて我らは立つことになります」
「なら俺らはその綸旨が出たらすぐに動けるように準備だけはしておこう」
そう言って俺と弾正との話は終わった。
俺はその足で、伊勢に戻り、九鬼さん達に同じような話をした。
望月さんも着々と準備を進めており、街道筋はほぼ抑えたそうだ。
これでいざ綸旨が出されたらすぐに南近江まで軍を進められる。
六角が逃げ出さずに城にこもった場合も考えて今回は大砲を5門用意して事前に八風峠に運んでもらう。
あそこからだと、観音寺まではほとんど下りになるので、必要になったらすぐにでも運べる。
しかも、使わずに南近江を無事に占領できても伊勢までも楽に戻せる。
あれ……、なら防衛の観点からもあそこに常時配備しておいた方が良いかも。
それは後々考えるとして、こちらでも準備をしてもらう。
信長さんには半兵衛さんから使いを出してもらうことになった。
何でも俺の婚儀の件もあるのだとか。
俺も色々あって忙しい。
とりあえず周りに対しての根回しは終わった。
あとは京に戻り綸旨を待つだけだ。
俺はここから船で京まで戻っていった。
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