名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百三話 六角滅亡

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 京の屋敷に帰ってから十日ばかりが過ぎて、太閤殿下が俺の屋敷にお忍びでやってきた。
 義理とはいえ娘に会うという体で来たのだ。
 本当の目的は、前から頼んでいた綸旨が出たのでそれを持参してのことだった。

「かなり遅れて済まない。
 やっと綸旨を手に入れたので持ってきた」

「殿下自らですか。
 お呼びいただけたらすぐにでもお伺いしましたものを、恐縮致します」

「いやなに、時間がかかったのでそれを詫びに来たのだが、娘に会って少しはっぱをかけるのも理由にあるので気にするな」

「殿下が結殿に何についてお話されるのかが気になりますが」

「そんなこと決まっておる。
 早く孫の顔を見せろというくらいしか無いだろう」

 やはりそれか。
 結婚してからすることはしているが、まだ結さんとの間に子供はできていない。
 その辺りを殿下は責めて来たのだ。

 その後、和やかに結殿を交えて会談が続く。
 結さんも子供の話になるときまりが悪そうにしていたが、和やかに話は進む。
 話の内容をそらしたこともあるが、どんどん政治向きな内容に変わっていった。
 結殿の前で政治の話もするが問題無いので、会談の内容がどんどん難しい内容にまで入っていく。

 今回十分な物量、銭と貢物を用意していたのにもかかわらず時間がかかったのにはやはり妨害があったようだ。
 殿下の話では近衛関白からの数々の嫌がらせが入り、なかなか帝に会うことが叶わなかったと言っていた。
 先日やっと帝にお会いでき、その場でお言葉を貰ったものだからこの綸旨は偽物ではないとおっしゃっておられた。

 本物に越したことは無いが、俺は偽物でも構わないと思っていたのだ。
 殿下から出していただけたら問題ないレベルにまでは世論操作は終わっている。
 最悪、俺が偽物を用意しようとも考えていたくらいだった。
 しかし近衛関白の妨害は気になる。
 俺のことが気に食わないだけなら問題ないが他の勢力と結んでの妨害なら無視はできない。
 最悪京がまた戦場になってしまう。
 それだけは避けないといけないから、近衛関白の動向をすぐに探らせた。
 その報告を待って俺らは挙兵することで殿下と話し合った。

「何、大丈夫だろう。
 あ奴に直ぐにどうこうできる武力など無いわ。
 尤もわしにもないがな。
 若狭や播磨からでは大した兵も動員できなかろう」

 流石に今まで朝廷を仕切ってこられた御仁だ。 
 貴族とはいえ武家の動向にも気を割いておられるようだ。
 そのような御仁だから弾正と図って俺を巻き込んだともいえるが、大したものだ。

 殿下と別れてからさらに十日後に待っていた報告が入った。
 近衛関白の周辺に堺からの工作があったようで、さらにその先には三雲に繋がった。
 恐れていたようなことにはならなかった。
 甲斐武田や上杉などの巨大勢力と図ってのことではなさそうだ。

 報告によると三雲と懇意にしている堺の豪商を通して、俺らの行動の邪魔をするようにとの依頼だったようだ。
 それにしても小物ぶりの近衛周辺だ。
 簡単に目の前の銭などにつられて、先を見ないのはある意味安心できる。

 俺は太閤殿下の下を訪ねて、この報告をした後に挙兵することを伝えた。
 暫く京周辺の守りが薄くなるが、御所周辺だけは責任をもって守ることを約束の上、各方面に俺の名前で殿下の裏書を貰った書状で綸旨を貰い、朝敵六角を討つための挙兵を促した。

 すでに殿下から綸旨を貰った段階で信長さんや九鬼さん、それに弾正さんには連絡が済んでおり、出兵の準備をしてもらっている。
 今回の宣言はただのパフォーマンスだ。
 六角亡き後の正当性を担保するためのものだ。
 正直今更他の勢力がしゃしゃり出て武功を強請ねだられても面倒なだけだ。

 俺の呼びかけに応じられるのは事前に話を付けている人たちだけで、朝敵六角征伐に参加の使いすら出せないうちに征伐を終わらせるつもりだ。
 最低でも観音寺を信長さんに囲ませれば、その後に他から何か言われてもやんわりお断りできる。

 八百長と言われればその通りで、俺の宣言の前から信長さんは国境に軍を準備させているし、弾正さんも今日中に山科に軍勢とともに入ると連絡を受けている。
 俺は、せっかく作った錦の御旗と、検非違使のマークとしてあの五角形の紋を描いたのぼりをたくさん持って京の町を行進しながら山科に向かった。

 山科で弾正率いる軍と合流後、峠を越え、南近江に入った。
 この行動はかなり早い段階から六角側では掴んでいた。
 近衛関白を通して俺らに綸旨が出されたことを聞いていたのだろう。
 六角としては素早い動きと言える。
 その六角の居る観音寺では、それでも大騒ぎになっていた。

「三雲、話が違うぞ」

「殿、話とは」

「朝廷は何もできないと言っていたではないか」

「ハイ、今動いているのはあの憎き伊勢の連中でしょう。
 九鬼の息の掛かったやつらの企てです。
 あ奴らには藤林という忍びがおりますから」

「そんなことは聞いていない」

「殿、ご注進」

 そこに大声で怒鳴りながら伝令が六角義賢の下に来る。

「何事ぞ」

 傍にいる三雲が伝令を怒鳴る。

「織田勢が国境を超えこちらに向かってきております」

「殿~、大変です」

 次々に六角義賢の前に国境からの伝令が入る。

「南の峠から松永勢を確認したとの報告が入りました」

「何、どういう……」

「三雲、これはどういうことだ」

「殿、それがしには。
 なぜこれほどまでに早く軍勢が襲ってくるのか分かりません。
 それがしの見立てでは、あ奴の呼びかけに九鬼と弾正辺りがあと数か月を要してやっと来れるかどうかと……」

「言い訳はよい。
 この始末どうつけるか……」

「伊賀に落ち延びて再起を図るしか」

「それしかないか」

「ハイ、幸いに我らは関白殿下とはまだつながっておりますから、落ち着けば帝を通して軍を引かせることも」

「我ら朝敵にされているが、大丈夫だろうな」

「ハイ、まだ関白殿下からは見捨てられてはおりません」

 その後は信じられないほど二人の行動は早かった。
 観音寺はもちろんの事、出城すべてに徹底抗戦の指示を出したのちに、小人数の供だけを連れてそっと城から抜け出していた。

 六角は過去にも攻められては、伊賀に逃げたということを繰り返していた。
 今回もその作戦の通りに城から抜け出し、伊賀の三雲とつながりの深い寺に逃げ出す算段だった。
 味方にも気づかれずに無事に城を抜け出し、三雲たちが作った関までたどり着く。

「ここまで来れば安心だ」

「殿、ここから使いを出しますのでしばらく体をここで休めましょう」

 三雲も安心したのか使いを出したらすっかり気を抜いていた。
 しかし、全てが仕組まれていたので、次々に彼らにとって計算外なことが起こる。
 休んでいたところに忍びが情報を持ち帰ってきた。

「頭、蒲生が近衛少将に寝返りました」

 その報告を横で聞いていた義賢は不安そうに問いただす。

「三雲、どういうことだ」

「ハイ、今使いによりますと蒲生が先の使いに来た近衛少将側に寝返ったのことです」

「蒲生が寝返っただと」

「ハイ、あいつらは以前から殿のされように不満を持っていましたから、その辺りをつかれて寝返ったのでしょう。
 今、峠を越えて松永勢と合流した近衛少将と一緒にこちらに向かっているとか。
 ここをすぐにでも発たないと危険かもしれません」

「先ほどここまで来れば安全と申していたではないか」

「状況が変わりました。
 蒲生が裏切れば、我らの行動も見透かされる危険があります。
 早々に伊賀に入りましょう」

 二人はかなり慌てて逃げ出そうとしているところに、さらなる追い打ちが入る。

「殿、八風峠より、軍勢がこちらに近づいてまいります。」

 次の使いが直ぐに軍勢の正体を伝えて来た。

「殿、九鬼勢がこちらに向かって来ます」

 もう六角義賢はパニックになり泣き出しながら三雲に怒鳴って来る。

「三雲、そちの知っている忍び道でも構わん。
 直ぐに伊賀に逃げるぞ」

 二人はここまで連れて来た部下までおいて逃げ出していった。
 しかし、伊賀国のかなりのところまで抑えることに成功している望月藤林コンビはそんなに甘くは無かった。
 当然、南近江から伊賀に抜ける道筋全てを抑えていた。
 もしこの時、逃げることだけを考えていたのなら、琵琶湖を船で若狭方面に逃げ出すしかこの時には逃げることは叶わなかっただろう。

 しかし、六角は先代の代から細川とはもめていた。
 若狭は細川陣営ともいえるので、彼らは空を京に返した段階で完全に詰んでいたのだ。

 それからさほど時を置かずに二人はわずかな手勢共々山科から草津まで進んできた空たちの前に連れられてきた。
 九鬼さん達は彼らが逃げ出した関をいとも簡単に落として信長さん達に合流している。

 あとは時間の問題だ。
 弾正たち一行は、近衛少将の名で観音寺が落ちる前に勝利宣言を出して、弾正とともに彼ら罪人を引き連れて京に凱旋していった。
 南近江の差配については事前に話し合われているので、落ち着き次第、信長さん達も京に凱旋してくることになっている。

 あとは京を舞台に政治が残るだけだが、それも六角の身柄を押さえているので近衛関白といえども無理はできない。
 まあ、もう少し義父である太閤殿下に頑張ってもらう必要があるが、弾正もいることだし問題は無さそうだ。
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