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第七章 公家の政
第二百十三話 宇治の港
しおりを挟むとりあえず屋敷の中に入り、一度落ち着く。
荷物を卸して、一服した後、直ぐに屋敷傍の河原まで六輔さんを連れて行く。
俺らが出て行こうとしたら、能登屋の番頭さんと話していた紀伊之屋さんが、一緒に来るというので、連れだって河原まで出た。
と言っても、俺たちが船から降りた渡しからは屋敷は少し距離があったが、歩いて10分と掛からなかった。
屋敷のすぐ裏手に当たる場所が、そのまま河原だという立地だ。
「紀伊之屋さん。
この河原沿いの土地を使いたいのですが……」
「空さん。
何ら問題在らしません。
既にこの辺りの土地は抑えておりますから、ご自由に。
でも、何をしますので」
「ええ、まず最初はここに船溜まりを作ります」
「あの上京にあるような……」
「ええ、あれとほぼ同じものを作らないとまずいでしょうね。
何せ、これからは、資材を運び込まないといけませんから。
あの渡しでは狭すぎますし、それに何より私たちが独占もできないでしょうから」
「え、空さん。
ここに湊を作るので」
「ああ、そのつもりだ。
でもその前に、せっかく六輔さんに来てもらったので、川沿いの道について相談しないと」
俺はそう言うと、河原に出て、六輔さんに説明を始めた。
当分は、船溜まり建設にみんなでかかるとするが、その船溜まりを作る技術を利用しての道造りになる。
その辺りを六輔さんに説明しながら、近くにある石を拾って、積み上げながら、自分の構想を説明し始めた。
すると、六輔さんは俺の意図をすぐに理解したのか、俺に疑問をぶつけて来る。
俺はそれに一つ一つ丁寧に答えていった。
「空さん。
では、岸壁を作る要領で道を作るのですね」
「ええ、そうなりますね。
杭を川底に打ち付け、板を張ってから中に石を積み上げ、あの三和土で固めていこうと考えています」
「分かりますが、杭や板はどこから持ってきますか」
「近くの淀に拠点があるからそこから運ぶことになるかな。
あそこは物流拠点として機能を始めましたし、あそこに一度集めたものをここに運ばせる。
そのための船溜まりの建設を急ぎたい」
「うちが人足を用意しましょうか」
「いえ、人足は京の罪人を使うつもりです。
上京の港も罪人を使って作らせましたし、要領は分かっています」
「しかし、凄いことを考えますね。
分かりました。
資材集めなどはぜひ協力させてもらいますから。
でも、流石に今日は無理ですね。
屋敷に戻りますか」
既に辺りは薄暗くなってきている。
完全に暗くなる前に屋敷に戻り、明日以降の予定について、能登屋さんの番頭さんや紀伊之屋さんと話し合った。
翌日、朝から皆作業に取り掛かる。
俺と紀伊之屋さんは一度舟で淀まで戻るが、六輔さんは少し河原の様子が知りたいと、ここに残り、歩いて河原を調べ始めた。
淀では、本多さんが相変わらず陣頭指揮を執りながらものすごい勢いで、町ができていく。
中州も東側は湿地で使えそうになかったのだが、清洲屋さんまでもが、乗り込んできたこともあり、今ある場所では手狭だと、その湿地の埋め立てまで始めていた。
俺たちが近づくのに気が付いたのか、本多様は岸壁まで来て出迎えてくれた。
「空よ、今度はどうした?」
いきなり本多様は本題を切り出してくる。
まあ、社交辞令などを交わす関係から一番遠くにあるので、いつものことだ。
「いきなりですね、本多様」
「ああ、こっちも色々と忙しくてな。
で、今度の訪問は?」
「ええ、今日から宇治を拠点にして草津までの船道の整備をすることになりまして、つきましては淀から資材の運び出しを考えておりますが、大丈夫ですよね」
「ああ、人足さえ取られなければ、何ら問題は無いが、いよいよか」
「ええ、船で草津まで繋がれば、本当に近畿の主な町と繋がりますからね。
なにより、織田様との連絡が楽になります。
この間側室になってくれた市さんも喜びますしね」
「お~お~、言ってくれるね。
まあ、その件は予てから聞いているから、問題無いが、俺は手伝えないが、大丈夫か」
「ええ、織田様が南近江を押さえてくれましたし、こちら側は弾正様がしっかりと押さえておりますから、戦はないでしょうし、純粋な工事だけなら私たちで何ら問題も出ませんよ。
山賊でも出るようなら、ちょっと考えないといけませんが、なにせ、今度は川の上ですから、湖賊ならぬ河賊でもなければ私たちだけで片付けます」
「その河賊が出たらどうするね」
「その河賊が活躍できるような場所なら、私たちの工事の必要はありませんから、河賊も出ないでしょう」
「それもそうか」
「それよりも、この辺り変わり過ぎませんか。
見間違えましたよ」
「そうだろうな。
ここに来て急に商人が増えてな。
それも、うちの殿や織田様との付き合いのある連中なので、こっちとしても受け入れ無いとまずくて、準備をしていた。
まさか、ここが手狭になるとは思わなかったよ。
幸い、この辺りは水深も浅くて、埋め立てには問題が無くて良かった」
そうなのだ。
ここ巨椋池はさほど深さは無い。
何せ、俺の知る史実でも簡単に干拓された場所のようだ。
しかも、その干拓の歴史というのが秀吉から始まり、明治にはついに巨椋池が無くなるくらいの池のはずだ。
いずれ、俺たちも干拓工事もしていくことになるかもしれないが、とりあえず今は必要最小限に抑えている。
何せ、こっちとしたら、やる事ばかり多くて、人がいない。
俺がこの世界に来てから、この状況だけは変わらない。
不思議だ。
一生懸命に頑張っているのに、人手不足だけは無くなるどころか、酷くなっているようにすら思える。
何故なんだろう。
まあ、この辺りを深く考えると落ち込むので、頭を切り替えて、草津ルートの工事について、紀伊之屋さんと手配していく。
もう、この淀にも紀伊之屋さんや能登屋さんも進出しているので、店も蔵もある。
そこで、俺の必要としている物を、二つの店に手分けして頼むこととなった。
発注先の仕分けについては、店主の二人に任せて、俺は紀伊之屋さんとここ淀で分かれてから、船で上京にある屋敷に向かった。
上京にある屋敷に入ると、奥さんたち結と市が待っていた。
正直、最近かまってあげられていないので、少々ばつが悪い。
「おかえりなさいませご主人様」
お市さんは伝えられているようにすこぶる美人だ。
そんなお市さんからこんな言葉をかけられたら、正直嬉しくて悶えそうになるが、そこは威厳を持ちながら、今回の帰宅の件を話す。
「ああ、ただいまと言いたいが、直ぐにでも宇治に戻らないといけない。
まあ、直ぐと言っても、出発は明日になるが、ゆっくりともできないので、直ぐに仕事にかかる」
俺はそう言ってから、事務所として使っている部屋に向かう。
そこには数人の人が忙しそうに働いていた。
俺のことに気が付いた人たちは、一旦仕事の手を休めて、挨拶してきたが、俺はすぐに仕事を続けるように言って、家宰を呼んでから指示を出す。
前にここで港を作った時に、現場で仕事をしていた者を集めるように頼んでから、五宮を呼んで、しばらく留守にしていることで、朝廷で問題が無いかも確認しておく。
幸いと云うか、近衛関白もほとんど動きらしいことは見えないとのことで、どこで何をしているかは気にはなったが、取り敢えず問題なさそうなので、俺の予定だけを伝えておいた。
もし緊急な件があれば遠慮なく宇治まで来てほしいとだけ伝えて、五宮との話し合いは終わった。
続いて、家宰に集めてもらった人たちが集まってきたので、俺は指示を出す。
「すまないが、宇治にも湊を作ることになった。
ここと同じ物だ。
なので、明日、準備ができ次第、罪人たちを連れて宇治に向かう。
悪いが、そのつもりで」
集まった面々は、どうも周りからそんな感じのことを聞いていたのか、別段驚く様子もなく、粛々と準備に向かった。
翌日も昼前には、罪人たちの搬送準備も終わり、幾人かの衛兵を連れて宇治に向かった。
浪人たちもかなりの数雇うようにしていたが、ここに来てやっと使えるまでに教育が終わったとかで、彼らの上役に当たる忍者や熊野水軍からの人たち数人と一緒に船数隻に分かれて宇治に向かった。
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