名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百十五話 永禄十一年 正月

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 正月元旦。

 これは一月一日の午前中を指す言葉だと聞いていたが、日本にいた頃はと言えばって、ここも日本だが、令和時代の俺は、寝正月とばかりに、まず意識が無かったことを覚えている。
 しかし、この世界に飛ばされてからというと、本当に忙しく、それこそ生きるために必死で、ゆっくりと正月を祝った記憶が無い。

 尤も令和時代も祝うという感じでもなかったが。
 いや、この世界に来てからは村で正月を祝ったことはあったが、それでもゆっくりという言葉からは程遠かった。
 で、今年はというと、これまた例年通りに忙しく過ぎていく。

 朝も日の出る少し前から起こされて、家人たちの挨拶を受け、直ぐに太閤殿下の屋敷に人を走らせ、殿下の許可を貰ってから、挨拶に、結さんとお市さんを同行させて伺った。
 結さんは義理とはいえ、殿下が父親となる。
 この世界の常識がどうかは分からないが、俺はとりあえず奥さんとなった二人を連れて挨拶に向かった。

 簡単な挨拶の後、昨日のうちに届けてある年賀の品の目録を渡して直ぐに太閤屋敷を後にする。
 この日は本当に忙しいのだ。
 太閤殿下には、酒や米などの品物と、絹を含む布を年賀として昨日のうちに届けてある。
 主上への献上品として同量の品物と合わせて、昨日中に全て搬入を終えている。
 これらの品は、張さんが先日から堺まで出向き押さえてくれたものだ。
 その張さんは、今でも堺で村や九鬼さんのところに届ける年賀の品の確保に走っている。

 本当は、今回太閤殿下に届けてある分は、そちらに回すために準備を始めていた物だったが、金だけではさすがにまずそうということになり急遽そちらに回したので、その後始末に走ってもらっている。
 本当に申し訳ない。
 で、俺はというと、今回ばかりは結さんと市さんを連れて初めて賢島に向かう。
 そこで、張さんや葵と幸と合流後に村に向かう。
 そう、昨年村で自分の家を探せず大騒ぎをした時に、村長である龍造さんに言われたことにショックを受け、約束してしまったのだ。

 『今年の正月の祝いの席には参加する』と。

 だって、村は俺が顔を出さなくなってから大きく様変わりをしていた。
 村民の数も、少なく見積もっても、俺の知る人数の3倍以上は居るだろう。
 そう、少なくとも前の村民の2倍以上は俺の顔を知らない村民が暮らしている計算になる。
 そのために不審者扱いを受けたのだ。
 流石にショックを受けたよ。
 不審者扱いだよ。

 令和の日本でも警察が出てきそうな案件なのに、この時代だと、下手をするとその場で殺されていても不思議は無いのだから、正直あの時は相当危なかったともいえる。
 なので、あの時龍造村長と話して、村民全員が集まる正月の祝いの席に俺は参加すると約束したのだ。
 なので、今回はこれからあっちこっちを回ってから村に向かう。
 ちょうど良い機会なので、俺の奥さんとなった結さんと市さん、それに張さんを娶った報告に、それに今年に結婚する予定の葵と幸を連れて参加することにした。

 なのだが、肝心の奥さん連中は皆バラバラで生活しているのだ。
 結さんと市さんはここ京に居るが、張さんは堺で合流する。
 葵と幸は賢島で、色々と仕事を頼んでいるので、そこで合流予定だ。
 俺は屋敷に戻ると、直ぐに船に乗り込み一旦淀に向かう。

 淀で、本多様に挨拶の後、能登屋さんの番頭さんが居たので、挨拶の後に仕事を頼んだ。
 宇治にいる六輔さんに正月の酒と餅、それに宴会用の食べ物などを相当数運んでもらう。
 正月村に帰れなかったみんなと一緒に、せめてもの俺からのお詫びの品だ。

 酒も餅もかなりの数を張さんに用意してもらっているので、模範囚ならぬ真面目な罪人にも正月くらいには酒でも振舞えるようにできるくらいは用意できた。
 本当にあの短い時間で良くもここまで準備できたものだ、さすが張さん。
 尤も堺だからできたことなのだろうが、それでも、このあたりの手腕は流石だ。

 淀での仕事もそこそこに、堺に船で向かう。
 堺では、張さんが港まで出向いて待っていた。
 そこで、張さんと合流後に紀伊之屋さんに挨拶に伺い、その足で能登屋さんに向かった。
 両方とも、正月の祝いで、是非ゆっくりとしてくれと引き留められたが、本当に時間が無い。
 港では、賢島に向かう様に、俺のために専用に船が待機している。

 直ぐに待たせている船に乗り込み賢島に向かったが、流石に夕方近くになって到着した。
 本当に正月早々忙しく動いた感じだ。
 今日のところはこれで終わり……とはいかなかった。
 賢島には既に俺のことを待っている豊田さんが、彼の上司である九鬼さんと一緒に城で待ち構えていた。

 葵と幸は俺たちのことを港で出迎えてくれたが、きまりの悪そうな顔をしている。
 お前たちが悪いのではないだろうに。
 しょうが無いので、俺たちは連れ立って城に入る。
 そう言えば俺の奥さんズが勢ぞろいしたの初めてかもしれない。

 俺はひとまず九鬼さんたちとの挨拶を終えると、奥さんズと別れて、九鬼さんたちとの話し合いだ。
 分かれた奥さんズは、別室でとりあえず仲良くしてもらう。
 九鬼さんは竹中半兵衛さんも連れてきている。

 早速、お武家様関連の正月について話し合う。
 正月の大評定についてだ。
 何も正月早々に俺が出張ることでもないだろうにとも思ったのだが、九鬼さんを始め半兵衛さんまでもが俺の参加を絶対に譲らない。

 俺としては、九鬼さん達常連さんに挨拶して終わらせようかと考えていたが、俺の根負けで決着がついた。
 大評定に参加させられることになった。
 その席で。俺の奥さんズの紹介もするらしく、それまで俺の奥さんズとは一緒に行動することになる。

 まあ、正月早々働かせることもないのだろうが、それでもあまり仕事の手を休める様な状況でもない。
 俺の奥さんズには皆仕事を割り振っている。
 皆に協力をしてもらわないと回らないのだ。
 特に張さんは外せない。
 最近では張さんの弟子でもある葵も、大活躍で、それに幸までもが加わってきている。
 大名の奥さんって、もう少し優雅に過ごしている者と思っていたが、俺は決して大名じゃないが、俺の奥さんズって大名の奥さんとはちょっと違う感じだ。

 が、それもある意味しょうがないかもしれない。
 俺たちは元は商人だ。
 いや、今でも商人のつもりでいるし、実際俺の収入のほとんどが商売から来ている。
 後の仕事は皆俺の財布からの持ち出しだ。
 ボランティアじゃないよ、くそ~。
 俺はそう文句の一つも言いたいが、なぜかしらそうなってしまった。

 結さんや市さんは優雅に生活をしているかというと、流石に張さんや葵たちの様にあっちこっちに動き回っていないが、それでも京にいて、重要な役割を演じている。
 なにせ、めんどうくさい公家や、あっちこっちの地侍の相手をしてもらっている。
 多分状況は今年も変わらないだろう。 

 あれ、これって俺の結婚って政略ってことになるか。
 流石に……
 ちょっと違うような気がするが考えないようにしよう。
 ただで使える従業員て扱いでもしようものなら……ブル……とても怖くてこれ以上考えることを俺の脳が拒否している。

 元々張さんは美人だし、市さんも張さんに劣らずの美人だ。
 結さんは美人と云うよりもかわいらしいって感じだし、とてもじゃないが令和の頃では考えられないくらいの人たちと結婚しているのだ。
 それに今年は予てからの約束である葵と幸とも祝言を上げる。

 彼女たちも、出会った頃からは考えられないくらいに綺麗になっていく。
 まだまだ発展途上であるから、この先どこまできれいになるか実は少し楽しみでもあるが、これ以上奥さんが増えないようにはしないと、それこそ俺が管理できないし、張さん辺りに管理してもらうのもちょっと違うような気がする。

 あ、それに、そろそろ珊さんの所帯のことも考えないといけない。
 珊さんは張さんと一緒に俺のことを面倒見てくれていたことから常に一緒に行動していたが、最近では俺たちの海軍関連の実働部隊のトップの様な役割をしている。

 一応、九鬼水軍のとりまとめは豊田さんが水軍奉行だったかそんな役割でしているが、言うなら事務仕事での親分だ。
 熊野水軍を含めて水軍や水運の海上での責任者的な仕事をしてもらっているが、そろそろきちんと身分を決めて、所帯を持ってもらわねば。

 おれでも5人もの奥さんズを抱えるのだから、最低でも3人くらいは奥さんを貰ってもらおう。
 少しは俺と一緒に苦労を分かち合おうよ。
 一度その辺りを、張さんを交えて話し合うことにした。

 賢島での話し合いも無事に終わった。
 村での祝いを済ませてから、3日に行われる大評定にみんなで参加することになった。
 話し合いを終えると、早速商館関係者からの年始の挨拶をなぜか俺も、しかも一番上座で受けることになった。

 しかし、ちょうど良かった。
 少し、ここで酒も仕入れておこう。
 その辺りも挨拶に来ていた紅梅屋さんに相談しておいた。

 そんな感じで永禄11年の元日も終えた。
 昨年は戦がらみで正月を祝った気がしなかったが、それ以前の永禄8年や9年の正月より忙しさという面では年々酷くなっているような気がする。

 『一年の計は元旦にあり』なんて言葉がふとよぎったが、それこそ縁起でもない。
 今年は、もう少し人らしい生活をすることを元日の祝いの席で、秘かに願った一日だった。




 明日からも、予定がぎっしりだ。


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