名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百十六話 九鬼の大評定

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 翌日も朝早くから起こされて、船に乗り込む。
 九鬼さん達はここでちょっと仕事をしていくらしく、一旦ここでお別れして、俺たちだけで三蔵村に向かった。

 昼前に三蔵村に着くことができたのだが、既に村の正月を祝う行事は始まっている。
 俺は急ぎ三蔵寺に入り、玄奘様を探した。
 ちょうど、村民を集めて上人様からお話を伺うような所に俺たちが着いたようだ。
 俺と、俺の奥さんズは上人様のお話の邪魔にならないように端によって、村民と一緒に話を聞いていたが、上人様は俺たちのことを早くから見つけており、話の最後に俺のことを呼んでいる。
 それならばと、俺は奥さんズを連れて上人様のところに向かう。

「ちょうど良かった。
 空達が間に合ったようだ。
 お前からも挨拶をしておくれ」

「上人様。
 ご無沙汰しておりました。
 正月の挨拶の前に、このようなことになってしまい申し訳ありません。
 上人様のおっしゃるように、村民に三蔵の衆の頭として挨拶をしてまいります」

 一旦上人様にそうことわってから、村民たちに向かって大きな声で、正月の祝いの言葉を述べた。

「皆様、明けましておめでとうございます。
 先ほど上人様に呼ばれましたので、簡単にご挨拶と自己紹介を含め皆様にご紹介したい者たちも連れておりますので、紹介させていただきます」

 この時代、正月の挨拶で『あけましておめでとうございます』なんて言うのかどうかは知らないが、俺はそう切り出してから、簡単に自己紹介を始めた。
 俺のことを知っている村民も確かにいるのだが、今では少数派になっている。
 それに、六輔さんを始め少なくない人たちをあっちこっちと派遣しているから、俺のことを知る人達は更に少数となってしまっていた。

 まず、簡単に自己紹介をした後に村長の龍造さんに俺の前まで来てもらい、村長からもお話を頂いた。
 その後に、俺の後ろに控えている奥さんズを紹介して、村民に対しての顔見世は終わった。
 村民は、この後は三々五々に寺から振舞われるもちや酒を楽しみながら流れ解散となる。
 俺はというと、村長を始め村の主だった者たちと寺の中に入って、じっくりと正月を祝うように宴会を始めた。

「ついに空も張さんを娶ったか」

 玄奘様がしみじみに俺の方を見ながら話し始めた。

「ええ、玄奘様に助けられ、直ぐに紹介してもらった張さんと昨年祝言を上げることができました。
 報告が遅れましたことお詫びします」

「上人様、それに玄奘様。
 私たちも今年祝言を上げることになりました」

「ほうほう、ついに祝言をあげることになるか」

「ええ、彼女たちも待たせてしまいましたが、一旦ここらで区切りを付けようかと。
 そこで、上人様にお願いがあります」

「最後まで言わんでもよろしい。
 それは、わしの方から頼みたかったくらいだ」

「え、上人様が私たちの祝言をお祝いくださるので」

「ああ、ここはいわばお前たちの原点になる寺だ。
 この寺で祝言をあげるのが、わしは一番良いと思う」

「ええ、私もそう考えております。
 彼女たちとは長島の願証寺で始めて会いましたが、肝心の願正寺を葬ったのは他ならぬ私ですから……」

「あ奴らのことは、考えずとも好い。
 自業自得だ。
 それに、あの件はわしの力不足でもあった」

「私も、三河のようにはしたくなかったのですが……」

 玄奘様までもが暗い声でボソッと言ってきた。

「すみません。
 正月に、ふさわしくない会話を始めて」

 集まった皆は一向一揆について何らかの思いを持つものばかりなので、話題が暗い方向になってしまう。
 そこで、すかさず話の切り出しを作た俺が詫びて、話を仕切り直した。

「それにしても、大きく化けたな、空よ。
 わしは流石にここまで成るとは思わなんだ」

「え、何のことでしょうか」

「葵と幸を預ける時に空のことを鳳に喩えたが、正にその通りとなった。
 来る日も来る日も戦乱を恐れて暮らす生活から、少なくともこの辺りの者は空のお陰で解放された。
 日々、皆は暮らし向きのことだけを考えれば良い。
 あの時からしたら、考えられないくらいに良い時代となったものだ」

「ええ、二度と悲劇の時代に戻したくはありませんね。
 そのためには私にできることは何でも協力するからな、空よ」

「玄奘様。
 私は既に玄奘様、いや、上人様を始めこの寺の関係者の方からは多くの物を頂いております。
 これからは、私の方から恩返しの時ですよ」

「包介も馬鹿をしなければ、ほんに幸せそうな葵の祝言を見ることができたのにな」

 ボソッと上人様は小さな声でこぼしていた。
 それを聞いたのか、葵も幸も目にうっすらと涙を浮かべている。
 めでたい祝言の話のはずだが、どうしてもこの時代、そこら中に不幸が落ちている。
 葵も幸も三河での乱取り騒ぎで親兄弟を失って、包介さんに世話になっていたのだが、その包介さんも恨みの有る三河の地侍に一矢を報いることができるとばかりに三河の一揆に参加して一命を落としている。

 俺は、その包介さんの遺品を使って炭の販売から仕事を大きくしていったのだ。
 それこそ葵と幸に助けられながら。

 あまりにしみじみとしてしまったので、春に揚げる祝言の打ち合わせに話題を変えて、空気を変えた。
 基本的に三蔵村の関係者には声を掛けるが、あくまで商人としての空の祝言なので、めんどくさい連中は呼ばないことで話している。

「それは分かるが、九鬼殿はどうするかね。
 まさか呼ばない訳にはいくまい」

「九鬼殿よりも藤林様は流石に呼ばないとまずいだろう。
 この辺りの御領主様だし」

 村長の龍造さんが、招待客について上人様に相談をしている。

「招待する方についてはお任せしますが、できればあまり大げさにしないでいただけると助かります。
 あ、葵に幸、お前らも希望があれば村長か上人様に伝えておけよ。
 うちからは、結さんに市さんも参加させますから。
 当然、張さんや珊さんは参加で」

 そんな感じで、春、サクラが咲くころに祝言をあげる方向で調整してもらうことになった。
 二人同時とはなるが、葵も幸も不満はないようで、正直助かった。
 その後は雑談をしながらその日も夜は更けていった。
 翌日もあまりゆっくりとはできない。
 寺には藤林さん本人が俺たちを迎えに来ているので、藤林さんと一緒に大湊に向かった。

 ここは伊勢神宮の海の玄関口として古くから栄えた港町だ。
 伊勢では安濃津や桑名など港町として栄えた町は数あれど、結局のところ九鬼さん達は大湊に拠点を置いた。
 尤も、賢島にも拠点として整備していたこともあり、本拠地としてはいくつも候補があったようだが、現在は大湊を本拠地としているようだ。
 安濃津もいつでも拠点を置けるよう整備しているようだが、ここは配下の誰かに任せていると聞いている。

 そういえば桑名は三蔵村にも近く、藤林さんが管理しているから、ここもある意味いつ拠点として機能しても不思議がない。
 俺たちの様なケースは戦国時代では稀有なようだが、お隣の信長さんのところも同じようなものだ。
 現在、稲葉山城を本拠地としているが、清州も同様に信長勢の拠点が置かれているし、小牧城も同じような状態だとか聞いている。

 別に俺たちだけの話では無いが、他の戦国大名家から見ると異様のようだ。
 逸れた話を元に戻して、いよいよ正月も三が日最後の三日の昼前には大評定が開かれる城に着いた。

 俺たちは、一旦別室に案内されて、九鬼勢の重臣たちと面会して、正月の挨拶を行った。
 尤も、既に会っている九鬼さんや竹中さんに加えて、流石大評定だ。
 賢島で忙しい筈の豊田さんまでもが参加している。
 別に正月の挨拶も済んでいるのだし、来ることは無いだろうと思ったが、どうもそうもいかないらしい。
 何せ、廊下で会った時に俺に愚痴をこぼしていたくらいだから。

 『大評定が終われば、直ぐに戻りますけど、空さん達はごゆっくりしてください』などと殊勝なことを言っていた。

 その後、『別に俺なんかが参加してもしなくても変わりが無いのだろうけど、参加しないと色々と不味い』とも言っていた。

 何がまずいのかは知らないが、多分大人の事情という奴があるようだ。
 重臣たちとの挨拶が終わると、俺を上座に据えての家臣たちの挨拶を受け、その後そのまま大評定に移った。
 大評定では昨年の反省から始まって、今年の方針などを話して、最後に配下の昇進などを発表する。
 定期昇進のようなもののようだ。
 これなぞ俺が居なくとも良い話のように思えるが、昇進する配下たちにいちいち俺から言葉を貰いたいとか言われた時にはどうしようかと思ったよ。
 とりあえず当たり障りの無いようなことを一言二言言ってから、おめでとうのようなことを言ったけど。

 一通り大評定が終わると、別室に全員で移動しての大宴会だ。
 と言っても、大騒ぎをするようなものでは無いようで、その席で、宴会が始まる前に俺の奥さんズの紹介をここに集った九鬼さんの家臣たちに紹介しておいた。

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