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第七章 公家の政
第二百十七話 いわれなき悪意
しおりを挟む大評定を無事に終えても、油断はできない。
この後九鬼さん達の家臣を交えて大宴会だ。
正月の宴会と言えば、と云うよりも大名家で宴会と言うと、もうこれは政治の一つで、楽しいものでは無い。
聞いた話では、こういう席でもアルコールが入る為かバカ騒ぎを起こして顰蹙ひんしゅくを買う者も居るそうだが、少なくとも稀有(けう)のケースで普通は大人しく饗(きょう)が進められる。
家臣同士や九鬼さん達上層部の人たちと雑談なども楽しむ者もいるにはいるが、果たして今回はどうか。
はっきり言って、村でもそうだったが、俺たちは既に九鬼さんたち家臣団とはほとんど面識が無い。
辛うじて家老たちと話す位だった。
そこに先の大評定で、俺が上座で挨拶を受けていれば面白くない者が居ても不思議がない。
現に大評定のさなかでも『なんだこいつ』って感じの目を向けて来るものが一人や二人では無かった。
古くから九鬼さんに従っている人たちは、俺が知らなくとも彼らの方が俺のことをよく知っているので、そういう目を向ける者は居ない。
九鬼さんが伊勢を統一した後に吸収した地侍たちも、おれたちのことは話には聞いているようで、内心どう思っているかは別だが、まずそんな視線を向けてこない。
しかし、伊勢統一後に各地から士官先を求めて家来になった人たちは、俺どころか三蔵の衆との関係を理解していない者が多く、三蔵の衆を嫌っている者もいるとか。
そういうのに限って、三蔵の衆が昔の誼よしみを利用して、九鬼家にたかっていると勘違いしている者が多い。
これも豊田さん辺りから聞いた話だが、三蔵の衆を追い出せとか、他の商家と変わらないような扱いをしろとか言い出す始末。
はっきり言おう。
確かに九鬼さん達の石高は、多分日の本でも一、二を争うくらいなのだが、それはつい最近まとめ上げたものだ。
いわば公称値。
現在あっちこっちの開発の経費のほとんどは俺たちが出しているし、実際陣頭で開発にもあたっているのだ。
また、堺や周辺の商人たちから三蔵の衆がまとめて集めた銭を使って、領内の復興をしている最中だ。
やっと、まともな税収が今年から見込めそうだと、先ほどの大評定でも聞いていたが、そういう連中には、そんな内政にどっぷりと関わっている三蔵の衆のことが見えていないのだろう。
それだけに三蔵の衆の頭だという俺のことを睨むのであろうが、勘弁してほしい。
俺も好きで、している訳でない。
できれば今日だって、ここに来たかった訳で無いのだが、無理やり連れて来られたというのだ。
そんな感じで、宴会の雰囲気はアウェイな感じだが、目的を果たさないといけない。
俺の顔見せは済んだから、嫁さんたちの紹介だ。
饗宴が始まるとすぐに、俺の奥さんズが中に入って来る。
何を勘違いしたのか、給仕の女性とばかりに勘違いしたのか変な声を掛ける馬鹿がいたが、さすがにそれは半兵衛さんからお叱りを受けた。
九鬼さんの近くまでくると、藤林さんが、簡単に紹介を始める。
「今、こちらに参られたのは、検非違使の長官である孫近衛中将殿の奥方様だ。
中将殿、よろしくお願いします」
俺は九鬼さんの顔見ると、よろしくと言った感じで頷いている。
俺もこれさえ済めば、ここを離れても良いと聞いているので、最後の奉公とばかりに皆に向かって、簡単に挨拶をした後に、端から紹介していった。
流石に太閤殿下の息女である結さんやお隣の信長さんの妹である市さんの紹介をした時には新参者たちは驚いていたが、その後張さんの紹介を始めると、急に見下すような視線を向けて来た。
先ほど半兵衛さんからお叱りを受けたばかりなので、変な声は出なかったが、張さんをよく知る人たちはオロオロしている。
豊田さんなんかしきりに張さんの方に向かって頭を下げて詫びているくらいだから、その様子を冷静に観察している連中からは状況を掴めずに混乱している者も出てこよう。
最後に葵と幸について、この春に三蔵寺で祝言をあげることを伝えると、ものすごく不思議がられた。
何で村の小娘が上座で紹介されるのかって感じだ。
明らかに侮蔑の視線まであったくらいだ。
流石のこれには九鬼さんの方が我慢できずに、急にこちらに向かって詫びて来た。
「張殿、葵殿、それに幸殿。
部下の不躾な態度、この私からお詫びします。
かの者たちには後日私からきちんと叱りつけておきますので、お許しください」
九鬼さんが家来たちが小娘と侮蔑の視線を向けたことにすぐさま反応して詫びたことに、ご家来衆は慌てた。
端から見ていると、大名のご息女に失礼があった家老が詫びている様にも見える。
う~ん。
俺の感想はあながち間違いでは無いだろう。
多分、今集まった人たちでの序列で言うと、一番上は張さんかな。
次に市さん、結さんは太閤の息女ということでその次くらいだが、別格だろう。
その次辺りに半兵衛さんと藤林さん、その次辺りに大名の九鬼さんって感じだ。
俺もこの辺りには入りたい。
あ、これは俺のあくまでも個人的な感想だが、あながち間違ってはいないだろう。
九鬼さんの下に、豊田さんに珊さんが入るかもしれない。
その次には、葵が入って来る。
今の葵はそれだけの仕事をしている。
侮蔑の視線を送ってきた連中からすれば、彼の上司のそのまた上司でも、幸には敵わないだろう。
なにせ、賢島では豊田さんの次辺りに来る仕事をしているのだ。
まあ、集まった全員が明らかにこの時代の常識からかけ離れている現状を理解できるとは思わないが、つい最近までのあなた方の碌(ろく)の一部は張さんを始め葵や幸が稼いだものを頂いていることを理解してほしいものだ。
続いて半兵衛さんまでもが流石にまずいと思ったのか、一言あった。
「女子(おなご)の身と有れど失礼のなきように。
知らぬから致し方ないものもあろうが、結殿、市殿は言わずもがな、他のお三方は出自こそ無名であれど、張殿、葵殿、幸殿の後見には隣大和の弾正殿が付いておられる。
また、三蔵寺の上人様も後見していると心得よ」
流石に、ここまで言われれば、いやな視線は向けられなくなったが、それでも直ぐに納得するのは無理だろう。
皆一様に驚いてはいるが、半兵衛さんの話を信じていない者もいそうだ。
葵や幸は現に村娘だったわけだし、でも、能力的にも、現在している仕事的にもあなた方よりもはるかに上だよ。
それに半兵衛さんの言った糞おやじ松永久秀も本当のことだ。
いらんこと葵たちに吹き込んだから、俺が沢山の嫁さんを娶る羽目になったわけだし、何より、面倒ごとを押し付けられる原因ともなったのだ。
葵たちの後見くらいしてもらっても罰ばちが当たらない。
それにしても知らない間に三蔵村もそうだったが、ここも大きくなった。
九鬼さんは、それこそ戦国大名だからこれ以上に大きくなっても良いくらいだが、俺まで同じ扱いにすることは無いだろう。
今回のことは九鬼家では見落としがちな問題として今後取り組むようだ。
しかし、面白かったと言っては怒られそうだが、俺たちについて、上層部は誰一人として失礼が無かったが、下に行くほど不躾な視線を向けていた。
俺たちのことを知らないようだった。
それだけに、領内でも、俺たちについて問題があっては大変とばかりに、半兵衛さんは正月早々調査するとまで言ってくれ、詫びてきた。
まあ、俺がそもそもガキの成りだし、威厳からほど遠くにいる。
そのガキが、美人を5人も連れて上座に就けばやっかみも出ようが、それでもバカだ。
お偉いさんたちが認めて上座に通している人を下に見るなんて、誰がどう考えてもおかしいだろう。
まあ、考え無しなのだろうが、あの人たち多くが、この先仕事として戦よりも政に当たらないといけないのに大丈夫かな。
それこそ、寺で育てている子供たちの方が遥かに使える……あ、そう言うことか。
最近になって、半兵衛さん達が教育の終わった子供たちをどんどん政に駆り出していくものだから、仕事場で面白くない連中も出てきているのかも。
それなら、彼らの教育を始めたほうが良さそうだ。
後で半兵衛さん辺りにお話ししておこう。
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