名もなき民の戦国時代

のらしろ

文字の大きさ
248 / 319
第七章 公家の政

第二百十七話 いわれなき悪意

しおりを挟む

 大評定を無事に終えても、油断はできない。
 この後九鬼さん達の家臣を交えて大宴会だ。
 正月の宴会と言えば、と云うよりも大名家で宴会と言うと、もうこれは政治の一つで、楽しいものでは無い。
 聞いた話では、こういう席でもアルコールが入る為かバカ騒ぎを起こして顰蹙ひんしゅくを買う者も居るそうだが、少なくとも稀有(けう)のケースで普通は大人しく饗(きょう)が進められる。

 家臣同士や九鬼さん達上層部の人たちと雑談なども楽しむ者もいるにはいるが、果たして今回はどうか。
 はっきり言って、村でもそうだったが、俺たちは既に九鬼さんたち家臣団とはほとんど面識が無い。
 辛うじて家老たちと話す位だった。
 そこに先の大評定で、俺が上座で挨拶を受けていれば面白くない者が居ても不思議がない。
 現に大評定のさなかでも『なんだこいつ』って感じの目を向けて来るものが一人や二人では無かった。

 古くから九鬼さんに従っている人たちは、俺が知らなくとも彼らの方が俺のことをよく知っているので、そういう目を向ける者は居ない。
 九鬼さんが伊勢を統一した後に吸収した地侍たちも、おれたちのことは話には聞いているようで、内心どう思っているかは別だが、まずそんな視線を向けてこない。
 しかし、伊勢統一後に各地から士官先を求めて家来になった人たちは、俺どころか三蔵の衆との関係を理解していない者が多く、三蔵の衆を嫌っている者もいるとか。
 そういうのに限って、三蔵の衆が昔の誼よしみを利用して、九鬼家にたかっていると勘違いしている者が多い。

 これも豊田さん辺りから聞いた話だが、三蔵の衆を追い出せとか、他の商家と変わらないような扱いをしろとか言い出す始末。

 はっきり言おう。

 確かに九鬼さん達の石高は、多分日の本でも一、二を争うくらいなのだが、それはつい最近まとめ上げたものだ。
 いわば公称値。
 現在あっちこっちの開発の経費のほとんどは俺たちが出しているし、実際陣頭で開発にもあたっているのだ。
 また、堺や周辺の商人たちから三蔵の衆がまとめて集めた銭を使って、領内の復興をしている最中だ。
 やっと、まともな税収が今年から見込めそうだと、先ほどの大評定でも聞いていたが、そういう連中には、そんな内政にどっぷりと関わっている三蔵の衆のことが見えていないのだろう。

 それだけに三蔵の衆の頭だという俺のことを睨むのであろうが、勘弁してほしい。
 俺も好きで、している訳でない。
 できれば今日だって、ここに来たかった訳で無いのだが、無理やり連れて来られたというのだ。
 そんな感じで、宴会の雰囲気はアウェイな感じだが、目的を果たさないといけない。
 俺の顔見せは済んだから、嫁さんたちの紹介だ。
 饗宴が始まるとすぐに、俺の奥さんズが中に入って来る。
 何を勘違いしたのか、給仕の女性とばかりに勘違いしたのか変な声を掛ける馬鹿がいたが、さすがにそれは半兵衛さんからお叱りを受けた。
 九鬼さんの近くまでくると、藤林さんが、簡単に紹介を始める。

「今、こちらに参られたのは、検非違使の長官である孫近衛中将殿の奥方様だ。
 中将殿、よろしくお願いします」

 俺は九鬼さんの顔見ると、よろしくと言った感じで頷いている。

 俺もこれさえ済めば、ここを離れても良いと聞いているので、最後の奉公とばかりに皆に向かって、簡単に挨拶をした後に、端から紹介していった。
 流石に太閤殿下の息女である結さんやお隣の信長さんの妹である市さんの紹介をした時には新参者たちは驚いていたが、その後張さんの紹介を始めると、急に見下すような視線を向けて来た。

 先ほど半兵衛さんからお叱りを受けたばかりなので、変な声は出なかったが、張さんをよく知る人たちはオロオロしている。
 豊田さんなんかしきりに張さんの方に向かって頭を下げて詫びているくらいだから、その様子を冷静に観察している連中からは状況を掴めずに混乱している者も出てこよう。

 最後に葵と幸について、この春に三蔵寺で祝言をあげることを伝えると、ものすごく不思議がられた。
 何で村の小娘が上座で紹介されるのかって感じだ。
 明らかに侮蔑の視線まであったくらいだ。
 流石のこれには九鬼さんの方が我慢できずに、急にこちらに向かって詫びて来た。

「張殿、葵殿、それに幸殿。
 部下の不躾な態度、この私からお詫びします。
 かの者たちには後日私からきちんと叱りつけておきますので、お許しください」

 九鬼さんが家来たちが小娘と侮蔑の視線を向けたことにすぐさま反応して詫びたことに、ご家来衆は慌てた。
 端から見ていると、大名のご息女に失礼があった家老が詫びている様にも見える。

 う~ん。

 俺の感想はあながち間違いでは無いだろう。
 多分、今集まった人たちでの序列で言うと、一番上は張さんかな。
 次に市さん、結さんは太閤の息女ということでその次くらいだが、別格だろう。
 その次辺りに半兵衛さんと藤林さん、その次辺りに大名の九鬼さんって感じだ。
 俺もこの辺りには入りたい。
 あ、これは俺のあくまでも個人的な感想だが、あながち間違ってはいないだろう。
 九鬼さんの下に、豊田さんに珊さんが入るかもしれない。

 その次には、葵が入って来る。
 今の葵はそれだけの仕事をしている。
 侮蔑の視線を送ってきた連中からすれば、彼の上司のそのまた上司でも、幸には敵わないだろう。
 なにせ、賢島では豊田さんの次辺りに来る仕事をしているのだ。

 まあ、集まった全員が明らかにこの時代の常識からかけ離れている現状を理解できるとは思わないが、つい最近までのあなた方の碌(ろく)の一部は張さんを始め葵や幸が稼いだものを頂いていることを理解してほしいものだ。
 続いて半兵衛さんまでもが流石にまずいと思ったのか、一言あった。

「女子(おなご)の身と有れど失礼のなきように。
 知らぬから致し方ないものもあろうが、結殿、市殿は言わずもがな、他のお三方は出自こそ無名であれど、張殿、葵殿、幸殿の後見には隣大和の弾正殿が付いておられる。
 また、三蔵寺の上人様も後見していると心得よ」

 流石に、ここまで言われれば、いやな視線は向けられなくなったが、それでも直ぐに納得するのは無理だろう。
 皆一様に驚いてはいるが、半兵衛さんの話を信じていない者もいそうだ。
 葵や幸は現に村娘だったわけだし、でも、能力的にも、現在している仕事的にもあなた方よりもはるかに上だよ。
 それに半兵衛さんの言った糞おやじ松永久秀も本当のことだ。
 いらんこと葵たちに吹き込んだから、俺が沢山の嫁さんを娶る羽目になったわけだし、何より、面倒ごとを押し付けられる原因ともなったのだ。
 葵たちの後見くらいしてもらっても罰ばちが当たらない。

 それにしても知らない間に三蔵村もそうだったが、ここも大きくなった。
 九鬼さんは、それこそ戦国大名だからこれ以上に大きくなっても良いくらいだが、俺まで同じ扱いにすることは無いだろう。
 今回のことは九鬼家では見落としがちな問題として今後取り組むようだ。

 しかし、面白かったと言っては怒られそうだが、俺たちについて、上層部は誰一人として失礼が無かったが、下に行くほど不躾な視線を向けていた。
 俺たちのことを知らないようだった。

 それだけに、領内でも、俺たちについて問題があっては大変とばかりに、半兵衛さんは正月早々調査するとまで言ってくれ、詫びてきた。
 まあ、俺がそもそもガキの成りだし、威厳からほど遠くにいる。
 そのガキが、美人を5人も連れて上座に就けばやっかみも出ようが、それでもバカだ。
 お偉いさんたちが認めて上座に通している人を下に見るなんて、誰がどう考えてもおかしいだろう。

 まあ、考え無しなのだろうが、あの人たち多くが、この先仕事として戦よりも政に当たらないといけないのに大丈夫かな。
 それこそ、寺で育てている子供たちの方が遥かに使える……あ、そう言うことか。
 最近になって、半兵衛さん達が教育の終わった子供たちをどんどん政に駆り出していくものだから、仕事場で面白くない連中も出てきているのかも。

 それなら、彼らの教育を始めたほうが良さそうだ。

 後で半兵衛さん辺りにお話ししておこう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...