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第七章 公家の政
第二百十八話 歓待?
しおりを挟むその後、あのアウェイ感のまま宴会は進み、とりあえず予定は無事に終わった。
その後別室で、九鬼さん達上層部の人たちと、さらなる宴会が待っていたが、流石にこっちは何度も経験があるので、嫌な感じは無かった。
「空さん。
すみませんでした」
真面目な半兵衛さんが真っ先に詫びて来た。
その後豊田さんまでもが詫びているというか、閻魔様に言い訳をしている感じで張さんに言い訳を始めたのには笑った。
確かに、賢島はこことは違い、完全に商人上位の島だ。
しかも実働部隊である水軍さんたちは完全に珊さんが仕切っている。
その珊さんはというと、あの時は客将扱いで、家老たちと一緒に居たからそれほど悪い扱いは受けていないようで、少し安心したが。
「張殿、それに幸殿。
賢島にはあのようなふざけた者は一人もおりませんから、どうか、どうか」
「豊田様。
気にしておりませんから、どうかお顔をお上げください」
「そうですよ、豊田様。
いつも豊田様には良くして貰っておりますし、気にしないでくださいね」
「しかし、驚きましたね」
「いや~、わしらはあまりに当たり前でしたが、困りましたね。
空さんのことを軽く見ているのは」
「いや~、軽いのは本当ですから気にしないで…」
「そうは行きません。
これは由々しき問題です」
「でも、私が知らないうちに私たちを取り巻く状況が変わりすぎましたね。
とにかく、急激に大きくなったことで、他に問題が出ないか、それの方が心配では」
「ええ、そうですね。
今、領内の政では空さん達が教育しておりました人たち孤児の協力で助かっておりますが、多分それが面白くない者も多くいるのでしょうね」
「それなんですよ、私も心配しているのは。
私は良く知りませんが、多分、ここって常識と云うか習慣からはよほどかけ離れているのでは」
「そういう面は多々ありますね。
新たに加わった者たちには我らが水軍が出自ということで、多少の違いがある事は理解しているようですが、それでも面白く無いのかもしれません」
「今回はある意味良かったのでは。
問題が顕在化して」
「ええ、ですが、その後を考えると頭が痛い」
「そこなんですが、ご家来衆を交代で、寺で教育させてはいかかでしょうか。
子供たちの力量も分かるでしょうし、今後必要になる資質でもあると考えますが」
「それ良いですね。
どうでしょうか殿」
「空さんが云う通りにしよう」
「空さん。
いきなり変化を求めてもかえって……」
「張さん。
確かにそうですね。
それなら、『隗より始めよ』のたとえじゃないですが、そうですね、藤林様のご家来や九鬼さん直臣から初めては。
それで、教育の結果を見て仕事を振り分ければ、野心を持つ人なら進んで教育を受けるようになるのでは」
「そうですね。
実際、政では子供たち頼りで、見回りくらいにしか使えない連中が多くなってきておりますしね」
話を聞くと、かなりまずい状況になりつつあったようで、正直勘弁してほしい。
せっかく周りから戦を失くしたのに、バカたちのために領内を乱すようなら、俺たちが追いだした伊勢の旧勢力と変わりない。
流石に領民による領民のための政はまだできないだろうが、それでも領民のための政だけはしてほしいし、そのために九鬼さん達も頑張ってきたんだ。
今回は、ある意味、問題を顕在化できたので、そういう意味では大成功だ。
張さんを始め葵や幸もあまり気にしていないし、良かったと考えよう。
少なくとも家老が集まるこの場では嫌な思いはしないから、上層部までは腐っていない。
何せ、ここでも普通では無いが、上層部の集まる宴会にも俺の奥さんズも給仕では無く一緒に参加して会話を楽しんでいる。
あ、豊田さんだけは今日は無理そうだ。
よほど張さんが怖かったようで、流石に楽しむ雰囲気ではなさそう。
いったい張さんは賢島で何をしたんだか。
まあ、俺も信長さんとの交渉時には同じように張さんの凄・さ・を感じた。
感じたのは恐怖では無く、凄・さ・だ。
大事なことだからもう一度言うが、張さんの交渉術は凄・い・のだ。
大宴会後の小宴会は打って変わって始終和やかで終わった。
俺たちはそのまま城に泊められて翌日に帰ることになった。
取り敢えず、一度賢島に戻ってから、それぞれ分かれて仕事始めかなと思っていたよ、城で寝るまでは。
翌日俺たち奥さんズを含めて全員が、湊で待ち構えていた滝川様に拉致られた。
大湊の桟橋で待っていたのが信長さん配下の滝川様だった。
彼曰く、『殿がお市殿に会いたい』とのことでお迎えに上がりました、とのことだ。
既に各方面には許可を頂いているようで、俺たちを乗せる船は、俺たちが乗りこんだ後、賢島には向かわずに熱田に向かった。
熱田でも、これまた正月早々に各方面にご迷惑が……
とても忙しい筈の丹羽様が、俺たち奥さんズの5名のために輿を用意して待っている。
俺は、なされるがままに丹羽様と一緒に清州に向かう。
流石に、陸路で、今日中に稲葉山に向かえなくもないが、輿では無理なので、清州で信長さんと面会だそうだ。
清州城に丹羽様に連れられて入ると、信長さんのご家来衆が勢ぞろいして待っている。
大湊の城で受けたいわれなき悪意など一切感じない。
あれ、俺の本拠地って清州だったっけ。
それくらい、大湊の城とで雰囲気が違った。
そのまま俺たちは控室に連れられて、信長さんと会った。
部屋には奥さんズの他には俺と、信長さん、それに丹羽様くらいしかいない、いわば内輪だけといった感じの会合だ。
「おお、来たか。
悪かったな急に呼び出して」
「そうですわ、お兄様。
何事も性急すぎるとあれほど市が申しておりましたのに」
「市も久しぶりだな。
息災だったか」
「もう、お兄様は市の話は何も聞いて下さらないのですね。
え~、え~、市は息災でしたよ。
素敵な旦那様も良くしてくださいますし」
「それは良かった」
「お兄様と同じで、ちっとも市のこと構ってくれませんが……」
おっと、ここで急な攻撃がお市さんから俺に来た。
その攻撃に結さんまでもが乗って来る。
「私たちの旦那様は、私たちよりお仕事の方が好きなようで」
「そう、言ってやるな市や。
それに結殿もそれくらいにしてやらないと、空のことだ。
本気で逃げ回るようになるぞ」
「それは困りますね」
「いや、そこまで不人情なことはしませんよ。
ただ、このところ仕事ばかり忙しかったんで」
「空さんの忙しさはいつものことですが」
「張さんまで珍しいな」
「私も女ですから。
でも大丈夫です。
分かっていますよ、冗談ですからお許しください」
内輪だけとあってか、和やかな会談になっているが、俺を呼んだ理由が分からない。
「殿、お戯れもそろそろ」
横で、丹羽様が、信長さんを窘める。
「お~お~、そうだったな。
聞いたぞ、春にやっと葵と幸との祝言だってな。
市や結殿も祝言には出るのなら俺も祝言に出向いて祝わさせてもらうから」
「え、内輪だけの祝言なんだけど」
「そんなことあるか。
どうせ弾正もしゃしゃり出てくるのだろう。
だが、俺も出るが、そうなるとな……」
何やら急に言い難そうにしていると、直ぐに丹羽様が代わって説明してくれた。
公的な行事に出るにせよ、それなりに理由が必要になる。
信長さんは自由人としてあっちこっちに動きまわるイメージがあったが、流石に所帯が大きくなると、そう簡単にいかないことも出て来る。
家臣たちに納得させるものが欲しいのだそうだ。
俺が京にいれば、新年のあいさつに伺うので公的に俺のところまで寄って、市さんとの挨拶を交わすついでに、連れている家臣たちに葵たちを紹介しておこうと考えていたようだが、あいにく俺はあっちこっちに動き回っているので、それならば俺たちを呼んでしまえと今日の運びとなった。
そう、早い話が春に葵たちの祝言に出たいから、葵たちを公人として祭り上げてしまえと呼ばれたのだ。
本当に、大人たちの思惑で迷惑な話だ。
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