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第七章 公家の政
第二百二十話 公人ってなんだ?
しおりを挟む多聞山城に連れて行かれた後は、慌ただしかった。
九鬼さんのところも、信長さんのところもそうだったが、一度個室なりに連れて行かれて、そこで城主や重臣たちとの軽い打ち合わせを兼ねた一休みが入ったのだが、ここでは本多様にそのまま大広間に連れて行かれた。
いきなりの大評定だ。
尤も議題としては、俺達の紹介と、俺達と一緒に領内開発に力を注ぐとか何とかで、俺達と全く無縁ではないが、いきなりとはどうかな。
その上で、いや、大評定後すぐに、俺の後ろに控えている奥さんズの紹介があった。
そう言えば、弾正や本多様を除くと、俺の奥さんズ全員を見たことがある人なんかいない。
まあ当たり前の話だが、太閤殿下の息女、いくら養子とは言え、そうそう会える人では無いだろうし、他国の大名の家族である市さんなんかもそうそう会える人ではない。
そこに行くと張さんや葵と幸は、ここではすっかり顔なじみのようで、信長さんが苦労した葵たちの公人化は必要が無かった。
後々二人に良く話を聞くと、割とここには来ていたようだ。
商売がらみで、張さんの代理として何度もお邪魔するだけでなく、俺との結婚などについて情報の交換なんかもあの二人は、驚くことに直接弾正糞おやじにしていたそうだ。
確かに、今のややこしい立場近衛中将に立たされたのも弾正が葵たちに要らんことを吹き込んだのが始まりだが、どうもその辺りから頻繁にここにはお邪魔していたそうだ。
それを聞いて納得したが、あの二人に対するアウェイ感が全くなかった。
弾正が、構わず二人と面会していることを配下の者たちも知っているので、いわば身内のような感覚なのだろう。
それでいて、彼女たちがここに来るたびに商売関係で、必ずと言って良いくらいに恩恵があるそうだから、あの二人いや、張さんを含めて三人は、ここでは福の神扱いされていないかちょっと心配になる。
だからという訳では無いが、大評定でも、今年の方針として領内開発を言っているが、当然それには俺たちが深くかかわって来る。
今一番の懸案事項となっている、草津淀間の船便ルートの件があるが、あそこが開通すれば、それこそ冥加金(みょうがきん)と言うか、税金だな。
それが相当見込めるし、既に木津川口の湊の整備も済んで、実際に商いが始まっているあの場所での利益も相当に上がってきているそうだ。
それに、遥か昔のルートでもあった大和川を使うルートの方も整備中だ。
ここ大和は、今はバブルかと言わんばかりに開発が続き好景気に見舞われているそうだ。
とにかく、堺とのつながりが強くなればなるほど、物流が盛んになり、その上のうちの賢島もあるので、海外からの物まで簡単に入るようになる。
そう考えると葵たちの扱いには納得はできるが、果たしてこの時代の人の考えか。
下手をしなくとも令和日本でも、葵たちの今の扱いは無理だろう。
小学生の会社経営なんかテレビで見たことはあるが、あれは異常。
例外の話だからテレビで扱われているのだが、この時代では、江戸時代の様に女性の地位が低い訳では無いが、それでも決して高いとは言いづらい。
そんな社会通念がガチガチにはびこるこの時代にあって、今の葵たち、いや、張さんでもそうだが、ありえないくらいの厚遇だ。
それもこれも皆、城主である弾正のチートが成せる話なのだろうが、信長さんもチートだから、葵たちも無事に公人化できたわけで、普通の大名家では、少女の公人化って、ふざけるなって話になるのがおちだ。
それこそ下克上が起きても不思議の無い話なのだろう。
城主のうつけを理由としての下克上……あり得そうだからちょっと怖い。
まあ、史実でも名君として地元では愛されていたとある弾正だ。
この先も大丈夫だろう。
何せ、大評定であった人たち全員が、同じような感じの視線を向けて来るのだ。
元々親類を失くした葵たちにとっては、下手をするとここは実家のような感覚になっているのかもしれない。
何せ、弾正と異様に仲が良いのだ。
そこで、俺との祝言についても、この席で発表され、その場で、弾正の参加も決定されたのだ。
いよいよもって、内輪とは言えなくなってきている。
玄奘様にあとでチクチクと嫌味を言われそうだ。
この日の本有数の戦国大名が三人も参加する祝言のどこが内輪だと云うのだとか、絶対に言いそうだ。
今のうちから言い訳を考えておこう。
当然ここでも、大評定の後は新年を祝う大宴会が待っている。
俺達はというと、大評定で解放される筈なく、そのまま大宴会に奥さんズ同伴の上参加させられた。
俺は、そろそろ元服の年になるので、酒も解禁となるが、令和日本の常識が邪魔をして、酒は止めておいた。
精神年齢からするととっくに成人を超えているが、今の体はというとまだ中高生だ。
実際に令和日本でもこの年齢から酒を飲む奴はいたが、それでも、一応避けられるのなら避けておく。
元々酒が好きという訳でもなく、それでいて、酒宴にはちょっとしたトラウマもある。
そう、堺の豪商たちだ。
あいつらまだ10歳くらいの俺を捕まえてキレイどころを揃えての宴会って何を考えているのだ。
俺もキレイどころは嫌いじゃないが、俺だけなら問題無いのだが、張さんや葵たちもいる席でそれをやるかっていうのだ。
その後、かなり苦労したのを俺は未だに根に持っている。
そういうのは自分たちだけで楽しめって云うのだ。
あの冷たい視線には俺は堪えられなかった。
一部界隈ではご褒美とも言われるそうだが、あいにく俺にはそんな趣味は無い。
それも一回ならまだしも、幾たびとなればトラウマにも成ろうと云うものだ。
て、葵、それに幸に酒を飲ますな。
まだ、あいつら幼女を卒業したばかりだぞ。
そんなのを娶る俺も俺だが、酒を勧めるとはどういう了見だ。
あ、張さんが救い出した。
うん大丈夫だ。
この後の宴会は、一応無礼講だったようだが、流石大名家の正式な宴会だけあって、それなりに行儀よく終わった。
夕方から始めた宴会だったから、終わる頃にはどっぷりと日も暮れ、俺達はこの城で一泊することになった。
元々からそのように計画がされていたようで、翌日には今度は重臣たちとの打ち合わせがしっかりと用意されていた。
領内開発についての件だ。
河川物流については木津川口の湊と、大和川を使うルートで、急ぎ大和郡山にも湊を用意して、その両方の湊間に主街道を整備する案が出ている。
その際に、八風峠や、三蔵村周辺の様に、街道を舗装できないかとの話が出ている。
距離もかなりになるので、三和土を使う舗装は難しそうだが、思いだした方法で砕石舗装マカダムというのがあるので、それを提案してみた。
弾正からは、何でもいいから舗装してほしいと言われたので、草津ルートの方で目途が付いたら、舗装工事の方を請け負うことで話が付いた。
街道用地確保と、地ならし程度は弾正の方でしてもらえるそうだ。
何だかんだと言って、正月元日から1週間近くかけて一通り関係者を回って、祝言についての報告を終えることができ、俺達は昼過ぎに、木津川口の湊から一度京の屋敷に戻った。
屋敷に着くと、屋敷を完全に任せきりとしていた家宰の助清さんから報告を受けた。
「おかえりなさないませ、近衛中将殿。
殿下より、言伝が参っております」
「言伝?
何ですか、助清さん」
「はい、中将殿が戻り次第、連絡が欲しいとのことです。
先ほど使いの者には中将殿が戻られたことだけは殿下にお伝えしましたが、直ぐに呼びだしがあるものと思われます」
「呼び出し?
正月の挨拶は、慌ただしかったが、元日に済ませていたよな。
何だと思う?」
「さあ、あいにく私のようなものでは、殿上人のお考えは分かり兼ねますが、強いてあげるとしたら、参内についてですかね。
まだ主上には、挨拶を済ませてはおりませんよね」
「あ、そう言うことか。
そう言えば元日に会った時にそんなことを言われたような気がするな。
なんだか知らないけど、正月ってこんなに忙しい物なんだな。
三蔵村にいた時には感じたことが無かったので、ちょっと大変だ」
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