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第七章 公家の政
第二百二十三話 報われる思い
しおりを挟む「主上、それに太閤殿下。
今までお話ししたことですが……」
「ああ、分かっておる。
ここだけの話だ。
先に主上も申していた通り、ここでの会談は記録にも残らない。
安心するが良い」
「朕から、公卿達に話すことでもないし、それに最近ではその公卿もここには近よってもこぬ」
「ありがとうございます。
私のようなものが、好き勝手申しまして。
ですが、今までお話したことは私の覚悟ともお取りください。
主上の権威を、いかなる困難も跳ね返してお守りします」
「太閤よ。
前にそちの申した通りになったの。
近衛中将は見た目とは異なり、実に頼もしい。
よくよく中将を助け、この国の未来を頼む」
「主上。
私は既に隠居した身。
ですが、私にできる限りは主上のため、この国に生きる民のためにも娘婿と一緒に頑張ってまいります」
俺の好き勝手に言ったことに対して、本来お目にかかることすら畏れ多い目の前の二人は、今俺の言ったことの趣旨を理解してくださり、それだけでもありがたい事この上ない事なのだが、俺のことを全面的に応援してくださると、俺の前ではっきり仰ってくださった。
確かに、今の世では主上と言えでもその権威はどれほど残っていようかと言われても仕方のない時代だとしても、今まで培ってきた歴史と言うものが在る。
そうそう無視などできない存在だ。
当然、目の前の二人はその辺りも重々承知しているはずなのだが、未来から流れ着いた俺など、この二人から見たら、それこそどこの馬の骨とも知れない存在と変わりがないというのに、そんな俺を信じてくださる。
俺には、二人が今仰ってくださったお言葉だけでも今までの苦労が報われた思いで、正直泣きたくなる。
いや、本当に目から涙があふれて来る。
「これ、中将。
どうした」
「そうだぞ、婿殿。
何を急に泣き出したりなぞして」
俺はごまかすことも間に合わずに、最初の主上に俺の情けない姿を見られてしまった。
「今のお二人から頂いた信頼が、ことのほか嬉しく、今までの苦労が報われた思いがしたもので、急に眼から涙が……」
「何を言う。
これからだぞ、これから」
「今、婿殿が言うたではないか。
守るのだよな、今までご先祖様が守ってきたこの国を。
この国の未来を次世代に伝えることを、約束したではないか」
主上も、太閤殿下もうっすらと涙を浮かべながら俺のことを励ましてくれる。
もうそれだけで、他の有象無象の世を乱す連中を始末してやるという気持ちになる。
俺が先頭になって天下をどうとかしたいとは思わないが、主上を政の中心にしっかりと据えた国造りをしていく覚悟が固まった。
だが、建武の新政のようなことはしない。
そもそも、建武の新政は当時のオピニオンリーダーともいえる武士階級から簡単にそっぽを向かれた制度なので、少なくとも家柄だけで能力のない公卿などは早々に退場して頂く。
御所の修繕にと、わざわざ釘を刺しての献金を中抜きだけならまだ知らず、全額横領するような連中を政に入れたら、それこそこの国が亡ぶ。
だからと言って民主主義などもってのほかだ。
民主制は古代はギリシャでもあったようだが、決して万能ではないし、そもそもこの国の大きさでは無理だ。
少なくとも民主制を行うには下地ができていない。
遠くない未来では分からないが、それも国民の教育がいきわたり、しかもその国民の民意と言えばいいのか、道徳性がある一定以上に達してないと絶対に成功しない制度だ。
伝家の宝刀よろしく、そこら中に押し付けていった結果の世界を俺は知っている。
国の、国民のレベルが育たない状態では下手をすると独裁政治より悪い結果になっていた。
そうでなくとも、民主制の形を取った独裁制なのがほとんどだ。
目指すべきは、国の根幹を支える国民の幸福であって、為政者の満足ではない。
では、どういう形を模索していくかというのがはっきりと分かっている訳でもないが、俺は有資格者による合議制を考えている。
ここで言う有資格者とは、ある程度先を見通す目を持つ学を修めた者たちだ。
この時代だと、宗教関係者か貴族連中になってしまうが、はっきり言って学を修めれば良いのではない。
先を見通すための、現状を理解できるだけの、そしてその問題などを解決する知恵を持つものだ。
だから俺はやみくもに貴族だからとか坊主だからとかで排除するつもりはないが、権威だけの連中は排除していくつもりだ。
武士階級とて、この時代だからこそ必要な存在だが、その彼らだって、そう言う必要な知識を身に付けるつもりのない連中には退場して頂く。
まあ、当然こちらとしても、知識を身に付ける場を用意してやる責任は出て来るが、まずは今いる人の中から選んでいく必要はあるだろう。
そして選ばれた人たちが合議しながらより良い国を作っていくそんな未来が見えてきた。
俺か、そこまで出来れば俺など必要ないだろう。
ゆっくりとフェードアウトして政から消えていくのが理想だが、果たして俺の存命中に出来ることか。
まあ、とにかく主上の権威を復活することから始めて行く。
これが結構難しい。
一度落ちた信用と同じで、失った権威を取り戻すのは相当苦労するが、それだけではない。
一緒に付いて来そうな貴族たちの権威だけをゆっくりと消しながらだ。
だから、過去の事例を持ってくるわけには行かない。
今まで三蔵の衆で行ってきたことをより大きなスケールで試していく。
幸い三蔵の衆には武士である九鬼さん達もいたから、あの時の様に、武士や貴族のなかから俺たちの考えに賛同してくれる人たちに世界の知識を与えていき、政を行う上でのレベルと言えばいいのか、能力と人柄?道徳性?違うか。
なんといえばいいのかうまい言葉が思いつかないが、国民の幸福を考え導いていくという職業倫理と言えばいいのかな、そう言うのが身に着いた人たちによる合議制の国造り。
当然合議制だから、意見の対立もあるだろう。
もし深刻な対立が生じても、幸いにこの国には天皇家がある。
悠久の歴史に支えられた天皇家が持つ権威で、国が割れることを避けながら議論を恐れない、そんなのが理想だ。
果たしてこんな都合の良い世界ができるのかと言えば、正直自信がない。
それこそみんなと相談しながら考えていく。
今はそれでもいい。
とにかく、今は国民が生きていくことが最優先だ。
国を外国の脅威から守りながら、天皇家の権威を取り戻して、国民を守る。
まずはそれからだ。
俺も大学が理工系なので、一般教養の時に習っただけなので、詳しくないが、人って欲望を持っているが、その欲望にもランクがあるとか。
なんでもマズローさんという偉い学者先生が唱えた学説だったような。
その中で言っていたのが、その欲求は階層があり、低次な欲求からより高次の欲求に変化していくとか。
確か一番基本的なものでは、生理的な欲求、つまり生きていくうえで絶対に必要な欲求であるいわゆる三大欲求のようなものに、排泄の欲求などが有り、その次に安全の欲求。
多分このこの時代だと、ここまでの欲求が武士階級や貴族階級を含めてのほとんどのひとがこの階級の欲求にとらわれているように思われる。
でも、偉い学者さんマズローはさらに上に来る欲求があると言い、社会的欲求というのがあるそうだ。
令和の日本のほとんどの人はこのレベルのようだと俺は考えているが。
この欲求とは社会で受け入れられたいと云うのだったような。
さらに上には承認の欲求というのがあって、これは皆から認められたいとか。
こんな感じでさらに上もあったはずだが、これは個人的な欲求を偉い学者さんマズローが考えていたことだが、俺は個人だけでなく、国民ひいては国というレベルでも同じことが言えると思う。
まずは、とにかく国の存続を考え、次はより豊かになるための収奪などと言った植民地経営。
特に今これが問題で、ヨーロッパ諸国によるアジアの収奪が始まっている。
これについても考えていかないといけないが、この国はより高次を目指して、偉い学者さんマズローが言っている自己実現の欲求までもっていきたい。
なんでも職人さんが、良い物をひたすらに目指すようなものらしく、他者からの評価によらない、自分が、この場合この国が国民と共に他には迷惑をかけずにより良い国造りを目指すような意識を持つ国を目標にしていけば良いと考えている。
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