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第七章 公家の政
第二百三十二話 仕事漬けの毎日
しおりを挟む今回の記念式典でも、俺達と取引のある商人には声を掛けてあるが、そこから漏れた商人たちも多数川筋、にやってきている。
宇治などちょっとした騒ぎにまでなって、本多様が出張る羽目になっている。
まあ、利用規約も決めてあるから、一見のお客様でも利用はできるようにしているが、京近辺や堺の商人たちが我慢するはずもなく、いずれ騒ぎ出すだろう。
張さんも、その辺りを気にはかけているが、これと言って決め手が思いつかないのが頭の痛いところだ。
安土での記念式典はすぐに終り、その後の宴もほとんど式典の惰性のような感じで、これと言って特筆されることもなく終わった。
俺はと云うと、今日中に淀まで戻らないといけないので、戻ることになるが、市さんや結さんは一晩信長さんのお世話になることになっている。
まあ、市さんは尾張ではないが里帰りのようなものだ。
結さんは市さんにお付き合いで一緒にいる。
二人には今まで苦労を掛けてきたこともあり、慰労の意味もあってお泊りを計画していた。
残りの嫁さんズについても慰労してあげたいのはやまやまなのだが、そんなことが許される状況で無いのは今の安土に集まった商人たちを見れば一目瞭然だ。
安土に集まった商人たちについては幸をここに残して、茂助さんと一緒に対応に当たってもらうことにした。
尾張から信長さんのところの御用商人でもある清須屋さんも応援に来てもらっているのでそれほど大事にならずに混乱を治められるだろう。
問題は他だ。
これから向かう淀に草津ルート改め安土ルートの拠点を置いている。
宇治にも拠点ができてしまったが、こちらについては追々考えるとして、淀の方も記念行事だけをして抜け出してしまったから混乱は避けられないだろう。
あそこには大和の弾正のところから本多さんが常駐しているはずなので、騒乱まではならないだろうが、それでも心配ではある。
しかし、問題は拠点を置く淀だけでない。
本当に心配しているのは堺だ。
多分、この水運を一番使うのが堺の商人たちだろうから、そちらの方がどうなっているか正直心配だ。
俺は張さんと葵を連れて淀まで川を下る。
下りは本当にあっという間だ。
淀に着くと、案の定拠点を構える店の前には人だかりができており、ちょっとした混乱状態になっている。
俺が大声で、周りを落ち着かせてから、葵と二人で、対応に当たった。
俺達が淀の混乱の対応に当たっている最中に、別の船で張さんを堺に送る。
紀伊之屋さんや能登屋さんと一緒に堺での拠点を整備する予定だ。
翌日になっても淀の混乱が収まらない。
暫くは淀に足止めになることを覚悟して、俺の護衛をしてもらっている熊野水軍からお借りしている人たちに俺の嫁さんを迎えに行ってもらった。
本当は俺が行きたかったのだが、今の状況ではとてもじゃないが葵一人ではきつそうだ。
当初俺の考えでは、観音寺から茂助さんを淀に呼んで、しばらく面倒を見てもらうつもりだった。
淀から近い観音寺に店を構えている茂助さんにでも来てもらえば幸と二人でどうにかなりそうと考えていたのだが、その茂助さんには既に安土で、同じことを頼んでいるので無理だった。
正直、安土については考えが足りていなかった。
あそこはまだ町が開発中なので、信長さんとの儀式だけで済ませようかと考えていたのだが、考えたら当たり前の話で、草津はもとより観音寺城下の商家たちは危機感とビックチャンスを感じているようで、その貪欲さには驚いた。
特に草津の商人たちは、自分たちが玄関口に成るとばかりに考えていたようだったが、それを安土にとられたような格好になったことで、相当危機感を持っていた。
なので、俺達に優先権などの優遇を強く求めてきた。
しかし、その辺り信長さんが上手に調整している。
俺の方では基本、信長さんに任せている。
何せ既に俺たちは信長さんから色々と便宜を図ってもらっていることもあるし、そこまできめ細かく俺たちが面倒を見れるほど人材が足りていない。
かといって信長さんの方が人材が無尽蔵かというと、そうでもないようだ。
最近戦が無い事もあって配下に余裕はあるようだが、それでも商家を上手にあしらえるような内政に強い配下が豊富にいるかと云うと、外から見ている限りそうとばかりも言えないようだ。
俺の知る歴史を振り返っても、他の大名家と比べれば、内政向きの人材は多くいるのだろう。
早くから商いが盛んであった熱田などを抱えていた関係で他の大名よりはましだと云えばましくらいに思える。
多分、今頃は丹羽様が死ぬ目に合っていることだろうと思われる。
なんまんだ、なんまんだ…合掌。
とにかく新たな河川交通を開通させたことで、地獄のような一月が過ぎた。
まだ、瀬田川河川敷の工事も完全には終わっていないが、それでもあそこを通る交通量はうなぎのぼりに増えている。
川を上らせるために整備している河川敷だが、待ちきれないのか人や馬までもが通ることになっている。
基本、船を引っ張る牛を優先させているが、それでもあそこを通りたいという商人たちが後を絶たない。
僅かばかりの銭を取り通ることを許してはいるが、まるで有料道路のようだ。
あ、銭を取っていることから、そのまま有料道路になっているのか。
有料でも叡山の僧兵が屯している関より魅力があるのだろう。
確かに道路はきちんと舗装をしているから歩くのに負担は少ないが、それでも京からは遠回りになるのにも関わらず、通りたがる商人が後を絶たない。
今、河川敷の道幅の拡張を検討し始めている。
しかし、久しぶりに再会した嫁さんたちを見ると本当に申し訳なく思ってしまう。
見事に商いを担当している嫁さんたちは疲れていた。
久しぶりに嫁さんたち全員が顔を合わせたのは、あの式典から丸一月は経っている。
張さんは、それこそあっちこっちに飛び回り、物流網が広がった俺たちの商いの再整備に取り掛かっているし、葵も淀にほとんどかかりきりになっていた。
幸の方は、割とすぐに安土が落ち着いたので、戻れたかと云うとそうもいかず、草津の南、大戸川と瀬田川の合流するあたりに作っている船溜まりの面倒も見てもらっている。
ちょうど位置的には関津城と云うのが、昔あったようだが、そこから川に向かったあたりだ。
ここは丹羽様の部下である木下さんが中心になって整備しており、幸は牛などの厩舎や休憩所などの整備を見てもらった。
気の早い商人たちはそのそばに蔵なども建て始めているようだ。
瀬田川の河川敷に人を通したこともあり、宇治から奈良街道を通り大和へのアクセスが非常に便利になったようで、大和と近江との間の商いが盛んになってきている。
その辺りを当て込んだ商人たちがしきりに関津辺りに店を構える様になってきている。
その辺りの様子も幸から報告がなされた。
本当に便利にはなったが、みんなには面倒を掛けたと申し訳なく思っている。
特に葵と幸にはすまないと感じている。
何せ結婚したばかりの新婚なのに、ほとんど一緒にいてやれなかった。
なのに二人には仕事漬けにまでさせてしまったことを反省している。
正直に言うと、これについては反省もあるが、それ以上に精神的に来るものが在る。
ことあるたびに市さんからチクチクとあるのだ。
本当に俺の嫁さんズは仲が良い。
嫁さんが言えないような不満は別の嫁さんからきつく言われる。
俺だって、そこまで大変になるとは思ってもみなかった。
ただ、事業を始めるきっかけが、俺が京にいることが多いから、琵琶湖まで船で行き来出来たら便利になるくらいにしか考えていなかった。
信長さんとの会合も近江あたりで開けばすぐだと思っていたのだ。
今でも紀伊半島を船で回れば尾張にその日のうちに行けるが、大和の弾正と信長さんとの話し合いをするには色々と面倒が出ていた。
近江までは信長さんが領したことで、大和の弾正も俺も直ぐに行けるようになったのだ。
それも二人とも船で簡単にだ。
それ位しか考えていなかったが、正直この時代の商人たちを舐めていた。
本当に目的以上に商人たちが商売で使っている。
まあ、俺も信長さんも儲かるから文句はないが、その犠牲となったのが俺の嫁さんズでは張さんたち商い組だし、信長さんのところでは丹羽様がとんでもないことになっているのだろう。
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