名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百三十三話 計画の前倒し

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 あ、大和の弾正からも本多様を通して、お礼と皮肉を言われた。
 あそこも淀を領している関係で、また、俺達が宇治にも拠点を置いたことで近江と大和の交流も盛んになった為に相当儲けているようで、それについてお礼を言われた。

 ちなみに皮肉は弾正本人ではなく彼の配下の本多様からだ。
 淀でも相当忙しくなっているようで、それについて俺に会った時にしきりに皮肉を言ってくる。

 俺もあそこまで忙しくなるとは思っていなかったのだから、勘弁してほしいものだ。
 伏見の準備についても、俺達が忙しくしている間も続けられ、庭を含め完成できたと報告も貰っている。
 ハード面での準備はこれで完全に終わったと言えよう。

 後は山科卿たちが頑張っている計略の実行を待つばかりだ。
 計画では、主上の行幸は紅葉の色付く秋に行われることになっている。
 とにかく主上に一旦御所から出て頂き、俺達の勢力下においでいただくことが肝心だ。
 とにもかくにも、こちら側で主上を完全に抱え込むことができれば本格的に京の大掃除ができる。

 そろそろ、弾正や信長さんを交えて京の大掃除についても相談を始めないといけない時期に来ていた。
 そんなある日、京の屋敷にいる俺を一人の公家が訪ねてきた。
 前に御所の廊下であった何とかという中納言だったような。
 名前を紹介してもらったようだが、あまりの愚物で覚える気もなかったので、忘れた。

 それに俺を訪ねてきた時も中納言とだけ名乗られたと、取り次いできた家宰の助清さんが困ったような顔をしながら俺に伝えてきた。
 助清さんなら朝廷の主な役職の人を知っているだろうと思っていたのだが、彼はほとんどここ別邸の管理をしており、朝廷とのつながりはほとんどなかったと後で言い訳をしていたが、どうなのだろう。

 ひょっとしたらほとんど朝廷に出仕したことのない名ばかりの高官っていう奴なのかもしれない。
 尤も、数年前も、いやそれよりも前からもまともに朝廷が開かれたとは思えないから助清さんが知らないのもやむを得ない話だ。

 義父の太閤殿下が関白時代に頑張っていたようだが、それでも藤原一族をまとめるだけで精一杯だったとか。
 まあ、俺のところまで中納言というのが来てしまった以上会わないわけにもいかず、奥座敷で会うことにした。

 彼は部屋に入るなり、偉そうにふるまっている。
 俺の方でも、歓迎しているわけでもなかったので、部屋の隅に箒ほうきを逆さまにした状態で置いて、さらにはお茶の代わりに茶漬けをふるまいながら話を聞くことにした。

 彼が持ってきた話では、近衛関白の大和視察の際にここから船を出せと言ってきている。
 出してくださいとか、船に乗せていただけますかとかの依頼ではない。
 最初から命令口調なのだ。

 俺の朝廷での役職がいくら関白より低いとは言っても、今時朝廷をありがたがる人は残念なことだが、京にもほとんどいないのが現状だ。
 それなのに、なぜあそこまで高飛車で言ってこれるのが不思議だ。

 しかも近衛関白の派閥では無くどちらかというと敵対派閥の中心に近い存在の俺に対してだ。
 はっきり言って、この人の常識を疑う。

「ご依頼の件ですが、お役目にはお使いいただけません」

「なぜだ。
 麻呂は聞いたぞ。
 山科卿が先日偉くきれいな船に乗って近江まで出かけたと。
 た・か・が・大・納・言・にさせたのに、より高貴な関白殿下に貸せないとは、非国民の振る舞いでではないのか。
 しかも貴様は関白殿下の部下に当たる近衛中将という役職を頂いているのだろう。
 ならなぜ関白殿下の命に従えないのか」

「関白殿下の命といわれましても、今のお話を直接関白殿下から命じられたことではありませんし。
 それに私の頂いております近衛中将のお役めは、主上より都警備を仰せつかった際に頂いたものです。
 関白殿下の部下になった覚えはありません」

 俺の返答が、相当頭に来たのか目の前の彼は顔を真っ赤にしながらさらに俺に食って掛かった。

「それでも、朝廷の序列があるのだから従う義務がある」

 まあ、当たり前の建前を言ってくるが、そんな建前なんぞとっくに平安の世から崩れている。
 ましてや武士が台頭してから、いや、実質的に武士が政治を取り仕切るようになってからも相当時間がたっているので、ここで建前に従う謂われはない。

「まず、山科卿についてのご説明をしましょう」

 俺はそういってから、あれは三蔵の衆というあなた方が卑しいといって近づけない商人の行事に参加してもらった際のことで、朝廷でのお役目ではない。
 また、三蔵の衆はたかが商人の身の上なれば、日ごろから言っている高貴な方の朝廷でのお役目は出来ない。
 ですので、お役目でいかれる関白殿下のご利用は無理だと説明しておいた。

「な、な、なれば、その商人に乗せろと命令すれば良いではないか」

「依頼は、ご自由に。
 しかし、私から命令は出せませんよ。
 彼らは商売をしているのです。
 その商売を邪魔する権限は主上より与えられておりません。
 もし、お役目でご使用したいのであればご自身で交渉されたら如何でしょうか。
 ですが今の朝廷に、依頼に見合う銭を支払うことができますか。
 商人ですからただでは動きませんよ」

「関白殿下がご利用なさるのだ。
 名誉なこととて、船を差し出し、ご利用くださいというのが世のある姿ではないのか」

 この人、頭の中に蛆うじでも沸いていないか。
 残念な人だが、それでも相手をしないといけない立場なので、最後に実情を話して無理だと断る。

「私が直接携わる事業ではないのですが、私を支えてくれる三蔵の衆のこと、少しばかり事情は聞いておりますが、それによりますと、ここ京の商人でも今ではあそこの船便は自由に利用できないそうです。
 なんでも、淀から近江にある安土までの船便が開通してから、利用を希望する人が相当数おり、現状では順番待ちだとか。
 それに、京や堺などの提携している座に属しておりませんとまず利用は無理でしょうね。
 ちなみに、朝廷は座に所属しておりません」

「そ、そんなこと承知しておるわ。
 もうよい。
 そちの今の言動、そのまま関白殿下にお伝えするぞ」

「ぜひ、そのままお伝えください。
 あ、ついででかまいませんが、先ほど私が関白殿下の部下だと言われましたが、その認識がおありなら私の払いを催促願えませんか。
 私の近衛中将としての俸禄も一切支払われてはおりませんとお伝えください。
 検非違使の予算もいただいておりませんし、本当に朝廷は何をなさっているのですかね」

「そ、そんなの知るか」

 最後に、捨て台詞を残して何某という中納言は出て行った。
 本当に敵対派閥に何をねだりに来ているのか。
 太閤殿下の牛車に続き、山科卿の船遊びがうらやましかったのか。
 それでも、俺の出した茶漬けをしっかりと全部食っていったのには驚いた。
 どういう心臓をしているのだ。

 確か京では茶漬けは『早く帰れ』の合図だと聞いていたのだが、違ったのかな。

 そんなこんなもあり、計画が早まりそうだった。
 とにかく関白が京を留守するときに計画を実施する方がより確実なので、肝心の関白の視察が早まり、盆過ぎになるとの情報が得られただけ、今回の面白くもない面談の成果だった。
 しかし、よりにもよって夏の暑いさなかに動かなくてもいいのに……あ、京にいる方が熱いから避暑を兼ねてお役目を入れたな。

 しかし、夏の盛りの盆過ぎに…ってこの時代にもお盆の風習ってあったんだ。
 尤も余裕のある一部貴族の間だけのようだが。
 まあ、京から歩いて吉野まで行くのだから、そんな時期に京を出ても吉野に着くには商人の足でも八月は終わる。
 旅慣れていない関白ではどれほど時間がかかるかわからない。

 だが、関白が京から出て行ったのを確認したら、山に紅葉など一切ないのにもかかわらず、山科卿たちは動き始めた。
 紅葉狩りが無理ならば、避暑として移動をするようだ。
 関白だって避暑に出ているのだ。
 主上が避暑に出ても、文句の言われる筋合いではない。
 まあ、一々文句などを取り合うこともないだろうけどね。

 確かに令和日本ほどではないが、この時代でも京の夏は暑い。
 エアコンが無くてもどうにか我慢できるのは、この時代が、比較的気温の低い寒冷期にあたり、令和の時代からは平均気温で数度も低いと何かで読んだことがある。
 そのためだろうか夏でもどうにか我慢できる気温だった。

 それでも、日中はたぶん30度は超えているし、何より着ている服が、とにかく暑苦しい。
 Tシャツ短パンって云う訳にはいかず、生地が薄いとは言っても、袖のあるそれなりの服を着ないといけないらしい。
 いわゆるドレスコードという奴だ。

 俺も避暑に行きたいが、まあ、この屋敷が川縁かわべりにあるので、御所よりは多少はましなのが救いだが、動けない人や、京の中心に住んでいる人たちは大変なのだろう。
 主上などその最たるものだ。
 御所も鴨川から少し距離のある場所だし、それに御所の奥にいるようならば風通しも良いのか分からない。

 それだけに本来ならば、そのような高貴な方ほど、大原などのより涼しい避暑地にでも行くのだろう。
 平安の時代ではそのようだったと聞いたことがあるが、今では御所ですらまともでないので、主上といえども避暑など夢また夢の話になっているようだ。
 それだけに山科卿からの今回のお話に、ことのほか主上はお喜びのようだと聞いている。

 計画が前倒しになったが動き始めたことで、俺の方も準備を始める。



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