名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百四十一話 罷免の決断

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「罷免だと」

「中将殿。
 それは、また大それた……」

「しかし、理由なき人事は如何に力を失った朝廷とはいえ、そうそうできることではないが……」

「理由なら十分にあります。
 少なくとも、主上に断りなく京での職務を放棄しての逃亡など、国の政を預かる人がしてよい話ではありません。
 律令の元となった唐邦(からくに)では、逃亡するだけで追っ手を差し向けられて極刑になるでしょう。
 さすがに主上に近衛関白殿下の極刑を求める訳ではありません。
 ですが、職務放棄が明らかになった以上、速やかに罷免くらいはして頂けないでしょうか」

「罷免くらいというが、まあ、理由なら十分か」

「うちの五宮が言うには、過去に罷免された関白は彼が知る限りいなかったそうですが、無理やり隠居させられた例ならそれこそ多数あるとか。
 罷免に近いことまでは、何度もしてきたようですのでできない筈はないとは思うのです。
 なにより、今回は隠居という手ができませんし、何より穏便に済ますわけにもいきません」

「どういうことかね」

「穏便な措置ですと、逃げている現地で謀略だとか騒ぎ、主上の周りに巣くう佞臣ねいしんの排除を理由に軍を寄こしかねません」

「確かに、すぐそばにいれば直接関白に事情を聴くことくらいは出来よう」

「そうですね、太閤殿下。
 こちらから文を出しても、現地で否定されては元も子もありません」

「なら罷免しても同じではないか」

「いえ、違います。
 罷免ですと、向こうでいくら否定しても、罷免された者からの言い分になります。 
 もし、それを信じるようなら、より踏み込んでこちらから勅を出せばいくらでも対応ができます」

「勅を出すまで考えているのか」

「ええ、勅に逆らうと朝敵になりかねません。
 そうでもしない限り軍を出すことをあきらめない者たちもいましょう。
 そこまでしないと彼らは、関白のお味方をするという魅力に勝てないことが予想できます。
 主上の周りに巣くう佞臣の排除という大義を拠り所として、われらの豊かな領地を奪い取るための軍を起こすという魅力に勝てるかどうか」

「ああ、連中ならそう考えなくもないだろうな」

 弾正は俺の説明を聞いて独り言をつぶやいてきた。

「ですので、そういう輩には朝敵にして主上から全国に追討のお触れを出してもらいます。
 そこまですれば関白たちにお味方する者たちは出なくなりましょう」

「そこまでことを大きくする必要があるのかね」

「奴らは平気で京の都を焼き払います。
 何の躊躇(ちゅうちょ)もせずに、自分たちの欲のためならば、何でもする連中です。
 そうでもなければ大儀も正義もない戦に、関白に味方して軍など出しません。
 大納言様、ぜひご決断を。
 あとはこちらで引き受けます。
 決して応仁の乱の二の舞にはさせません」

 俺の決意を聞いて、義父の太閤殿下が決断を下した。

「山科卿。
 責任は私がすべてかぶろう。
 主上への説明も私から行う。
 決断をしてくださらぬか」

「太閤殿下。
 私も京を火の海にはしたくはございません。 
 ………
 わかりました。
 これから主上にご説明に上がりましょう」

 俺たちの説明を聞いた二人はすぐに部屋から出て、その足で主上のもとに向かった。
 それからしばらくして、二人そろって戻ってきた。
 山科卿の手には一枚の紙を持っている。

「中将殿。
 お喜びくだされ。
 主上自ら関白罷免の勅書をお書きくださった」

 そういって俺に手に持った一枚の書状を手渡してきた。
 とてもきれいな字が書かれているが、俺は読めない。
 いまだにあの草書で書かれた文字が苦手だ。
 なので俺はすぐに隣にいる弾正にその書状を手渡した。
 弾正はありがたそうにそれを受け取り、内容を確認する。

「確かに勅書だ。
 罷免とはっきりとお書きくださった。
 これならばすぐに主だった大名宛に文を出せる。
 山科卿。
 これを元に各地の大名宛に文を出します。
 すみませんが、書きあがった文に御署名頂けますか」

「私からも文を出そう。
 すまぬが祐筆をお貸しくださるか」

「大納言殿からも文を出してくださいますか。
 すぐに祐筆を大納言殿のもとに送ります」

「山科卿。
 卿が文を出すなら私と連名にされたらどうか。
 私も協力いたすが」

「太閤殿下。
 それはありがたいことです。
 藤原一門の関白罷免ですから、同じ藤原一門からの言なればこそ、より説得力を持ちましょう」

 二人の話はどんどん進み、太閤殿下と大納言の連名で、各地の大名宛に関白罷免の旨の文が出されることになった。
 とにかく近場の大名、特に上杉と毛利には関白からのちょっかいが入る前に文を出しておきたい。

 山科卿との相談でここから勅使を出すことにしたが、その勅使が本来ならばあり得ない話だが、うちの忍びさんたちと一緒に行動することになった。
 急ぎなのだ。
 忍びが使う道程で文を運ばせることにした。
 普通の街道でのんびりと文を運ぶわけにはいかない。
 その点、道は悪かろうが急ぎ文書の配達には実績のある忍びさんたちだ。
 忍びだけでの配達ほどは早くは届かないだろうが、それでも時間の短縮は望める。
 それに何より、大切な文だ。
 途中で襲われる恐れもあるが、その点護衛としても優秀な忍びがいれば安心だ。

 まあ、上杉と毛利については船を使うことで時間を短縮する。
 毛利については、ここ伏見から堺を経由して瀬戸内を船で向かえば一両日中には文を届けることができそうだ。
 上杉についても、完成したばかりの安土ルートを使い、近海内を船で下り、若狭湾の敦賀辺りから船を出すことになる。

 これならば上手くすると、関白一行が朝倉の元に着く前に文を上杉に届けることができる。
 上杉から帰り道に朝倉にもよって文を届ける予定だが、こちらの方は、一応程度なので急ぐ必要はない。
 どうせ既に関白に利を持って取り込まれているだろうし、別に朝倉をこちらに取り込む必要も感じていない。

 それからは伏見の仮御所全体があわただしくなり、翌朝には上杉に向かう勅使が伏見から船で一度安土に向かった。
 俺はその勅使に同行して安土に向かう。
 一度、俺が信長さんと直接会って相談をする。
 そうでもないと、肝心の勅使が安土に足止めを食らい、間に合わない恐れがある。

 本来の筋を通すのならば、近場から順番に回っていくのだろうが、とにかく包囲網を作ろうとしている関白がいる以上、キーマンを先にこちらで押さえておきたいのだ。

 信長さんには、俺から直接説明するつもりで、後のことを弾正に任せて、朝一番の船で俺は安土に向かった。
 後から聞いた話だが、昼過ぎには毛利宛に向かう勅使も船で堺まで旅立ったというから、遅くとも3日後には毛利まで勅使は付けるだろう。

 その後は九州を回ってもらい、四国経由で伏見まで戻るかなり長旅となりそうだが、そこは勅使の公家さんたちにも頑張ってもらおう。

 各地の有力大名と直接会うことができるのだ。
 顔を繋いでおいても全く損のないお役目だ。
 まあ、旅は大変だろうが、急ぎ旅は毛利までだ。
 後は伝わればいい位に考えている。

 弾正も、九州方面及び四国については毛利を押さえておけば、もしも連中が相手側についても対処の方法があるそうだ。

 なにせ朝敵として戦を仕掛けることができるのだ。
 それこそ毛利などは喜んで戦に協力してくれるとまで言っていた。
 問題は上杉だ。
 あそこは利で釣ることが難しい。
 毛利の様に戦する大義を渡しても、喜ぶどころか下手をすると敵に回る恐れもある。
 何せ、上杉は戦には困っていない。
 加賀の一向宗や関東の北条相手だけでも十分すぎるくらいなのだから、それ以上は難しいとのことだ。

 関東方面については、関白の計略では武田を取り込むことのようだ。
 甲斐武田との和睦が成れば、北条との争いにも一息が付けよう。
 何せ、武田と北条との間には盟約があるのだ。
 武田との和睦はそのまま関東での停戦に繋がる。
 さすれば北陸方面への出兵も叶う。

 弾正の見立てでは、関白は一向宗はとりあえず置いておくとして、武田から口説き落とせば、関東への出兵の大義がなくなるのだとか。
 武田と上杉との間に同盟まで行かなくとも約定が結ばれればとりあえず関東方面への出兵が無くなるのだとか。

 どういうからくりになるのかは俺には良く分からないが、弾正が見ている関白の戦略は、一向宗と毛利、武田上杉を核とした俺たちの包囲を考えていそうだという。
 これって、昔ゲームでやったことから考えると信長包囲網とかいう奴に似ている。

 しかし、西から毛利が、途中の小大名を取り込みながら本願寺辺りまで、東は武田が北条あたりを後詰に付け織田に対して戦を仕掛け、北と云うより北陸方面から、朝倉上杉連合軍で一挙に京にとか言う戦略だとか。

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