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第七章 公家の政
第二百四十三話 この後の計画 行き当たりばったりとも
しおりを挟むもとより信長さんは、俺への協力は惜しまないとその場で快諾してくれた。
ただ、少々厄介なのは信長さんの背後が落ち着いていないことだ。
信長さんのもう一人の同盟者である松平さんは今川相手に善戦はしているようだが、背後に武田が控えていることからなかなかうまくいっていない。
そのあたり、俺の知る歴史とは少しばかり違っている。
今更感はあり、驚きはしない。
何せ、畿内は俺が全く違う歴史にしてしまっているのだ。
影響とまではいわないが、少々違っても俺から何も言えない。
「で、その後の対応についてだが、どうする」
「できればこちらから仕掛けたいのです」
「仕掛ける……越前か」
「はい、十中八九朝倉は近衛につきます。
朝倉にしたら俺たちのことを面白くは思っていませんから。
そこに、担ぎ上げるに十分な理由が舞い込んだなら躊躇するはずがありません」
なにせ、今の畿内はかなり豊かになってきており、奪い取れればこれほどおいしいところは無い。
奪い取るにしても、戦を起こす十分な理由があれば、しかも背後を気にする必要が無ければ躊躇なく軍を起こすだろうことは容易に想像がつく。
あいつらに先に軍を起こされると、北近江の浅井も当然朝倉側に就くことから戦場は京周辺になる。
下手をすると、応仁の乱の二の舞のように京の町が焼かれる。
それだけは避けないといけない。
戦をするならばどうしてもこちら側から、軍を起こして戦場を北にもっていくしかない。
「そうなると大義名分がいるが、関白の罷免だけでは戦はできまい」
「こちらから挑発するしかありませんね。
関白が罷免されておりますから、近衛の身柄の要求を私から掛けましょう。
朝廷への献上金の横領容疑で、身柄を要求します。
犯罪者としての身柄要求ですから、当然近衛は受けませんし、近衛を受け入れた朝倉も私からの要求はのめないでしょう」
「確かにそうなるが……」
「その後、何度か同じことをして、最後に綸旨でも出してもらいましょうか」
「綸旨か……
確かにそこまでされれば、朝倉だって武力でうやむやにしないとどうしようもなくなるな。
綸旨を出す前にはこちらの準備を整えておけば、向こうが軍を起こすと同時に攻め込めるという算段か。
実によく考えているな」
「行き当たりばったりですが、どうにか行けそうなので」
「よし分かった。
軍を出すなら後詰め位は協力しよう。
空よ、すまんが今の私ではこれが精一杯なのだ、許せ」
「武田ですね。
そのあたりについても、考えませんといけませんよね。
あそこも本質は押し込みと何ら変わりがありませんから。
相手も生きるためという大義をかざして周りを取り込んでいますしね」
「ああ、そうなのだ。
今は越後との兼ね合いもあり、こちらには矛先が向いてはいないが、こちらが隙を見せるとすぐに襲ってこよう。
木曽辺りにその準備ともみられる前兆が見られる」
「ええ、そこまでですか」
「こちらも考えてはいるが、幸い西に関しては一切の心配がないので、今なら十分に対応もできよう。
後詰め位出しても問題ない。
しかし、私が主戦力では少々不味い。
朝倉と膠着でもしたら前後で挟み撃ちに合い兼ねない」
信長さんの心配は尤もだ。
美濃と信濃は木曽を挟んでお隣だし、その木曾だが現状は態度がわからない。
というか、あのあたり小さな勢力は離合参集を繰り返していて、よくわからないのだ。
それに何より、魅力がない。
大した石高も無いのに、いざ攻め込もうとしても木曽の地形が守るに易く攻めるには難くどころか地獄だ。
何より大軍の利点が生かせない。
広い戦場となるような場所が少ないのだ。
そうなると当然城攻めになるのだが、城攻めって本当に面倒なんだよ。
しかも囲むに囲めない。
何せ、美濃側からしかこちらとしては攻め込めないが、そうなると信濃より武田の援軍が出るのは自明の理だ。
まあ、その逆もしかりなのだが。
そのおかげもあってか、いまだに独立をしているのだが、いつまでその独立が許されるのか。
多分、武田の調略が入っているだろう。
織田側からは積極的に調略しているようには見えない。
それもそうだ。
武田としたら、豊かな美濃を攻めるに木曽の地は絶対に必要なのだが、信長さんとしては向こうに魅力を感じていない。
信濃は多少豊かではあるが、諏訪大社がある。
一応、信長さんは神職の家系に連なるので、諏訪大社にも多少の畏敬の念くらいは持っていようが、それ以上に宗教勢力が強い地には懲りている。
一向宗で、同盟である松平が痛い目に合っているし、長島についても多少の被害は出ていたようだ。
まあ、それ以上に熱田からの恩恵も受けているからどっちもどっちのようだが、熱田は商売するにもかなり魅力的だが、諏訪大社にはそれがない。
門前の市くらいは立つが、それならいくらでも自領内で興せる。
なので、正直言って魅力がないなのに、労ばかり多い信濃に攻め込もうとはこれっぽっちも思っていない。
ただ、信濃には武田がいるので、警戒だけは怠るわけにはいかないという面倒な地なのだ。
それに、今の信長さんとしては戦をする暇がない。
急に広がった領地の内政に力を割かないといけないのだ。
でないとせっかく手に入れた領地が霧散してしまう危険がある。
南近江の地は非常に豊かな地ではあるが、近くには叡山が控えており、また、各宗派もバカにならない規模で居座っている。
そこを新たに領した信長さんが内政を怠れば、それこそ敵対勢力からいくらでも謀略をかけられ、直ぐに混乱してしまうことになりかねないので、危機感をもって対応している。
何より、信長さんの持つカードの中からエース級の丹羽様をつきっきりで南近江に派遣している。
丹羽様は信長さんにとって、内政面においてこれ以上に無い家臣だ。
まだ、信長さんの元には森さんがいるが、内政面ではどうしても丹羽様に軍配が上がる。
今は、その森さんが美濃の内政をしきっているらしい。
もともと信長さんのところは肉体派というか武断派の部下の方が多い。
尤もこれは信長さんに限った話ではなく、この時代で生き残っている戦国大名家ではやむを得ない話なのだが、いざ領地を得たとなると、そうとばかりもいっていられない。
そもそも領主が変わるような地では、多くの問題を抱えている。
たとえ問題を大して抱えてなくとも敵対する側が、小さな問題をあおって敵を弱体化するものだ。
となると無事に領地を得ても、今まであおっていた問題を今度は処理する側になるが、これは内政が得意でないとかえって問題をこじらせてしまう。
そんなこともあり、いまだに美濃ですら片付いていないのに南近江までも領している信長さんは、家臣一同絶賛デスマーチ中だ。
そういう事情もあり、信長さんとしては最大限俺たちに協力してくれることは、約束してもらえたのだが、戦ともなると心許ない。
正直、地理的なことで言えば信長さんが主力として朝倉攻めに加わって欲しかったのだが、やはりここは古巣の九鬼さんの登場を願おう。
あそこは周りを既に味方に囲まれているので、防衛という面ではほとんど問題を抱えていないが、それがかえって今度の場合に障害となって来た。
他に攻め込むのに他領を通らないとできない。
信長さんならば後詰めしてくださるということもあるので、織田領の通行は許してもらえそうだが、一度連合軍で打ち合わせが必要だ。
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