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第七章 公家の政
第二百四十五話 四者面談
しおりを挟む大湊からまた船を使って堺まで戻り、そこから木津川まで船を乗り継ぎ、多聞山城に向かった。
多聞山城では、もう一度弾正に経緯を報告して安土城での会合に参加してもらうためだ。
弾正には畿内の治安を守ってもらうのと、後詰をお願いしないといけない。
となると単独でとは言わないが、戦は九鬼勢だけと考えておいた方が良いか。
でも、自分たちの戦で無いのに無駄な流血を強いるのはちょっと気にはなる。
やはり飛び地になっても九鬼領とする方が良いか。
俺が弾正と最後の相談を終えてから十日後に安土城で集まってもらった。
これからすぐに戦に出る訳でもないので、集まった人たちは本当に最低限の部下しか連れてきていないし、何より、全員が船を使って集まって来た。
本当に畿内は便利になったもんだな。
伊勢からだと堺を経由しないといけないから最低でも一晩は堺で過ごすことになるが、大名が一晩過ごしても堺では何ら問題がない。
元々からそういう方たちでも滞在できるようにあの町はできている。
賢島にいる紅梅屋さんから聞いた話だが、博多も同じようではあるそうだ。
流通の拠点とそう云うもののようだ。
俺達も作っている町をそこまでもって行けるように頑張ろう。
安土城では、全員が広間で顔を会わせたが、なんと今回初めての客が二人いる。
そのうちの一人は俺が無理言って連れてきた人だが、もう一人は信長さんが連れてきた人だ。
信長さんとしては、どうも後詰めだけでは申し訳ないとかで同盟している大名に応援を頼んだとか。
もうお分かりだろう、信長さんが連れてきた人は徳川家康さんその人だ。
三河守を名乗っているが自称のようだ。
で、俺が連れてきた人は、驚くなかれ山科卿その人だ。
今回の一連の事件は朝廷内の権力闘争という側面がある。
ほとんど権限を失っている朝廷ではあるが、その朝廷内では他の公家と比べて完全に頭一つ以上に力を持つ近衛元関白に対して山科卿や太閤殿下を中心とした公家たちの反抗に俺たちが協力している構図になっている。
なので、その締めくくりとなる戦の件で、今回の評定に朝廷側として山科卿にも参加して頂いた。
山科卿はもともとから織田家とは誼がありちょうどよかったかもしれない。
なので、集まった面々のうち山科卿に対しては初顔となるのはうちの九鬼さんと、徳川さんのお二人だ。
あ、九鬼さんは俺の結婚式で会っているかもって、あっているっていうよりも見たことがある感じか。
なら、初顔といっても変わりがないか。
そのせいか、二人とも緊張でがちがちになっている。
それをからかうように信長さんが徳川さんをいじっていた。
一通り挨拶を済ませて、この後について相談を始める。
当初の案より俺の方から近衛元関白を挑発することは問題ないと山科卿からもお墨付きを頂いた。
罷免されているので、太閤殿下とは呼べないので、そのまま元関白だ。
その近衛元関白の身分は、関白職を剥奪した瞬間からよくわからない状態になっている。
慣例では関白を退くと太閤という称号を得るが、それはあくまで関白職を自ら退いた場合だ。
今回は、主上より関白職を罷免されているので、太閤という称号はさすがに得られない。
だが、藤原一族の中での称号である藤原の長者は解かれていない。
一族内のことなので、外野からはどうできる者でもない。
なので、未だに公卿といってもいいことになるので、扱いがちょっとばかり面倒になる。
何せ、位階が先に来る日本の律令では役職である関白を退いても、位階が下がるかどうかは誰も知らない。
普通の場合だと、関白を退いても太閤と云う称号を贈られるものだから位階まではいじられない。
いや、位階が変わっていても、誰も気にしないと表現でもすればいいのか、位階については触れない物だから、ひょっとしたら、その辺り何も決まっていないのかもしれない。
それに何より、関白職そのものが令外官であり、律令のくくりから外れた官でもある。
もう、どうすればいいのかっていうのだ。
そんなこともあり、いちいち確認しながら攻略策を練っている。
まあゲストとして俺が呼んだのは山科卿だけだが、うちの貴族対策のスペシャリストで、俺のブレーンである五宮も今回は連れてきている。
その五宮と山科卿とで色々と相談の結果、当初の予定通り俺が罪人として身柄を要求するのは朝廷としては問題なしと結論を得た。
尤も俺は藤原氏とは縁戚の関係があるので、藤原一族的にどうかということは残るらしい。
何せ、藤原一族では、元関白は未だに長を務めていることになっている。
俺の義父はその前の長だったが、今の長は近衛だ。
一族内で、底辺に近い外戚の俺が、一族の長を罪人として扱うのは如何のものかと、一族内で問題にされるかもと五宮は心配していた。
山科卿は、そう言うこともあるかもしれないが、罪状が主上に対するものだし、なにより義父が前の長でもあるし、その辺りについても太閤殿下がどうにかするだろうとかなり楽観的だった。
俺は山科卿の言を受け、都の治安を守る仕事を一手に引き受けているという体で、身柄要求を強行することにした。
どうせ身柄などいくら要求しても、無理なのはわかっている。
朝倉が近衛の要求を受けて暴走するのを待つだけの話だ。
相談の結果、身柄を要求し始めると同時に出兵の準備を出来るだけ内々に始めて行くことにした。
朝倉に先手を取らせたように見せるためだ。
信長さんがこの席に徳川さんを呼んだ事で決戦には信長さんに代わり徳川さんが応援に来てもらえることになった。
そのあたり時間の調整もかけないとまずいらしい。
ほとんど丸一日を掛けた会議は夜遅くには一応の結論を得て、明日以降に具体的な行動について話し合いがもたれるということで、その日は終えた。
翌日、具体的な話し合いをしている最中にうちの忍びさんが情報を持って来てくれた。
どうも俺らが出した勅使が間に合ったらしい。
近衛からアクションがある前に、越後の長尾景虎に関白罷免の通達が届いた。
景虎は訪問中の勅使に対して、朝廷に最大限の協力を約束してくれ、その場で自身の身の証となる書を勅使に渡したという。
うちの忍びさんは、その書を勅使から預かり持ち帰って来た。
当面の脅威はこれで去ったと言えよう。
集まった一同は皆ホッとした表情をしている。
しかし、近衛のことだ。
これで大人しくしている筈はない。
彼の影響力を考えるに、一向宗がある。
これは朝廷と繋がりはあるが、その繋がりと云うのが近衛だ。
また、この一向宗と甲斐武田氏は繋がっている。
その関係で、まず武田を味方に引き込むことだろう。
武田繋がりで、それほど強い繋がりはないが若狭の武田も敵になる。
いや、若狭武田と甲斐武田との間にはそれほど強い繋がりはないか。
でも、近衛からの働きかけがあれば若狭武田も敵側と考えていた方がいいだろう。
これは、俺が幕府を実質的に潰したことによる恨みもある。
何せ、未だに管領の細川が若狭に逃げている。
その細川が大人しくしている筈はなく、もう一度京に将軍を呼んで前の栄華をと考えている筈だ。
なので今のところ敵と確定していると考えて良いのは朝倉と浅井、それに一向宗、それに今あげた両武田氏だ。
甲斐の武田については合戦予定地である北近江までは途中に信長さんがいるので合戦そのものには間に合わないだろうが、その信長さんを合戦に参加させないだけの邪魔はしてくる。
同時に信長さんを襲うとかやりかねない。
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