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第七章 公家の政
第二百四十六話 引き渡し要求の使者
しおりを挟む甲斐武田以外は、今の俺たちの勢力から考えても、いくら若狭武田や浅井が朝倉に協力しても恐れることはないが、一向宗だけは別だ。
石山本願寺が武装蜂起すると今度は弾正までもが動きが取れない。
主上から勅使を出すことは考えるが、それでも収まらなければちょっと頭が痛い。
俺達の領内というよりも九鬼さんの領地である伊勢で騒がれる事だけは無いので、それだけは安心材料だが、それでも越前の一向宗もある。
それが朝倉に協力するとなると、兵数だけも侮れなくなる。
今回俺たちの方の動きが早かったので、越後の長尾の動きを止めることができたのは正直助かった。
越後から北近江までは途中に越前があり、普通なら長尾勢は一向宗があるので通れないが、一向宗が敵側にとなると、長尾が通れなかった越前も問題無く通ってしまうので、決戦の場に長尾勢まで来ると正直勝てる気がしない。
その長尾がわざわざ朝廷宛てに念書まで書いて協力を約束してくれているので、せいぜい甲斐武田相手に頑張ってもらおう。
川中島合戦でもやって、暇をつぶしてもらえればいいかな。
あれ?
この世界では川中島の合戦ってあったのかな。
後で調べてみよう。
とにもかくにも、まずは俺の方から朝倉に罪人引き渡しの命令を出すことからはじめよう。
そう、お・願・い・ではない。
俺からの命・令・だ。
朝倉からしたらどこの馬の骨とも分からない俺からの偉そうな命令では、喩え朝倉自身が引き渡したいと考えていても配下から突き上げも出るので、できないだろうし、何より俺もここで引き渡されても困る。
横領程度の罪では遠くに流すことすらできない。
せいぜい近くの寺に預けるのが関の山だ。
寺に預けた程度では、比叡あたりに預けられれば、今度は比叡の僧兵を使って悪さをするだろうし、より面倒になる。
なので、ここできちんと兵を起こしてもらい、反逆という罪で、裁くのが俺の理想だ。
巻き込まれた連中からすればたまったものでは無いだろうが、朝倉にしても京の治安を守ることなんか全く考えても居なかっただろうし、現状の戦乱の世を望んでいる時点で、ご退場願うだけの理由がある。
はっきり言って、平和の邪魔だ。
戦乱ばかり望んでいるようならば俺たち庶民の敵でしかない。
喩え、朝倉や近衛が一乗谷をはじめとして自領の貴族や武士たちの平和のためであっても、庶民については虐げられたままだ。
でなければ庶民中心の越前一向宗と長らく揉めることはない。
そもそも庶民が安心して暮らせれば、宗教なんて過激にならないし、たとえどこぞの宗派が過激に主張しても信者が付いてこない。
この考えは俺も長島での事が無ければ自信なんか持てなかったが、あの長島だって周りが平和に豊かとまで行かなくとも、十分に食べていける環境になれば大人しくなる。
既に狂信者となった者だけは改心できなかったが、初めからそういう環境であれば狂信者なんか生まれない。
また、そういう狂信者を使って野心を満たすような破戒僧も、信者がついてこられなければ大きな顔ができない筈だ。
だから、俺は戦国大名なんか原則信じていないし、心からご退場を願っている。
朝倉はその代表例だ。
後は戦国チートたちに秩序を確立してもらい、維持していけるように仕組みを考えてもらえば良いだけだ。
そんな感じで、安土城での会議は3日で終わった。
皆、直ぐに自国に帰り準備を始めるそうだ。
俺はと云うと、一旦京に戻り、五宮を正使として、忍びさん達に護衛をさせて犯罪人引渡の命令を朝倉に届けることを考えていた。
朝倉の領地である一乗谷では交渉はしない。
命令書を届けるだけだ。
何せ、既に敵国認定している国だ。
安全が保障できない。
京に戻り、朝倉への使者の準備をしていると、本多さんが訪ねてきて、俺に忠告してくれた。
なんでも今回の使者の件だが内容が内容だけに、五宮さんが拉致される恐れがありそうだと云うのだ。
使者の拉致って、もうそれだけで戦端が開くって云うものだけど、よくよく考えたらあいつらならやりかねない。
殺さなければ、軟禁程度なんとも思わないだろう。
ましてや朝廷からの使者ということだが、近衛が相手側にいる以上五宮の件は素性が知れている筈だ。
俺の義父に当たる者なら十分に人質としての価値があると考えるのは必然だろう。
そのように考えていくと確かに、本多さんの言い分も良く分かる。
そこで彼が言ってきたのは、玄奘さんを使者にしたらと提案してきた。
玄奘さんなら俺の良く知るというよりも俺の命の恩人だ。
本多さんの古くからの友人でもあり、玄奘さんの人柄については俺以上に知っているからの提案だった。
この時代、敵対する大名間の使者として僧が担っていることが多いということもある。
それならと思ったが、今度は市さんから一言あった。
「玄奘様って、三蔵寺の方ですよね。
でも、三蔵寺って一向宗ですよね。
一向宗の僧は越前の大名に歓迎されないのでは?」
確かに朝倉は長く越前の一向宗と争っていた。
近衛が味方についても簡単に一向宗の僧の云うことなんか聞き入れないだろう。
一向宗への恨みがそれこそ朝倉勢の兵士一人ひとりまで浸透していることも簡単に想像できる。
近衛が一向宗を味方に引き入れていても、朝倉側としては戦での協力はしてもそれ以外ではかかわりたくないと思う方が自然だ。
流石俺の嫁だけあって、コメントが適切だ。
北陸、特に朝倉相手に一向宗は流石にまずそうだ。
しかし、僧に頼むアイデアは頂いた。
となると宗派だけ考えれば良いだけだ。
幸いここは京の都だ。
多分日本にある宗教のほとんどが集まっている……筈だ。
俺は本多さんにお礼を言ってから、使者について考えていた。
そう言えば越前の一乗谷って永平寺の傍にあったことを思い出した。
毎年の暮れから年明けにかけてテレビ番組で中継を見たことを思い出した。
深い雪の中の年越しの様子を中継していた永平寺のことだ。
永平寺は曹洞宗の本山だったはずだ。
前に道元についての映画を見たことがあるから覚えているが、道元禅師って、最初京の都で布教をしていたけど、紆余曲折があって京から追い出されて、越前に移ったってあった。
なんでも越前の武将にいろいろと便宜を図ってもらったとか。
ということから考えると、朝倉の領地では曹洞宗がかなりの勢力を占めていると考えられる。
となれば曹洞宗の僧を探せばと思い、五宮に頼み曹洞宗の僧を探してもらった。
流石京の都だけある。
探せばすぐに曹洞宗の寺は見つかった。
道元禅師が京から追い出されたのは鎌倉の時代だ。
さすがに今でも曹洞宗の寺が京に無いとはあり得ないだろう。
五宮に探してもらうと、流石に俺でも知る有名な寺の名は無かったけど、それでもいくつかの寺は京にあることが分かった。
その内、公家の伝手を使って使者になりそうな僧をすぐに見つけて連れて来てもらった。
俺は、手紙といくばくかの喜捨を渡して、事情を話して朝倉氏に手紙を運んでもらった。
最初からの方針通り、一切の交渉はしないで手紙だけを渡してもらう使者だ。
もし、相手が返事を託すようなら受け取ってもらうが、長らく待つ必要はないと使者になる僧には伝えてある。
お願いしている僧は驚いていたが、俺の意図を酌んでもらえ、直ぐに越前の一乗谷に向け旅立った。
使者になる僧が京を発ってから一月ばかりが過ぎて、やっと戻ってきた。
ここから一乗谷まで少しばかり距離があるからと言ってもさすがにかかりすぎでしょ。
ただの往復程度なら半月でもおつりがくると考えていたが、その僧は朝倉が少し時間を頂きたいというので、これ幸いに永平寺まで足を延ばして、そこで待っていたようだ。
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