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第七章 公家の政
第二百四十八話 戦の準備
しおりを挟む尤も俺の知る姉川の合戦ではないが、あれだって、信長さんの勝利とされているが、果たして本当に勝ったのって感じだ。
俺が狙っているのは、令和の時代まで語り継がれた信長の戦での勝利ではなく、完全なる勝利だ。
本当は引き分けかもしれないというような、ちんけな勝利ではない。
完勝を狙っているし、今の俺たちならばそれができるとも考えている。
俺は九鬼さんたちと今度の戦の件で相談したく、人を回してもらえるように手紙を書いた。
そんなことを考えていると、太閤殿下の元にお使いに出した五宮が戻ってきた。
彼の手には罷免の旨の通知がある。
「朝倉殿の罷免の件、すぐに許可が下りました」
「え、ずいぶんと早くない??」
「ええ、たかが従四位下・左衛門督ですから、大納言殿の判断で罷免できました。
中将殿から渡された手紙には、随分と主上に対して失礼極まる態度でしたから、その手紙を読むなり、罷免が決まりました。
私からお願いする暇もありませんでした」
まあそうだよね。
常識のない俺でも、あいつの頭に蛆でも沸いているのではと思ったくらいだ。
まともな人が読めばそういう反応をするよね。
それに朝倉はわざわざ罷免でもしてくれとばかりに、自身の職位を誇るように書いてあったし、だれでも同じ反応をする気がしたよ。
「五宮の持つ罷免の通知をどうしようか。
書留で送りつける訳にもいかないし……」
「書留?
なんです?それは」
「あ、気にしないで。
それよりも、その罷免の通知をどうしようか」
「そうですね……
まずはその内容を他に書き写してから市中に知らせましょう。
どうせ、なじみの商人などから朝倉殿には伝わるでしょうが、それでもこの通知は送りたいですね」
「となると、またあの僧にお願いか」
「そうですね。
それが一番良いでしょう」
罷免の通知の写しを作り、俺からの通達を添えて前にお願いをした僧に手渡した。
今度は永平寺へのいくばくかの喜捨を添えてだ。
どうせ、永平寺にまた行くだろうから、それならこの先のことも考え、実害の無い宗派には良好な関係を築くための投資だ。
一連の手筈を整えてから、俺はもう一度安土に向かった。
安土城で丹羽さんに経緯を話してから姉川辺りに向かった。
その際に丹羽さんから木下さんを護衛としてつけてもらった。
護衛の木下さんと話しながら適当に合戦予定地である姉川の河川敷辺りを調べて回る。
河川敷そのものは十分に広く、十分な兵も簡単に展開できる広さがあった。
姉川そのものは、季節にもよるのだろうが、比較的雨の少ない今頃では水量も多くは無い。
木下さんが言うにはゴロゴロした石の下を水が流れているようで、これよりも下流になると途端に水が増えるのだとか。
ここは、まさに合戦のためにあるような場所だ。
川の水深も深いところでも腰まで位で、川を渡るには場所を選ばないそうだが、やはり場所によって水深が異なり、簡単に渡れる場所と、苦労しそうな場所があるようだ。
それに、あの重い甲冑をつけてだと、水深が比較的深い場所だと下手をすれば溺れる危険すらありそうだ。
俺は、合戦時の様子を想像しながら、付近を歩いて回った。
正直、今度の合戦が俺の初陣という訳ではない。
俺の初陣は伊勢の、いや、志摩の九鬼さんの領地奪回のために動き回ったが、あの時は戦場までは出ていない。
今思うと、俺の初陣は大和の弾正の合戦に応援に出たときかもしれない。
その後にも何度か砲兵を連れて合戦の場には出たことがある。
しかし、俺が采配を取る??合戦は初めてになる。
まあ実際の戦の差配は九鬼さんの所の将に任すことになるが、たぶん半兵衛さんに軍配をふるってもらうことになると思うが、そういう意味では此度の戦は俺にとって初陣とも言えなくもない。
正直言えば、合戦なんかやりたくもない。
だいたい目の前で血を出しながら人が死ぬ場面を見たいと思うか。
それもホラー映画じゃないんだ。
実際に人が死ぬのだ。
もう小市民の俺からすれば拷問以外に無いだろうが、流石に今度ばかりは俺が将兵の前面に立って戦わないといけない。
今度の戦の主戦力となる九鬼さんたちにとっては、自分たちの戦でないのだ。
俺の掲げた大義のために戦ってもらうのだ。
少なくとも京の都の平和のための合戦になる。
それは、この時代の感覚からいうと伊勢の人間には全く関係がない。
それを俺とのつながりから半ば無理やりに戦に出てもらうのだ。
もうそれだけに俺が逃げ出すわけにはいかない十分な理由だ。
戦では敵だけでなく味方の九鬼勢からも死者は出るだろう。
俺にできることといえば、できるだけ少ない死者で済むように万全の準備をするくらいか。
そう考えると、俺の取りうる作戦はやはりアウトレンジ戦略の一択になる。
大砲を使い、火縄銃の数を十分にそろえての作戦になるだろう。
それだけに位置取りが重要になる。
俺はもう一度それを頭に入れて、簡単に姉川の河川敷を見渡した。
あとで、忍びさんたちが集めてくれた付近の地製図や情報をもとにもう少し考えることにして、俺は京に戻った。
屋敷に入ると、使用人から伊勢からの客があることを知らされる。
さすが九鬼さんだ。
仕事が早い。
俺はすぐに奥に向かい、伊勢からの客と対面した。
思った通り、客は半兵衛さんだった。
それと一緒に藤林さんまでもいたことには驚いたが、今では藤林さんは伊勢にあって一軍を率いる存在にまで偉くなっているから、人選としては妥当か。
「早速来ていただきありがとうございます。
来て早々なのですが、相談したく……」
俺はそう切り出してから、姉川の様子などを話して、戦の展開などについて相談していった。
半兵衛さんや藤林さんも俺の考えていたものとほぼ同じように、完全勝利のためにはアウトレンジ戦略しか考えていなかった。
とにかく浅井朝倉連合を一度叩かないと話にならない。
敵を一度叩き、崩れ、逃げ出したところに追い打ちをかけていくためにも、叩く時の被害を最小に抑える必要がある。
幸いなことに俺達には鉄砲がある、大砲まであるのだ。
それらを十二分に生かすためにも、相手の勢いを殺すために馬防柵など工夫がいりそうだ。
姉川が合戦場でもあるので、騎馬武者の数は多くはないだろうが、それでも徒かちの突撃が考えられる。
もともと浅井も朝倉もそれほど騎馬を有していないので、初めから騎馬対策は考える必要もないが。
敵の勢いを殺すための柵については、俺の知る長篠のような立派なものはいらないが、それでも徒の勢いを殺せるものは欲しい。
有刺鉄線などがあればいいのだけれど、今からはさすがに間に合わない。
そんなことを考えていると藤林さんが逆茂木ならばそれほど手間はいらないと言ってきた。
合戦場が城ではないので逆茂木はないが、それでも適当な木を使う分にはバリケードくらいにはなりそうだ。
それを考え相談してみると、半兵衛さんが、アザミなどのとげのあるものを混ぜればより効果も出そうだというのだ。
俺はその意見を取り入れ、陣の設置にどれくらい時間がかかるかについても事前に調査することを約束しておいた。
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