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第七章 公家の政
第二百四十九話 直前の戦評定
しおりを挟むその後は、実際の戦闘についての見通しなどについても意見交換をしていく。
浅井朝倉連合軍の兵力についての見通しは最大で、一万五千、まず一万二千も出されれば良い方だとか。
内訳は浅井が二千から三千、朝倉が一万から一万三千といったところか。
伊勢の九鬼勢からは此度一万を出してもらうことになっている。
後は後詰めなど信長さんのところと弾正さんのところからも兵を出してもらえる。
信長さんつながりで、徳川さんからも千程度の兵は出してもらえるそうだから、総数でもこちらの方が上回ることが予想さえる。
兵の見積もりをしていると、本当に長尾が相手につかなかったことに安堵するしかない。
誰に感謝すればいいのかわからないが、俺の運の良さと、神様にでも感謝しておく。
敵に長尾が加わると総数でも互角かそれ以上相手側が上回ることになるだろうし、何より日ノ本最強と言われる武田と互角の長尾勢だ。
勝てる気がしてこない。
俺は今まで何度か戦をしてきたが、全て勝つ算段をしてから望んでいた。
そう、勝てる気がしない戦などしたことがない。
此度も、長尾が中立になるように手を打ち、相手側につかなくなった段階で、勝利は確定していると思っている。
後はその勝利が辛勝なのか完勝なのかの差しかない。
俺としては、完勝してそのまま一乗谷まで占領を考えている。
とにかくできる限りの準備を整え、その準備が終わる頃にやっと越前から使者に出していた僧が戻ってきた。
僧の持ち帰った返事は全くこちらの予想を違えることなく、戦場にて見まみえようというような内容だった。
それとほぼ時を同じくして、うちの忍びさんも朝倉の情報を持って帰ってきた。
こちらから出した最初の使者とほぼ時を同じくして、朝倉は領内に動員令を出していたのだが、その動員もそろそろ準備が整い、先発組から越前を発ったというものだった。
こちらからも、九鬼さんに連絡を取る。
それと行き違いになるかのように本多さんが弾正さんの兵の一部を連れてやってきた。
「空さん。
あ、いや、今はあえて中将殿とお呼びします。
我、主君の命により、本日より此度の戦終了まで中将殿の元で差配を受ける所存です。
よしなに」
なんと、弾正さんは後詰めに三千名の兵をすでに戦場予定地である姉川に向け移動させるのと同時に、自身の兵を持たない俺のために本多さんに兵を千名も預けて付けてくれた。
正直ありがたかった。
俺は、本多さんの申し出にすぐに快諾する旨を伝え、それと同時に五宮に弾正の元にお礼の使者に出てもらった。
その弾正さんは、此度は大和を動けないらしい。
なにせ、一度叩いて弱体化には成功したが未だに興福寺の僧兵は侮れないものがある。
また、四国に逃げている三好勢に、本願寺の動きも気になって、どうにも身動きが取れないらしい。
同じように、信長さんの方も武田の動きが怪しく、此度は丹羽さんに任せている。
非常にいやらしい話なのだが、甲斐の武田は木曽路を下り、東美濃を伺っているとか。
そうでなくとも東美濃は頑固者が多く、未だに心から信長さんに服していない者もどれくらいいるか全く判明していない場所だ。
それだけに信長さんは岐阜から動けなくなっている。
それでも、信長さんからは徳川さんの千の兵と、南近江兵の五千に加え尾張兵に鉄砲を持たせて千名の兵が集うらしい。
幸い、東海の今川と甲斐武田との同盟はまだ生きているようだが、その今川の動きがどうにも遅い。
今川が武田と連動して動いているようならば三河の徳川はもちろん、尾張の兵までもが動けずにいただろう。
今川としては俺から出した勅使の効果があったようだ。
大義の面では、此度は俺のほうにあるし、今川としては何より散々苦しめられていた一向宗との連合だけは受け入れられなかったようだ。
三河での大規模一向一揆は徳川がまだ松平と名乗っていたころだが、その松平が今川と手を切った後の話だ。
だが、一向一揆は何もその時ばかりでなく、それ以前から散々いやらしく領内を荒らしていた。
特に一向宗徒の多かった三河ではその被害が顕著だった。
その三河が今川に取り込まれていた時代においては、今川の責任において一向宗徒をどうにかしないと、そうでなくとも徳川の嫡男を人質として今川館に囲っていたわけで、徳川家臣を動かすにしたって、その指示を今川がしないと頑固者の三河武士もいうこと聞かないだろう。
三河だけでなく自領内でも散々一向宗徒には悩まされていたようだ。
前に徳川さんや弾正のところにいる本多さんにも聞いたことがあるのだが、とにかく一向宗だけはめんどくさいらしい。
その一向宗にどっぷりはまり一揆まで参加した本多さんが言える話ではないだろうが、二人とも同じようなことを逆の立場から言っていたのを覚えている。
まあ、今回はそんな一向宗に感謝か。
俺も本当ならば上人様をはじめ玄奘様にお世話になっているが、そのお二人も一向宗なので、もう感謝しかない。
尤も、俺は二人に対する思いと、三河の一向宗に対する思いでは真逆といえるくらいの違いはある。
そんな情勢だったこともあって、浅井朝倉勢には彼らが思うようには兵は集まらなかったようだが俺の方には兵は集まった。
織田さんから徳川さんを入れて七千に加え、弾正さんも本多さんを入れて四千名の兵が集う。
それだけで一万一千名の兵だ。
それに九鬼さんは、今回はずいぶん奮発してくれたようで一万三千の兵を用意してくれた。
併せて二万四千だ。
もうそれだけでも十分な兵が集まった。
近衛としては本願寺や武田を使って俺たちを分散させて、戦場に出てこれる兵力の減少を画策していたようだが、何せ俺たちには敵に一切面していない大領地を誇る伊勢の九鬼さんが健在だ。
最低限の治安要員だけを残せばもう少し兵を出せたかもしれないが、兵糧的に厳しくなりそうだったこともあり一万三千に抑えたと聞く。
それに何より、俺たちを分散させる目的で本願寺を抱き込んだことも、越後の上杉や東海の今川に関しては逆効果になったようだ。
それでも一向宗の脅威は計り知れないもがあるが、俺たちが集めた兵力は十分だ。
これでも俺は安心していない。
いまここでの安心はそのまま慢心に繋がる。
下手に調子こいて大失敗だけは避けたい。
そうでなくとも、敵は戦国武将だ。
チート武将とまではいかなくとも、今まで生き残っているだけでも俺以上の才覚はあるだろうし、何より近衛は怪物だ。
武将としては全く脅威は無くとも、殊政治面では何をするかわからない。
そんな敵を相手にするのだ。
どこまでやってももう十分とは言えないが、今できることは全てやり切ったと俺は思っている。
そのおかげかどうかはとりあえず置いておくとしても、俺たちは取りえず有利な状況を作り出すまでは成功したが、楽観視は出来ないと、周りの武将たちを戒めている。
俺たちだって、今まで何度か寡兵で敵を破ったことがある。
その逆の立場にならないと誰が言えよう。
大切なことは、戦略があり、戦闘の計画があり、その計画をこちらに意図したとおりに動く訓練された兵があり、なおかつ不測の事態にでも臨機応変に立ち回れる武将が必要だ。
そして今の俺たちにはそのすべてをそろえることができた。
さあ、これからその計画とやらを集まった皆とすり合わせだ。
兵のほとんどは姉川に陣を引き、集まっているが、俺たちはそれほど遠くない安土城に集まって評定を始めた。
なぜ戦場から離れた安土城で戦評定をするかというと、この評定には信長さんと弾正さんまでもが参加している。
二人とも、居城から動けない立場なのに大丈夫かと心配はしたが、評定が終わればすぐにでも帰るとの話だ。
兵を伴う移動には莫大な労力を要するが、大名だけの移動ならばどうにかなるらしい。
最低限の護衛だけを伴っての移動なので、そのくらいは融通が利くらしい。
信長さんは領内の移動になるが、信長さんよりも弾正さんの方が移動という面では安土からだと楽らしい。
何せ、安土の港から船で木津川口まであっという間らしい。
河川流通網の整備がこんなことにも役立ってきている。
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