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第七章 公家の政
第二百五十一話 いざ、開戦
しおりを挟むどうしたものか、俺にはこの時代の常識に欠けるから、すべて半兵衛さんにお任せだ。
すると半兵衛さんが大きく軍配を上げた。
それを見た孫一さんが持っている鉄砲を構えて相手に向け威嚇で一発を放つ。
相手側の武士は慌てて後ろに下がり、戦が始まった。
浅井も朝倉も大きな声をあげながら突進してくる。
こっちは、それでもまだ動かない……いや、俺のすぐそばにある大砲部隊が動き出した。
「準備ができ次第、個々に放て!」
半兵衛さんが命じている。
最前線では孫一さんが部下たちに鉄砲の準備を命じているが、誰一人として銃を放ってはいない。
戦前から、そのあたりの十分にあつかいを命じられているようだ。
確かに銃は強力な殺傷力はあるだろう、しかし、命中精度という面からすると有効な射程距離は弓とそう変わらない、そのように以前に聞いたことがある。
そういえば銃以上に大砲の命中精度も問題なのだが、この戦のようにある程度大きな集団相手ならどこに落ちても十分な戦果があげられるから、銃よりも大砲の方が今回ばかりは戦力になりそうだ。
その証拠に、すでに一部準備の早い大砲部隊のいくつかは敵に向け弾を放っている。
直接敵に当たらなくとも河原での戦だ。
大砲の弾が落ちた場所の近くの石を飛ばしまくり、かなりの被害を相手に出している。
大砲の弾数発が先陣を争うように攻めてきた敵のところに落ちただけで、こちらから見ているだけでもわかるくらいに戦意が落ちていく。
すでに逃げ出すものまで出ているくらいだ。
まだ大砲が戦では一般的でないために初めて大砲の音を聞いた者も多いだろう。
そのためか大砲の発射音だけで驚いているだけかもしれない。
その大砲が、どんどん準備も整ったのか、敵に向け次から次に火を噴いていく。
もう、鉄砲や弓の射程まで近づこうとする酔狂な奴はほとんどいない。
俺たちが賢島で作った大砲は南蛮人から買った(脅し取った?)物よりも小さなために射程も短くなっている。
詰められる火薬の量が少ないのだから当たり前なのだが、それでも攻城戦や今回のようなときには使えるだろうと沢山持ってきたのが功を奏したようだ。
それで、南蛮から買い取った大砲10門は、この様子を見ていた半兵衛さんの命により最前線ではなく、直接朝倉の陣を狙うことにしたようで、どんどん目の前の敵兵士の頭上を大砲の弾が越えていく。
今攻め込んでいる兵士たちはその頭上を越えていく弾を見る余裕のある者など一人もいないだろうが、俺たちの方からはありありとその様子が見て取れる。
さすがにもともとから命中精度の難があるものだったので、浅井や朝倉の陣に弾を中てることはかなわなかったが、それでも少なくとも数発は陣の近くに落ち、被害を目のあたりにした武士たちに対しては威力は十分だった。
「申し上げます」
一人の伝令が俺の前までやってきた。
俺は半兵衛さんの方を見る。
半兵衛さんは俺の方に向き頷いてから伝令に命じる。
「どうした」
「只今、後方を探らせている忍びより伝令が入りました。
朝倉勢、陣を引き払い後方に移動を始めたとのことです」
確かに後方の陣付近でも動きがありそうだとは、こちらからでも見て取れるが、あいにく距離もあり、またかつ大砲をぶっ放した関係で火薬の煙のためにこちらから敵陣の様子をはっきりとは見て取れない。
それでも今戦っている最前線くらいは直接見える場所に陣を張っている。
先の伝令を聞いて、俺のそばに仕えている本田さんが陣幕から出て、外の様子を見てきた。
「まだ、最前線では後退の指示は出ていないようですね。
すでに崩壊をしている隊はいくつもあるようですが」
「どういうことかな?」
「これはひょっとしたらひょっとするかもしれませんね」
半兵衛さんが言うには、陣のそばに落ちた砲弾に驚いた朝倉の武将たちが、兵を置いてでも逃げ出したのではと言っている。
だからと言って、こっちから何かできる訳でもないのだが、何より敵のほうが俺たちに近づかないので、孫一さんをはじめ俺たちの兵は弓どころか鉄砲すら撃てていない。
そうこうしていると、西に陣取っていた徳川さんが、飛び出していくのが見えたと陣のすぐそばから聞こえた。
俺の知る史実でも似たようなことがあったと聞いたが、戦闘民族の三河武士は今の戦況を見て我慢ができなかったらしい。
わざわざ戦場まで出張っているのに見ているだけだったこともあり、敵の勢いが止まった段階で、まだこちらの砲撃の最中だというのにも関わらずに、飛び出していったようだ。
どこかで見た風景だ。
俺は半兵衛さんの方に振り返り、砲撃について相談した。
「さすがに三河勢を撃つわけにもいかないよね」
「すぐに、西側に向け攻撃している砲撃は止めさせます。
ほかについても様子を見て順次止め、追撃に向かわせます」
もうこれで完全に決着がついた。
陣から伝令が慌てて大砲部隊に攻撃を中断するように出て行った。
仲間を攻撃してしまうのを恐れたためだ。
事前に約束させたはずなのに、大砲の弾が飛び交う最中に兵が戦場に飛び込んでいく様子を遠くから見ていて、かつて似たようなことがあったのを思い出した。
「あれって、弾正さんだけでなかったのですかね」
俺は皮肉を込めて本多さんに言ってみた。
「そうですね、ですが最高の機会ですから我慢できないのも武士ならばやむを得ないのでは」
「最近やっと先駆けの功など認めないと理解してもらえましたけど、それってうちだけで、他には通じませんから」
半兵衛さんも半ばあきらめたように言っている。
すると、孫一さんが陣までやってきて俺に大声で言ってくる。
「殿、徳川だけにいい格好をさせてもいいのか。
うちらも出すぞ」
要は、孫一さんも出たくてうずうずしていたらしいが、うちでは命令が無ければ前に出ることはない。
なので孫一さん自ら俺に催促に来たという訳だ。
「孫一さん。
評定での計画とは違いましたが、徳川さんが出た以上追撃に移ります。
追撃戦の指揮をお願いします」
「やっとか。
ああ、俺に任せておいてくれ。
三河なんかに後れを取るような軟な鍛え方はしていないところを見せてやる」
俺にそう言うと孫一さんは陣から走って出て行った。
やれやれだ。
しかし、これで本当に戦が終わるのか。
準備していた時に考えていた以上にあっけないか。
「中将殿。
そろそろ我々も準備を始めませんと」
今回の戦で常に俺のそばから離れない本多さんが追撃戦の準備を俺に促してきた。
「ああ、そうですね。
半兵衛さん」
「はい、伝令~」
半兵衛さんはすぐに伝令を読んで、陣の外にいる丹羽さんと徳川さんを呼び出した。
それほど時を開けずに、丹羽さんだけが陣まで数人の供を連れてやってきた。
「空さん、あ、いや、中将殿。
三河守家康殿はすでに前に出ており、連れてくること叶いませんでした」
ああ、そうだよね。
あの戦闘民族の親玉なのだからわからなくもないけど、あの人今では立派な大名だよね。
自身が先頭切って行って良い人ではないように思うのだけど、うちもあまり変わらないか。
ここが陸だからこそおとなしくしているけど、海上だったらどうなるかわからない。
その証拠に目の前にいる九鬼さんも先ほどの孫一さんをうらやましそうに見ていたしな。
とにかく集まった人たちを前にこれからについて相談していく。
先の安土城での話し合いのように、大砲は置いていくけど、一乗谷までは俺たち九鬼勢だけで向かうことを確認して、丹羽さんには戦闘民族の三河勢の手綱を任せた。
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