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第七章 公家の政
第二百五十四話 鎮圧
しおりを挟むあっちこっちで火まで出ている。
俺は今この場にいる兵を分け、火を消させるのと同時に、乱暴狼藉をしている者たちを、その場で殺させた。
いちいち捕まえている暇はなさそうだった。
本当は捕まえて、復興などで使いたかったのだが、とにかく俺の方に今は余裕がない。
俺はその場で一通りの指図を済ませてから、朝倉の館に向かった。
そこも今館を守る少数の兵士と、明らかに落ち武者と思しき武者たちとの戦闘中だった。
俺は本多さんに横やりを入れてもらい、落ち武者たちを蹴散らして、無理やり館の中に入っていく。
先ほどまで門前で戦っていた朝倉の兵士たちは本多さんの手勢により無力化されている。
門前で戦っていた兵士のうち、偉そうな者を選び、話を聞く。
「朝倉は姉川で敗れ去った。
この地はひとまず近衛中将殿が預かる。
貴様らはしばらくおとなしくしておけ」
本多さんは朝倉の兵士たちに話を始めた。
話を聞いた兵士たちはその場で悔しそうにしているが、驚きは無い。
一乗谷が襲われた段階で、朝倉勢がひどく敗れたことくらいは考えていたのだろう。
いくら覚悟をしていたとしても、それを実際に聞かされるとなると違うらしい。
すぐにおとなしくなって、その後は俺たちの指示に従っているが、奥方様たちの助命嘆願だけはやめようとしていない。
俺としてもむやみに女子供を殺そうと思いたくはないけど、この時代の常識からあまり逸脱する訳にもいかない。
幸い、ここに連れてきている連中は古くから武士をしていた者たちではなく、俺が伊勢で始めた人材の採用方法によって、庶民などから採用していた者たちが多い。
なので、とりあえず俺たち上層部からの命令はよく守るので、今のところ一乗谷では乱捕り騒ぎは俺たちからは起こしていない。
なので、少々慣例から外れた行為でも俺の強い意志さえあればどうにかなる環境ではある。
俺は本多さんを見ると、彼とは長い付き合いであるので、俺の考えをよく理解しているようで、軽くため息をついてからアドバイスをくれた。
「女性たちは尼寺に入ることを条件にすれば助命してもそれほど問題にはならないでしょう。
問題は男児の扱いです。
普通ならば、捕まえたら、それほど間をあけずに処刑されますが、空さんはそれが気に入らないのでしょう」
さすが本多さんだ。
公的な場面では俺の事を中将と役職で呼んでいたが、俺の気持ちを汲み取って本来ならば口にはできないアドバイスを送ってくれた。
なので、あくまで友人としての助言の形をとるために俺のことをあえて空さんと呼んできた。
彼の気持ちや配慮がありがたい。
しかし、その問題もあるから問題は解決していない。
「いっそのこと、女性たちと一緒に朝倉の元にでも送りますか」
「それで解決するのかな」
「ええ、もう朝倉には立ちなおせるだけの目はありませんから、朝倉が家族の始末を自らつけますよ」
「結局助けられないという訳か」
「そうですね。
朝倉氏が家族を我々が知らないうちに寺に預ければ助かるかもしれませんが、朝倉氏本人のお考え次第かと。
まあ、空さん以外の大名家では、そういう場合も考えてかなり執拗に捜索させて、後々の混乱の目を潰しますから、あまり効果のある手段ではないのですが、空さんは探すつもりもないのでしょう」
「ええ、別に治安を乱さなければ何かする必要もありませんしね。
朝倉だって、降伏してくれば島流しは避けられないでしょうが、殺しはしませんよ」
つくづく俺は甘ちゃんだとは思うが、別に偉くなりたくて戦をしているわけではないのだ。
地道に商売でもしてささやかな平安があればそれでいいとすら思うのだが、なかなか世の中の方がそれを許してはくれないだけの話だ。
「どちらにしてもしばらくは軟禁でもしておいてください」
「軟禁???」
「ああ、逃げださなければその場でおとなしくさせておけばいいです。
手配を任せてもいいですか」
「ええ、半兵衛殿が落ち着くまでは私の方で預かります」
一乗谷の町も、大火事にはならずに、夕方には火だけは止まった。
まだ、そこら中に乱捕りなどする不届き者がいるが、それすら時間の問題のようだ。
夕方には半兵衛さんも第二陣を引き連れてやってきた。
「殿。
遅くなりました」
「いえ、半兵衛さん。
来てもらえて助かりました。
すぐに、取り掛かれますか」
いきなりの会話内容だけど、半兵衛さんには通じた。
流石というべきか、半兵衛さんは、一乗谷に入るとすぐに、引き連れてきた隊を分け、治安の回復に当たっていた。
館で俺に到着の報告を済ませると、館前の庭に、陣を張り対策本部を置いた。
戦国の出来人はどこでも仕事が早い。
俺の護衛としてついてきている本田さんも、すぐに半兵衛さんと合流して、乱捕り騒ぎの対応からいよいよ朝倉領の占領に入った。
当然半兵衛さんが来たくらいで、町全体でおこなわれている乱捕りが無くなったわけではないので、並行して町の治安を取り戻すべく乱捕り騒ぎを起こしている連中を取り締まっていく。
ただ、人手に余裕が出てきたこともあり、刃向かわない限り切り捨てごめんから身柄拘束には変わった。
しかし、完全に治安が戻ったといえるようになるまでには、数日を要した。
「少しは落ち着きましたね」
「ええ、ですが落ち着いたのは一乗谷の治安だけです。
近隣の村々は、どうなっているかわかりません」
「先ほどやっと、部隊をいくつか作り、近くを調べに回らせました。
結果が出るのは明日以降ですが」
「そうなりますと、いよいよここでの政も始められますね」
「ええ、近隣の制圧が先ですが、政を始める準備だけでもしておきませんと、遅れれば遅れるほど、悲惨なことになるような気がします」
「そうですね、我々が占領した途端に領民が大量に餓死などすれば、それこそ一向宗のいい口実になりますね」
「そういえばこのあたりにも一向宗もありましたね」
「ええ、何せお隣がお隣ですから」
越前のお隣には一向宗が国持となったところがある。
噂では、本願寺との仲もあまりよくないとか。
普通ならば敵の分断は喜ぶべきなのだが、どうもこの辺りはかえって統制が利かないとか色々とあって、やたらと面倒のようだ。
なので、とにかく俺たちが抑えたばかりの越前領内では、餓死者など絶対に出してはならない。
すぐに年貢などとれるとは思ってはいないが、俺たち以前に朝倉が何かをしていれば、冬を越せないこともありうるのだ。
全く年貢を取らずとも餓死する恐れもある。
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