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第七章 公家の政
第二百五十五話 金ヶ崎からの伝令
しおりを挟むそのあたりを至急調査する必要があるので、最初に取り掛かる政の案件は特に重要だ。
前にもこんな感じがあったような気がしてきた。
ああ、そういえば伊勢もこんな感じだったか。
そうなると大規模な炊き出しや、兵糧の緊急放出もありそうだ。
「調査を待つまで何もしないわけにもいきません。
とにかく我々はここでできることを始めましょう。
金ケ崎城が落ち着いたら、藤林さんをこちらに寄こしてください。
とにかくここでは全力で、力を合わせて……」
「中将殿。
伝令がきております」
緊急事態が発生したようだ。
俺の元に伝令が入ってきた。
俺の下に来た伝令は母衣衆などと呼ばれるいでたちで、きれいな身なりをしていた。
少なくとも落ち武者のようでは無いので、負け戦の報告ではなさそうなのだが、通常ではないことだけは確かだ。
「疲れているところを済まないが、先に報告だけ聞かせてくれ」
「は、中将殿。
金ケ崎城の藤林殿から書状を預かってまいりました」
彼はそういうと懐から大事そうに一通の書状をすぐそばにいるものに手渡した。
書状をもらったものはそれを半兵衛さんに手渡している。
「藤林さんからの伝令か。
彼は何か言ってきたのか」
「は、攻め込んできた武田勢はすぐに撃退しましたが、そのまま放置する訳にもいかないので、これから自分の手勢で追うとのことです。
中将殿には、合流が遅れますことを詫びるようにと」
「へ??」
何?
武田って信玄じゃないよね。
信玄さんは木曽あたりで信長さんと遊んでいるはずだから、それに何より、藤林さんに預けた千程度の兵で簡単に退けるようなものでもないし、何より、信玄さんと藤林さんの間には俺たちがいるから、どこからも信玄さんが通ったとも聞いていない。
う~~む。
「中将殿。
これは好機かもしれません。
若狭武田もこの際一挙に落としましょう」
若狭武田?
そういえば昔ゲームでそんなの相手したことがあったけど、あれってモブだったような。
武田信玄なんかと比べるとえらく弱かったような気がしたな。
「半兵衛さん。
若狭の武田氏ってどれくらいの勢力なんですか」
「はい、石高で言えば大したことは無いですが、京に近く、また海に面しておりますからかなりの財をためていると噂はありましたね」
「ありました?」
「ええ、ですが今のような戦国の世には適していないというか……」
半兵衛さんが口を濁したのは、今まで完全に敵ではなかった勢力を口汚く云うのをためらったような感じだった。
それなりの財を持っていたようなのだが、蓄財ばかりで領地の開発に使うでもなし、兵を雇うでもなし、ほとんどが京などの有力公家との付き合いで消えているという話らしい。
あくまで噂の域は出ていないが、はっきり言って我々には脅威でなかったこともあり調べていない。
いや、調べていなかったというべきか。
近衛との付き合いもそれなりにあったので、此度は敵に回るだろうと見越していたという。
だからこそ、あえて金ケ崎城攻略に対しても半兵衛さんは反対せずにいた。
別に、金ケ崎城が朝倉側であっても囲んでしまえば、害はそれほどでもないが、若狭からの横やりがあると少しばかり面倒だから、攻め落とせるのなら攻めておきたかったようだ。
そのうえで、若狭方面の抑えとして使うつもりだったとか。
しかし、此度伝令が伝えてきたことには驚いていたようだ。
若狭の連中がさすがに、こんなに早く救援に駆け付けるとは思ってもいなかったようだ。
普通の攻城戦の感覚ならば、いまだに囲んでいる状態であるので、もし俺たちが攻城戦でまごついていようものならばタイミング的には少々厄介な応援になる。
半兵衛さん曰く、若狭武田にしては上出来の出陣であったようだが、此度は運がなかったというか相手が悪かったといっている。
自分のことをそのように言うのはどうかと思ったのだが、半兵衛さんの云う相手がどうも俺らしい。
小さなものまで入れるとそこら中に峠のあるこの国では、大砲は威力があっても攻撃には使えない。
とにかく運ぶのに難がある。
この国ではせいぜい防御用の切り札程度くらいにしか考えていなかったようなのだが、あの木砲は頂けない。
どこにでも持ち歩けるうえに、国崩しといわれる大砲ほどではないにしても、近距離からの攻撃では大砲に準じるくらいの威力はある。
その木砲を持ち込んでいるのだからたちが悪いと言っている。
なので、半兵衛さんの言う相手というのはこの場合、俺たちの相手にとっての話で、俺の持ち込んだ木砲は俺たちにはある意味秘密兵器のようなものらしく、金ケ崎城での攻城戦でも、あれほど短期間で落とせたのもあの木砲無くしてはあり得なかったそうだ。
先にも話に出たのだが、大砲は防御側の切り札になる。
当然大砲の一種である木砲も防御する側からしたらこれ以上に無い頼もしい兵器だ。
若狭武田も、此度はその木砲を持ち、しかも実戦での経験のある部隊相手では分が悪い。
簡単に藤林さんに軍を蹴散らされて散り散りに逃げていったと、先に渡された書面に書いてあるそうだ。
現場で急ぎ書かれたあのミミズ文字はさすがに読む気になれない。
解読するにしても俺だとどれくらいの時間がかかるものかわかったものではない。
半兵衛さんもそのあたりを心得ており、先に俺に断ってから書面に目を通して俺に内容を伝えてくれた。
そのうえで、今なら簡単に若狭を落とせそうなので、俺に許可を求めてきた。
基本俺は神輿だと思っている。
その神輿も軽ければ担ぎ手から喜ばれることも知っているので、此度の戦についても戦略面では意見を言わせてもらうが、戦術や戦闘に関してはほとんど任せきりだ。
藤林さんの追撃は戦術に当たるからそのまま追撃を認めた。
しかし、若狭攻略になると戦略が絡んでくるので俺の判断も必要になるらしい。
はっきり言って俺たちには日本海側にも一向宗という強敵が控えている。
なれば、できる限り敵を減らすのがベターだとも理解しているので、半兵衛さんの提案に乗ることにした。
本多さん率いる応援部隊ももうしばらくお借りできそうなので、俺は虎の子の精鋭である孫一さんの部隊をそのまま藤林さんの応援に向かわせて、若狭攻略を藤林さんに命じた。
しかしそうなると、こっちはどうしよう。
確かに兵そのものは今いる分でも大丈夫そうだ。
この先の領地攻略は急ぐつもりはないので、今いる分でも問題は無い。
最大の問題として政に当たる内政官の不足だ。
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