名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百七十一話 未知と不知

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 俺たちの本当の強みは知識だ。
 そのほとんどがカンニングと言われても言い訳できない俺が持ち込んだ未来の知識がもとになるが、それでも俺の知る知識は片手落ちどころではない。

 ただこういうものがある程度しか知らないけど、それを知ると知らないとでは格段の違いが出る。
 大学の授業でだったか忘れたけど、授業でならば一般教養の部類にあたるはずなのだが、果たして何の授業だったか思い出せない。
 それは未知と不知の違いだったか。
 メタ情報とかいうものらしいのだが、とにかく世の中のどこかであるということを知るだけでも格段にその後の成果が違ってくるらしい。

 その時に聞いた話があまりありがたくない例なのだが、原子爆弾の開発に関するものだったのを覚えている。
 第二次大戦中に米国が原子爆弾を開発するだけでもぞっとしない話のだが、それを使用するという愚挙に出たことで、原子爆弾の効果が世界中に広まった。
 その後の冷戦中で仮想敵国となるソ連に対して米国の関係者はソ連に対して10年は原爆による優位性を保てると豪語していたそうだが、それをわずか数年でソ連は原爆を完成させてしまった。
 情報が盗まれたとかいう話ではなくて、これは先に挙げたメタ情報、未知と不知の違いによるものだと説明されたのを今でもありありと覚えている。

 なんでも未知の技術の最大の壁はできるかどうかという不安だそうだ。
 米国の関係者はマンハッタン計画というものを作りロスアラモスに研究者など一堂に集めてそれこそ莫大な予算と時間を使い原爆を完成させた。
 その時の苦労を知るだけに先に挙げた関係者の10年の先行という発想が生まれたのだろう。
 しかし、その開発のネックとなったのが未知との戦いであって、後発のソ連にはその戦いはない。

 すでに人の手で原爆が作れると知っているのだ。
 後はその方法を考えれば位だけなので、時間は先行者よりもかからない。
 できないのはその方法を知らないだけ、そう不知だというのだ。
 知らなければ片っ端からいろいろと試せばいい。
 どうせ試せる内容もある程度専門家ならば限られてくるのだ。
 そんな感じで米国の予想を裏切りわずか数年で原爆を完成させたという話だ。

 それだけに未知との戦いは過酷だが、不知との戦いはそれほどでもない。
 俺たちは他国がいまだに発想すらないうちに不知との戦いをしている。 
 その成果が俺たちの力の源泉なのだが、先にも上げたように俺たちには明らかにマンパワーが不足している。

 そのために教育そのものを変えていくことにする。
 そう教育も不知どころか大体のところは俺の知る義務教育の範囲だけで十分なのだ。
 とにかく始める。
 そこからだ。

 俺は日々の政の合間を縫って、人集めに奔走していた。
 先に幸との約束したように、時間の合間を見て賢島に出向き直接紅谷さんのご隠居に俺の考えを説明して協力を仰いだ。

 幸いにしてご隠居はすぐに俺の意図することを理解して無条件で協力を約束してくれた。
 ……あ、条件を一つだけ提示されたんだわ。
 そこで育った人を少しでいいので紅谷にもと言われた。
 なんでも丁稚中から数人出すので鍛えてくれだとか。

 人まで用意されたんでは断る理由もない。
 俺はそのまま幸に丸投げして賢島を離れた。
 その後は、今まで苦労して作り上げてきた航路を十二分に利用して領内各地に出向き寺に寺子屋の設置と孤児たちの収容施設を準備させた。

 伊勢や志摩は俺の領地でもないが、九鬼さんたちは快く協力してくれる。
 時々あっちこっちと走り回る張さんを捕まえては商売の状況も確認している。
 酒やせっけんに焼き物など結構幅広く商材を作ってはきたのだが、最近の商売の主力は流通業らしい。

 稼ぎの大部分をあの航路から生み出している。
 俺たちが作ってきた商材の商いがうまくいっていないのではない。
 それ以上に流通業が盛んになっている。
 八風峠の馬借も道の舗装も完成したこともあり、かなり盛んにはなっているが、それ以上に船便の方が稼ぎがよい。

 まあ、運べる量が違うからだろうが、何より、淀のハブ機能が充実したことの方が大きそうだ。
 それに何より南近江を信長さんが領したことで最近ますますあの辺りの商売が盛んになっている。

 とにかく今では少なくとも畿内では戦の心配がなくなった。
 しかし、いまだに京を中心として公家たちの邪魔が入る。
 こればかりは如何ともしがたい。
 いっそのこと京を放棄してとも考えたのだが、それだとまた京から荒れだすこと必至だ。

 面倒な足利を追い出したが、公家あたりが面倒な御仁を呼び込んで面倒を起こす。
 主上や一部公家だけを残して全部排除したいと考えているけど、流石に千年もの長きにわたり生き抜いている化け物ぞろいだけあって、なかなか直接的な手が出せない。

 古より藤原一族がしてきたように主上を囲い込んでいくしかないと、最近になってやっと俺は覚悟を決めた。
 とりあえず俺は義父である太閤殿下とそのご友人でもある松永弾正、それに信長さんとの話し合いの場を持つように調整を始めた。

 元々の始まりが糞親父松永弾正のたくらみから始まったのだ。
 もう、俺は覚悟を決めたのだから好きなようにさせてもらうが、弾正にもしっかりと俺のたくらみに付き合ってもらう。

 たくらみとは言ったけど正直いまだにどうしていきたいかすら決まっていない。
 俺が独裁者よろしく天下を収めることだけはないので、明治維新でも参考にしながら考えるしかない。

 この時代で通りがよさそうなところでは建武の新政か。
 主上に直接政を担になっていただき、参議などを集めて政を開いていくしか俺には思いつかない。
 ……しかし、参議って確か令外官だったような気が……気にしたら負けだ。
 いくら俺が先に征夷大将軍を令外官を理由に追い出したからといって、令外官そのものを否定したわけでもない。

 まるごと否定でもしようものならば太閤殿下をはじめ検非違使もダメになるはずだ。
 そう、気にしない、これが一番だ。

 とにかくこの時代には俺よりも頭の良い人がたくさんいるのだ。
 戦国の化け物と言われた弾正や信長さんも俺の味方……味方だよね。
 その人と、公卿を代表して太閤殿下にも参加してもらい基本明治維新だけど、公家たちには建武の新政とでも言っておこう。

 さしずめ永禄の新政か。
 これならば武士たちにも通りがいいかなって、ありえないか。
 今の幕府って基本建武の新政を否定した人たちで作られたような気が。
 なので、武士たちには維新とでも言っておこうか。

 永禄の維新、結構かっこがよいかも。
 て、永禄年間って俺の記憶が正しければとっくに終わっているような……あれって信長さんが新たな将軍様をおたてになった時に改元したはず。
 しかし俺のせいかは知らないが、信長さんはそんなことをしていないし、義明とか言ったっけかあのどうしようもない将軍様もまだ寺にいるはずで、前の将軍はとっくにどこかにやってしまった。

 色々とやらかした自覚はあるが、俺だけのせいじゃないけど歴史は俺の知るものから離れている。
 今更感が半端ないが、とにかく俺の周りにいる人だけでも幸せになるようには頑張る。

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