名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百七十二話 俺の覚悟と維新構想

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 その頑張りだけど、とっくに幕府が機能していないので、俺は覚悟を決めたのだ。
 とにかく頼りになる人を集めて話し合いを持とう。
 先の大戦から時間がたっていないこともあり、弾正さんも信長さんもまだ忙しそうだったけど、俺からの呼びかけに快く応じてくれた。

 場所は京にある太閤殿下の御屋敷だ。
 ここは俺が拠点を置いている検非違使の本部からも目と鼻の先にあり、その拠点には俺たち専用の船着き場もあるので、結構便利だ。

 本当は俺の屋敷で行えれば良かったのだが、太閤殿下をお呼びするのにはあまりに畏れ多い。
 殿下は別に構わんと笑っておられたのだが、俺の方が気持ち的にできなかった。

 船着き場が敷地内にあるので。秘密保持の観点からは俺の屋敷の方がよかったのだが、信長さんも弾正さんも大名行列なんかに興味が無かったので、船着場から太閤の屋敷まではわずかな供だけを連れて歩いて向かってもらった。

 京の市中にはそれこそ無数にいる忍びたちも今回の集まりには気が付かなかったようだ。
 本当に俺のところから太閤殿下の屋敷までは歩いてもすぐなので、目立たずに屋敷に全員が入ることができたのが忍びたちに気づかれずに済んだ要因だろう。

 まあ、お二人の領地からは船でここまで来れることも大きい。
 信長さんは安土の町中に俺たちが作った船着き場もあり、そこから船で来てもらった。
 弾正さんも、割と最近に整備できた木津川口にある俺たちの拠点から船だ。
 無事にお二人をお招きして太閤屋敷ではじめての会合を持った。

「殿下、この度はこのような企てにご賛同いただきありがとうございます」

「婿殿。
 此度は義理の息子とその息子に日ごろからよくしてくださるご友人を招いての会だ。
 無粋なことを言われるな」

 殿下は此度をあくまで政でないことを強調してくる。
 未だに京では公家たちの俺たちに対する風当たりが強い。
 とっくに京から追い出したのだが、未だに近衛の影響を強く残している。
 さすがに藤原長者だけあったということか。
 義父である太閤殿下も先の藤原長者だったはずなのだが、噂では政争に敗れての交代だったとかで、純粋な力関係ではいまだに近衛には及ばないとか。

 とにかく先の将軍暗殺による影響がいまだに残るようだ。
 その将軍だが、次の将軍も俺はさっさと京から追い出したのに、まだ俺たちの足を引っ張るとか。
 本当に征夷大将軍って碌なものではないな。

 応仁の乱以降大した力も無いのにさっさと名誉職にでもなっておけばよかったのに、過去の栄光にすがるとか、意味ないどころか世間に多大な迷惑をかけてきただけのことはある。
 鎌倉の世では将軍職など力がなくなっていたはずなのに、足利は余計なことをしたものだ。

 同じするならば徳川のように盤石な政治体制でも作ればいいのに、それもしないから幕府発足当時から世が落ち着いたことがない。
 本当に迷惑な幕府だ。
 俺は、いや、俺たちは足利の轍は踏まないようにしないと。
 そのために集まってもらったんだ。
 まずは俺の気持ちを伝えないと始まらない。

「では、義父のお許しが頂けたようなのでかたっ苦しいことを省いて世間話などしてまいりましょうか」

 俺はわざわざ太閤殿下を義父とお呼びして政ではないという殿下の気持ちを汲んで話を進める。

 俺から幕府不要論に近い話をさせてもらった。
 さすがに足利の世になってからも100年以上は経っている。
 鎌倉からでは500年近くはあっただろうか、幕府による政治を俺が否定したのだから、集まった人たちは五宮を除くと一様に驚いていた。

「空殿。
 貴殿は将軍など要らぬと申すのか」

「そうですね。
 今のままでは足利の将軍は不要でしょう」

「しかし、それでは……」

 さすがの弾正も二の足を踏んでいるのか今一切れがない。

「同じ令外官である私が言うのもなんですが、そもそも征夷大将軍という職はそれこそ関東以北を治めるための臨時の官職であったと記憶しております。
 古より連綿と続く律令の中にはありません。
 その関東の職であるはずの将軍が都で政をするからおかしくなるのではないでしょうか」

 もともと力のない足利が制度をきちんと作らないことが原因の一つであると思うが、そんなことはどうでもよくて、論点をすり替えていく。
 そんな俺の話を聞く殿下にも不安が残るようであった。
 まあ、義理とはいえ息子がかなり乱暴なことを言っているのだ。
 心配もするだろう。
 ここで五宮からの助け舟が入る。

「政の形を正すということは足利の世になる前に、一度当時の主上により試みられたことがあります」

「ああ、そうでしたね。
 私の記憶が正しければ建武の新政とか言われていたとか」

「いや、あれはまずい。
 国を割るぞ」

「そもそも当時の武士から反対されて失敗したのでは」

「ええ、私もそのまま当時のやり方を進めたいとは思いませんが、公家たちには新政の言葉のほうが受けが良いのではないでしょうか」

「確かに公家たちには聞こえはよいだろうが、すべての武士たちを敵に回すおつもりか」

「いえ、ですので維新と称しましょうか。
 基本は主上による親政を望みますが、主上に今まで通りお変わりにならずとも好いかと。
 政は有力武士や公卿を集めた席での合議で行えれば、主上にご迷惑を掛けずに親政が可能だと思います。
 すぐには無理でも、そのうち民たちの代表も加われば、より良いものになると思います」

「公卿に武士はわかるが民の参加など聞いたことがない」

「この国では、少なくともここ京に都がおかれてからは無いでしょうが、遠く離れた地には大昔からあったそうです。
 それこそ遣隋使よりもはるか前に遠く大秦国というのがあり、護民官という民の代表が政に参加していたともきいたことがあります」

「護民官とな」

 少々大げさに表現してあるけど間違えではないはずだ。
 ローマ帝国当時にあった役職でカエサルもこの職で力を付けた聞いたことがある。
 というよりもカエサルは護民官をはじめ重要な役職を一人で兼務して事実上の皇帝になったと本で読んだことがあるから、その時の記憶を頼りに簡単に説明した。
 カエサルが多大な権力を握るきっかけになったと記憶しているが、これから考える政でも公卿や武士から選出される役職で兼務させないことが大切だが、それ以前の話だな。

「話が壮大といえばいいのかよくわからなくなってきた」

「ええ、私も話を大げさに盛りましたので、お詫びします。
 話を戻して、幕府による政ではこの先が見えません。
 新たな政の形を模索したいと考えております」

「その新たな政というのが公卿と武士との合議だと言うのだな」

「はい、私はそのように考えましたが、それをここで押し付けるつもりはありません。
 ですので、皆様のお知恵をお借りしたくて集まってもらいました」

 俺がいきなり飛ばしたので危うくこの場がしらけきってしまいそうだった、五宮の機転で救われた。
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