303 / 319
第七章 公家の政
第二百七十二話 俺の覚悟と維新構想
しおりを挟むその頑張りだけど、とっくに幕府が機能していないので、俺は覚悟を決めたのだ。
とにかく頼りになる人を集めて話し合いを持とう。
先の大戦から時間がたっていないこともあり、弾正さんも信長さんもまだ忙しそうだったけど、俺からの呼びかけに快く応じてくれた。
場所は京にある太閤殿下の御屋敷だ。
ここは俺が拠点を置いている検非違使の本部からも目と鼻の先にあり、その拠点には俺たち専用の船着き場もあるので、結構便利だ。
本当は俺の屋敷で行えれば良かったのだが、太閤殿下をお呼びするのにはあまりに畏れ多い。
殿下は別に構わんと笑っておられたのだが、俺の方が気持ち的にできなかった。
船着き場が敷地内にあるので。秘密保持の観点からは俺の屋敷の方がよかったのだが、信長さんも弾正さんも大名行列なんかに興味が無かったので、船着場から太閤の屋敷まではわずかな供だけを連れて歩いて向かってもらった。
京の市中にはそれこそ無数にいる忍びたちも今回の集まりには気が付かなかったようだ。
本当に俺のところから太閤殿下の屋敷までは歩いてもすぐなので、目立たずに屋敷に全員が入ることができたのが忍びたちに気づかれずに済んだ要因だろう。
まあ、お二人の領地からは船でここまで来れることも大きい。
信長さんは安土の町中に俺たちが作った船着き場もあり、そこから船で来てもらった。
弾正さんも、割と最近に整備できた木津川口にある俺たちの拠点から船だ。
無事にお二人をお招きして太閤屋敷ではじめての会合を持った。
「殿下、この度はこのような企てにご賛同いただきありがとうございます」
「婿殿。
此度は義理の息子とその息子に日ごろからよくしてくださるご友人を招いての会だ。
無粋なことを言われるな」
殿下は此度をあくまで政でないことを強調してくる。
未だに京では公家たちの俺たちに対する風当たりが強い。
とっくに京から追い出したのだが、未だに近衛の影響を強く残している。
さすがに藤原長者だけあったということか。
義父である太閤殿下も先の藤原長者だったはずなのだが、噂では政争に敗れての交代だったとかで、純粋な力関係ではいまだに近衛には及ばないとか。
とにかく先の将軍暗殺による影響がいまだに残るようだ。
その将軍だが、次の将軍も俺はさっさと京から追い出したのに、まだ俺たちの足を引っ張るとか。
本当に征夷大将軍って碌なものではないな。
応仁の乱以降大した力も無いのにさっさと名誉職にでもなっておけばよかったのに、過去の栄光にすがるとか、意味ないどころか世間に多大な迷惑をかけてきただけのことはある。
鎌倉の世では将軍職など力がなくなっていたはずなのに、足利は余計なことをしたものだ。
同じするならば徳川のように盤石な政治体制でも作ればいいのに、それもしないから幕府発足当時から世が落ち着いたことがない。
本当に迷惑な幕府だ。
俺は、いや、俺たちは足利の轍は踏まないようにしないと。
そのために集まってもらったんだ。
まずは俺の気持ちを伝えないと始まらない。
「では、義父のお許しが頂けたようなのでかたっ苦しいことを省いて世間話などしてまいりましょうか」
俺はわざわざ太閤殿下を義父とお呼びして政ではないという殿下の気持ちを汲んで話を進める。
俺から幕府不要論に近い話をさせてもらった。
さすがに足利の世になってからも100年以上は経っている。
鎌倉からでは500年近くはあっただろうか、幕府による政治を俺が否定したのだから、集まった人たちは五宮を除くと一様に驚いていた。
「空殿。
貴殿は将軍など要らぬと申すのか」
「そうですね。
今のままでは足利の将軍は不要でしょう」
「しかし、それでは……」
さすがの弾正も二の足を踏んでいるのか今一切れがない。
「同じ令外官である私が言うのもなんですが、そもそも征夷大将軍という職はそれこそ関東以北を治めるための臨時の官職であったと記憶しております。
古より連綿と続く律令の中にはありません。
その関東の職であるはずの将軍が都で政をするからおかしくなるのではないでしょうか」
もともと力のない足利が制度をきちんと作らないことが原因の一つであると思うが、そんなことはどうでもよくて、論点をすり替えていく。
そんな俺の話を聞く殿下にも不安が残るようであった。
まあ、義理とはいえ息子がかなり乱暴なことを言っているのだ。
心配もするだろう。
ここで五宮からの助け舟が入る。
「政の形を正すということは足利の世になる前に、一度当時の主上により試みられたことがあります」
「ああ、そうでしたね。
私の記憶が正しければ建武の新政とか言われていたとか」
「いや、あれはまずい。
国を割るぞ」
「そもそも当時の武士から反対されて失敗したのでは」
「ええ、私もそのまま当時のやり方を進めたいとは思いませんが、公家たちには新政の言葉のほうが受けが良いのではないでしょうか」
「確かに公家たちには聞こえはよいだろうが、すべての武士たちを敵に回すおつもりか」
「いえ、ですので維新と称しましょうか。
基本は主上による親政を望みますが、主上に今まで通りお変わりにならずとも好いかと。
政は有力武士や公卿を集めた席での合議で行えれば、主上にご迷惑を掛けずに親政が可能だと思います。
すぐには無理でも、そのうち民たちの代表も加われば、より良いものになると思います」
「公卿に武士はわかるが民の参加など聞いたことがない」
「この国では、少なくともここ京に都がおかれてからは無いでしょうが、遠く離れた地には大昔からあったそうです。
それこそ遣隋使よりもはるか前に遠く大秦国というのがあり、護民官という民の代表が政に参加していたともきいたことがあります」
「護民官とな」
少々大げさに表現してあるけど間違えではないはずだ。
ローマ帝国当時にあった役職でカエサルもこの職で力を付けた聞いたことがある。
というよりもカエサルは護民官をはじめ重要な役職を一人で兼務して事実上の皇帝になったと本で読んだことがあるから、その時の記憶を頼りに簡単に説明した。
カエサルが多大な権力を握るきっかけになったと記憶しているが、これから考える政でも公卿や武士から選出される役職で兼務させないことが大切だが、それ以前の話だな。
「話が壮大といえばいいのかよくわからなくなってきた」
「ええ、私も話を大げさに盛りましたので、お詫びします。
話を戻して、幕府による政ではこの先が見えません。
新たな政の形を模索したいと考えております」
「その新たな政というのが公卿と武士との合議だと言うのだな」
「はい、私はそのように考えましたが、それをここで押し付けるつもりはありません。
ですので、皆様のお知恵をお借りしたくて集まってもらいました」
俺がいきなり飛ばしたので危うくこの場がしらけきってしまいそうだった、五宮の機転で救われた。
11
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる