名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百七十三話 そもそものところ将軍職って何

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「確かに空殿の言い分もわかる。
 足利の将軍ではこの国を治め切れていなかった。
 わが主三好長慶殿も常々それを憂いておられたのだが、その都度将軍や管領が邪魔をしてきたのだ」

 松永弾正は懐かしそうな顔をしながら昔の主のことを語り始めた。
 信長さんは信長さんで思うところがあるらしい。
 信長さんは強大な力で、とにかくこの国を一つにまとめてしまえと考えているようだった。

 まあ、俺の知る歴史でも信長さんは天下布武を掲げて武力による統一を目指していた。
 お隣中国の戦国時代を統一した始皇帝にでもあやかろうとでもしていたのかもしれない。
 何せ井口や稲葉山城辺りを岐阜と改名したくらいだからな。
 岐阜の謂れは岐山という中国の山に関する逸話からとったと聞いている。

 今の俺と信長さんの考えの違いは、武力での統一後に仕組みを考えるのか初めから仕組みを考えながら統一を目指すのかだ。
 そのあと酒でも飲みながら新たな世の在り方ついて話し合った。

 当然結論など出ない。
 俺もそこまで期待はしていない。
 要は、この人たちにこの先についての展望を考えてもらいたかっただけの話だ。

 俺の考えは的を射たようで、数日後に太閤殿下から呼び出しを受けた。
 急ぎ太閤屋敷に向かうと、そこには太閤の他にくそおやじ松永弾正は予測の範囲だったのだが、もう一人珍しい御仁が控えていた。

 大納言の山科卿だ。
 前に対近衛のクーデターの時に大変お世話になった公卿の一人だ。
 打ち合わせの時にお呼びしなかったのは正直俺の落ち度だと、この時に悟った。
 はっきり言ってあの時は公家対策については後々でもいいと考えていたのだ。

 あの時はといっても今でもそうだけど、将軍職を俺にという空気を完全に払拭したいという気持ちしかなかったので、俺を担ぎ上げたいとする二人にネゴをしただけの話だった。

 この場に山科卿が来た理由については挨拶をした後すぐに説明してくれた。
 信長さんからの情報で、俺が先にぶち上げた維新構想について話が聞きたいとのことだった。

「中将殿。
 先に面白いことをお考えと尾張の弾正忠信長殿よりお聞きしたのですが、新政を目指すとか。
 しかし、あれはお武家様により潰された試みだったかと」

「ええ、そのようにもしゃべりましたが、どうも誤解があるようです。
 建武の新政は今考えても成功しなかったでしょう。
 何より、力を有する地方武士の賛同は絶対に得られなかったものですから」

「それなら……」

「ですから誤解だと申しております。
 私の目指す政には武家だけでなく、公家にも参加してほしかったのでわかりやすい例として新政を挙げましたが、これですと武家からは絶対に賛同が得られないでしょう。
 ですので、私は維新と称しております。今後は新政という言葉を使わずに維新という言葉を使っていきます」

「して、その維新とは」

「これは主上の下、武家の代表と公家の代表が集い合議を行い、その結果をもって政を行う政体を作りたいと考えております」

「幕府を作るつもりがないと」

「ええ、幕府とはしょせん朝廷が古より蔑さげすんできた関東以北の地を治めるための臨時の役職だとか。
 坂上田村麻呂が現地の英雄の助命を願っても、もとより蔑んできたので現地を知らぬ京の公家たちは坂上卿の……」

「中将殿」

「あ、すみません。
 私は成り上がりものですから、どうしてもこういう権力を持つ人たちの傲慢とも現場を知らなすぎとも取れることについて許せなく思ってしまいます。
 失礼なことを申しまして……」

「いえ、そこまでには及びませんよ。
 私が知る限りあの件に決定には公家たちの間にも賛否両論があったようですから。
 何より、当時の征夷大将軍であった坂上田村麻呂殿が助命を願っておりましたし、おそらくでしょうが政争があったのでしょうね。
 それよりも。幕府を作らずに政を行うとは……」

「問題ないでしょう。
 先にも申しました通り、臨時に置いた組織で将軍そのものも令外官ですし。
 あ、同じ令外官である検非違使の私が言っていいことでもありませんね」

「令外官など問題にはなりませんよ。
 それよりもこの日の本がそれで治まるとお考えで」

「ええ、歴史を知っているものからすれば、そもそも幕府というよりも将軍職についてですが、力を持っていたのは源の初代将軍の他には足利で三代目から少しの間だったはず。
 それ以外は力を持つ者の政治闘争だったと記憶しております」

「そういう見方もできますな。
 しかし、権威というのは厳然として存在したのもまた事実だったはずでは」

「その権威が問題だと私は考えております。
 力のない者に権威だけ持たせるから争いが収まらない。
 また、その権威も主上からの借り物のはずならば、実情に合わないようなら実情に合わせて主上に政をお願いできないかと。
 とはいっても、実際に政を行うのは合議に基づき、各地にいる武家に任せることになりますが」

 こんな感じで、俺の考えた維新について説明していく。
 正直詳しく考えてもなかったので、その場での思い付きがほとんどだから、矛盾だらけの説明になった。

 それでも山科卿は何かしら思うところがあったようで持ち帰り私も考えてみますと返事をされて太閤屋敷を後にされた。
 後に残った俺たちは、その場で少し話し合った。

「空殿や。
 少し性急ではないかな」

 弾正からそういわれると太閤殿下も同様なようで、同じようなことを言ってきた。

「ええ、私もそう思います」

「なら、なぜ……」

「そうですね。
 今から準備だけでもしませんと間に合わないかと思っております」

「準備?」

 ここから俺の考えを説明していく。
 正直このまま世の中が落ち着くはずはない。
 ただでさえヨーロッパからのちょっかいも入ってきているのだ。
 とにかく国をまとめないと話にならない。

「すでに討幕を私たちがしたようなものですから、一度武力で国をまとめませんと収まらないでしょう」

「ああ、そうだな。
 それが難しいのだが」

「ええ、ですが、ここまで荒れておりますから武力で統一を目指します。
 これは鎌倉の世を壊した後の混乱を足利が治めた時にもありましたから」
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