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第七章 公家の政
第二百七十六話 永禄十三年 葵からの提案
しおりを挟む宮中での年始行事も無事に終わり、いよいよ武士としての年始の始まりだ。
俺の屋敷には九鬼さんをはじめ主だったメンバーがそろっている。
久しぶりに張さんと珊さんにあった気がする。
とにかく、年始の挨拶を偉そうにお誕生日席で受ける。
正直、なんでこんなことをしないといけないんだとも思わなくもないが、とにかくやたらと寒い大広間で、順番に挨拶を受けて、その後は場所を変えての宴席だ。
これまた人数があるのでやたらと広い部屋だ。
俺の屋敷にこんな部屋あったっけかとも思わなくもないが、とにかくそこで和やかに宴席が始まる。
俺からは酒をふるまうことになっているので、初めの乾杯だけは俺が音頭を取ったが、その後は無礼講だ。
とにかく、たくさん準備してあるので、飲ませることにした。
うるさそうな連中はさっさと潰すに限る。
俺に絡んできた酔っ払いもいなくもなかったのだが、流石俺の周りには優秀な者たちばかりで、騒ぎになる前に上手に排除された。
ある程度宴席に付き合ってから俺は奥に入る。
奥では俺の奥さん連中が珊さんや九鬼さん半兵衛さんそれに藤林さんと待っていた。
そこで内輪の挨拶を済ませて、話を始める。
「今年はとにかく内側を固めたい」
「内政に力を注ぐというのですね」
半兵衛さんが俺の希望を聞いて、答えてくれた。
「若狭については葵たちにこのまま任せたいが、大丈夫か」
「はい、旦那様」
恥ずかしそうに時初めて俺のことを旦那様と呼んできた。
恥ずかしいのならいつもの通り空さんとでも呼べば良いのに。
「葵様の采配で何ら問題などありませんが、このまま葵様に若狭を任せますか」
半兵衛さんが俺に聞いてくる。
「いや、とにかく俺たちのやり方になじめば三蔵村のように、地元の人に任せてもいいが、それとも誰かいい人いるかな。
半兵衛さんもこのままとはいかないよね」
「ええ、今年は一度自分の領地に戻りたいと考えております」
「いっそのこと半兵衛さんが若狭を見てみますか」
「若狭一国を某に」
「はい、正直誰かに任せませんと、とは考えておりますから」
「非常にありがたいお話ですが、ちょっと……」
「そうだよね。
越前も一国抑えれば、内政は半兵衛さんに頼みたいし、いっそのこと越前もつけるけどどうかな」
俺の言葉に周りが引いた。
流石にここまでの丸投げだと、俺のことをジト目で見てきた。
誰も何も言ってくれない。
まあ、いつものことだと流されているのだろう。
ここに集まった人たちとの付き合いは深い。
時間的にはわずか数年だけど、その数年で俺たちは大きく変わった。
その間にそれこそ多数の配下も増えているが、俺の知らない人ばかりで、任せるまでにはいっていない。
どちらかというと内政が得意でない九鬼さんが大国伊勢志摩を領していても問題ないのは最初に俺たちが一生懸命に政を変えてきたために、そうそう大きな問題は起こらなくなっている。
何より、不良浪人など取り締まり、治安をとにかく必死で改善していったので、天候不順でもない限り、いや、天候不順があっても蓄えがあるので、どうにかなるレベルだ。
あそこは今の日本では異質ともいえる空間だ。
なので、あそこはそのまま九鬼さんに任せるとして、正直集めた優秀な配下の人たちを勝手に俺が使わせてもらっている。
とにかく俺は前に殿下たちに話した構想をここでみんなに説明してみた。
流石に長い付き合いのある人だけあって、驚きはしていたようだが、馬鹿にするような視線は向けられてないない……と思いたい。
「空殿。
いよいよ天下をお取りになるのですね」
「え?
俺の話を聞いていたのかな、九鬼さんは。
どこに天下を取るって言っているんだ。
俺はこの国を一つにまとめ、公家も併せて合議で政をしたいと言っているんだよ」
「某は頭の出来があまりよくないのか張殿のようにはいきませんが、空殿が天下を治めて政をしたいというお気持ちだけは伝わりました」
「ああ、もういいよ。
そうだよみんなで政をしていきたい。
そこには九鬼さんも入るのだから、そのつもりでいてくださいね」
「え、某よりも張殿の方が良いのでは」
「だから合議なんだよ。
張さんも参加してもらうから。
俺の奥さんだからって、奥からの政ではないよ。
きちんと合議に参加してもらい意見を貰うつもりだからね」
「わかりました、旦那様」
張さんも俺のことを旦那様と言ってきたが、これは葵が俺のことをそう呼んだからからかいの気持ちがあるようで、顔が笑っている。
くそ~、みんなして馬鹿にして。
とにもかくにも俺の考えをこの場で披露してみた。
当然、誰も初めての試みとあって、不安もあるだろうし、疑問もある。
配下を代表して頭脳派の半兵衛さんから質問があった。
「空殿は幕府そのものを否定なさるという訳ですね」
「ああ。何度も言うが、皇室に直接政を取ってもらう形にしていきたいが、当然長らくある風習も考えて、主上にいかなる政の結果責任は及ばないようにも検討していく」
「それが衆議による政だと」
「ああ。
今考えているのは、公卿の代表と武家の代表を幾人か選び、衆議により決めたことを奏上して裁可を仰ぐ形だ。
これならば主上においては現状とそう変わらないと思うのだが、そのあたりについても五宮を通して太閤殿下や山科卿に話をもっていっている」
「武家の代表というのは……」
藤林さんが質問してきた。
「当然われら側からは九鬼さんだな。
それと弾正や織田の弾正忠も入れなければとは思う」
「その大名たちを束ねて空さんがという形ですね」
「いやいや、違うぞ。
それだと俺が将軍職を拝命して幕府を開くのと変わりがない。
できれば参加はしたくもないが、そうもいかないことくらいはわかっているから俺は公卿として参加する方向で考えている」
「え、それは……」
「確かに、そう言えなくもないですか……ね?」
受け取り方はそれぞれで違ったが、俺が政に参加すると表明したことで安心感が漂っている。
あれ、なんでだ?
そういえば今まで一度も政に積極的に参加するなんて表明したことは無かった。
確かに具体的な案件についてあれこれと指示は出したけど、嫌々なのが見え見えだったようで、今回の意思表明で安心したようだ。
しかし、なんだかな。
しかし俺の言を受けて安心したのか、色々と今年の抱負など意見が出始めた。
場が盛り上がってくると。葵から提案が出されたので、驚いた。
「旦那様。
若狭の件ですが、ご提案があります」
「え、若狭については葵と半兵衛さんに任せているから戦でもない限り俺にいちいち聞かなくとも……」
「いえ、空殿。
葵殿と相談してまいりましたが、これは配下の処遇に関することですので、空殿のご裁可が必要になります」
「なんだか大ごとのようだけど、何かな?」
「はい、配下の禄についてですが、禄高銭払いをしてまいりたいと考えております」
「禄高銭払い?
あれ、これってひょっとしてかな」
「はい、まだ配下には俸禄の提示はしてまいりましたが、まだ領地を与えてはおりません。
いっそのことこのまま禄米を支給で済ませようかとの意見もありましたが、それならば私たちが一番得意な銭で払えばと思いつきました」
「おお、それは良さげだな。
元からしてわれらは傭兵、銭払いが基本だったし、越前でも取り入れてはくれまいか。
われらはその方が楽だ」
とすぐに、雑賀を率いる孫一さんが食いついた。
確かに俺たちは銭の方が楽だ。
一応レートを決めないといけないが、銭払いの方が絶対に良い。
何より、希望があるのならば決めたレートで禄高に応じて年貢米から支給すれば良いだけの話だし、いや、年貢に頼らなくとも俺たちが取引をしているところから買い取れば済むだけだ。
これならば飢饉でも配下には影響は最小限で済む。
そういえば俺の知る歴史では浅間辺りがそろそろ噴火をしていたとも聞いたこともあるし、越前などは絶対にその方がいいはずだ。
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