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第七章 公家の政
第二百七十九話 姫路の黒田家
しおりを挟むとにもかくにも播磨の中でもそこそこの勢力を持つ赤松や櫛橋両家の領地を抑えたので、俺たちが代わりに治めていかなければならない。
直接両家が収めていた領地はまだいいが、彼らが抱えていた地頭たちの領地もそのままにはできない。
まずは近場からで、櫛橋配下の地頭たちを京屋敷まで集め、説明する。
「このまま地主としてだけならば土地の所有を許そう、だが、領主としては一切認めない。
それが嫌ならばこの場からすぐに戻り、戦準備でもしておけ」
櫛橋家は、当主自ら公家を馬鹿にしていた。
当然そんな空気は配下にも影響を与える。
俺からの呼び出しでも完全になめ切っており、地頭自ら出向いたのはわずかに一家だけで、欠席したものは4家にも及ぶ。
俺は、そんなことは気にせずに、次の手を放つ。
欠席した家は生存を諦めたと考えよう。
俺は東宮より綸旨を頂き欠席した家に向かい、使者と同時に孫一さんを大筒の部隊と一緒に向かわせた。
後は孫一さんに任せるが当主の切腹は必至だ。
女子供まではさすがに殺めないだろうが、そのあたり全ての判断を孫一さんに任せているので後は知らない。
とにかく順番に処理していく。
先の櫛橋家の地頭だが、結局俺たちに帰順したのは地頭自ら出頭した一家のみで、残りのほとんどがお取り潰し。
潰されなかったのも地主としてしか残れていない。
先に抑えた櫛橋、赤松両家が直接支配している地には、大和の弾正さんから人を借りてうちから数人の貴族を回してどうにかしているが、真剣にこの辺りについても考えないとまずい。
貴族も、うちから出している人たちは全員が五宮の下で、仕事をしていた人だから、人柄もよく知っており、また俺たちのやりたいことも理解しているから問題ないが、全く俺たちを理解していない貴族たちが騒ぎ出し始めているのが気になる。
いっそのことそのまま預けて問題を起こしたら罰する方向でもいいがそれだと領民に要らない被害が出るので、正直躊躇している。
最後は領民に泥をかぶってもらうしかないかもしれないが、その場合、後できちんと補填も考えよう。
とにかくこの夏は播磨にかかりきりだ。
ひとまず櫛橋と赤松の当主二人の島流しで、京での仕事は終わる。
朝敵として二人をさばいて、東宮の戦果としてある。
しかし、それだけで先の件が終わるはずもない。
ひとまず人を送って、赤松家と、櫛橋家の両家の直接支配地の差配はこれ以上やることもなく様子見になるが、分家筋や配下の地頭が抑えている領地をそのままにはできない。
俺が播磨に送った孫一さんは順調に仕事をこなしている。
先に欠席した地頭はすぐに屋敷ごと吹っ飛ばしたようだ。
同じように弾正から借りている本多さんも孫一さんに負けじと赤松家の分家をどんどん取り込んでおり、この調子ならば刈り入れ前には両家の措置は終わりそうだ。
尤も終わるのは地頭の処理だけで、政についてはほとんど手つかずだ。
人を弾正だけでなく信長さんにまで借りてやりくりをしているのだが、流石に播磨一国ではないとはいえ、播磨の有力豪族を二ついっぺんに潰したので、その影響は大きい。
しかし、惣無事令のスキームを使う以上ほとんどの場合が二つ以上になってしまう。
いきなり惣無事令の禁を破り襲ってきた敵を俺たちに報告の上、自衛した場合にはその限りではないが、この戦国の世の習いで、ただでさえ権威の落ちている、いや、無くなったと表現もできるくらいの公家連中からのお達しでは、まず相手をしないだろう。
何せ、俺たちが出しているのはほとんどが綸旨だ。
しかもこの綸旨は戦国の世の前にあった戦乱時代の南北朝で相当乱発されたらしく、古くからある家では偽の綸旨を含め一通か二通くらいは所持してようかというものだ。
そう、自分たちの利益が絡むと全く相手にされない代物だ。
それでいて、大義名分として使いたがるから、いまだにある程度、政治的な意味合いくらいしかないが、効果はある結構厄介な代物ときている。
まあ俺たちも、同様に使っているので人のことは言えないが、それだけに少なくとも播磨国内では混乱している。
どうにか、生贄の赤松櫛橋両家の措置が終わろうかという時になって、赤松ほどの権勢は無いが播磨の有力な勢力の一つである小寺家から人がやってきた。
小寺家の家老職で姫路城の主である小寺職隆が息子の考高を連れて京の屋敷までやってきた。
「近衛中将殿。
此度は播磨の仕置き、無事済みましたことお喜び申し上げます」
「ありがとう。
お礼言上はそのまま受け入れよう。
だが、そなたたちの要件はそれだけではないのだろう。
申し訳ない、小寺殿。
私は、何分育ちが悪くて、礼儀に疎い。
礼儀に沿っての腹の探り合いは遠慮願いたい。
礼儀にかなわなくて申し訳ないがお許しくだされ。
いきなりで悪いが、要件をお話し願えないだろうか」
「これは中将殿のお育ちが悪いとは、冗談でも信じられませんが、お忙しいのでしょうね。
しからば失礼ですが、要件をお話しさせてもらいます」
そう言ってから、一通の書を懐から取り出し、差し出してきた。
血判状とでもいうのだろうか。
領地を差し出し、俺たちに従うというもののようだ。
未だにあのミミズ文字は苦手で差し出された手紙の全部を読み切れてはいない。
分かるところだけを読んでみるとそんなことが書かれている。
後で、俺の配下の者たちに見せて、内容を確認後に返事をしないとまずそうだ。
「これは思い切った決断をされたようですね。
この話はそなたたちのご当主もご理解していると」
「いえ、当家だけの判断です」
「え、それでは謀反ともとられかねませんが」
「謀反と判断されてもかまいません。
当家、小寺改め黒田家の存続を考えたうえでの判断です。
書だけでは信用していただけないかと、此度は嫡男を連れてきております。
ご自由に引き回し下さい」
そう言って、連れてきている嫡男を紹介し始める。
見事な青年だが、戦国武将を見慣れている俺から見ると若干だが線が細いような気が……あ、うちの半兵衛さんや弾正のところの本多さんに近い気がする。
そういえば昔聞いたことがあるような気がする。
播磨の小寺なんて言ううちは知らないけど、黒田と聞けば知らないはずはない。
が、本当に目の前の人のどちらかがが官兵衛さん?
しかし、官兵衛さんだとしてどっちがその官兵衛さんなのだろうか。
「黒田孝高と申します。
近衛中将殿の御高名はかねてから聞き及んでおりました。
私どもは再三にわたり御当主でありました小寺様にはご注進申し上げておりましたが、聞き入れてもらえず、あまつさえ近衛中条殿に歯向かうような気配すらありました。
これでは小寺家もろとも存続が危ういと当家の存続を考え、父と相談したうえで、此度の仕儀と相成りました。
どうか私どもの帰順をお受けください。
中将殿の政に合わせるべく、当家の領地は一切を放棄し、献上いたします。
当家の希望はただ一つのみ、黒田家が武家として面目が立つようお願い申し上げます」
うん、御当主の方だとお年が合わないような気がするし、何より先のあいさつの言い様が昔大河ドラマで見た秀吉との初会見の場に似ているような気がするから、俺の中では嫡男の方を官兵衛さんと認定しよう。
「よし、分かった。
小寺家、黒田家どっちで呼べばよいかわからんがそちたちの帰順を認めよう。
また、官兵衛さん……違った孝高さんだったっけか、さっそく仕事を申し渡す。
といっても、どうもうちは他の大名家とは毛色が違いすぎるようで、まずうちの家風になじんでもらわないといけないから、うちの半兵衛さんのところで少し手伝ってほしい。
その手伝いでうちの仕事を学んでくれたら助かる」
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