318 / 319
第七章 公家の政
第二百八十八話 渡る戦国の世は面倒ばかりだ
しおりを挟む播磨は俺の想定通りか、やや早いくらいで統治が進んでいるので問題ないが、摂津の豪族たちが問題だ。
最大の勢力を誇った本願寺がいよいよ摂津を出ていくと聞いた彼らは相当慌てたようだ。
気の早い馬鹿どもはまだ何も変わっていないのにも拘わらず本願寺に攻め込むものまで出る始末。
「豪族が本願寺に攻め込むのなら、こちらで処理をする」
これは、本願寺との約定で俺たちには関係ないとばかりに無視はできない。
本願寺との約束で、武力を持っての争いには俺たちが守ると言ってはある。
だが、その約定は本願寺を明け渡した後に条約発効になると俺は考えているが、まあ、相手も相手なのでこちらからすぐに鎮圧の兵を出してそのまま攻め込んできた豪族を潰していく。
本願寺の明け渡しをもって摂津の攻略を始める予定が馬鹿どものせいで予定が早まる。
豪族討伐の方は、当然と言えば当然の話で、簡単に処理できた。
ついでもあるので、討伐した豪族はそのままお取り潰しで俺たちが直接統治することにしているが……
忙しいさなかに面倒ばかりだ。
面倒でもどうにかこうにか時間を作り処理していると、更に他からの面倒ごとが……
「殿~、一大事でございます」
そう駆け込んできたのは雑賀衆の一人だ。
ものすごい勢いで駆け込んできた雑賀衆の一人は、とんでもないことを言ってきた。
「明石氏がこちらの条件を知った上で、こちらにと」
かなり表現に気を使っているようだが、本願寺の一件でかなり危機感を抱いているようで、また、播磨の豪族たちもこちら側に着いた者たちの扱いがことのほかよさそうだということらしいが、全てを飲んで俺らに属すると言ってきたとのことだ。
どういう経緯があるのか知らないが、雑賀と明石とは繋がりがあったという。
尤も瀬戸内を介しての商売上での話らしいが、そんなか細い伝手を使って摂津でそれなりの勢力を誇る明石が俺たちに降ると言ってきたのだ。
明石氏は最近になって特に、本願寺に攻め込んだ豪族を潰した後辺りからかなり頻繁に俺に接触を試みていたという。
俺は先に決めた通り、一切の面会はしてこなかったが、ついにしびれを切らしたのか、孫一さん経由ではないが、俺と付き合いの深い雑賀を通して軍門に降るという決断を伝えてきたという。
条件は他と一切変わらずで、色を付けるとしたら俸禄の多寡と役職位だが、摂津で最初の大物だし、うちから事務方を出すことを条件に摂津国の治安を任せることで納得してもらい、晴れて明石氏は俺の軍門に下った。
まあ、俺の軍門と言ってもどこかの大名に属するのとは違って、一応播磨と摂津は主上の支配とする形をとっているので、周りに対しても言い訳も容易いとか。
そこからは、ドミノ倒しじゃないが、摂津国は播磨以上に速いペースで、攻略が進んでいる。
少なくとも摂津のほとんどの豪族たちは俺たちに降るということらしいのだが、俺たちの方が追い付いていないので、現状受け入れ待ちの状態に近い。
しかし、本願寺との件が片付いたら、一挙に摂津播磨両国が落ちたと言える状況だ。
うれしい反面、2か国を領したことになる朝廷が、というよりも旧勢力ともいえる古い考えの貴族たちが、騒ぎ始めたのは気になる。
お前ら何もしないでどういう了見だ、と俺は思うのだが、彼らからすれば古からの権利とばかりに騒ぎ出しているとか。
そのあたりは山科卿が対応しているようだが、最悪国外にでもあいつら送るかとも考えなくもない。
どちらにしても、先はまだ見えない。
今更摂津に惣無事令を出すまでもないが、他の国への牽制にもなるらしく、此度出すことになり、それもまた俺を忙しくする原因ともなっている。
今朝廷より惣無事令を出しているのは摂津が成れば二か国となる。
和泉や河内などはもう弾正の領地になるし、任せても大丈夫だろう。
摂津に惣無事令を出す段になり、いよいよ畿内の平定を宣言しようかという空気が朝廷だけでなく、いや、俺らの仲間内からも出てきている。
俺としては畿内平定宣言などに興味は無いが、どうしても畿内の人には平和宣言の様に受け止められているようで、要は幕府が新たにできて平和になると言った感じで受け止められているとかで、俺にせっついてくる公家たちが最近特に鬱陶しい。
一度、山科卿辺りに相談しても山科卿の方が俺に対して、『そろそろどうだ』なんて言ってくる始末だ。
幕府なんか考えるだけで鳥肌が立つくらいおぞましいと思っている。
鎌倉の世から今まで確かにこの国の政治を司ってきたようだが、あくまでそれは為政者に限り有効である話であって、力のない庶民にとって本当に良い政治だったのかと言うと甚だ疑問が残る。
鎌倉や室町初期については良く知らないので、コメントすらしないが、少なくとも俺が京に入った時の幕府は反社の連中よりも始末が悪い。
押し込み強盗が警察官をしているような状況なんか考えるだけで恐ろしい。
そんな社会だ。
中央がそんな状況だから地方に行けば行くほど好き勝手をする連中が沸いてくる。
中には優れた地方領主もいただろうが、ほとんどの者が自分らの欲望に任せておよそ政と呼べないようなことをしている者だから、下に行けば行くほど酷くなる。
俺は最下層に身を落としたようなものだったから、その時のみじめさは良く知っている。
あの時は玄奘様や張さんたちのおかげで、そこまでひどくは扱われなかったのだが、それでも周りは酷いものだった。
それもこれも幕府がまともに政治をすること無しに欲望のまま生きていたためだ。
俺が京に来てそれがよく分かった。
だからこそ幕府なんかの臨時役所や令外官を作らずに、律令を改定してもきちんと法の定める役所を作り政をしていきたい。
そんなことを周りに話しても誰も理解してはくれないが、それでも少しづつだが話は進んでいる。
これはひとえに主上の直轄領を用意しているからだろう。
現金なものだ。
しかし、俺らが用意している播磨摂津の二か国は朝廷領ではなく、主上の直轄領として合議にて政を行う役所が管轄するように動いている。
しかし、幕府でなく、朝廷でない役所ってなんと呼べば良いのだろうか。
俺は五宮に聞いてみたが、そんな役所はありえないの一言だった。
東宮に参加してもらうことを考えているので、皇太子府、いや東宮府、それも違うか。
それに何より直接東宮が政には参加しないのでそれもまずそうだ。
結果責任が問われるような事態だけは避けないとまずい。
となると、政を行う中央の役所って……まつりごと、政治、政の府か……面倒だな、いっそのことそのままでどうだろうが。
「五宮、ちょっといいか。
そろそろ畿内だけでも政を行う役所を作ろうかと考えているのだが、古よりそんな役所ってあったのかな」
「それ、朝廷では」
「ああ、そうか、でも朝廷はまずい。
今の朝廷はそのまま残すから……となると……政の府として適当な名前でも考えないとまずいか」
「そのまま、政の府でよろしいのでは」
「そうか、なら言葉を縮めて政府でどうだ」
「政府……ですか、文字にするとそのままですが、言葉の響きも良い感じですね。
よろしいのではないでしょうか」
そうだよな、いちいち考えることなく俺の元居た世界から持ってくればいいんだ。
流石に京都府は無いが政府ならいいだろう。
実際政府と言う名の役所は存在してなかったし、全く新しい役所だ。
政府と言う名の役所……いや、それこそ政府を作り、政を始めていけるように準備を始める。
元から構想だけはできており、有力者の合議により進めていくので、その有力者さえ集めれば問題は無い。
公家からは俺も含め山科卿と後数人、武家からは畿内に領地を持つ有力者ってことで俺のところの九鬼さん、それに大和の弾正、それと畿内とは微妙な感じではあるが近江にも領地を持つ信長さんだ。
10
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる