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6日目
依頼 ②
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「今日はユーチ君の鞄のおかげで、ずいぶん得しちゃったよ。短い時間で三カ所も終えられたんだから、バンチ君に自慢できるね」
コブ君は依頼書を眺めながら、にっこり笑った。
依頼書には、回収後に排出場所を確認してもらった近所の人たちのサインが並んでいる。
子どもたちが普段から引き受けている依頼だからか、対応してくれた街の人たちは皆親切で、「ごくろうさま」と声をかけてくれた。
中には、初対面の私にまるで孫のように接して頭を撫でてくる人もいて、少し照れくさかった。
「あ、そうだ。今日のバンチ君のお昼分のお金を預かってきてたんだ。昨日、討伐隊に参加する冒険者のバルトさんを紹介してくれたお礼だって。銅貨2枚分なんだけど、屋台で何か買って食べよう」
「えっ、そんな、お礼なんていいよ。今朝のバルトさん、やる気なくて全然役に立たなそうだったし、バンチ君のお昼代を使うなんてできないよ」
私は慌てて、コブ君の言葉を遮った。
すると、コブ君はふふんと鼻を鳴らす。
「いいんだってば。バンチ君は討伐隊で用意してくれる食事を、冒険者たちと一緒に食べるんだってさ。すっごく楽しみにしてたんだよ」
「でも……」
「それにさ、屋台の焼きたてパン。あれ、めちゃくちゃ美味しいんだよ。でもちょっと遅くなっちゃったから、売り切れてるかも。早く行かないと!」
コブ君の顔は、もうすっかり“食べる気満々”で、私の断りの言葉なんて聞く気はなさそうだ。
「はやく、はやく」と急かすコブ君に手を引かれながら、香ばしい匂いが漂い、空腹を刺激する屋台通りへと向かう。
コブ君おすすめの焼きたてパンは、小麦の風味がしっかり感じられる素朴な味で、日本のふわふわパンとは違っていたけれど、ずっしりと食べ応えがあった。
一緒に買った、こってり味の串焼きとの相性も抜群。食べ終わるまでに少し時間はかかったけれど、働いたあとの空腹もあって、気づけば全部食べきってしまっていた。
「あれ? ユーチ君、『洗浄』の魔法を使えるようになったの?」
私が串焼きのタレで汚れた手や口元を魔法で綺麗にしていると、コブ君が驚いた声をあげた。思わず私は、自慢げに頷いてしまう。
まだ広い範囲には使えないけれど、意識した部分をきちんと綺麗にできるのだから、十分実用的だ。
嬉しくて、ニヤニヤと頬が緩んでしまう。
「ほんとにユーチ君は規格外だよね。自分が苦労して覚えたのを思い出すと、ちょっと悲しくなるよ」
そう言いながらも、コブ君は笑顔で私の成果を喜んでくれた。
「となると……十歳組でまだ『洗浄』を習得してないデシャちゃんの機嫌が心配だな。しばらくは内緒にしておいた方がいいかもね。僕からは絶対言わないから、ユーチ君も気をつけて」
確かに、マーザ院長から「『洗浄』の魔法が使えるようになるまで、冒険者登録は許可できない」と言われているデシャちゃんの前で、うかつに話すわけにはいかない。
悔しがる顔が、ありありと目に浮かぶ。
ほんとに、気をつけないと。
途中で、ホワンも食べられるぶどうに似た果物を見つけたので、ひとつ買ってコブ君におすそ分けする。
お腹がいっぱいな私は、ポケットから顔をのぞかせたホワンにそれを与えながら、となりで仲良く頬を膨らませているコブ君を見て、笑いそうになるのをぐっとこらえた。
備品置き場にバケツを返し、ギルドで依頼の手続きを済ませる。
今日の依頼で手にした報酬は、二人で銅貨十五枚――千五百ルド。
日本円に換算すると、だいたい千五百円ほどになる。
……これは、どうなのだろう。
少なすぎはしないだろうか?
「子供のお手伝い」として扱われているのかもしれないけれど、もうすぐ孤児院を出なければならないコブ君たちにとっては、それだけでは心許ない。
「はい、これはユーチ君の分だよ」
コブ君から銅貨八枚を手渡され、私は思わず反論した。
「こんなにもらえないよ。初めてのことで教えてもらってばかりだったのに、僕がコブ君より多くの報酬をもらうなんて、おかしいよ」
金額が割り切れないとはいえ、なぜ私の取り分を多くしようとするのか。
報酬が少ないからこそ、余計に受け取りづらい。
「でも、ユーチ君の鞄のおかげもあるから、妥当じゃないかな」
見かけによらず頑固なコブ君は、なかなか譲ってくれなかったが、なんとか説得して、銅貨一枚分だけコブ君の取り分を増やすことができた。
わだかまりを抱えたまま、コブ君と明日の約束をして別れることになった。
「孤児院には帰宅時間があるから」と、名残惜しそうに去っていくコブ君の後ろ姿を、私はぼんやりと見送る。
「明日も今日と同じ依頼を受けようと思うんだけど、いいよね?」
そう言って笑うコブ君は、手にした報酬をうれしそうにポケットへしまい、満足げな表情を浮かべていた。
あんな顔を見せられたら、もう頷くしかなかった。
家へ向かう道すがら、どうにかできないものかと、つい考えてしまった。
コブ君は依頼書を眺めながら、にっこり笑った。
依頼書には、回収後に排出場所を確認してもらった近所の人たちのサインが並んでいる。
子どもたちが普段から引き受けている依頼だからか、対応してくれた街の人たちは皆親切で、「ごくろうさま」と声をかけてくれた。
中には、初対面の私にまるで孫のように接して頭を撫でてくる人もいて、少し照れくさかった。
「あ、そうだ。今日のバンチ君のお昼分のお金を預かってきてたんだ。昨日、討伐隊に参加する冒険者のバルトさんを紹介してくれたお礼だって。銅貨2枚分なんだけど、屋台で何か買って食べよう」
「えっ、そんな、お礼なんていいよ。今朝のバルトさん、やる気なくて全然役に立たなそうだったし、バンチ君のお昼代を使うなんてできないよ」
私は慌てて、コブ君の言葉を遮った。
すると、コブ君はふふんと鼻を鳴らす。
「いいんだってば。バンチ君は討伐隊で用意してくれる食事を、冒険者たちと一緒に食べるんだってさ。すっごく楽しみにしてたんだよ」
「でも……」
「それにさ、屋台の焼きたてパン。あれ、めちゃくちゃ美味しいんだよ。でもちょっと遅くなっちゃったから、売り切れてるかも。早く行かないと!」
コブ君の顔は、もうすっかり“食べる気満々”で、私の断りの言葉なんて聞く気はなさそうだ。
「はやく、はやく」と急かすコブ君に手を引かれながら、香ばしい匂いが漂い、空腹を刺激する屋台通りへと向かう。
コブ君おすすめの焼きたてパンは、小麦の風味がしっかり感じられる素朴な味で、日本のふわふわパンとは違っていたけれど、ずっしりと食べ応えがあった。
一緒に買った、こってり味の串焼きとの相性も抜群。食べ終わるまでに少し時間はかかったけれど、働いたあとの空腹もあって、気づけば全部食べきってしまっていた。
「あれ? ユーチ君、『洗浄』の魔法を使えるようになったの?」
私が串焼きのタレで汚れた手や口元を魔法で綺麗にしていると、コブ君が驚いた声をあげた。思わず私は、自慢げに頷いてしまう。
まだ広い範囲には使えないけれど、意識した部分をきちんと綺麗にできるのだから、十分実用的だ。
嬉しくて、ニヤニヤと頬が緩んでしまう。
「ほんとにユーチ君は規格外だよね。自分が苦労して覚えたのを思い出すと、ちょっと悲しくなるよ」
そう言いながらも、コブ君は笑顔で私の成果を喜んでくれた。
「となると……十歳組でまだ『洗浄』を習得してないデシャちゃんの機嫌が心配だな。しばらくは内緒にしておいた方がいいかもね。僕からは絶対言わないから、ユーチ君も気をつけて」
確かに、マーザ院長から「『洗浄』の魔法が使えるようになるまで、冒険者登録は許可できない」と言われているデシャちゃんの前で、うかつに話すわけにはいかない。
悔しがる顔が、ありありと目に浮かぶ。
ほんとに、気をつけないと。
途中で、ホワンも食べられるぶどうに似た果物を見つけたので、ひとつ買ってコブ君におすそ分けする。
お腹がいっぱいな私は、ポケットから顔をのぞかせたホワンにそれを与えながら、となりで仲良く頬を膨らませているコブ君を見て、笑いそうになるのをぐっとこらえた。
備品置き場にバケツを返し、ギルドで依頼の手続きを済ませる。
今日の依頼で手にした報酬は、二人で銅貨十五枚――千五百ルド。
日本円に換算すると、だいたい千五百円ほどになる。
……これは、どうなのだろう。
少なすぎはしないだろうか?
「子供のお手伝い」として扱われているのかもしれないけれど、もうすぐ孤児院を出なければならないコブ君たちにとっては、それだけでは心許ない。
「はい、これはユーチ君の分だよ」
コブ君から銅貨八枚を手渡され、私は思わず反論した。
「こんなにもらえないよ。初めてのことで教えてもらってばかりだったのに、僕がコブ君より多くの報酬をもらうなんて、おかしいよ」
金額が割り切れないとはいえ、なぜ私の取り分を多くしようとするのか。
報酬が少ないからこそ、余計に受け取りづらい。
「でも、ユーチ君の鞄のおかげもあるから、妥当じゃないかな」
見かけによらず頑固なコブ君は、なかなか譲ってくれなかったが、なんとか説得して、銅貨一枚分だけコブ君の取り分を増やすことができた。
わだかまりを抱えたまま、コブ君と明日の約束をして別れることになった。
「孤児院には帰宅時間があるから」と、名残惜しそうに去っていくコブ君の後ろ姿を、私はぼんやりと見送る。
「明日も今日と同じ依頼を受けようと思うんだけど、いいよね?」
そう言って笑うコブ君は、手にした報酬をうれしそうにポケットへしまい、満足げな表情を浮かべていた。
あんな顔を見せられたら、もう頷くしかなかった。
家へ向かう道すがら、どうにかできないものかと、つい考えてしまった。
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