可愛い妖精の女の子を拾いました。路上で。

けろよん

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第1話 何気ない日常

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 日常とはいつまでも変化する事無くずっと続いていくものだと退屈な高校生活を送りながらどこにでもいる平凡な高校生、勝田球児は思っていた。
 いつもと変わらない生徒達の座る教室。今日も春眠暁を覚えそうな生暖かい空気の中、みんなで授業を受けている。先生の話はどうでもよくて退屈だ。そんな思いはみんな同じだろうか。
 他人の思いなど分かるわけもないが、球児は視線を黒板から横へと巡らせる。
 こんな牢獄のような学校の環境で唯一の楽しみと言えば、

「じゃあ、次を丸井さん読んでくれるかな」
「はい、春の夜は短く気候もよく、こんな日は寝るのにちょうどいいと少年は~……」

 クラス一の器量良しである丸井桜の声を聞く事ぐらいだろう。彼女の立ち姿は可憐で美しく、その声も透き通っていて心地が良い。まるで地上に舞い降りた天使のようだ。
 彼女とは高校に来てから知り合った。だが、同じ教室に通うクラスメイトでありながら声を掛ける機会は入学式の時以来訪れなかった。
 彼女と話をしたのはあの時、落としたハンカチを拾ってもらった時だけだ。

「ハンカチ落としましたよ」
「ありがとう」
「フフ、どういたしまして」

 あの時の彼女の笑顔を思いだせば幸せになれる。球児はもうその思い出だけあれば彼女とはもう話をしなくてもいいかと思い始めていたのだが……



「勝田君、ちょっといいかな」
「ふぁい!? 何の用でしょう」

 何といきなり話しかけられてしまった。彼女の瞳はぱっちりと自分を見ている。これは夢ではない。
 なんてことは無いいつもと同じ放課後のはずだった。いつものように帰宅部の務めを果たそうと荷物をまとめて帰ろうとしていると、いきなり彼女から声を掛けられたのだ。思いもかけない事態に球児は戸惑ってしまった。
 運動の得意なスポーツ少年になって欲しいと両親に願われて名付けられながらも帰宅部となってしまった自分に彼女のようなカースト上位が何の用なんだろう。
 球児は緊張してドギマギしながら入学式の時以来声を掛けられる事になった彼女の麗しい春の陽気のような顔を見つめた。
 桜は言った。真面目で可愛い優等生の顔をして。綺麗な桜色の唇を動かして。

「近いうちにこの教室のクラスメイトの中で何かが起こりそうな予感がするのよ。ほんのささいな事でもいいの。何かあったら教えて欲しい。連絡先はここだから。お願いね」
「は……はい!」

 彼女からメモ用紙を受け取った。そこには番号が書いてある。おそらく彼女の連絡先だ。
 予期せぬことで予期せぬ物をゲットしてしまった。だが、浮かれているわけにはいかない。こんなの絶対おかしいから。
 いくら帰宅部のぼっちでも分かる。もしかして罰ゲームだろうかと周囲を伺うが、誰もこっちを見てはいなかった。
 みんな自分達の事で忙しいようだ。周囲を伺っていると桜がおかしそうに笑った。

「そう警戒しなくても。きっとそんな大変な事は起こらないと思うわ」
「いや、それよりも君と話していることが大変かなと」
「ん? クラスメイトと話をするのが何か大変なのかな?」
「いや、大変じゃないけど。何かって何があるのかな?」
「それは分からないわ。でも、わたしの探偵としての勘が告げているのよね。何か日常に変化があるような事が起こるって」
「探偵としての勘?」
「うん、わたしのお父さん、探偵だから」

 そう言えば桜の親は探偵だった。最初のクラスの自己紹介の時にそう言って、クラスのみんなに笑われていた事を思いだす。
 あの時のはにかんだ彼女は可愛かったなと思いにふける時間はそう無かった。当の本人と話していて、彼女が話を続けたから。
 桜はカースト上位の優等生らしい真面目な顔をして言った。

「球児君の親は警察官だから探偵に情報は流せないかしら?」
「そんな事ないよ。親は親だし……って僕の親が警察官なの話したっけ?」

 言ってないはずだ。自己紹介の時に言わなかったし、他人と話す機会自体が無かったのだから。
 指摘すると桜はおかしそうに笑った。本当に絵になる美少女で球児はこんな時でも見とれてしまった。

「うちの親がね。言っていたの」
「さすがは探偵。調査済みってわけか」
「何もかも教えてくれたわけじゃないけどね。それでどうかな? 協力してくれる?」
「うん、もちろん。僕達はクラスメイトじゃないか」
「そうだよね。クラスメイトは協力しあわなくちゃ」

 彼女の前で精一杯の虚勢を張ってやる。そのかいあって彼女は笑顔で微笑んでくれた。都合よく利用されているだけのような気もするが、男として恥ずべき事ではないだろう。彼女が喜んでくれるのだから、男冥利に尽きると言う物だ。

「じゃあ、何かあったら連絡お願いね。他の皆にも声掛けなきゃー」

 そう言って彼女が走り去っていく。ふんわりとした春の心地のような良い匂いを残して。
 その幸せだけで球児はしばらくこの退屈な高校生活を送れるなと思うのだった。
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