腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

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19 初陣 2

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 移動手段だった布をおりて、ホムンクルスたちを流し見る。

 俺は騎乗したままの指揮官を見上げ、言葉を投げかけた。

「この周囲に出るゴブリンを討伐する。それが今回の目的だな?」

「はい。男爵様より、そのように聞いています」

「了解した」

 絨毯をおりたミルトに目配せをする。

 ミルトは魔法の教本を抱えながら、小さく頷いてくれた。

「俺とミルト隊長から提案がある。俺たちに、斥候の時間をもらえないか?」

 15体のホムンクルスが横一列に並び、大きく手を挙げる。

 斥候と言うには目立つ振る舞いだが、やる気は十分だ。

「ホムンクルスを斥候に使う案は聞いているな?」

「……そうですね。男爵様から、そのような案があるとだけ」

「言うなれば、そのおためしだ。俺たちは森に入らず、ホムンクルスだけを向かわせたい」

 馬を下りない指揮官の動きを見る限り、俺やミルトを森の中に入れる気はないだろう。

 俺たちの護衛に指揮官と数名の兵が残り、別働隊を森に入らせる。

 兵の配置を見る限りだが、大きくハズレてはいないと思う。

「それほど長い時間は必要ない。失敗した時点で、おとなしく引き下がると約束する」

「……ポーションを作って頂けるだけでも、十分過ぎるほど助けていただいていますが?」

「お飾りの英雄も悪くないが、活動範囲を広げたくてな」

 指揮官が言葉に詰まり、ミルトに目を向ける。

 助けを求めているようだが、この件の発案者はミルトだ。

「本当に、軽く試すだけだ。俺とミルトは、荷台から出ないと約束しよう」

「……わかりました。くれぐれも無理だけはおやめください」

「ああ、すまないな」

 突然やって来て、自分のしたいことを押し通す上司。

 自分でもイヤな人間だと思うが、迷惑をかけるのなら早い方がいい。

 後になるほど、修正が面倒になるからな。


 ミルトと共に荷台に登り、高い位置から左右に広がる森を見つめる。

「ゴブリンは、弱い方の魔物だったよな?」

「うん。群の数によるけど、単体だと一番弱いって書いてあったよ……?」

 手先が器用で面倒な魔物だが、体格や力は、鍛えた人間の方が上。

 おためしにうってつけの相手で、俺たちの初陣に選ばれた理由だ。

 不意にミルトが、左手の森を指さした。

「魔物は、こっち側かな……? 小鳥の声が、こっちの方が少ないから」

「……そうなのか?」

「うん。お姉ちゃんとしては、こっちだと思うよ?」

 俺にはわからないが、そんな感じらしい。

 ホムンクルスも無限に居るわけじゃないし、ミルトを信じない理由もないな。

「わかった。準備はいいか?」

「「「キュッ!」」」

 一列に並んだホムンクルスが、専用の小太刀を握る。

 俺がホムンクルスの体格にあわせて、錬金術で作った物だ。

 10体が荷馬車の周囲に。

 15体が森を向いて、横いっぱいに広がった。

 そんな光景に、兵たちがざわつく。

「このまま突撃するのか……?」

「数が多いし、幅広い。これをおひとりで……」

 荷台に立つ俺の目にも、端から端まで辛うじて見えるくらいだ。

 こっち側の森に魔物がいるのなら、誰かが見つけてくれるだろう。

「練習と同じ感じで、無理はしないこと。いいな?」

「「「キュア!!」」」

 敬礼の真似事をしたホムンクルスが、草木に隠れるように姿勢を低くする。

 敵地に向かう忍者のように、ゆっくりと森の中に入っていった。


 木々の奥にホムンクルスたちが姿を消し、緊張感が周囲を包む。

 そんな中で、指揮官が荷台の横に馬を近付けた。

「斥候に出した者たちと、連絡は取れるのですか?」

「いや、こちらからは無理だな」

 隣と2メートルほどの距離をあけて、出来る限り、真っ直ぐ進む。

 ・魔物を見つける
 ・進めなくなる
 ・10分経過する
 ・誰かが攻撃される

 そのいずれかになった時点で、帰ってくる。

 ホムンクルスたちは、その命令を忠実に守っているだけだ。

 そう説明すると、指揮官が首を傾げる。

「誰かが攻撃を……? 斥候同士は、意志疎通が可能なのですか?」

「ああ。倒されたり、危険を感じた時だけだがな」

 ホムンクルスたちは互いに見えていなくても、危機感の共有が出来る。

 詳しい仕組みは知らないが、そもそもが魔力で作った生物だ。

 仕組みを解明しようと思っても、俺には不可能だろう。

「なるほど。そちらに関しては、改良の余地があるようですね」

「へ……?」

 思いがけない言葉に、思わず素の声が漏れる。

 隣にいるミルトも、興味深そうな顔を司令官に向けていた。

「こちらを見ていただけますか?」

 そういって見せてくれたのは、指輪サイズの魔道具。

 緊急召集を伝えるための受信機で、送信機は男爵家にあるらしい。

「ただ赤く光るだけの物ですが、単純な命令を伝えることは可能です」

「それをホムンクルスに持たせるわけか」

「はい。明確な意志疎通は出来ずとも、出来ることは増えるように感じます」

「確かに、その通りだな」

 すぐに返ってきて欲しい時や、急な予定の変更。

 その魔道具が1つあるだけで、動ける幅は大きく変わる気がする。

 そしてなにより、俺にはない切り口に思えた。

「ホムンクルスに、便利な物を持たせるのか」

 デコピンで消えないようにしたい。
 早く走れるようにしたい。
 魔物を倒せるようにしたい。

 俺が考えていたことは、ホムンクルスの強化ばかりだ。

「もう少し、視野を広げないとな」

 現状を受け入れ、出来ることを増やす道もあるだろ?

 そう言われている気がした。

 そんな中で、残っていたホムンクルスたちが一斉に顔を上げる。

「どうした!?」

「「きゅあ!!」」

 全員が、木々の隙間を指さした。
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