腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

文字の大きさ
38 / 55

38 お祭りの準備 2

しおりを挟む
“ 魔物は自身の肉体を、魔力で強化している ”

“ 討伐後もその魔力は残り続け、強力すぎる物は加工の妨げになる ”

 そう書かれたページを開き、俺は会長に向けて微笑みかけた。

「獣と魔物の違いは、魔力の有無。なので、魔物の肉から魔力を抜きました」

 テーブルに置かれた皿の蓋を開け、持ち込んだ料理を見せる。

 肉を薄く切り、フライパンで焼いて塩をふっただけのシンプルなもの。

「彩りのために、薬草を炒めた物も添えてあります」

「……魔物の種族をお聞かせいただけますか?」

「魔石くらいしか使い道のない、ゴブリンの肉ですね」

 多くの肉を穫れる訳ではないが、これまでは捨てていた物だ。

 街に近い森でも魔物を見るようになり、猟師が穫る肉は減り続けている。

 畜産業も、魔物に追われ規模を減らしているのが現状だ。

「我々はこの肉を無料で配る予定です。新たな市場を開拓するための先行投資ですね」

 食べられる物だとみんなが知れば、売り物になる。

 食糧不足の男爵量では貴重な、タンパク源になってくれる。

「どうでしょう? 利益が見込めそうだと思いませんか?」

「……ええ、貧困に苦しむ者には売れ、それなりの取引には――」

「いえ。我々は、高級食材として扱う予定でいます」

 目を見開く会長を尻目に、俺はフォークを手に取る。

 肉を突き刺し、そのまま口に運んだ。

「なっ――」

「手記にあった通り、神が与えてくれたと思わせる味ですよ」

 さっぱりとした口当たりで、変な臭みもない。

 男爵家で出される堅い肉より、俺としては断然こっちの方が好みだ。

 日本の焼き肉チェーンで出される鶏ささみ!!

 高級店には行ったことがないからわからないが、食べ放題店が相手なら引けを取らない!!

「フェドナルンド副隊長様!? お体の方は――」

「問題ありませんよ。食べられることは事前に確認しておりますので」

 でなければ、こうして持ち込んだりしない。

 会長も理解はしているのだろうが、ずっと致死性の毒だと思っていたものだからな。

 自分の街の貴族が突然食べ始めたんだ。

 驚くなという方が無理だろう。

「ん? ミルトも食べるか??」

「う、うん。新設部隊の隊長として、大きなお肉を、食べても、いいよ……?」

「はいはい。承知いたしました」

 最初はネズミで実験して、自分で試して、レン伍長に食べてもらう。

 そうして最終的にミルトに食べてもらったが、その味に一番ハマったのは彼女だ。

「せっかくだから俺が食べさせてあげるよ」

 肉に薬草を乗せて、ブスリとフォークで刺す。

 恥ずかしそうなミルトの方を向いて、俺はフォークを口元に近づけた。

「あーんって口を開けて」

「……あーん」

 頬を赤らめたミルトが、大きな口を開けてパクンと食いつく。

 やわらかい肉と薬草を噛みしめて、幸せそうに頬を緩ませた。

「見かけによらず、食いしん坊だよね。ミルトは」

「……おいしいのが悪いんです」

 プイっと顔を背けたミルトの首筋が、赤く染まる。

 知的で可愛い美少女だけど、12歳だからな。

 ササミは健康にいいし、いっぱい食べて大きく育てよ。

 まあ、食べているのはゴブリンの肉なんだけどな。

「御覧の通り、扱いに気を付ければ安全で、男爵家の姫をも虜にする味です」

「……どうやら、そのようですね」

 男爵家の入り婿が食べて、直系の姫様も目の前で食べた。

「会長も味見をしていただけますか? きっと、気に入るはずです」

「そっ、そうですな」

 レン伍長が、持ち込んだフォークとナイフを会長の前に並べる。

 街での立場や今後の付き合いを考えると、食べる以外に選択肢はない。

 会長は震える手で、フォークとナイフを握ってくれた。

「存分にお召し上がりください」

 会長の目には、俺が魔人か悪魔にでも見えていることだろう。

 猛毒を持つ、フグの卵巣。

『人間を30人くらい殺せる毒があるけど、酒の粕に3年つけたから大丈夫! マジで旨いぞ!!』

 そう言われても、食べるのには躊躇した。

 技術が発達した日本ですらそんな感じだからな。

「それでは、ありがたく、頂戴いた、します……」

 ナイフで肉を小さく切り、ゆっくりと口に運ぶ。

 副菜は乗せずに、肉だけを食べるらしい。

 多くの商会を取りまとめている者だけあって、思い切りはいいようだ。

「……これは」

「どうですか? 案外、良い肉でしょう」

「ええ! さすがはミルトレイナ様に認められた肉ですな!」

 会長はそう言いながらも、次の肉には手を着けない。

 あとは、全員の体調変化を見てから。そんな感じだろう。

 このあたりの慎重さも、俺は嫌いじゃない。

「先に答えを伝えます。魔物の肉は時間をおくと魔力が抜ける。その期間はおよそ1ヶ月」

「なるほど。それで手記の御仁は」

「ええ。戦で身を隠す生活であれば火を使うのもはばかられますからね」

 焼き払うだけの気力もなく、放置していた魔物の肉に手を着けた。

 その結果、たまたま魔力が抜けた肉を食べれたのだろう。

「魔力が宿る期間は腐らず、虫に食われる心配もありません」

 ゆえに、冷蔵庫や塩がなくても、長期保存がきく。

 印象は悪いが、野ざらしでも平気だ。

 生肉としては、破格の性能だろう。

「そうして食べたいときには、それを使います」

 俺はフォークから手を離し、皿に盛られた薬草を指さす。

「我々の領地であればどこでも採れる、それを」

「……失礼ですが、男爵様はこのことを?」

「もちろん知らせてあります。それで資金なのですが、いくらほど貸していただけますか?」

 商人らしい顔をする会長に向けて、俺は優雅に微笑みかけた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...