腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

文字の大きさ
52 / 55

52 兄と決闘 2

しおりを挟む
「ぐっ゛――――」

 俺の手から放れた剣が、兄の肩に突き刺さる。

 傷付くことのなかった黒いインナーが破れ、兄の手から鮮血が滴り落ちた。


「きさま――」


「よく斬れるいい剣ですね。兄さん」

 痛みで跪く兄の肩から、豪華な剣を引き抜く。

 呻く姿を横目に、俺は兄の太ももに剣を突き立てた。

「ぐぁ゛っ――」

「これで逃げることも、剣を振ることも出来なくなりましたよ」

 痛みで地面に転がる兄を見下ろして、腹黒い笑みを浮かべる。

 こいつには、面倒なことを散々されたからな。

 前世を思い出す前も、思い出してからも、恨みは山のようにある。


「では、そろそろ死んで貰いましょうか」


 太ももの剣を引き抜き、首に狙いを定める。

 すべての恨みを込めて、俺は剣を大きく振り上げた。

 そんな中で、兄の叫び声が聞こえる。

「――護衛ども!! 俺様を助けやがれ!!!!!!」

「フェドナくん!!!!!」

 慌てて飛び退いた俺の目の前を、鋭い矢が通り抜けていく。

 振り向いた先に見えたのは、武器を握る護衛の姿。

「そのゴミを殺せ! 俺様を助けろ!!」

 地面に転がるクズが、相変わらず叫んでいる。

 そんな兄の姿に、護衛の顔にも困惑の色が浮かんで見えた。

 このクズは、自分がなにを言っているのか、わかっているのか?

「助けろ? 1対1の決闘を反故にする気ですか?」

「俺様は次期伯爵だ! ゴミとの決闘など成立するものか!!」

「……終わってんな、マジで」

 はぁ、と溜め息を付きながら、小太刀を握り直す。

 戸惑いながらも距離を詰める兄の護衛に向けて、俺は手をかざした。

「本当に、予想に進み過ぎて驚くよ」

 このクズが、まともに決闘をするわけがない。

 そう知っているから、こちらも準備は整えている。

 むしろ、最初の一撃をまともに受けて、驚いてるくらいだ。

「足止めをお願い出来るかな?」

「「「キュア!!!!」」」

 観客に紛れていた8体のホムンクルスが、決闘の場に飛び出してくる。

 俺と護衛たちの間に入り、堂々と小太刀を構えた。

「あのときのゴミ……? 逃げる気か!!」

「いえいえ、彼らはすでに歴戦の戦士ですよ」

 伯爵家の庭でがむしゃらに呼び出した、あの時と同じホムンクルスたち。

 20体から8体に減ってはいるが、はったりだったあのときとは違う。

「たくさんのゴブリンを倒して、本当に強くなってくれました」

 全員がレベル1になり、ある程度の攻撃を耐える。

 動きは機敏で、連携も上手くなった。

「専用の武器も、自慢の逸品です」

 俺の言葉を証明するように、ホムンクルスが小太刀を振る。

 その小さな体をいかした、足下への攻撃。

 受け止めようとした護衛の剣に触れ、そのまま敵の剣をへし折った。

「なっーー!?」

「ゴブリンの魔力を大量に吸わせてた、特別な小太刀ですよ」

 ドラゴンの魔剣には及ばないが、歴とした魔剣だ。

 腐った兄のそばで甘い蜜を吸うだけの平凡な護衛の剣なら、簡単に折れる。

「そいつらは決闘を汚した不届き者だ。全員、捕らえておけ!!」

「「「キュア!!!!」」」

 ホムンクルスたちが、剣を折り、盾を破壊する。

 狼狽える敵の腹や足を蹴り、4人の護衛を沈黙させた。

 俺はホッと息を吐きながら、血を流す兄を見下ろす。

「決闘に違反してくれてありがとうございます。おかげで、あなたを捕虜に出来る」

「捕虜、捕虜だと!? なぜそうなる!!」

「簡単な話です。今のあなたを捕まえると、伯爵家に高く売れる」

 無断で領都に侵入し、決闘の仕組みを悪用した上で、コイツはすべてをぶち壊した。

 無断進入で捕まるだけならまだしも、決闘の悪用と反故は最悪だ。

「決闘は、国が決めた制度です。悪用も反故も、国王陛下にツバを吐く行為だ」

 ただでさえ、強い武力だけで周囲の反感を抑えつけていたような家だ。

 その長男が無様に負け、王家に向けられる目が、より鋭い物になる。

 最終的には、伯爵家討伐に多くの軍が動くことになるだろう。

「だが、そうなると我々も、多くの兵を出さないといけなくなる」

 伯爵家には消えて欲しいが、多くの兵を送り出せるほどの蓄えはない。

 伯爵領からは多くの難民が流れてきて、男爵家は受け止めきれずに消えるだろう。

 ゆえに次善の策として、

「あなたを捕虜にして、伯爵家に高値で買い取って貰う」

 金や食料、この地に足りない物。それらと、腐った兄の交換だ。

 討伐軍と事を構えるくらいなら、秘密裏に金を払う方が安い。

 交渉次第では、伯爵領を見張るための砦や町を敵の金で新たに作れるだろう。

「あの腐った父がどう思うかは知らないが、側近のセバスなら、状況を正しく把握してくれる」

 武力のある伯爵家とは言え、王位簒奪を狙えるほどの力はない。

 俺はポケットに忍ばせていたロープを使い、血を流す兄の手足を縛る。

「だから、あなたに死なれると困るんですよ」

 自分で作ったポーションを頭からかけて、最低限のケガをだけを直した。

 死ぬことはないが、逃げ出すことも出来ない。

 そんな状態だ。

「引き渡しの交渉が終わるまで、捕虜らしく生きてください。次期伯爵さま」

「…………」

 縛られた手足。
 痛みのなくなった体。

 それらを見つめて、兄がくつくつと肩を振るわせる。

「……ゴミが、この程度で勝ったつもりか?」

 不敵に笑いながら、カチカチカチと奥歯を噛み合わせる。

 芋虫のように動き、兄は腹黒い笑みを空に向けていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...