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53 兄と決闘 3
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奥歯に毒を! 捕虜にされないために、自らーー
などと一瞬思ったが、こいつはそんな人間じゃない。
誰を盾にしてでも、自分だけは生き残ろうとする。
そんな人間だ。
『聞け! 荒れ地のゴミどもよ!!』
芋虫のように転がりながら、兄が声を張り上げる。
マイクの魔道具を、口の中に仕込んでいたのだろう。
腐った兄の声が、周囲に響く。
『この地の領主は、我が家に向かう道中に、何者かに殺された!!』
『俺様は次期伯爵として、男爵暗殺の全貌を調べに来たに過ぎん!!!!』
突然なにを言い出したんだ?
そんな思いを胸に首を傾げる俺を余所に、周囲が騒ぎ立つ。
(男爵様が、殺された……??)
(おい、どう言うことだ!?)
(親方様が!?)
決闘から派生した事件を見守っていた領民たちが、不安そうな声を漏らしている。
そんな領民たちの反応に気を良くした兄が、さらに言葉をつづけた。
『無論、犯人の目星はついている! ここにいるゴミだ!!』
『入り婿であるフェドナルンドが、男爵殺害の首謀者である!!!!』
(…………)
広間が一瞬にして静まりかえる。
兄が邪悪な笑みを浮かべ、勝ち誇った顔をする。
そんな中で、不意にヤジの声がとんだ。
「そんな事があるわけねぇだろ!!」
「婿さまが犯人だ!? 寝言は寝て言え!!」
「ダンゴムシが調子に乗ってんじゃねぇぞ!!!!!」
『…………は??』
呆然とした顔で、兄が声を漏らす。
パンパンと手を叩き、遠くで見守っていたミルトが、領民たちの注目を集めた。
「静まってください。……えっと、えっと、商業ギルド長。1歩だけ前へ」
「承知いたしました」
最前列にいたギルド長が、恭しく前に出る。
そんなギルド長に、全員の意識が向いた。
ミルトは分厚い本を握りながら、ギルド長に問いかける。
「本件に関して、領民を代表して、意見を述べてください」
「承知しました。結論から申し上げます。フェドナルンド様が男爵様を殺害されるなど、ありえない話です」
芋虫のように転がる兄の目が、大きく開かれる。
平民が自分の意見を否定し、出来の悪い弟を正当化している。
その事実が信じられないのだろう。
「軍の精鋭をいち早く助けた行動を皮切りに、フェドナルンド様は、男爵家の繁栄に誰よりも寄与していただいております」
『ふざけるな!! 錬金術などという無能が、繁栄に寄与などできるものか!!!!!』
「そうですね。残念ながら我々も、最初はその認識でいました。ですが、多くの領民が目撃し体験した事実です」
最初に、怪我をした精鋭にポーションを届けた。
訓練所で共に汗を流していた影響もあり、兵たちとの仲は日に日に深まっている。
そうして、彼らや家族を通じて、俺の話が領民に広がっていったらしい。
「我らはみな、フェドナルンド様を子や孫のように思い、その成長を楽しみに見守っております」
見た目はどうしても、幼い子供だからな。
子を心配する親のような気持ちで領民が見守る中で、俺は身近な脅威であるゴブリンの討伐に成功。
ミルトをトップに据えて、領民を守るための軍を立ち上げた。
部下にした者も、日々の食事に苦労していた孤児院の子供ばかり。
「皆が見守る中で、この地を良き方向に動かしてくださっている。その最たるものが、このお祭りです」
採用できなかった小さな孤児に仕事を与え、領民に無料で食事を配る。
俺が婿に来てから、領都では目に見える形で治安が改善しているそうだ。
「フェドナルンド様は、この地を守ろうとしてくださっている。たとえ男爵様の地位を狙っていたとしても、暗殺は有り得ないと判断いたします」
「そう、よくわかりました。みなさんもギルド長と同じ意見をーー」
『なっ、なぜだ!! なぜ暗殺はないと言い切れる!!!!』
癇癪を起こす子どものように叫ぶ兄に向けて、ギルド長がほほえむ。
「無駄だからですよ」
「…………は????」
簡潔すぎる言葉で言い切ったギルド長を、兄が呆然と見上げていた。
縛られた護衛たちも、全員が同じような顔をしている。
ギルド長はクスリと肩を揺らし、俺に目を向けた。
「そうですよね? フェドナルンド様」
「うん! すっごい無駄だよね。そんなバカなことは、僕は絶対にしないよ?」
兄を挑発するために、子供らしい声で答える。
なにか言いたげな兄に向けて、俺は幼く見える笑みを浮かべた。
「男爵様を殺害すると、領地が混乱して、ボロボロになるもん。そんな場所のトップになっても、面倒なだけだよね?」
なんでそんなこともわからないの?
笑みの裏にそんな言葉をのせる。
「領地が豊かじゃないと収入は経るし。僕たち貴族は、生きていけないよね?」
「……」
「みんなからお金を収めて貰って、その代わりに安全で便利な領地にする。それが僕たちのお仕事でしょ??」
一般常識しか話していないが、相手は周囲を奴隷だとしか思っていないクズだ。
命令すれば金が湯水のように湧いてくる。
そんな認識しか持っていない兄には、到底理解できないだろう。
「それにあれだよ? 男爵様は、元気だよ????」
「…………は?」
出会ってから一番不思議そうな顔で、兄は地面に転がりながら声を漏らしていた。
などと一瞬思ったが、こいつはそんな人間じゃない。
誰を盾にしてでも、自分だけは生き残ろうとする。
そんな人間だ。
『聞け! 荒れ地のゴミどもよ!!』
芋虫のように転がりながら、兄が声を張り上げる。
マイクの魔道具を、口の中に仕込んでいたのだろう。
腐った兄の声が、周囲に響く。
『この地の領主は、我が家に向かう道中に、何者かに殺された!!』
『俺様は次期伯爵として、男爵暗殺の全貌を調べに来たに過ぎん!!!!』
突然なにを言い出したんだ?
そんな思いを胸に首を傾げる俺を余所に、周囲が騒ぎ立つ。
(男爵様が、殺された……??)
(おい、どう言うことだ!?)
(親方様が!?)
決闘から派生した事件を見守っていた領民たちが、不安そうな声を漏らしている。
そんな領民たちの反応に気を良くした兄が、さらに言葉をつづけた。
『無論、犯人の目星はついている! ここにいるゴミだ!!』
『入り婿であるフェドナルンドが、男爵殺害の首謀者である!!!!』
(…………)
広間が一瞬にして静まりかえる。
兄が邪悪な笑みを浮かべ、勝ち誇った顔をする。
そんな中で、不意にヤジの声がとんだ。
「そんな事があるわけねぇだろ!!」
「婿さまが犯人だ!? 寝言は寝て言え!!」
「ダンゴムシが調子に乗ってんじゃねぇぞ!!!!!」
『…………は??』
呆然とした顔で、兄が声を漏らす。
パンパンと手を叩き、遠くで見守っていたミルトが、領民たちの注目を集めた。
「静まってください。……えっと、えっと、商業ギルド長。1歩だけ前へ」
「承知いたしました」
最前列にいたギルド長が、恭しく前に出る。
そんなギルド長に、全員の意識が向いた。
ミルトは分厚い本を握りながら、ギルド長に問いかける。
「本件に関して、領民を代表して、意見を述べてください」
「承知しました。結論から申し上げます。フェドナルンド様が男爵様を殺害されるなど、ありえない話です」
芋虫のように転がる兄の目が、大きく開かれる。
平民が自分の意見を否定し、出来の悪い弟を正当化している。
その事実が信じられないのだろう。
「軍の精鋭をいち早く助けた行動を皮切りに、フェドナルンド様は、男爵家の繁栄に誰よりも寄与していただいております」
『ふざけるな!! 錬金術などという無能が、繁栄に寄与などできるものか!!!!!』
「そうですね。残念ながら我々も、最初はその認識でいました。ですが、多くの領民が目撃し体験した事実です」
最初に、怪我をした精鋭にポーションを届けた。
訓練所で共に汗を流していた影響もあり、兵たちとの仲は日に日に深まっている。
そうして、彼らや家族を通じて、俺の話が領民に広がっていったらしい。
「我らはみな、フェドナルンド様を子や孫のように思い、その成長を楽しみに見守っております」
見た目はどうしても、幼い子供だからな。
子を心配する親のような気持ちで領民が見守る中で、俺は身近な脅威であるゴブリンの討伐に成功。
ミルトをトップに据えて、領民を守るための軍を立ち上げた。
部下にした者も、日々の食事に苦労していた孤児院の子供ばかり。
「皆が見守る中で、この地を良き方向に動かしてくださっている。その最たるものが、このお祭りです」
採用できなかった小さな孤児に仕事を与え、領民に無料で食事を配る。
俺が婿に来てから、領都では目に見える形で治安が改善しているそうだ。
「フェドナルンド様は、この地を守ろうとしてくださっている。たとえ男爵様の地位を狙っていたとしても、暗殺は有り得ないと判断いたします」
「そう、よくわかりました。みなさんもギルド長と同じ意見をーー」
『なっ、なぜだ!! なぜ暗殺はないと言い切れる!!!!』
癇癪を起こす子どものように叫ぶ兄に向けて、ギルド長がほほえむ。
「無駄だからですよ」
「…………は????」
簡潔すぎる言葉で言い切ったギルド長を、兄が呆然と見上げていた。
縛られた護衛たちも、全員が同じような顔をしている。
ギルド長はクスリと肩を揺らし、俺に目を向けた。
「そうですよね? フェドナルンド様」
「うん! すっごい無駄だよね。そんなバカなことは、僕は絶対にしないよ?」
兄を挑発するために、子供らしい声で答える。
なにか言いたげな兄に向けて、俺は幼く見える笑みを浮かべた。
「男爵様を殺害すると、領地が混乱して、ボロボロになるもん。そんな場所のトップになっても、面倒なだけだよね?」
なんでそんなこともわからないの?
笑みの裏にそんな言葉をのせる。
「領地が豊かじゃないと収入は経るし。僕たち貴族は、生きていけないよね?」
「……」
「みんなからお金を収めて貰って、その代わりに安全で便利な領地にする。それが僕たちのお仕事でしょ??」
一般常識しか話していないが、相手は周囲を奴隷だとしか思っていないクズだ。
命令すれば金が湯水のように湧いてくる。
そんな認識しか持っていない兄には、到底理解できないだろう。
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