公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

文字の大きさ
5 / 65

〈5〉見届け人の少女3

しおりを挟む
 なんで? どうして??
 私が叫んだから!?

ーー逃げなきゃ!!

 そんな考えが脳内に浮かぶも、少女の意志に反して、体から力が抜けていく。

「ぃ、ぃゃ……」

 柵に背中を押し付けた彼女の耳に聞こえて来るのは、迫り来る足音と木の葉が散る音。

 全長2メートルほどの小さな竜リトルドラゴンが、目と鼻の先に迫っていた。

「いや…………」

 全身から冷や汗が流れだして、視界が滲んでいく。
 心臓の音は有り得ないほど大きく、全身が脈打つ。

 緑色の巨体が、右から2体、左から3体。

 迫り来るスピードは、少女が走るよりも遥かに早い。

 魔避けの香水も、姿を見られれば意味がなかった。

 思い浮かぶのは、王都に残して来た弟の姿。

 たった1人の、家族の姿。







「立ちなさい!!!!」





「ぇっ……?」



 不意に誰かの声が通り過ぎた。

 聞こえてきたのは、背中の向こう側ーーメアリの声。

「アナタ名前は!!」

 なまえ?

 鋭い牙を剥き出しにしながら、化物が目の前に迫っている。

 死の足音が迫り来る。

 もう5メートルもない。

「なんで、名前なんかーー」

「良いから早く!!」


 
「……リリ! リリです!」


 手足は動かずとも、口だけは不思議と動いていた。

 背後からホッとした吐息が聞こえ、少女のーーリリの足元が輝き出す。

「マッシュ、お願い。リリを助けてあげて」

 キュ! なんて言う、何かの鳴き声が聞こえた気がした。

 不意に感じたのは、持ち上げられるような浮遊感。

「ぇっ? えっ? え??」

 気が付くと、ぷにぷにとした何かが、お尻の下にあった。

 メイド服のふわりとしたスカートに隠れるように、リリの体が持ち上がる。

「きゃっ!」

 その何かがポヨンと跳ねて、飛びかかってきたリトルドラゴンの顔を蹴り飛ばす。

 そのまま身を翻して、リリの体ごと木の柵を飛び越えた。

 次いで感じたのは、プニプニとした物を下敷きにする感覚。

「っ!!」

 慌てて振り向いた先に見えたのは、柵の隙間に顔を突っ込んだ、リトルドラゴンの姿だった。

 食いしばった鋭い牙の隙間から、だらだらと唾がたれている。

 肉食竜特有の鋭い視線が、リリを捉えて離さない。

「みんな、お仕事よ」

 落ち着いたメアリの声が、恐怖に身をよじるリリの耳に聞こえていた。

 柵の上、柵の外、リリの側。

 足を止めたリトルドラゴンを取り囲むように地面が光り、無数の魔法陣が浮かび上がる。

「きゅ!」「きゃ!」「にー?」「みゅ?」

「おおきな、きのこ?」

 プルプルの大きな傘に、ぽてんとした丸い胴。

 可愛らしい目が特徴的な大きなキノコたちが、魔法陣の中から顔を覗かせていた。

「ねぇ、マッシュ。あそこにいるリトルドラゴンを倒してもらえるかしら?」

『キュ!』

 ピョコンと魔法陣から飛び出して、視界を埋め尽くしたキノコたちが、一斉にぷるぷるボディを震わせる。

 弓や剣、鉈やノコギリなどなど。

 傘の中から手入れの行き届いた武器を取り出した彼ら? 彼女ら? は、大きな傘とぷるぷるボディを駆使して、リトルドラゴンたちに飛びかかっていく。

 槍を投げ、矢を撃ち、双剣で斬りつける。

「キャン!」

 その中には、自身の10倍はありそうな大木を切り倒して振り回す、剛のキノコもいた。

 剣と弓の連携で動きを止めて、黒い木でトドメを刺す。

「すごい……」

 なるほど、メアリが生き残れた理由は、この子たちなのか。

 ってか、何これ!?

 え? 本当に何なの!?

「ねぇ、リリ。一緒にお茶でもどうかしら?」

「え? え??」

「大丈夫よ。うちの子たちは強いから」

 うん、それは否定しないし、出来ない。

 でも、これ、なに?

 そんな思いが、リリの中を渦巻いていた。
しおりを挟む
感想 176

あなたにおすすめの小説

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

処理中です...