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〈49〉戦いを背に 2
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次いで取り出されたのは、見覚えのある1枚の紙。
所々に黒い模様が浮かぶその紙の縁を、黒竜の皮が補っていた。
「それって……」
思わず漏れ出たリリの声に、アルスルンが男らしい笑みを浮かべて見せる。
そしてなぜか、頭を深く下げて、リリを褒め称えていた。
「見覚えがあるなんて、さすがはリリ様ですね。魔の森の木々から作った紙。メアリ様の手紙には、そう書いてありました」
「……なるほど」
より正確に言うなら、魔の森の素材だけで作った、手作りの手紙、だと思う。
力仕事ばかりだから手伝ったことはないけど、大きなキノコたちが作っていた紙に良く似ている。
書かれた文字もメアリの直筆で、押された花押もメアリ様の物。
「……うん。ホンモノ、だと思う」
重要な書類だけに使うフロックスの押し花が止められている事実も、アルスルンの信用度を高めているように見えた。
そして何よりも、
「敵意は? 感じない??」
「きゅ……? キュァ!」
「そっか。ありがと」
足下にいる大きなキノコも、ドレイクが精霊と呼んだ光の玉も、目立った動きを見せていなかった。
神と崇められる古竜様と、あのメアリ様の御墨付きだ。
誘拐されたり、殺されたりする可能性はないと思う。
だけど、
「その手紙を読んでみても良いですか?」
「もちろんです。どうぞ」
「ありがとうございます」
念には念を入れて、隅々まで手紙を読み進めていく。
追放先の魔の森で、元気に生きていること。
ーーリリという名のメイドを雇うことに決めたから、彼女の弟を保護して欲しいこと。
自分の思いを大切にして、自由に動く方が良いと思うこと。
そんな文字たちが、丁寧な言葉遣いでつづられていた。
間違いない。
メアリ様が、アルスルン様に送った手紙だ。
それはつまり、
「弟をーーソラを保護してくれたんですか……?」
リリがそう問いかけると、アルスルンが爽やかな笑みを見せてくれる。
それは、裏表のない、純粋な微笑み。
「はい。父に見付からないように、私の屋敷で療養して頂いております。ですが……」
一瞬にして小さな表情も消え去って、アルスルンが声を曇らせる。
父に見つからないように。
そんな言葉にも引っかかりを覚えるけど、いまはそれどころじゃない。
ただならぬ雰囲気に、リリがゴクリと息を飲んだ。
「ソラさんは、3日前から眠り続けておられます。体内の魔力は日に日に衰えていて、我が家の医師の見立てでは……」
数日の命、と……。
そんな言葉が、リリの脳内を通り過ぎていった。
不意にアルスルンの顔が遠のいて、額から汗が滲み出る。
全身から血の気が引いていく。
「すうじつ……」
握り締めていたはずの手紙が、手の中から滑り落ち、足元へとこぼれていく。
拾おうとした手が止まり、滲んだ視界から落ちた冷たい雫が、手の甲を濡らしていた。
あと、数日の……。
「……そう、……ですか」
乾いた喉から、小さな声が絞り出る。
何かを考えた訳じゃない。
通り抜けるだけの脳が、ひとりでに、言葉をうめけと言っていた。
あの頃はまだ、パパもママも優しくて、毎日が楽しかった。
ご飯が食べれなくなっても。
両親がいなくても。
つらくなっても。
ーー2人だから大丈夫。
パパもママも、天国で見守っていてくれるから、きっと大丈夫。
そう言って乗り越えた日々も、ソラが一緒だったから。
「ダメ。持って行かないで」
パパとママだけじゃなくて、ソラまで持って行かないで。
つい最近だけど、パンを自由に買えるようになった。
お金持ちにはなれないけど、2人で幸せに、
2人でお腹いっぱい食べれるように、お姉ちゃん、頑張ったんだよ?
お姉ちゃん、すっごく頑張ったんだよ?
だから、
「行かないで……」
行き場のない思いを胸に、スカートの裾を、強く強く握り締める。
弟が可愛いと誉めてくれた、服の裾を強く……。
思い出を捕まえるように、ぎゅっと。
ーーそんな時、
「…………ぇ ?」
握り締めていたはずの手の中に、銀色の果実が輝いて見えた。
所々に黒い模様が浮かぶその紙の縁を、黒竜の皮が補っていた。
「それって……」
思わず漏れ出たリリの声に、アルスルンが男らしい笑みを浮かべて見せる。
そしてなぜか、頭を深く下げて、リリを褒め称えていた。
「見覚えがあるなんて、さすがはリリ様ですね。魔の森の木々から作った紙。メアリ様の手紙には、そう書いてありました」
「……なるほど」
より正確に言うなら、魔の森の素材だけで作った、手作りの手紙、だと思う。
力仕事ばかりだから手伝ったことはないけど、大きなキノコたちが作っていた紙に良く似ている。
書かれた文字もメアリの直筆で、押された花押もメアリ様の物。
「……うん。ホンモノ、だと思う」
重要な書類だけに使うフロックスの押し花が止められている事実も、アルスルンの信用度を高めているように見えた。
そして何よりも、
「敵意は? 感じない??」
「きゅ……? キュァ!」
「そっか。ありがと」
足下にいる大きなキノコも、ドレイクが精霊と呼んだ光の玉も、目立った動きを見せていなかった。
神と崇められる古竜様と、あのメアリ様の御墨付きだ。
誘拐されたり、殺されたりする可能性はないと思う。
だけど、
「その手紙を読んでみても良いですか?」
「もちろんです。どうぞ」
「ありがとうございます」
念には念を入れて、隅々まで手紙を読み進めていく。
追放先の魔の森で、元気に生きていること。
ーーリリという名のメイドを雇うことに決めたから、彼女の弟を保護して欲しいこと。
自分の思いを大切にして、自由に動く方が良いと思うこと。
そんな文字たちが、丁寧な言葉遣いでつづられていた。
間違いない。
メアリ様が、アルスルン様に送った手紙だ。
それはつまり、
「弟をーーソラを保護してくれたんですか……?」
リリがそう問いかけると、アルスルンが爽やかな笑みを見せてくれる。
それは、裏表のない、純粋な微笑み。
「はい。父に見付からないように、私の屋敷で療養して頂いております。ですが……」
一瞬にして小さな表情も消え去って、アルスルンが声を曇らせる。
父に見つからないように。
そんな言葉にも引っかかりを覚えるけど、いまはそれどころじゃない。
ただならぬ雰囲気に、リリがゴクリと息を飲んだ。
「ソラさんは、3日前から眠り続けておられます。体内の魔力は日に日に衰えていて、我が家の医師の見立てでは……」
数日の命、と……。
そんな言葉が、リリの脳内を通り過ぎていった。
不意にアルスルンの顔が遠のいて、額から汗が滲み出る。
全身から血の気が引いていく。
「すうじつ……」
握り締めていたはずの手紙が、手の中から滑り落ち、足元へとこぼれていく。
拾おうとした手が止まり、滲んだ視界から落ちた冷たい雫が、手の甲を濡らしていた。
あと、数日の……。
「……そう、……ですか」
乾いた喉から、小さな声が絞り出る。
何かを考えた訳じゃない。
通り抜けるだけの脳が、ひとりでに、言葉をうめけと言っていた。
あの頃はまだ、パパもママも優しくて、毎日が楽しかった。
ご飯が食べれなくなっても。
両親がいなくても。
つらくなっても。
ーー2人だから大丈夫。
パパもママも、天国で見守っていてくれるから、きっと大丈夫。
そう言って乗り越えた日々も、ソラが一緒だったから。
「ダメ。持って行かないで」
パパとママだけじゃなくて、ソラまで持って行かないで。
つい最近だけど、パンを自由に買えるようになった。
お金持ちにはなれないけど、2人で幸せに、
2人でお腹いっぱい食べれるように、お姉ちゃん、頑張ったんだよ?
お姉ちゃん、すっごく頑張ったんだよ?
だから、
「行かないで……」
行き場のない思いを胸に、スカートの裾を、強く強く握り締める。
弟が可愛いと誉めてくれた、服の裾を強く……。
思い出を捕まえるように、ぎゅっと。
ーーそんな時、
「…………ぇ ?」
握り締めていたはずの手の中に、銀色の果実が輝いて見えた。
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