51 / 65
〈51〉令嬢の戦力
しおりを挟む
紅茶の香りを口いっぱいに吸い込んだメアリが、吐息をホッと空へと漏らす。
豪華な背もたれに体を預けながらマッシュの傘を片手で撫でて、対面に座るドレイクへと視線を向けた。
「リリの方は、うまくいったみたい」
弟くんの容態は安定していて、今は自分の足で歩いてこちらに向かっている。
初めは戸惑っていたリリの感情も、今は心の底から幸せが溢れているように見えていた。
「優しい弟と、素敵なお姉ちゃんね」
あまりにも幸せそうで、ちょっとだけ焼けてくるし、口元が緩んでしまう。
「あなたは幸せになって良いのよ、リリ」
そう小さく呟いて、共有していた意識を、マッシュの中から切り離す。
手のひらに精霊を乗せたドレイクが、優しく微笑みながら、しっかりと頷いてくれていた。
「こちらでも確認が済んだよ。経過観察は必要になるけど、大きな問題はないかな」
「そう。それならひと安心ね。古竜のお墨付きがあるなら、万が一もないもの」
竜は精霊を通して、魔力の流れが見える。
言ってしまえば、この分野の専門家だ。
「空を選んだメアリくんのお手柄かな。陸路じゃ間に合わなかった」
事前に手配していた知り合いの処置も、延命と言う意味では適切だった。
リリが持ち込んだ“ 賢者の実 ”も、その効果を十二分に発揮してくれた。
だけどそれは決して、私のおかげだなんて思わない。
「私がしたことなんて、手紙を書いたことと、崖の穴までの案内だけね。すべてはリリが決めたことよ」
得体の知れない果実を毎日食べ続けて、
竜も高いところも怖いのに、王都まで背に乗って……。
そんな心根の優しいリリだから、周囲が協力してくれて、上手く事が運んだと思う。
「……そうだね。リリくんも立派だったかな」
不意に精霊を空へと飛ばしたドレイクが、なぜか口元に小さな笑みを浮かべて見せる。
両手で魔法陣を生み出して、その魔力をゆっくりと高めていった。
「長女のおかげで、次女が悲しまずに済んだ。そのご褒美、ってことで、キミの後始末をちょっとだけ手伝わせてくれないかな?」
優しく微笑む淡い色の瞳が見詰める先にあるのは、教会が誇る豪華な建家の姿。
古竜らしい縦長の瞳孔が、
気を失っているリアム殿下と、
ずっと叫んでいた女性、
兵士に両脇を抱えられて連れてこられる神殿長に向けられていた。
「……そうね。お願いするわ」
ここを血の海にする訳にはいかないもの。
そう言って、人々が集まりつつある周囲に視線を向ける。
「お菓子、美味しいね!」
「うん! キノコさん、ありがとう。甘くておいしかったです!」
「ありがとぉ、キノコちゃん!」
「きゅぁ!」
いつの間にか集まっていた子どもたちが、楽しそうな笑みをこぼしている。
豪華な服を身に付けた貴族たちは、どこか遠くへと消えていて、戸惑いながらも指示を待つ兵士の姿が見て取れた。
「ありがたや、ありがたや……」
「一週間ぶりの、食べ物……!」
「これも食べていいの……? ありがとう、キノコさん!!」
向けられる視線は好意的な者ばかりで、幸せそうな笑みが華やいでいる。
教会の関係者も、豪華な衣装を身に付けた者たちは、見える範囲から消えていた。
ドレイクを見上げて、祈りを捧げ続けている者は、地位のない者だけだ。
「本当に、たいした信仰心ね。古竜を崇めれば幸せになれる、なんてどの口が言っていたのかしら?」
「偶像と本物は違う。この場合は、建前と本音、そう言うべきかな」
クスリと肩をすくめたドレイクが、笑ってみせる。
そうして周囲を観察している間に、ドレイクの準備が終わったみたい。
「マッシュ。教会の様子は?」
「きゅぁゅ」
「そう、わかったわ。ありがとう」
建物の中には誰もいない。
高価な物も、マッシュたちが回収してくれた。
「ぅ゛……、ここは……?」
「王大使様! ご無事ですか!!」
「誰か! 王宮医師を呼んでこい! 王大使が目を覚まされた!」
どうやら、こっちは限界ね。
リリたちはまだ遠いから、うやむやに立ち去るなんて、出来そうもない。
ドレイクと視線を交わらせて、頷き合う。
散らばっていたマッシュたちに市民の誘導の指示を出して、人々を遠ざけてもらう。
「白竜様! あなた様は、その女に騙されてーー」
「〈古代の炎〉」
聞こえてくる女性の声を遮るように、感じたことのない光と炎が、一瞬にして教会の周囲を包み込んでいた。
豪華な背もたれに体を預けながらマッシュの傘を片手で撫でて、対面に座るドレイクへと視線を向けた。
「リリの方は、うまくいったみたい」
弟くんの容態は安定していて、今は自分の足で歩いてこちらに向かっている。
初めは戸惑っていたリリの感情も、今は心の底から幸せが溢れているように見えていた。
「優しい弟と、素敵なお姉ちゃんね」
あまりにも幸せそうで、ちょっとだけ焼けてくるし、口元が緩んでしまう。
「あなたは幸せになって良いのよ、リリ」
そう小さく呟いて、共有していた意識を、マッシュの中から切り離す。
手のひらに精霊を乗せたドレイクが、優しく微笑みながら、しっかりと頷いてくれていた。
「こちらでも確認が済んだよ。経過観察は必要になるけど、大きな問題はないかな」
「そう。それならひと安心ね。古竜のお墨付きがあるなら、万が一もないもの」
竜は精霊を通して、魔力の流れが見える。
言ってしまえば、この分野の専門家だ。
「空を選んだメアリくんのお手柄かな。陸路じゃ間に合わなかった」
事前に手配していた知り合いの処置も、延命と言う意味では適切だった。
リリが持ち込んだ“ 賢者の実 ”も、その効果を十二分に発揮してくれた。
だけどそれは決して、私のおかげだなんて思わない。
「私がしたことなんて、手紙を書いたことと、崖の穴までの案内だけね。すべてはリリが決めたことよ」
得体の知れない果実を毎日食べ続けて、
竜も高いところも怖いのに、王都まで背に乗って……。
そんな心根の優しいリリだから、周囲が協力してくれて、上手く事が運んだと思う。
「……そうだね。リリくんも立派だったかな」
不意に精霊を空へと飛ばしたドレイクが、なぜか口元に小さな笑みを浮かべて見せる。
両手で魔法陣を生み出して、その魔力をゆっくりと高めていった。
「長女のおかげで、次女が悲しまずに済んだ。そのご褒美、ってことで、キミの後始末をちょっとだけ手伝わせてくれないかな?」
優しく微笑む淡い色の瞳が見詰める先にあるのは、教会が誇る豪華な建家の姿。
古竜らしい縦長の瞳孔が、
気を失っているリアム殿下と、
ずっと叫んでいた女性、
兵士に両脇を抱えられて連れてこられる神殿長に向けられていた。
「……そうね。お願いするわ」
ここを血の海にする訳にはいかないもの。
そう言って、人々が集まりつつある周囲に視線を向ける。
「お菓子、美味しいね!」
「うん! キノコさん、ありがとう。甘くておいしかったです!」
「ありがとぉ、キノコちゃん!」
「きゅぁ!」
いつの間にか集まっていた子どもたちが、楽しそうな笑みをこぼしている。
豪華な服を身に付けた貴族たちは、どこか遠くへと消えていて、戸惑いながらも指示を待つ兵士の姿が見て取れた。
「ありがたや、ありがたや……」
「一週間ぶりの、食べ物……!」
「これも食べていいの……? ありがとう、キノコさん!!」
向けられる視線は好意的な者ばかりで、幸せそうな笑みが華やいでいる。
教会の関係者も、豪華な衣装を身に付けた者たちは、見える範囲から消えていた。
ドレイクを見上げて、祈りを捧げ続けている者は、地位のない者だけだ。
「本当に、たいした信仰心ね。古竜を崇めれば幸せになれる、なんてどの口が言っていたのかしら?」
「偶像と本物は違う。この場合は、建前と本音、そう言うべきかな」
クスリと肩をすくめたドレイクが、笑ってみせる。
そうして周囲を観察している間に、ドレイクの準備が終わったみたい。
「マッシュ。教会の様子は?」
「きゅぁゅ」
「そう、わかったわ。ありがとう」
建物の中には誰もいない。
高価な物も、マッシュたちが回収してくれた。
「ぅ゛……、ここは……?」
「王大使様! ご無事ですか!!」
「誰か! 王宮医師を呼んでこい! 王大使が目を覚まされた!」
どうやら、こっちは限界ね。
リリたちはまだ遠いから、うやむやに立ち去るなんて、出来そうもない。
ドレイクと視線を交わらせて、頷き合う。
散らばっていたマッシュたちに市民の誘導の指示を出して、人々を遠ざけてもらう。
「白竜様! あなた様は、その女に騙されてーー」
「〈古代の炎〉」
聞こえてくる女性の声を遮るように、感じたことのない光と炎が、一瞬にして教会の周囲を包み込んでいた。
49
あなたにおすすめの小説
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる