57 / 65
〈55〉 マリリンの魔法 3
しおりを挟む
リアム王子が放った魔法が、マリリンの頭上で輪になった。
肩幅にまで広がったそれが、彼女の体の側を通り抜けて、掛けられた魔法を解いていく。
最初に変化が見えたのは、頭の先だった。
「なんだ……?」
「髪の色が……?」
倒れる仲間を支えていた兵士たちの前で、マリリンの髪が変わっていく。
亜麻色のふわりとしたツインテールだった物が、張りやコシがない、バサバサとした黒髪に。
綺麗に整えられていた天然物の眉も、抜き取った跡だけが残ってしまう。
「無駄なのよ! 私の愛は消せないわ!」
そう言ってあざ笑う口元に皺が刻まれて、
きめ細かやかだった肌が、シミで荒れ果てる。
「白竜様愛しています! 私が欲しいのはあなただけ! この身も心も、あなただけのもの!!」
愛を叫ぶ瞳も黒く汚れきっていて、二重あごの輪郭が、重力に引かれて弛んでいた。
変化は顔だけに止まらない。
「あれ? なんだか声が、出し難い……?」
小鳥のさえずりのようだと誉めた声が、いまは酒に焼けた老人のよう。
肩も、腕も、足も、身長も、体型も。
服装以外はすべてが別人のものに変わっていった。
それは当然のように、結界の中からも見えている。
「メアリ嬢、これは?」
「……こめんなさい。私にもわからないわ。ドレイク殿下、この現象に心当たりは?」
「すまないが、1000年近く生きたけど、はじめてみるよ」
「そう……」
あまりの急激な変化に、接点の薄い3人ですら、言葉に詰まっていた。
見る見るうちに変わっていく彼女の姿を、ただ見守ることしか出来そうもない。
それは、彼女をすぐ側で見つめるリアムも同様だった。
「マリリン……」
「だーかーらー! 人の名前を気安く呼ぶなってーー」
そこで不意に言葉が切れて、マリリンだと思う者が、リアムの顔を覗き込む。
傾げた首が脂肪に埋もれ、顔全体が、傾げた方向に落ちている。
普段は可愛く見える仕草も、いまは……。
「うわっ、何泣いてんの? 突然のガチ泣きとか引くわぁ……」
やだやだ、なんて耳障りな声音でつぶやいて、見知らぬ顔が虫を見るような目で見ていた。
劇的に変わってしまった姿を、本人だけがわかっていないらしい。
15歳くらいの見た目から、一瞬にして、60代の姿に。
あまりの痛々しさに、思わず視線がそれてしまう。
「しっ、神殿長! 余の天使が! 余の天使が化物に!! 神の啓示を!!」
「……ぉ、ぉぉ! そうですな。いま、神々の声を……」
そう言って祈る体制になったガマガエルのような神殿長と、天使であるはずのマリリンが、
「はぁ? 化物? チョロい攻略対象の癖に何言ってるのかしら」
「くっ……!!」
今は、仲の良い兄妹にすら見えるのは、なぜなのか?
脂っこい物が好きで、運動が嫌い。そんな兄妹に見えるのは、なぜなのか?
そう思ってしまう自分が、何よりもイヤになる。
「なぜだ? どうしてこうなった?」
余の天使が、ガマガエルになるなどあり得ない。
まさか、余の魔法が暴走して!?
「……いや、余が使ったのは、解除だけだ。暴走の余地など……!?」
解除の暴走?
洗脳だけでなく、掛けられていた魔法が、すべて解けた?
魔法が解けて、マリリンの姿が変わった?
つまり、今の姿が本当の……。
「いや、まさか、そんなはずは……」
可愛さの欠片も残っていないマリリンだった者を見上げて、首を横にふる。
だけど、いくら否定しようとしても、目の前の現実は変わらない。
使用した魔法が、解除の魔法だったことは、その場にいる誰よりも、リアム自身が一番良くわかっていた。
「今の、姿が……」
「うるさいのよ! 泣いたり、怒ったり、首を振ったり!! ノーマルエンドのくせに、主人公をイライラさせるなよ!」
「これが、本当の……」
自然と視線が落ちて、剣を持つ自分の手が見えてくる。
解除の魔法を放った感覚が、今でも確かに残っていた。
「そうか……」
他の誰でもない。
解除したのは、自分だ。
「……そうか」
もう一度小さくつぶやいて、リアムが空へと視線をそらしていた。
肩幅にまで広がったそれが、彼女の体の側を通り抜けて、掛けられた魔法を解いていく。
最初に変化が見えたのは、頭の先だった。
「なんだ……?」
「髪の色が……?」
倒れる仲間を支えていた兵士たちの前で、マリリンの髪が変わっていく。
亜麻色のふわりとしたツインテールだった物が、張りやコシがない、バサバサとした黒髪に。
綺麗に整えられていた天然物の眉も、抜き取った跡だけが残ってしまう。
「無駄なのよ! 私の愛は消せないわ!」
そう言ってあざ笑う口元に皺が刻まれて、
きめ細かやかだった肌が、シミで荒れ果てる。
「白竜様愛しています! 私が欲しいのはあなただけ! この身も心も、あなただけのもの!!」
愛を叫ぶ瞳も黒く汚れきっていて、二重あごの輪郭が、重力に引かれて弛んでいた。
変化は顔だけに止まらない。
「あれ? なんだか声が、出し難い……?」
小鳥のさえずりのようだと誉めた声が、いまは酒に焼けた老人のよう。
肩も、腕も、足も、身長も、体型も。
服装以外はすべてが別人のものに変わっていった。
それは当然のように、結界の中からも見えている。
「メアリ嬢、これは?」
「……こめんなさい。私にもわからないわ。ドレイク殿下、この現象に心当たりは?」
「すまないが、1000年近く生きたけど、はじめてみるよ」
「そう……」
あまりの急激な変化に、接点の薄い3人ですら、言葉に詰まっていた。
見る見るうちに変わっていく彼女の姿を、ただ見守ることしか出来そうもない。
それは、彼女をすぐ側で見つめるリアムも同様だった。
「マリリン……」
「だーかーらー! 人の名前を気安く呼ぶなってーー」
そこで不意に言葉が切れて、マリリンだと思う者が、リアムの顔を覗き込む。
傾げた首が脂肪に埋もれ、顔全体が、傾げた方向に落ちている。
普段は可愛く見える仕草も、いまは……。
「うわっ、何泣いてんの? 突然のガチ泣きとか引くわぁ……」
やだやだ、なんて耳障りな声音でつぶやいて、見知らぬ顔が虫を見るような目で見ていた。
劇的に変わってしまった姿を、本人だけがわかっていないらしい。
15歳くらいの見た目から、一瞬にして、60代の姿に。
あまりの痛々しさに、思わず視線がそれてしまう。
「しっ、神殿長! 余の天使が! 余の天使が化物に!! 神の啓示を!!」
「……ぉ、ぉぉ! そうですな。いま、神々の声を……」
そう言って祈る体制になったガマガエルのような神殿長と、天使であるはずのマリリンが、
「はぁ? 化物? チョロい攻略対象の癖に何言ってるのかしら」
「くっ……!!」
今は、仲の良い兄妹にすら見えるのは、なぜなのか?
脂っこい物が好きで、運動が嫌い。そんな兄妹に見えるのは、なぜなのか?
そう思ってしまう自分が、何よりもイヤになる。
「なぜだ? どうしてこうなった?」
余の天使が、ガマガエルになるなどあり得ない。
まさか、余の魔法が暴走して!?
「……いや、余が使ったのは、解除だけだ。暴走の余地など……!?」
解除の暴走?
洗脳だけでなく、掛けられていた魔法が、すべて解けた?
魔法が解けて、マリリンの姿が変わった?
つまり、今の姿が本当の……。
「いや、まさか、そんなはずは……」
可愛さの欠片も残っていないマリリンだった者を見上げて、首を横にふる。
だけど、いくら否定しようとしても、目の前の現実は変わらない。
使用した魔法が、解除の魔法だったことは、その場にいる誰よりも、リアム自身が一番良くわかっていた。
「今の、姿が……」
「うるさいのよ! 泣いたり、怒ったり、首を振ったり!! ノーマルエンドのくせに、主人公をイライラさせるなよ!」
「これが、本当の……」
自然と視線が落ちて、剣を持つ自分の手が見えてくる。
解除の魔法を放った感覚が、今でも確かに残っていた。
「そうか……」
他の誰でもない。
解除したのは、自分だ。
「……そうか」
もう一度小さくつぶやいて、リアムが空へと視線をそらしていた。
43
あなたにおすすめの小説
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる