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7 それぞれの思い
醒
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ゆっくりと台の上に乗り、液晶パネルに数字が表示される。
「四十三キロね。頑張って栄養剤飲みましょうね」
転ばない様に、慎重に体重計から降りる。気を抜くと、膝が抜けて転ぶ事がある。入院以来、体重と体力の落ち方は酷いもんだ。
ふらつく足取りで、何とか部屋の入り口に到着した。
"坂井麗司"
僕の名前が書かれた部屋に入り、ベッドの上に腰掛ける。決して、ベッドに横にはならない。寝たらまた、あの体験をしないといけなくなるから。
大学時代、僕を馬鹿にしたFREEDUMというサークルのメンバーを呪い殺した。この呪いは強力だから、使った反動が返ってくるんだけれど、僕はその呪いの反動を如月君と言う友達になすりつけようとした。でも、実は如月君は呪いを僕よりよく知っていて、逆に僕が嵌められてしまった。
それから一年以上、僕は寝るたびに夢の中で殺され続けている。僕は絶望の中で精神が崩壊して、この病院に入院しているという訳だ。
今はこうして、少しは論理的に物事を考える事ができるようになったけれど、つい一ヶ月前まではまさしく廃人だった。そこから這い上がれたのは、あの人との出会いがあったからに他ならない。
◆◇◆◇◆◇
「坂井さんのお薬です」
椅子に腰掛けたままで無反応な僕に、看護師さんが薬を渡してきた。
「あー、ダメダメ。坂井さんは、私たちが口を開けて薬を飲ませるのよ」
「はい、分かりました」
新人なのか、辿々しい手つきで僕の口を開けて、薬を流し込んでくる。目に映るもの、耳に聞こえてくるものは一応、僕に届いているが何重ものフィルターを通しているような感じだ。
「坂井さんの症状って重篤なんですか?」
「かなりね。興味深い症例だから、木原さんの新人症例報告会で発表するケースにするのもいいかもしれないわね」
「わかりました。頑張ってみます」
僕にはこれらの会話も"音"としてしか認識していない。僕には何も届かない。
今日も僕は座らされている。何に座らされているのか、いつから座っているのかも分からないし、考えることもない。
「坂井さん、合わせ鏡のおまじないって知っていますか?」
僕のフィルターを全て突き破ってくる言葉。
「合わせ鏡と赤色で相手の名前を書いた紙を使って行うおまじないなんですが」
僕の脳に直接響いてくる様な言葉。
「私、そのおまじないをやった事があるんですよ」
強引に僕の意識を引きづり出していく言葉。
「坂井さんも知っているでしょう」
僕の顔を覗いている彼女の瞳にフォーカスが合う。
「おかえりなさい、坂井麗司さん」
◆◇◆◇◆◇
病棟師長さんから、坂井さんを私の新人症例報告会のケースにするように勧められた。
狙い通りだ。思わず、ガッツポーズを取りそうになっていた。私は、この坂井麗司に聞きたいことがある。そのために、この病院に准看護師として就職したのだ。
しかし、肝心の坂井麗司は精神を病んで正気ではない。かなり重症な患者の一人だった。
だから私は、まじないの情報を彼にぶつけてみた。私が言葉を発するたびに、彼が精神世界から戻ってくるのが分かった。彼の目に僅かに光が戻ったことを確認して、私は彼に改めて挨拶をした。
「おかえりなさい、坂井麗司さん」
彼の目に戻った光は、まだ淡く儚いものだったが、その光が"怯え"であることは容易に理解できた。
私は彼が乗っている車椅子を押して、彼の居室に連れて行った。
「安心して。私はあなたに危害を加えようとは思っていない。ただ、教えて欲しいことがあるだけ」
居室の外のラウンジからは、患者の発する奇声が響き渡っていて、この居室にまで聞こえてくる。彼は口だけを動かして、ラウンジの患者とは正反対に声にならない声を発した。その口は、「誰?」と言っている様に見えた。
そうか、今まで散々看護師として世話をしてきたけれど、彼に私は認知されていなかったらしい。
「私は、木原佳苗と言います。この病院で看護師として働いています」
彼は変わらぬ怯えを浮かべた目をこちらに向けて黙っている。
「先程話した様に、私は合わせ鏡を使ったまじないをやりました。一緒にやった友達はほとんど死にました」
彼の目から怯えの色が消えていき、別の色に変わっていくことを感じたる。
「坂井さんも同じようにクラスメートが同時に死んだり、大学の友達が大勢死んだりしていると聞きました。坂井さん、合わせ鏡や赤色で名前を書いた紙を使うまじないを知っていますよね」
その言葉を発した直後、彼の目には"怒り"が色濃く映し出された。
これで話を聞けるという嬉しさより、連れ戻してはいけない人間を現在に連れ戻してしまったのではないかという、言いようのない不安が私を包んでいった。
「私は、木原佳苗と言います。この病院で看護師として働いています」
彼は変わらぬ怯えを浮かべた目をこちらに向けて黙っている。
「先程話した様に、私は合わせ鏡を使ったまじないをやりました。一緒にやった友達はほとんど死にました」
彼の目から怯えの色が消えていき、別の色に変わっていくことを感じたる。
「坂井さんも同じようにクラスメートが同時に死んだり、大学の友達が大勢死んだりしていると聞きました。坂井さん、合わせ鏡や赤色で名前を書いた紙を使うまじないを知っていますよね」
その言葉を発した直後、彼の目には"怒り"が色濃く映し出された。
これで話を聞けるという嬉しさより、連れ戻してはいけない人間を現在に連れ戻してしまったのではないかという、言いようのない不安が私を包んでいった。
◆◇◆◇◆◇
木原さんの話によると、三年前に彼女のクラスで恋愛のまじないとして二十五人同時に、"僕の呪い"を実施したらしい。木原さん自身は、あれが"呪い"だとは知らないようだけれど、ただのまじないや占いの類ではないと感じているようだ。
そりゃそうだろう、そのイベントに関連したうちの四十八人が死んで、主催した友達は植物状態になっているんだから。
木原さんは、その後精神を病んでしばらく精神科に入院していた。両親もその頃から関係が壊れて離婚してしまい、今は母方についたために苗字も変わったらしい。
でも、ある日自分を取り戻して高校を退学して新たに准看護師を目指して看護学校に入って、今年からこの病院で働いているとのことだ。
木原さんはまだ一年目ということで、僕の看護についてまとめて発表しないといけないらしく、僕と話す機会が格段に増えていった。
そして、木原さんは僕が知っている情報が欲しいらしい。木原さんが巻き込まれたイベントの主催者を植物状態から復活させて、真実を聞くのが目的だそうだ。
話を聞いても、その主催した人は完全に呪いをかけようとしたとしか思えない。自分の指示で他人に呪いを完了させた場合のシミュレーションをしたかったのかな。それとも、センセーショナルな事件を起こして楽しみたかったのかな。僕がクラスメートを全員呪った時もかなり大騒ぎだったけれどね。
あっ、そういえば。僕が高校生の時にそんなニュースが一時期話題になっていたかも。あまり、よくは覚えていないけれど。
ということは、如月君以外にも知っている人がいるのか。良くないなぁ、すごく良くない。あれは、"僕の呪い"なんだよ。
本当は早くに退院して如月君に復讐をしたいけれど、何せ一年以上、ほとんどちゃんとした栄養も取れていないし、運動もしていないから、まだ少し歩いてもフラフラしてしまう。今日も歩いていたら、バランスを崩して後ろ向きに転倒してしまった。思い切り後頭部を打ってしまったけれど、出血も少なかったのでガーゼを当てるだけにしていた。今になって、痛みが強くなってきたのと、ガーゼを触ると少し湿ってきている。
また、出血してきたのかな、と思って手鏡を持ってトイレに行ってみた。トイレの鏡と持ってきた手鏡を合わせ鏡のようにして、傷口を見ると明らかに傷が見えて出血もしていた。
「縫うのは痛そうで嫌だな」
"…………ぃ、……ぉぃ……"
僕がボソッと呟いたのと同時に、微かに聞こえるくらいの声で誰かが話しかけてきた。
トイレには僕以外いないはずだ。どこから、声が聞こえるんだろう。そう思っていると、
"合わせ鏡を見ろ"
今度はハッキリと聞こえた。合わせ鏡を見ろ、と。
正面にあるトイレの鏡越しに、手にした鏡を見るとそこには異形の何かが映っていた。
「ひっ」
「騒ぐんじゃねぇ」
体がビクッと反応するが、怖さで動けなくなっている。
「安心しろ。俺はお前の味方だ」
味方ってなに。
本当に怖い。
僕は殺されるのか。
それとも、新しい呪いなのか。
「のっ、呪いなの」
「だから安心しろって言ってんだろ。俺はお前を呪ったりしていない」
そんな事言われたって、無理です。怖くて、信用できないよ。
「俺の話を聞いておいた方がいいぞ。お前もあの呪いを使った人間ならなぁ」
あの呪い?
僕が呪いを行ったことがあると知っている。
この悪魔みたい奴は何か関係してるのか。
「僕に何の用?」
「話を聞く気になったか。まあ、その方がお前のためだな」
とりあえず、今はコイツに合わせてみよう。もしかしたら、僕の呪いについて何かわかるかもしれない。何より、怒らせたらヤバそうだし。
「お前、今まで何人に呪いをかけて殺したか覚えているか」
えっ、何人だろう。中学のクラスメートとFREEDUMの奴らと、えーと。
「三十五人だ」
三十五人。改めて聞くと結構呪ったんだな。FREEDUMの奴らは、相変わらず寝ると僕を殺しに来るから忘れないけれど、中学のクラスメートなんて名前も覚えていないよ。
「お前は今、呪いの反動を受けているよな。辛いか?」
僕が反動を受けている事も知っているのか。
「うん。寝るたびに殺され続けているよ。怖いし、痛いし、苦しいし、たまったもんじゃないよ。ちょっと前までの完全に精神が壊れていた時の方がマシだったかもしれないよ」
「その反動が永遠に来なくなる方法があるとしたら、どうする」
呪いの反動が来ない。何だそれ、無敵じゃないか。
「僕は無敵になる。何でも、思い通りだ」
「ただし、それには条件がある」
条件?
そんなもん、何だって飲むよ。こんな美味しい話に飛びつかない訳がないじゃないか。僕の鏡を持つ手に自然と力が入っていく。
「毎年、五十人ずつ、呪い殺して俺に魂を献上しろ」
毎年か、事件にならないようにうまくやらないといけないな。でも、できない数字じゃない。
「お前はこれまで三十五人呪い殺した。これは、今、生きている人間の中でも三番目の数だ。お前には、見込みがある。大サービスでとりあえず、後十五人呪い殺せば、反動が来なくなる特典をやろう」
僕の呪いなのに、僕よりも呪い殺している人数が多い人が二人もいるのか。良くないなぁ、すごく良くない。この呪いは僕だけのためにあるんだから。
「十五人でいいんだね。分かった、やるよ。成功したら、もう反動はこなくなるんでしょ」
「ああ、俺との契約が完了すればな」
鏡に映る悪魔のようなモノは、醜悪としか言いようのない表情を浮かべている。でも、きっと今の僕はコイツよりも醜悪な表情をしているんだろうな。
「何日でできる?」
そうだな。
道具は木原さんに言えば何とか揃えてもらえるだろう。どうせなら、インパクトが強い呪いの発動にしたいな。となると、ちょうど四日後に集団活動があるからちょうどいいかな。
「四日後に告知するよ。十五人一度に」
「分かった。じゃあ、契約を結ぼう。不履行にならないように気をつけろよ」
失敗なんかする訳がない。楽勝だよ。呪いの反動が来なくなった僕は無敵だ。待ってろよ、如月君。
「四十三キロね。頑張って栄養剤飲みましょうね」
転ばない様に、慎重に体重計から降りる。気を抜くと、膝が抜けて転ぶ事がある。入院以来、体重と体力の落ち方は酷いもんだ。
ふらつく足取りで、何とか部屋の入り口に到着した。
"坂井麗司"
僕の名前が書かれた部屋に入り、ベッドの上に腰掛ける。決して、ベッドに横にはならない。寝たらまた、あの体験をしないといけなくなるから。
大学時代、僕を馬鹿にしたFREEDUMというサークルのメンバーを呪い殺した。この呪いは強力だから、使った反動が返ってくるんだけれど、僕はその呪いの反動を如月君と言う友達になすりつけようとした。でも、実は如月君は呪いを僕よりよく知っていて、逆に僕が嵌められてしまった。
それから一年以上、僕は寝るたびに夢の中で殺され続けている。僕は絶望の中で精神が崩壊して、この病院に入院しているという訳だ。
今はこうして、少しは論理的に物事を考える事ができるようになったけれど、つい一ヶ月前まではまさしく廃人だった。そこから這い上がれたのは、あの人との出会いがあったからに他ならない。
◆◇◆◇◆◇
「坂井さんのお薬です」
椅子に腰掛けたままで無反応な僕に、看護師さんが薬を渡してきた。
「あー、ダメダメ。坂井さんは、私たちが口を開けて薬を飲ませるのよ」
「はい、分かりました」
新人なのか、辿々しい手つきで僕の口を開けて、薬を流し込んでくる。目に映るもの、耳に聞こえてくるものは一応、僕に届いているが何重ものフィルターを通しているような感じだ。
「坂井さんの症状って重篤なんですか?」
「かなりね。興味深い症例だから、木原さんの新人症例報告会で発表するケースにするのもいいかもしれないわね」
「わかりました。頑張ってみます」
僕にはこれらの会話も"音"としてしか認識していない。僕には何も届かない。
今日も僕は座らされている。何に座らされているのか、いつから座っているのかも分からないし、考えることもない。
「坂井さん、合わせ鏡のおまじないって知っていますか?」
僕のフィルターを全て突き破ってくる言葉。
「合わせ鏡と赤色で相手の名前を書いた紙を使って行うおまじないなんですが」
僕の脳に直接響いてくる様な言葉。
「私、そのおまじないをやった事があるんですよ」
強引に僕の意識を引きづり出していく言葉。
「坂井さんも知っているでしょう」
僕の顔を覗いている彼女の瞳にフォーカスが合う。
「おかえりなさい、坂井麗司さん」
◆◇◆◇◆◇
病棟師長さんから、坂井さんを私の新人症例報告会のケースにするように勧められた。
狙い通りだ。思わず、ガッツポーズを取りそうになっていた。私は、この坂井麗司に聞きたいことがある。そのために、この病院に准看護師として就職したのだ。
しかし、肝心の坂井麗司は精神を病んで正気ではない。かなり重症な患者の一人だった。
だから私は、まじないの情報を彼にぶつけてみた。私が言葉を発するたびに、彼が精神世界から戻ってくるのが分かった。彼の目に僅かに光が戻ったことを確認して、私は彼に改めて挨拶をした。
「おかえりなさい、坂井麗司さん」
彼の目に戻った光は、まだ淡く儚いものだったが、その光が"怯え"であることは容易に理解できた。
私は彼が乗っている車椅子を押して、彼の居室に連れて行った。
「安心して。私はあなたに危害を加えようとは思っていない。ただ、教えて欲しいことがあるだけ」
居室の外のラウンジからは、患者の発する奇声が響き渡っていて、この居室にまで聞こえてくる。彼は口だけを動かして、ラウンジの患者とは正反対に声にならない声を発した。その口は、「誰?」と言っている様に見えた。
そうか、今まで散々看護師として世話をしてきたけれど、彼に私は認知されていなかったらしい。
「私は、木原佳苗と言います。この病院で看護師として働いています」
彼は変わらぬ怯えを浮かべた目をこちらに向けて黙っている。
「先程話した様に、私は合わせ鏡を使ったまじないをやりました。一緒にやった友達はほとんど死にました」
彼の目から怯えの色が消えていき、別の色に変わっていくことを感じたる。
「坂井さんも同じようにクラスメートが同時に死んだり、大学の友達が大勢死んだりしていると聞きました。坂井さん、合わせ鏡や赤色で名前を書いた紙を使うまじないを知っていますよね」
その言葉を発した直後、彼の目には"怒り"が色濃く映し出された。
これで話を聞けるという嬉しさより、連れ戻してはいけない人間を現在に連れ戻してしまったのではないかという、言いようのない不安が私を包んでいった。
「私は、木原佳苗と言います。この病院で看護師として働いています」
彼は変わらぬ怯えを浮かべた目をこちらに向けて黙っている。
「先程話した様に、私は合わせ鏡を使ったまじないをやりました。一緒にやった友達はほとんど死にました」
彼の目から怯えの色が消えていき、別の色に変わっていくことを感じたる。
「坂井さんも同じようにクラスメートが同時に死んだり、大学の友達が大勢死んだりしていると聞きました。坂井さん、合わせ鏡や赤色で名前を書いた紙を使うまじないを知っていますよね」
その言葉を発した直後、彼の目には"怒り"が色濃く映し出された。
これで話を聞けるという嬉しさより、連れ戻してはいけない人間を現在に連れ戻してしまったのではないかという、言いようのない不安が私を包んでいった。
◆◇◆◇◆◇
木原さんの話によると、三年前に彼女のクラスで恋愛のまじないとして二十五人同時に、"僕の呪い"を実施したらしい。木原さん自身は、あれが"呪い"だとは知らないようだけれど、ただのまじないや占いの類ではないと感じているようだ。
そりゃそうだろう、そのイベントに関連したうちの四十八人が死んで、主催した友達は植物状態になっているんだから。
木原さんは、その後精神を病んでしばらく精神科に入院していた。両親もその頃から関係が壊れて離婚してしまい、今は母方についたために苗字も変わったらしい。
でも、ある日自分を取り戻して高校を退学して新たに准看護師を目指して看護学校に入って、今年からこの病院で働いているとのことだ。
木原さんはまだ一年目ということで、僕の看護についてまとめて発表しないといけないらしく、僕と話す機会が格段に増えていった。
そして、木原さんは僕が知っている情報が欲しいらしい。木原さんが巻き込まれたイベントの主催者を植物状態から復活させて、真実を聞くのが目的だそうだ。
話を聞いても、その主催した人は完全に呪いをかけようとしたとしか思えない。自分の指示で他人に呪いを完了させた場合のシミュレーションをしたかったのかな。それとも、センセーショナルな事件を起こして楽しみたかったのかな。僕がクラスメートを全員呪った時もかなり大騒ぎだったけれどね。
あっ、そういえば。僕が高校生の時にそんなニュースが一時期話題になっていたかも。あまり、よくは覚えていないけれど。
ということは、如月君以外にも知っている人がいるのか。良くないなぁ、すごく良くない。あれは、"僕の呪い"なんだよ。
本当は早くに退院して如月君に復讐をしたいけれど、何せ一年以上、ほとんどちゃんとした栄養も取れていないし、運動もしていないから、まだ少し歩いてもフラフラしてしまう。今日も歩いていたら、バランスを崩して後ろ向きに転倒してしまった。思い切り後頭部を打ってしまったけれど、出血も少なかったのでガーゼを当てるだけにしていた。今になって、痛みが強くなってきたのと、ガーゼを触ると少し湿ってきている。
また、出血してきたのかな、と思って手鏡を持ってトイレに行ってみた。トイレの鏡と持ってきた手鏡を合わせ鏡のようにして、傷口を見ると明らかに傷が見えて出血もしていた。
「縫うのは痛そうで嫌だな」
"…………ぃ、……ぉぃ……"
僕がボソッと呟いたのと同時に、微かに聞こえるくらいの声で誰かが話しかけてきた。
トイレには僕以外いないはずだ。どこから、声が聞こえるんだろう。そう思っていると、
"合わせ鏡を見ろ"
今度はハッキリと聞こえた。合わせ鏡を見ろ、と。
正面にあるトイレの鏡越しに、手にした鏡を見るとそこには異形の何かが映っていた。
「ひっ」
「騒ぐんじゃねぇ」
体がビクッと反応するが、怖さで動けなくなっている。
「安心しろ。俺はお前の味方だ」
味方ってなに。
本当に怖い。
僕は殺されるのか。
それとも、新しい呪いなのか。
「のっ、呪いなの」
「だから安心しろって言ってんだろ。俺はお前を呪ったりしていない」
そんな事言われたって、無理です。怖くて、信用できないよ。
「俺の話を聞いておいた方がいいぞ。お前もあの呪いを使った人間ならなぁ」
あの呪い?
僕が呪いを行ったことがあると知っている。
この悪魔みたい奴は何か関係してるのか。
「僕に何の用?」
「話を聞く気になったか。まあ、その方がお前のためだな」
とりあえず、今はコイツに合わせてみよう。もしかしたら、僕の呪いについて何かわかるかもしれない。何より、怒らせたらヤバそうだし。
「お前、今まで何人に呪いをかけて殺したか覚えているか」
えっ、何人だろう。中学のクラスメートとFREEDUMの奴らと、えーと。
「三十五人だ」
三十五人。改めて聞くと結構呪ったんだな。FREEDUMの奴らは、相変わらず寝ると僕を殺しに来るから忘れないけれど、中学のクラスメートなんて名前も覚えていないよ。
「お前は今、呪いの反動を受けているよな。辛いか?」
僕が反動を受けている事も知っているのか。
「うん。寝るたびに殺され続けているよ。怖いし、痛いし、苦しいし、たまったもんじゃないよ。ちょっと前までの完全に精神が壊れていた時の方がマシだったかもしれないよ」
「その反動が永遠に来なくなる方法があるとしたら、どうする」
呪いの反動が来ない。何だそれ、無敵じゃないか。
「僕は無敵になる。何でも、思い通りだ」
「ただし、それには条件がある」
条件?
そんなもん、何だって飲むよ。こんな美味しい話に飛びつかない訳がないじゃないか。僕の鏡を持つ手に自然と力が入っていく。
「毎年、五十人ずつ、呪い殺して俺に魂を献上しろ」
毎年か、事件にならないようにうまくやらないといけないな。でも、できない数字じゃない。
「お前はこれまで三十五人呪い殺した。これは、今、生きている人間の中でも三番目の数だ。お前には、見込みがある。大サービスでとりあえず、後十五人呪い殺せば、反動が来なくなる特典をやろう」
僕の呪いなのに、僕よりも呪い殺している人数が多い人が二人もいるのか。良くないなぁ、すごく良くない。この呪いは僕だけのためにあるんだから。
「十五人でいいんだね。分かった、やるよ。成功したら、もう反動はこなくなるんでしょ」
「ああ、俺との契約が完了すればな」
鏡に映る悪魔のようなモノは、醜悪としか言いようのない表情を浮かべている。でも、きっと今の僕はコイツよりも醜悪な表情をしているんだろうな。
「何日でできる?」
そうだな。
道具は木原さんに言えば何とか揃えてもらえるだろう。どうせなら、インパクトが強い呪いの発動にしたいな。となると、ちょうど四日後に集団活動があるからちょうどいいかな。
「四日後に告知するよ。十五人一度に」
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