皆さんは呪われました

禰津エソラ

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7 それぞれの思い

激憤

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 ここはどこだろう。

 視界はボヤけているし、音は響いて聞き取りづらい。

 ただ、分かった事もある。

 わたしは、あの地獄から帰ってきたんだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「僕の指は何本だかわかるかい」

「二本」

「うん、大丈夫そうだね。いやぁ、本当によかった。まさに奇跡だよ」

 わたしの目の前で白衣を着た主治医を名乗る男性が、わたしを見ながらしきりに奇跡だと言っている。

 理由は分からないが、わたし、結城クラウディアは永遠に続くと思われた地獄から帰ってこれた。目が覚めて、次に寝る時は、さすがに怖かったが何事もなく朝を迎えることができた。どうやら、わたしの契約不履行の罰は終わったらしい。

 もともと細かった体はさらに痩せて、特に足などは筋肉が全部なくなったと感じるほど細くなっていた。オシッコの管が嫌で、一人でトイレに行きたいと看護師に言ったが、まだ危ないですから、とやんわり却下された。たしかに、自分の足を自分の意思で動かすこともままならない現状では仕方ないと理解した。

「クラウ、目が覚めたの」

 若い看護師が一人、わたしの部屋に入ってきてそう嬉しそうに話しかけてきた。

 佳苗?

 驚いた、わたしの部屋に入ってきた看護師は奥沢佳苗だ。

「クラウ、私の事わかる?」

「佳苗……どうして」

 なんで佳苗が、ここにいるの?
 いるはずないよ。
 だって、佳苗は呪いで……
 ……………………っ
 そうか、そういうことか。
 佳苗だったんだ。
 わたしの悪魔との契約を失敗させた要因は佳苗だったんだ。
 佳苗が死ななかったから、一人足りなかったんだ。

「私、今はこの病院で看護師してるんだ」

 看護師?
 佳苗が医療系に興味あるなんて聞いたこともない。

「良かった、クラウが目を覚ましてくれて本当に良かった」

「わたしはどのくらいの間、意識がなかったの?」

「だいたい三年くらいかな」

 三年か。かなり長かった。
 何万回、手足を潰されて、内臓を吐き出して死ぬ夢を見せられたことか。
「でも、どうして……」

「あのね、クラウ。私がクラウに掛かってた呪いを解いたの」

 えっ、佳苗がわたしへの悪魔からの呪いを解いたの。
 なんで?
 どうやって?
 ていうか、何でその事を知っているの?

「協力してくれた人がいるの。今日は会えないけれど、近いうちに連れてくるね」

 ちょうど、このタイミングでわたしは脳のMRI撮影の時間になったと別の看護師に声を掛けられ、車椅子に乗せられた。佳苗は、また様子見にくる、と言って仕事に戻っていった。

 MRIの大きな音のする中で、佳苗の言う協力者を考えてみるが全く該当する人がいない。わたしが寝ている間に出会った人だろうか。まあ、その協力者も気になるけれど、わたしは誰よりも如月に逢いたい。今すぐにでも連絡を取りたいけれど、この惨めな体をもう少し何とかしてからだ。愛する人に見せられる体じゃないや。

 夕方になり、パパのリカルドとママの奈津子、ラロお祖父ちゃんが病室にお見舞いに来てくれた。両親はわたしの回復を泣いて喜んでくれた。そして、毎日来るからと告げてラロお祖父ちゃんを置いて帰っていった。

「よく戻ってきたね、クラウ」

 ラロお祖父ちゃんが優しい笑顔でわたしに話しかけてきた。

「うん。わたしもなんで解放されたのかわからないけれど、戻ってこれたよ」

「そうか。でも良かった」

「もう懲り懲りよ。こんなにつらいのは」

 そう呟いて、布団を被った。ラロお祖父ちゃんはそんなわたしを見て、また来るよ、と言って部屋を出ていった。ラロお祖父ちゃんはきっと、わたしがまだ真呪教を継ぎたいと思っているのか知りたかったんだろうな。正直、今の状態じゃ、みっともなくてラロお祖父ちゃんに合わせる顔がないよ。取り急ぎ、やらないといけないこともあるしね。

 次の日から、毎日リハビリも始まり、食事も段階的に普通のご飯になっていった。そのお陰か、車椅子でトイレに行けるくらいまでにはすぐに回復した。お見舞いにきたママが、器用に髪を切ってくれたのでだいぶ見られる見た目になってきた。

 そんなある日、佳苗がわたしを現実の世界に引き戻すことに協力してくれたという男性を連れてきた。

「やあ、クラウさん」

 今度は現実世界で心臓が止まるかと思った。佳苗の横に立って、わたしに笑顔を向けているのは間違いなくだった。

「あっ、えっ」

 如月だ。本物の如月だ。わたしの運命の人、如月だ。如月が、わたしを現実世界に戻してくれたの?なんで、わたしがあんな状況になってるって知っていたの?
 悪魔から聞いた?
 いやないな。如月は呪いの方法しか知らなかったと思う。
 じゃあ、何で?
 せっかく如月が来てくれているのに、分からないことだらけだ。

「クラウさん、ずっと心配してたんだ。何とか助け出せる方法がないか、いろいろと調べていたら、奥沢さんの存在を知ったんだ」

 そう言って、如月は佳苗の方に笑顔を向けた。

「あっ、私、何か飲み物でも買ってくるね」

 佳苗、気を使ってくれているつもりなのかな。まあ、如月と二人きりになれてうれしいんだけどね。ふと気がつくと、如月の顔がわたしの顔のすぐ近くにあった。

「如月、ちか「クラウさん、呪いを知っていたね」

 えっ。

「今回、集団でおまじないをやったみたいだね。でも手順が呪いと全く同じだったんだ。あれは、まじないじゃなくて呪いでしょう」 

 如月、気づいてる。わたしが呪いを知っていたことも。ってことは……

「真理さんを殺したのもクラウさんでしょ」

 思わず絶句した。やっぱり気がついていた。

「てっきり、僕がやった長野君への呪いの巻き添えで、真理さんを死なせてしまったのかと申し訳なく思っていた時期もあったけれど、クラウさんが呪い殺したんなら僕が申し訳なく感じる必要もないね」

「真理が死んだの悲しくないの」

「オカルト好きなが一人死んじゃった、て感情くらいしかないかな。死んだ責任が僕にないならね」

 うふふふふ、真理、聞いたぁ?あんた、あんなに如月ラブをひけらかしてたのに、如月の心には何一つ入り込めなかったんだね。なんだ、じゃあ、呪い殺さなくても恋のライバルでも何でもなかったのか。真理、無駄に呪い殺しちゃったみたいでごめんね。

「如月は、どうやって呪いのことを知ったの」

 この事は本当に大切なんだ。本来、あの呪いは、わたしとラロお祖父ちゃんしか知らないはずなのに。如月はいつ、どこで知ったんだろう。

「覚えているかな、オカルト研究会のみんなで教団跡地にいったこと」

「如月が長野に閉じこめられちゃった時だよね」

「はは、そんなこともあったね、まあ、そのお蔭であの呪いを知れたんだけれどね」

「えっ、どういうこと」

「あの部屋に閉じ込められていた時に、出口を探そうとあっちこっちを触っていたら壁紙の裏側に隠すように差し込まれていたんだ、呪いの手順を書いた紙が」

 教団跡地のあの部屋にあったの?
ラロお祖父ちゃんがそんなことをするとは思えない。とすると、真呪教で殺し合いがあった時に誰かが隠したのか。

「如月、実は」
「しっ、佳苗さんが戻ってきたようだ」

「ごめん、売店混んでて」

 そう言う佳苗の手には三つのカップがあった。わざわざ、売店でドリップのコーヒーを買ってきたのか。廊下の先に自動販売機もあったのに。

「はい、クラウは普通のコーヒーでいいかな」

「うん、ありがとう」

「如月君は、カフェラテでいいよね」

 佳苗が笑顔で如月にカフェラテを手渡した。ってなに?如月が好んで飲んでいるカフェラテをわざわざ売店までいって買ってきたの。

 佳苗…………
 そういうことなのね……

 口に含んだコーヒーは強い苦味しかなかった。

「それで、どうやってわたしの呪いを解いたの」

 佳苗と如月のことは気になるけれど、どうやってわたしを目覚めさせたのかも気になっていた。悪魔は、あの時、もう二度と目を覚まさないと言ったことを覚えている。だから、知りたい。何がどうなってのか。

「高校でのあのイベントの後、私も精神を病んで入院していたの。そうしたら、同じ病院に如月君も入院してきて、クラウを助けたいから力を貸してほしいって言われたんだ」

 佳苗が精神を病むのはわかるけれど、如月がわたしを助けようとしたのはなぜなんだろう。

「いろいろ調べたんだけれど、クラウを目覚めさせる方法が見つからなくって。そうしたら、如月君が看護師になってクラウの近くにいれば何か分かるかもっていうから、さ。それで看護学校に入って、偶然クラウが入院していたこの病院を知ってここに就職したの」

 佳苗が看護師になった経緯なんてどうだっていい、と言いたいけれど如月に言われて看護師になったとか気になるところもあるな。

「そうしたら、クラウ、覚えているかな。私たちが中学生の時にクラスで爆発事故があって二人を除いてみんな死んだってニュースあったの、覚えている?その生き残りがこの病院に入院していたのよ」

 そんなニュースあったかな。あまり覚えていないけれど。それが、どう関係あんのよ。

「如月君が言うには、その人もをやって入院していたんだって。それで、その人を使ってクラウを目覚めさせようって」

 呪い、その人も呪いを使ったの。じゃあ、呪いの反動で精神を病んで入院していたのかな。でも、如月はどうしてその人が呪いを使ったって分かったんだろう。

「如月君は、その人が呪いを失敗すればクラウの目が覚めるんじゃないかって。だから、私はその人に接触してクラウたちと合わせ鏡を使うをやったって言ったんだ。それでクラウが目を覚まさなくなったって伝えたの。それから、どうやってその人に呪いを行わせるか考えていたら、なぜかその人の方から呪いをやろうって提案してきたの。まあ、その人はって表現していたけれどね」

「それで、どうなったの」

「うん、ある日、その人が呪いを掛けたの。入院患者とに」

「えっ、でも佳苗生きてるじゃない」

「如月君から、名字をもとの父親姓に戻しておけと言われていたの。いつか、必ず役に立つからって。その人は、私を木原佳苗だと思っていたけれど、あの時の私は奥沢佳苗だったの。それで、呪いは失敗して、クラウが目を覚ましたってわけ」

 そう話し終えて、佳苗は笑顔で如月に視線を送った。

 そんな訳はない。呪いを失敗したからって、私は解放されないだろう。おそらく、何らかの手段でその人も悪魔と契約をしようとしたんだ。そして、失敗したんだ。呪いの反動と同じで、悪魔との契約を誰かが失敗すれば私は解放される可能性があったのか。

「あまり長いと疲れちゃうだろうから、また来るね」

 そう言って、二人はクラウの部屋を後にした。部屋から出掛けに、如月が佳苗に見えないように腕時計の七時を数回タップしていた。おそらく、佳苗に内緒の話をしに七時にまた来るということだろう。わたしも二人で話したかったので、如月を見て小さく頷いた。その如月の前を歩く佳苗。すでに受け取った苦いだけのコーヒーは冷たくなっていたが、如月を見ている佳苗の姿を思い出すと、わたしの中にはフツフツと熱いものが込み上がってきた。

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